待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
今日の夕方頃、操作ミスで六話先の話を即時投稿しちゃったのは内緒です(即削除済み)
……最悪な気分じゃ。昨日、儂は泥花市に赴いた。母の生家……五条家に被身子を元通りにする方法が有ると信じて。なのに結果は、何も無かった。呪術的な資料は幾つも有ったのに、何の情報を手に入らなかったんじゃ。ただひたすらに、時間を無駄にしてしまった気がしてならん。
あの後、何故か被身子が泥花市にやって来て儂を連れ帰った。それからの事は、何も覚えていない。どうやって、何をして過ごしたのかも。
気が付けば、翌日の昼になっていた。自分が寝たのかどうかすらも、定かではない。多分、ろくに寝れてないんじゃろうな。動くことすら面倒なぐらいに、体が重いんじゃから。反転術式を回しても、こればっかりはどうしようもないんじゃろう。じゃって、儂の心の問題じゃと思うから。
被身子の姿は、見当たらない。気が付いたら居なくなっていた。半開きになった扉の向こうから物音がするから、家事でもしとるのかもしれん。
『独りになれ』
……独りになれるものなら、とっくになっとる。ただ被身子が、儂から離れようとしてくれない。儂が独りになることを、誰も許してくれないんじゃ。それに……儂も被身子から離れたくない。独りになりたいのに、独りになりたくない。そんな矛盾した気持ちが胸の内で渦巻いて、ただただ気持ち悪い。
『堕ちたものだ』
……そうじゃな。儂は、堕落したんじゃと思う。被身子や両親と過ごして行く内に、知らぬ内に……堕ちていたのかも。そうでなければ、とっくの昔に家など飛び出ていた筈じゃ。呪術師として、前世と変わらぬ生き方をしていた筈なんじゃ。
ただ……、今生はそうではなかった。そうはならなかった。色々としがらみが有ったのは事実じゃけども、過去の儂ならば何よりも呪術師を優先していたじゃろう。なのに、いつの間にか被身子を優先するようになってしまって。その結果が、今じゃ。被身子を呪って、ただ後悔ばかりを続けて……。
『もはや貴様は、呪術師ですらない』
そうじゃ。儂はもう、呪術師ですらない。ただの呪詛師じゃ。人を呪い、傷付けるだけの存在に成り下がった。こんな事になるのなら、産まれ直した時に呪詛師でも目指すべきだったかもしれん。或いは……
「……どうしたら、良いんじゃろうな……」
これから、何をどうして行けば良いのか何も分からない。幻覚や幻聴と会話したって、ただただ虚しいだけじゃ。得ることは何も無い。
無力感のまま、畳の上に倒れる。窓の向こうに見えるのは、我が家の塀と向かいの家だけ。
……そう言えば。子供達は……皆はどうしてるんじゃろうな? 今は冬休みじゃから、実家にでも帰ってるのか?
なんて、儂が気にする事ではないか。気にすること自体、烏滸がましいんじゃ。
じゃって儂は、裏切ってるから。
「……ぐすん」
あぁ……、もう……。すぐこれじゃ。何でこうも、涙が出るんじゃ。情けない、情けない情けない。もう泣き喚く資格すら、儂には無いんじゃ。泣いたってどうしようもない。何も変わらない。どうしようもなく、滑稽なだけじゃ。
なのに涙ばかり出て来て。際限無く気分は沈んで。最低じゃ。死んでしまいたい。何処かで人知れず、死んでしまいたい。
……自殺する勇気すら、今は無いくせに……。
「ぐす……っ。ぅうぅ……っ」
守りたかった。救けたかった。そう思って走り抜けて、なのに多くの命を取り零して。最期は、何も果たさず死んで。そんな前世よりも、今生の方が酷い。子供を裏切って、愛する人をこの手で呪って。何処で歯車が狂った? 被身子を甘やかすようになってから? 或いは、被身子に出会ったその時から……?
出会うべきでは、無かったのか……? でも、じゃって。泣いている子供を放っておくような真似は出来ない。救けなければと、守らなければと思ってしまう。どうしても、どうしても許せないんじゃ。子供を傷付けるような輩が、子供を呪うような存在が。
……腹立たしい。己の弱さが、憎い。儂では、被身子に何もしてやれない。元通りになんて、とても……。とても……っ。
「円花、ちょっと来なさい」
……母の声がした。振り返る気すら、今はしない。体を起こすことすら、嫌じゃと思ってしまう。何かをしたいとは思えん。いっそ、何もしない方が良いのかもしれん。
「うじうじしてないで、着替えて外に出なさい。お友達が来てるんだから」
「……放っておいてくれ」
「私じゃなくて、お友達に直接言いなさい。ほら、早く着替えて」
……何なんじゃ、もぅ。今は放っておいて欲しいと言うのに。それに、誰が訪ねて来たんじゃ? 母は友達が来たと言っていたが、誰じゃろうな。寝間着から着替えるのは面倒じゃけども、何とか動くことにする。
今日は……着物で良いか。洋服は面倒じゃし。
取り敢えず。これ以上急かされる前に着替えて、居間に行こう。
◆
「……お主か」
「廻道。……息災か?」
「……どうじゃろうな」
着替えて居間に出向いてみれば、
……被身子の姿は、見当たらない。目が覚めてから、一度も姿を見とらん。きっと身重の母に代わって、家事でもしているんじゃろう。洗面所の方から、何か物音が聞こえるからの。今は……洗濯中か……?
