待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
常闇に家から連れ出された。一応、こやつは冬休みで儂は休学中。じゃからまぁ……出掛ける時間が無い訳ではない。そんな余裕がお互いに有るのかと問われたら、首を横に振るう羽目になるんじゃけども。儂は出掛けている場合では無いし、常闇じゃってこんな事をする暇が有るなら少しでも鍛錬や勉強に時間を費やした方が良い。座学の成績が悪いことを儂は知っとるんじゃぞ? 儂に構ってる暇など、無いじゃろうに。
……それで? 何で儂を無理矢理外に連れ出したんじゃこやつは。お陰で、寒い。今は真冬なのに、割りと薄着で外に出る羽目になってしまった。急に連れ出されたものじゃから、上着を羽織る暇も財布を持つ暇も無かった。常闇に手を引かれてる様を、被身子に見られなかったのは幸い……か? いや、後で大変な事になるのは分かってはいるんじゃけども。
うぅむ……。後が怖いのぅ……。
「それで。いったい、何のつもりじゃ?」
寒い。せめて上着ぐらいは羽織りたかったところじゃ。財布が無いのはまぁ良いとして、携帯電話ぐらい持って出る方が良かったか……? それはそれとして。いつまで儂の手首を掴んでるつもりじゃ、こやつ。それと、だぁくしゃどうもいつまで儂に絡み付いてるつもりなんじゃか。
「今日は、付き合ってくれ。そんな気分じゃないとは思うが……」
「……」
……まったく。何なんじゃもぅ。儂は独りにさせて欲しいのに。被身子を呪っておきながら、子供と出掛けている場合ではないのに。
何より、強引が過ぎる。こやつが相手の事情を汲み取らないような真似をするのは、珍しい。何なら初めてかもしれんの。儂にこんな真似をするのは。被身子じゃあるまいに……。
さては、被身子から良からぬ影響を受けたか……?
「……輪廻さんに頼まれたんだ。廻道を、呪術師から遠ざけて欲しいって」
「……は?」
「……すまない。輪廻さんの意図は、正直分からない。言葉通りに汲み取って良いのかも、分からない」
……何じゃそれ? 母が儂を呪術師から遠ざけるように頼んだ……だと?
まぁ、有り得ん話でもない……か。母は元々、儂が呪術師で在ることを反対していた。それを無視して呪術師として動いていたのは儂。いずれこうなることは、予測出来なかった訳でもない。来るべき時が、とうとう来たとも言えるの。
「だから、今日は……。普通に遊ぼう。たまには」
「気分じゃない」
「根負けさせろとも、言っていた」
「……」
……んんむ……。勘弁して欲しいのぅ。何が勘弁して欲しいって、家を出た直後から背中に突き刺さる視線が恐ろしくて堪らん。間違いなく被身子が尾行しておるし。ついでに父まで付いて来ておる。常闇よ、もう少し人の視線に敏感になった方が良いぞ……? 儂を連れ出せば、後でどうなるのか分からん訳でもあるまいに。
これ、もしや浮気扱いをされるのでは……? いやいや、それは勘弁じゃ。浮気などせんし、だいたい被身子以外の誰かを好くつもりなど無いんじゃけど。
「いっ、きし!」
寒い。体が冷えて、盛大にくしゃみをしてしまった。
「すまない。強引過ぎた」
「……まったくじゃ。後でどうなっても知らんぞ、たわけ」
「覚悟の上」
「いい加減刺されるぞ、お主」
制服の上着を手渡された。ひとまず羽織るとしよう。寒いのは嫌じゃ。これ一枚で暖が取れるとは思えんが、無いよりは良いと思うことにする。背中に突き刺さる視線が更に鋭くなったような気がするのは、気のせいじゃない。
「……なぁ、被身子も一緒で良いか……?」
「それじゃ目的を達成出来ない」
「……まっこと、どうなっても知らんぞ」
「覚悟の上だ」
……覚悟の上、と言われてものぅ。最悪の場合、儂が間に入るしか無いか。本気で刺すとは思えんが、刺しに行ってもおかしくない部分があるしの……。どうも嫉妬深いんじゃよなぁ、被身子は。それも魅力的に感じてしまって良いのか、一考の余地が有る。もっとも、今の儂が被身子について考えて良いのかも分からんが。今更許嫁面など出来ぬし……。
……んん……。自己嫌悪が凄まじい。いつまで被身子に固執するつもりなのか。そんな資格は、とっくに失っているのに。そのくせ被身子から離れたくないなんて思ってしまうのは、どうにも罪深い。
「……取り敢えず。何処か、……暖を取れる所に行こう」
「……そうじゃの……」
外は、寒い。空気が冷たくて敵わん。こんな薄着で出歩くものじゃない。ひとまずは、何処かの店に入るとしよう。そうすれば、少しは落ち着いて話が出来る。何のつもりかは、改めて聞けば良い。常闇がここまでするんじゃ。しっかりと話を聞くべき……なのかもしれん。どうにも、気乗りはしないんじゃけどな。
◆
家から連れ出されて、二十分以上。寒さに震えながら常闇に連れ回されていると、辿り着いたのは商店街の裏通り。に、在る喫茶店じゃ。店主の趣味なのか、店内が暗い。僅かな照明は紫色じゃし、目を凝らせば見える壁や天井の装飾は……よく分からん。強いて言うなら、常闇が好きそうな
儂を連れた常闇は、慣れた様子で店の奥側にある席まで儂を案内した。固い椅子に腰掛けると、直ぐに店員に注文していた。随分と手慣れているようじゃ。さては、何度も足を運んでいるな? こんな店に、一人で?
