待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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一方その頃。お留守番

 

 

 

 

 

 

 こくこく。輪廻ちゃんが用意してくれた霊薬を、コップ一杯分だけ飲みます。味は、不思議な感じです。爽やかというか、軽いと言うか。でも、濃くて重い。例えるならそんな感じです。私の知らない味です、これは。現代に有るどんな食べ物にも無いような味で、正直美味しいとは言えません。そしてこれを飲むと、私はヨリくんの記憶を夢で体験することはありません。

 

 ……本当は、全部体験したい。ヨリくんの全部を知って、ヨリくんになりたいって思うのです。だから霊薬は飲まないって輪廻ちゃんにもおじさんにも、ヨリくんにだって言ったんですけど……。

 

 でも、その。今は、飲んでおこうかなって。勉強してきた事はほぼ忘れちゃってますし、家事の仕方だって殆ど忘れちゃってて。また輪廻ちゃんに、色々教えて貰わなくっちゃ。でないと、円花ちゃんのお世話が一切出来なくなっちゃうから。それはそれで、嫌なので。あと、大分恐ろしくもあります。

 

「あら、飲むの?」

「……はい。今は、やっぱり飲むことをします……」

 

 コップに注いだ霊薬をキッチンで飲んでいると、輪廻ちゃんが話し掛けて来ました。リビングのソファでのんびりテレビを眺めてて、キッチンの方なんて見てなかったのに。なのにトガがしていた事を言い当てるんですから、スゴイです。ちょっと怖いなぁって思わなくもないですけど。

 ちなみに、おじさんは書斎でお仕事中なのです。もう年末なのに働いてるのは、どうかと思いますけど。あと五日もすれば新年ですよ? 社会人に冬休みは無いんですか??

 

「どうして? 被身子ちゃんは、円花の記憶を体験したいんでしょう?」

「……それは、そうですけどぉ……」

 

 輪廻ちゃんの言う通りです。でも今は、そうしちゃいけない気がして。だって円花ちゃんが、しょんぼりしてて。全然スキンシップもしてくれないですし、したらしたですっごく申し訳なさそうにして。その状況が、かなり嫌です。目茶苦茶ストレスです。いつも通りじゃなきゃ、ヤなの。私に触れたり触れられたりしたら、嬉しそうにしてくれなきゃ心外です。

 

 ……でも、分かってるんです。ヨリくんにとって、子供を呪うのはNGなんだって。何より許せない事なんだって。だから自責して、あんな風になっちゃって……。

 

 今日も、本当は付いて行きたかったのです。だけどあんな顔をしてるヨリくんを、見たくなくて。だから輪廻ちゃんやおじさんに止められた時、つい頷いちゃって。付いて行けば良かったなと思いつつも、付いて行きたくないとも思っちゃって。

 

 ……もぅ。円花ちゃんの馬鹿。ヨリくんの馬鹿。後で謝ったって、ぜーったい許さないのです。一生根に持ちます。おこです、おこ!

 

「ごめんね被身子ちゃん。あんな面倒くさい娘で」

「輪廻ちゃんが謝ることじゃないですよぉ。だって、ただの自業自得ですし」

「でも嫌でしょ、今の円花は」

「とっても、ヤです」

「……ごめんね、本当に」

 

 ……ん、んん……。輪廻ちゃんに謝られるのは、違うのです。だって、今回の件は私達の自業自得です。円花ちゃんにも、私にも悪いところはありました。その結果が今なんです。私は円花ちゃんの血で呪物になっちゃって、円花ちゃんはその事を酷く後悔して。何としてでも、私を元通りにしたいと思ってて。

 でも多分、私を元通りにする方法は無いような気がします。だってヨリくんの記憶を思い出す限り、呪物を元に戻す方法は存在しないので。だからって自然に呪いが消えるってことも無いですし、トガは一生呪物のままです。

 

 私は、それで良いんですけどねぇ……。呪力も有って、ヨリくんの記憶を体験出来て。それに肩凝りも取れましたし!

