待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
探して。探して、探して。被身子を元に戻す方法が、この五条家に有ると信じて儂はここに来た。地下室に置かれた山のような資料を、おおるまいとや緑谷と手分けして読み漁り続けた。……なのに。
なのに、なのにっ。
一向に、一向に出て来ないんじゃ! 呪物を元に戻す方法が。探しても探しても、儂が欲しい情報は出て来ないっ。出て来る気配も、無い……っ。もう何時間も探し続けているのに、片っ端から読み漁っているのに、それらしい記述は何一つ無い。
そんな筈は無い。必ず何処かに有ると言い聞かせながら、目に付く記帳を手当たり次第読み漁ったのに。何も、何も見付からない……!
「……くそ……。くそっ!!」
何でじゃ!? 有る筈じゃろう……!? 五条が蓄えた呪術の知識の中に、記録の中に、解呪に関する情報が何一つ無いとは思えない。必ず、必ず何処かに有る筈じゃ。ただ儂が見落としてるだけじゃ。もう一度、もう一度探さなければ。見付けなければ……!
でないと。でないと、被身子に会わせる顔が無い。何より儂が、儂を許せない……っ。
「……廻道少女。その、もう……」
「何処かに有る筈じゃろう!? 見落としてるだけじゃっ! いいから探せ!!」
見付けなければ。見付けなければ、見付けなければ……! 絶対に、有る。無い筈が無いんじゃっ。この資料室の何処かに、被身子を元通りにする方法が有る……!
「でも、廻道さん」
「っっ、有る筈じゃ! 必ず、何処かに……!!」
もう、全部見た。此処に有る資料は、手分けして全部。それは分かってる。分かってるからこそ、認められない。何時間も手分けして探して、それでも見付からなかったなんて結末は許されない。そんな終わり方は、許さない。見落としただけじゃ。今度はもっと、もっと丁寧に。資料の全てを読み込んででも、探し当てる。絶対に、絶対に……っ。
まだ、まだ儂が読んでない記帳が幾つか有る。緑谷達が読んでいたものの中に、何か見落としが有るかも知れない。もう一度、もう一度じゃ。もう一度、一から全部……!
「……これ以上探しても、何も出て来ない。残念だが、貴様が求める情報は……」
「うるさい……っ!」
聞きたくない。聞きたくないっ。そんな現実は、受け容れられない。誰が何と言おうと、儂は認めない……! ここに必ず有る。絶対に、被身子を元に戻す方法がここに有るんじゃっ。それを見付けて、儂は被身子を元に戻す。でなければ、でなければもう……っ。
「廻道さん。もう……、全部見たよ……」
「っっ!!」
「ちょっ、廻道少女!?」
つい。隣に居た緑谷に、掴み掛かる。胸倉を掴んで、その体を棚に押し当てる。そしたら直ぐ、おおるまいとに緑谷から引き剥がされた。聞きたくない。聞きたくないんじゃっ。そんな事を言う暇が有るなら、もう一度探し直してくれ……っ。何処かに有る筈なんじゃ! 何処かに、何処かに……っっ!!
「……探せ……っ。有るんじゃ、必ずっ。必ず、何処かに……!!」
「……でも、見当たらないんだ。呪いを解く方法は、どこにも……」
「有るんじゃ!! 必ず、必ず……っっ!!」
―――止せ。止めてくれ。そんな目で、儂を見るな。諭そうとするな、止めようとするな……っ。諦めたくない。諦められる筈が無い。被身子を呪っておきながら、そのままになんてとても出来ない。
呪いを、解かなければ。元通りにしなければ。このままにしておいて、良い筈が無いんじゃから……!!
「頼むから、頼むから……探してくれ……っ」
嫌じゃ。嫌じゃ、嫌じゃ。これだけ探して、何も無いなんて以ての外なんじゃ。被身子を元通りにしたい。元通りにしなければならない。もうそれしか、儂には出来ない。そうしなければ、被身子の隣に居られない……っ。
じゃから、じゃから……っっ!!
頼むから、見付かってくれ!!