……常闇の趣味は、よく分からん。こればかりは何年付き合おうと、理解出来ないんじゃろう。変な親友を持ったものじゃ。もっとも……今の儂が常闇を親友と言うのは間違いじゃと思うが。
……合わせる顔が無い。
「この店は、アップルパイが美味だ。林檎に拘っていて、まさに店名通り」
「店名?」
「禁断の果実」
聞くんじゃなかった。何じゃその店名。何がどう、禁断なのか。林檎は禁断の果実なのか? 何故? いやまぁ、林檎は甘くて爽やかで美味いが。じゃからって、禁断の果実呼ばわりは如何なものか。
「キャラメリゼも捨て難い」
……そう言えば。林檎が好きじゃったな、こやつ。そう言うところは何と言うか、随分子供っぽい。幼い、と言った方が正しいか? 確かに林檎は美味いが、じゃからって林檎ばかりの店に入り浸るのは……。
まぁ、良いか別に。人の趣味嗜好は様々じゃ。被身子なんて、血液じゃからのぅ。かく言う儂も、おいそれと人に話さぬ方が良い趣味を持っとるし。例えばほら、猛者と呪い合うこととか。全身全霊で呪い合うことが、堪らなく好ましい。それと、被身子に……その。
……被身子と言えば。居るんじゃよな、店の出入り口側にある席に。ついでに父も。二人して何をしてるんじゃか。まっこと、どうしようもない。
「廻道は、甘味なら何でも好ましいか?」
「……まぁの。甘いものに目が無いと自覚しとる」
だって、好きなんじゃもん。そうなるように教育されたと言っても過言では無い。被身子が美味なおやつばかり作るから、色々と好きになってしまったの。あと、見栄えも良いし。飾るだけ飾られた食事は好ましくないが、甘味は別じゃ。それに、おやつならば外で買ったり食べても良い。たまにはな。結局一番は、被身子が作ってくれるおやつじゃけども。
……と言うか。そんな事、わざわざ聞かなくたって分かるじゃろうに。
「今も昔も、廻道は渡我先輩ばかりだ」
「……それだけ大切なんじゃ。なのに、儂は……っ」
「どれだけ大切にしてるか、皆が知ってるつもりだ。……俺も、きっと誰もが……自分の手で大切な人に何かしてしまったら、とても堪えられない」
……っ。それが、それが分かるのなら。分かるんじゃったら、放っておいてくれ……! それが出来ないなら、儂がどうするべきなのかを教えてくれ……っ!
愛しい人をこの手で呪って、それでも側に居る方法を教えてくれっ。儂には出来ない。出来る筈が無い!
「だけど。俺も皆も、大切な人を手離そうとは思わない。諦めたくないんだ」
「……じゃから、何じゃ……っ」
「俺は、廻道を諦めない。友として、絶対に諦めない」
「諦めないから、何じゃ……っ!」
「幸せになって欲しいんだ。支えたいんだ。廻道の過去に何が起きたのかを知って、この間の事も有って、よりそう思うようになった」
幸せに、なって欲しい……? 支えたい……? よりそう思うようになった……?
何じゃそれは。そんな言葉を聞きたいわけじゃない。儂が聞きたいのは、被身子を元通りにする方法だけ。それだけで良いんじゃ。なのに、何じゃってそんな意味の分らんことを口走るんじゃ。儂の幸せなんて、もはやどうでも良い。支えなんて必要無い。
独りで良い。独りが、良いんじゃ。じゃけど被身子も両親も常闇も、儂を独りにさせようとしない。
良いじゃろ、もう。独りにさせてくれ……っ。
「食べよう。此処のは美味い」
……気が付けば。
今は食欲なんて無いんじゃが、いざ甘味を前にすると……食べても良いかと思えてくる。甘いものの誘惑は、こんな時でも存在するのか。
このあと。結局儂は、あっぷるぱいやあっぷるてぃを口にする羽目になった。これが思ったより美味で、中々どうして満足感を得られた気がする。こんな事をしている場合では無いと思いながらも、どうにも甘味の誘惑は振り払えなくてのぅ……。
駄目じゃなぁ、まっこと。こんな風に誰かと居るなんて、とても許されないのに……。
円花元気付け回、第一弾。常闇くんとデート編。なお背後に居る許嫁と、ポンコツ父。なるべく長引かせずに、さらっと終わらせたいところです。でも一つの節目にしたいので、長引く可能性は全然ありえます。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