 

 ……でも。ヨリくんは、何としてでも私を元通りにしたくって。そうしないと顔向け出来ないとか、そんな風に思ってると思います。そんなこと、全然無いのに……。

 

「……どうしたら、円花ちゃんは元気になると思います?」

「それはあの子が前向きになったら、かしらねぇ……」

「……一生あのままな気がするのです。円花ちゃんって、かなり後ろ向きなので」

 

 ああ見えて、結構後ろ向きなんですよねぇ……。過去に囚われてるって言うか、過去を手放せないと言うか。それが悪いことばかりって訳ではないんですけど、今回は悪い方向に働いてて。それを指摘しても、多分……と言うか確実に聞く耳持たずですし。

 

 ……ほんっと、今のヨリくんは面倒くさいのです。伴侶として駄目駄目なのです。そういうとこも、好きだなぁって思いますけど!

 

 でも、実際。円花ちゃんを前向きにするのはとっても難しいかなって。世界一頑固で、意地っ張りで天邪鬼で、お陰で苦労させられてます。……もぅ、ヨリくんの馬鹿。分からず屋、意地っ張り……!

 

「……感謝してるわ、色々と。被身子ちゃんが居なかったら、もっと酷かったと思うから」

「んふふ。もーっと任せてくれて良いんですよ? ヨリくんは、私のお嫁さんなので!」

 

 今の円花ちゃんに何が出来るかは分からないんですけど、もしかしたらトガに出来る事は無いのかもしれないんですけど。でも、それでも。この世でヨリくんを分かってあげられるのは、私だけだから。円花ちゃんがそうしてくれたように、私もそうしたいなって思うのです。

 ……まぁ、今は。考えても考えても、どうしたら良いのか分からないんですけどね。

 

「あの子に、幸せを教えてあげてね。もっともっと、分からせてあげて」

「はぁい。言われなくたって、そのつもりですけど!」

 

 今後は……と言うか、今後も。ヨリくんの、円花ちゃんの幸せは私の隣に居ることだって教え込んで行くつもりです。少し前に円花ちゃんを幸せにするパーティーをA組のみんなと開催しましたけど、あれでもまだ足りてないのは明白ですし。幸せだって思ってるくせに、何処かで幸せを信じ切れてないんですよねぇ。幸せが続くことを疑ってるっていうか、何と言うか……。

 仕方ないことなのかなって、思わなくもないんですけど。あんな酷い世界に身を置き続けてたら、ああなっちゃうのも頷けます。それはそれとして気に食わないんで、もっともっと分からせるつもりですけど。

 

 ん、んん……。やっぱり、無理を言ってでも付いて行けば良かったです。

 

 円花ちゃんが好き過ぎてどうにかしてる自覚は、ちょこっとは有りますけど。なのに自重したのは、らしくなかったかも。私は、私らしく生きたいので。ただでさえ生きにくい世の中なのに、好きを我慢するのは私には無理です。嫌いな事を我慢するのは、もっと無理。

 

 ……だから。んん……。

 

 

「……今の円花ちゃんは、嫌いです……」

 

 

 だって、全然構ってくれなくて。私から、変に距離を置こうとして……! それが、とっても不愉快で……っ。

 いい加減、分かって欲しいのです。私は呪われたって何されたって、それでも円花ちゃんの側に居たいってことを。ヨリくんが私の全部なんだって、もっと分かってくれなきゃヤです。

 

「……ほんと、貴女達って大概よねぇ。そういうとこ、お母さんは結構心配よ?」

 

 気が付けば、輪廻ちゃんがソファ越しに振り返ってました。すっごく呆れた顔をしてます。でも、優しく私を見詰めてくれて。そういうとこ、円花ちゃんにそっくりです。ぁ、円花ちゃんが輪廻ちゃんにそっくりって言った方が正しいんですけど。

 

「二人揃って、視野が狭いんだもの。円花は被身子ちゃんと呪術師で、被身子ちゃんは円花しか見てなくって」

「……良いじゃないですか、別に」

「もっと周りを見るべきよ。だって被身子ちゃん、友達居ないでしょ」

「む。こう見えても、友達ぐらい居ますよぉ」

 

 失礼なのです。円花ちゃんも輪廻ちゃんも。友達ぐらい、何人も居ます。同じクラスにも、別の学科の同級生にも! 何なら後輩にも、先輩にだって!