それはそうと、父よ。何故廊下から、常闇を睨んでるんじゃ。居間に入ってくれば良いものを……。何をしとるんじゃか、まったく……。
「……何の用じゃ?」
父の視線が鬱陶しいが、ひとまず常闇に何のつもりか聞いてみる。
「休学したと聞いて、会いに来た。廻道、そういう大事な事は、連絡してくれ」
「……どうでも良いじゃろ。儂がどうなろうが」
「良い筈が無い。そんな物言いは止めてくれ」
「……」
……別に、逐一報告する必要は無いと思うんじゃが。どうやら休学になったことを一切伝えず雄英を出たことが、常闇は気に食わなかったようじゃ。儂を前に呆れた顔をすることは多くても、怒った顔になるのは少ない。少しばつが悪い気分になって来た。悪いことをしてしまったかもしれん。
……最低じゃなぁ、儂は。被身子を呪ってから、周りに迷惑を掛けてばかりで。
申し訳ないと思いつつも、今後の態度を改めるのは難しい。被身子を呪っておきながら、いつも通りに振る舞うなんて真似は出来ない。絶対に、無理なんじゃ。
「……もっと頼ってくれ。辛いなら、悲しいなら……幾らでも。そうでなくたって、どんな事でも。些細な事だって良い、くだらない事でも良いんだ。もっと、もっと……頼ってくれ」
「……」
また、頼れと言われた。何で誰もが、儂に人を頼れと言うのか。別に、何も頼らんわけでないじゃろう? 私生活や学生生活の中では、むしろ頼ってる方じゃ。常闇には特に、中学の頃から頼り切りじゃと思う。もちろん、被身子はそれ以上に。
まぁ……呪術師としては、何も頼りはしないんじゃけど。頼ることなど出来ん。唯一頼れる奴が居るとするなら、おおるまいとじゃな。あやつは大人で、
……あぁ……。これも、堕落なのかもな。儂からすれば、おおるまいとも守るべき対象じゃった。呪力を扱えるようになったとしても、あやつは呪術師ではない。大人がどうなろうと儂は知らんが、それでも……もっと儂一人でやるべきじゃった。きっと、あの時代と同じようにするべきじゃった。
まっこと、最低じゃな。反吐が出そうじゃ。
「……円花ァ……。元気出セ、ナ? ナ?」
あれやこれやと考え、黙っていると……だぁくしゃどうが儂の前に来た。わざわざ腕に絡み付いて、涙目になって縋ってくる。まさか、個性にまで心配されるとはの。それだけ儂は、酷い面をしているんじゃろうな。
「……放っておいてくれ。もう、儂に構うな」
「嫌だ。放っておけない」
「頑なな奴め」
「それは廻道も同じだ」
……まぁ、そうじゃとは思うが。どうにも
「……廻道。この後、時間は?」
「無いとは言えんが」
残念ながら、時間なら幾らでも有る。休学中じゃし、任務も無い。
「なら、今日は付き合ってくれ」
「やじゃ。放っておいてくれ」
「頼む」
……。……何なんじゃ、もぅ。儂は放っておいてくれと言っているのに、まるで聞き入れようとはしない。それどころか、常闇は余計に頑なになっとる……ように見える。何がしたいんじゃ、こやつは。
儂なんかを気に掛ける暇が有るなら、その時間を鍛錬に費やせ。緑谷のように身体作りに専念するとか、被身子のように勉強するとか。学生として、やる事が色々有るじゃろうが。
そもそも。儂を家から連れ出したりしたら、後でどうなるか分かっているじゃろうに。
「行こう、廻道」
「いや、おぃ……」
今は、身体に力を込めたいとは思えなくて。後の事を考えれば何としてでも拒否するべきなんじゃけども、こんなところを被身子に見られたらどうなるか分かっているんじゃけども。
「頼む。一緒に来てくれ」
……こうも頼まれたら、どうにも断り辛い。我ながら押しに弱いというか、何と言うか……。
……仕方ない。気乗りはしないけれど、今日は付き合うとしよう。常闇が何を考えてるのかは、さっぱり分からんけれど。後で被身子が大騒ぎすることが、目に見えてるんじゃけども。やはりどうしても、子供の頼みは断れなくて。
……それで? いったい、何のつもりなんじゃお主。儂を連れ出して、何をするつもりじゃ??
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