◆
……結局。結局、何も無かった。五条家に蓄えられた資料ならば、呪物を解く方法が有ると思って居たのに。被身子を元通りにする為の方法が、知れると思ったのに。
儂が知りたいことは、何一つ知れなかった。僅かな手掛かりすら、此処には無くて。どうしようもない無力感が溢れて来て、もう立っていることも嫌じゃ。動きたくない、何もしたくない。被身子に、会いたくない。このまま手ぶらで帰るなんて、無理じゃ。どんな顔をして、被身子に会えば良いのかも分からぬ。
もう、もう……どうすることも出来ないのか? 儂は、被身子を元通りに出来ないのか?
愛しい人を考え無しに甘やかして、結果呪ってしまって。儂はこの手で、子供を……。
もう動く気力も無い。手足が重い。自分のものでは無いかのように。
心が重い。酷く締め付けられて、平静でなんか居られない。
「―――」
「―――」
「―――」
三人が、何かを言っている。それは分かる。でも、今の儂に何を言っているかはまるで分からない。今は誰の声も聞きたくない。放っておいてくれ。構わないでくれ。もう無理じゃ。無理なんじゃ。これまで通りに過ごす事は、許されない。被身子の側に居たいのに、被身子の側に居ることは許されない。
何より儂が、許したくないんじゃ。
……きっともう、儂は駄目なんじゃろう。被身子を呪ってまで、呪術師では居られない。
この先、何をどうしたら良いのか分からん。何も分からない。何も、何もしたくない。いっそ、死んでしまいたい。誰にも知られず、ひっそりと。
……、立ち去らなければ。此処から此処ではない何処かへ。そうして、後は……。後は……誰と関わることもなく、生きて行けば良い。あの時のように。遠い昔に、そうして居たように。
大丈夫。大丈夫じゃ。独りは、慣れてる。ずっと独りで、旅をして来た。勝手に付いてくる輩は多く居たけれど、いつだって……最後は独りだったんじゃから。
「は、はは……」
そうじゃ。儂は、独りじゃったんじゃ。じゃったら、今更独りになったって大丈夫。被身子と別れるのは寂しいけれど、もっともっと一緒に過ごしたかったけれども。同じ時を、歩みたかったけれど。
そんな資格は、もう儂には無いんじゃから。
痛む心を、どうしようもない無力感を、ただひたすらに圧し殺す。
ひとまず。これからどうするかは決めた。ただこの事を言っても、誰も納得しないじゃろう。じゃから、誰にも言わないで……勝手に消えることにする。きっとそれが正しいんじゃ。儂は、そうしなければならない。もっと早く、そうするべきじゃった。被身子や常闇、それから両親の静止に従うべきではなかったのぅ……。
重い体を、突き動かす。緩慢な動きで立ち上がろうとすると、ふらついた。誰かに体を支えられたが、誰に体を支えられたかなんて気にしてられん。
重い足取りで、一歩ずつ進む。歩く度に、力が抜けるような気がする。それでも、立ち止まろうとは思えない。
「―――っ!」
誰かに、道を塞がれた。誰が儂の前に立ち塞がったかは、分からない。じゃからって、立ち止まったりは出来ん。力入らぬ四肢を動かして、目の前の輩を退かす。何かを言われた気がするが、聞こえない。今はただ、外に出なければ。外に出て、それから……。
重い体を引き摺って、壁に寄り掛かりながら階段を登る。後ろに誰か付いて来ている気がするが、……それはどうでも良い。
……そうじゃ。どうだって、良い。もう、何もかも……どうだって。
階段を登り切る。そうして外に出て来てみれば、空は真っ赤じゃ。いつの間にか、夕方になってたらしいの。もう少ししたら真っ暗にはって、姿を消すにはちょうど良いかもしれん。
「円花ちゃん?」
「……は……?」
外に出て数歩もしない内に、被身子の声がした。顔を上げてみれば、確かに被身子が居た。
おい、何でこんなところに……? なんて、聞く気も起きない。どうせ、誰かに無理を言って此処まで来たんじゃろう。それよりも、間が悪いと思ってしまった。被身子に見付かってしまった。これでは、独りになんてなれなそうじゃ。儂はもう、独りになりたいのに。
「……もぅ! まーーたろくでもない事考えてるのです……!!」
儂の顔を見た被身子は、直ぐに不機嫌になった。頬を膨らませて、さぞ不満気な顔で儂に向かって突進して来る。次の瞬間には何をしてくるか分かっとるから、それを避けようと右に動く。が。
「今のヨリくんは大っ嫌いですぅっ!」
「ごはっ!?」
まるで駄目じゃった。突進して来た被身子は儂の胸に飛び込んで来て、お陰で盛大に押し倒される羽目になってしまった。背中を思いっ切り瓦礫にぶつけて、息が詰まる。直ぐに起き上がろうとするが、両手は地面に押し付けられて微塵も動けん。覆い被さる被身子を睨むと、真っ直ぐ睨み返された。
「もぅ! もう!! 今何考えてましたか!?」
「……放っておいてくれ」
「嫌ですっ! そんな顔したヨリくんをほっとくなんて、無理ですぅ!!」
「……っ、放っておいてくれ……!」
……っ、何で……! 何で、被身子はこうなんじゃ……っ! 被身子だけじゃない、常闇も父も母も、誰もかも……!