 それなのに、二人ともトガに友達が居ないって言うのは何なんですか。まっこと、失礼なのです……!

 

「ならその友達の中に、被身子ちゃんの好きな事を伝えられる子は居る?」

「……居ません。でも、伝えなかったら友達じゃないなんて事は無いですよね?」

「そうね。友達だからって全部話すことは無いわ。……でも、そろそろ円花や私達以外に教えても良いんじゃないかしら。

 貴女の世界は円花だけじゃないのよ?」

 

 ……。……何が言いたいのか、よく分からないのです。だって、トガには円花ちゃんだけですし。私の好きな事を分かってくれるのは、円花ちゃんだけです。あと、輪廻ちゃんとおじさんも分かってくれてますけど。

 

 そう言えば。緑谷くんとお茶子ちゃん。それと……オールマイトも知っては居ます。ついでに、常闇君も。目の前で、チウチウしちゃいましたし。でも、分かって欲しいとは思ってないですし、何ならお茶子ちゃんの申し出は拒絶しちゃったりもしてます。嬉しくなかったわけでは、無いんですけどね。でも、その……。

 

 ……その。信じられなくって。小学生の頃、 友達だった子に打ち明けたら……嫌な目に遭っちゃって。あの時は大変だったのです。円花ちゃんが、物凄く怒っちゃって。思い返してみれば、あのぐらいの時から円花ちゃんにとっても……。

 

 ……えへへぇ。だから、大好きなんです……! やっぱり私を分かってくれるのは、受け入れてくれるのはヨリくんだけなのです……!

 

「……こっちもこっちで、重症よねぇ」

「それだけ円花ちゃん一筋ってことですよぉ。トガは愛に生きるので!」

 

 輪廻ちゃんが心配してくれてるのは分かるんですけど、だからってこの生き方を変えるつもりは無いのです。私の世界の真ん中に居るのは円花ちゃんで、それ以外の誰かに居て欲しいとも思えなくって。

 

「まぁ、駄目とは言わないけど。でも被身子ちゃん、大切なものは幾らでも増やして良いんだって覚えておいてね」

「はぁい。一応、覚えておきます」

 

 これから、円花ちゃんをどうしたら良いのかは分かりません。でも、だからって離れるつもりはないのです。今のヨリくんは嫌いですけど、そこはこう……何とかして分からせるつもりなので……!

 

 ……んんん……。ヨリくんの事を考えてたら、会いたくなって来ました。早く帰って来てくれないと、円花ちゃん成分が足りなくって困っちゃいます。あ、そうだ。現代にはスマホが有るんですから、電話しちゃいましょう! そうと決まれば、早速行動です……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むすーーっ。ヨリくんが、電話に出ません。全然出てくれません。スマホは持たせておいたのに、何回電話しても全然出てくれないのです。私は今直ぐにでも声を聞きたいのに……!

 

 ほんっと、もぅ……。もぅ、もうっ! 構ってくれない円花ちゃんは大嫌いですっ。こうなったら、帰って来たら直ぐに分からせないと気が済まないのです。しょんぼりしてる姿はそれはそれでカァイイんですけど、やっぱり笑顔で居てくれることが一番なので!