もぅ、もう、独りにさせてくれ……っ。儂は、独りで居たいんじゃ……! なのに、なのにどうして……!!
「独りになんて、させませんからっ。絶対、ぜーーったい!」
「何でじゃ……っ! 何で、何でぇ……っ!!」
「ヨリくんが大好きだからです! それ以外の理由なんて無いのです!!」
「……っ、分からず屋め……っ!」
「分からず屋はどっちですか!? ほんとにもぅ、いい加減にしないと愛想尽かしちゃいますよ!?」
……それは。それは、困る……のぅ。愛想を尽かされるのは嫌じゃ。でも、今の儂なら尽かされても仕方ないとは思う。もしそれで独りになれるなら、いっそ……。
……ぐすっ。やじゃ。やじゃやじゃ。被身子とは一緒に居たい。どうしたって、離れたくない。独りが良いのに、独りになりたくない。どうしてこうなってしまったんじゃ。どうして、こんなにも独りが怖い? なんてことはない筈じゃ。独りは、当たり前じゃった。どうして今になって……。どうして……っ。
「……円花ちゃんが独りになるなんて、初めっから無理なの。そもそも、誰かと一緒に居なきゃ駄目駄目なポンコツですし」
「……ぐすっ。誰がぽんこつじゃ、誰が」
「まーどーかーちゃーんーでーすーぅー」
「んぐむっ」
唇を指で摘まれた。喋りたくても喋れん。呆れた顔をした被身子は不満気に儂を睨んで、覆い被さったままじゃ。何なんじゃもぅ……。そうやって、いつもいつも気軽に儂に触れて。好き勝手ばっかりで。そういうところじゃぞお主は。そういうところが……。
……ぐぬぬ……。
「……帰りましょう? その様子だと、駄目だったんですよね?」
「……すまん……。何も、何も……っ」
泣いてどうにかなる訳でもないのに、視界が涙で滲む。何も得られなかった不甲斐なさで、胸が締め付けられて息苦しい。何でじゃ、何で何も無かったんじゃ……っ。此処なら、五条になら何か有ると思ったのに……!
「良いんですよぉ、何も無くったって。トガはちーーっとも気にしてないので!」
「お主が気にしなくたって、儂が気にするんじゃ……っ! すまん、すまん……っ!!」
「……もぅ。そんな風に謝られる方がヤです。ヨリくんの分からず屋」
ぐす……。ぐすん。分からず屋と言われようが、何と思われようが、気にしないで過ごすなんて儂には出来ない。無理じゃ、そんなの。
愛しい人をこの手で呪って、胸の内に湧き上がるのは後悔ばかり。ああしていれば、こうしていればと考えてしまって、どうしようもないんじゃ……っ。
どうしたら良いのか、何も分からない。これから儂は、どうすれば良い……? 出来ることなら、誰か教えてくれ。何でもするから、被身子の為なら……何じゃってして見せるから。
じゃから、じゃから……っ。
誰か、被身子を元通りにしてくれ……っ!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