 

「なになに? 荒ぶってどうしたの?」

 

 リビングでスマホをぶん投げそうになっていると、おじさんがやって来ました。まだお昼前なのに、すっかり疲れた顔をしてます。年末なんですから、休んじゃえば良いのに。色々とポンコツな人ですけど、それでも一家の大黒柱なんですよねぇ。

 

「円花ちゃんが構ってくれなくて拗ねてるのです……!」

「あー……うん。その辺は注意しとく」

「注意しといてください。おじさんの言うことなら、素直に聞いてくれますし」

「……でもさ、被身子ちゃん。自分のせいで愛しい人に何か有ったら、今まで通りに接するのは難しいよ?」

「……」

「あ、ごめんごめん。睨まないで睨まないで」

 

 むー……。まぁ、おじさんの言うことも一理有ります。確かに私も、私のせいで円花ちゃんに何かあったら流石に気まずいので。だけどぉ、私が良いって言ってるんだからそれで良いじゃないですか。そりゃあヨリくんにとって許せない事態なのは分かってますけど、そこは私が良いって言ってるんだからあんまり引き摺って欲しくないの。

 でも、ヨリくんは頑固ですし。きっと本人が納得出来るまで、あのままかもしれません。

 

 ……それは、ヤです。とっても、ヤ。

 

 どうにかしてあげたいんですけど、現状トガが伝えられる事は全部伝えちゃってますし。ほんと、どうしたら良いのか分からないです。

 

「輪廻も円花も強情だからね。僕もね、しょんぼりした輪廻を振り向かせるのは苦労したなぁ……」

「……おじさんは、どうやって励ましたんですか?」

「何もしなかったよ? ただ、ずっと側に居ただけ。何か有ったら助けたし、何も無くても寄り添って過ごした。それこそいつも通りにね。

 そしたら、ある日輪廻が立ち直ってくれてね。結局……本人が吹っ切るまで出来る事は無かったかなぁ」

 

 ……んん……。それは何と言うか、うぅん……。あまり参考にならないと言うか、参考に出来ないと言うか……。とにかく、そんな感じです。

 円花ちゃんが、自力で立ち直る事は出来ないと思うのです。だって、過去の過ちをずっと引き摺って生きてるから。本人は割り切ってるつもりみたいですけど、全然割り切れてなくって。

 

 分かってます。割り切れる筈が無いって。まだヨリくんの記憶は途中までしか見てないですけど、それでも断言出来ます。

 

 だって、あんなに大事にしてた二人が殺されちゃうんですから。その時が来るのは怖いし、見たくないです。あんなにヨリくんが愛して、あんなにヨリくんを愛してくれた二人だから。頼人くんと日奈ちゃんがどんな結末を辿るのか知っていても、もう私に出来る事は何も無くって……。

 

「大丈夫だよ。円花は僕達の娘だから、ちゃんと立ち直れる」

「そう……だと良いんですけど……」

 

 早く立ち直って、いつも通りになって欲しいとは思ってますけど。思ってますけど、それが凄く難しい事なのも分かってて。どうにかしたいのに、どうにも出来ない気しかしなくって。それでも私はいつも通り接してるつもりですけど、なのに円花ちゃんはどんどん沈んじゃって。

 

 ……もう、どうしたら良いのかも分からないのです。

 

「……よし、被身子ちゃん。ちょっと二人で出かけようか!」

「……はい?」

「良いから良いから。ほら、準備して準備。車出すから、気晴らししよう!」

 

 ぇ、ええ……? いや、ちょっ……。急に何を言い出すんですか。今はお出掛けって気分じゃないんですけど。それに、輪廻ちゃんを放っておくのは旦那さんとしてどうかと思います。お腹に二人も赤ちゃんが居るんですから、側に居てあげなきゃ駄目ですよぉ。

 

「ほら、準備だよ準備。たまには父娘だけで水入らずってのも良いでしょ?」

「……えぇ……?」

 

 困惑です。って、ちょっ……! 肩を掴まないでくださいっ。セクハラですセクハラ! そういうのは、ヨリくん以外はNGですから!!

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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