待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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円花の停滞。回遊、そのに

 

 

 

 

 

 

 常闇に連れ出された儂は、変な店名の変な店でついつい甘味を堪能した。結構美味くて、悩みのひとつやふたつは吹き飛びそうな気さえした。いつか、えりを連れて来よう。あの子も林檎が好きじゃからの。もっとも、連れて行くのは儂以外の誰かになるじゃろうけど。呪詛師の儂が、どうして今更子供に接することが出来るんじゃ。今はとにかく独りが良いのに、どうしてかそれが許されない。

 

 いっそ、勝手に出て行くか……? 夜中にでも、明け方にでも。被身子や両親が寝静まった後なら、幾らでも抜け出せるのでは?

 

 そうじゃ。そうしてしまえば良い。大人しく皆の言う事に従う必要など、どこにも……。

 

 でも、でも……じゃけど。それをしたら、被身子の側に居られない。離れなければならないのに、離れたくない。わがままにも、程が有る。儂はもう、被身子の側には……。

 

「廻道。聞いてるのか?」

「……。……何をじゃ?」

「……」

 

 腕を引かれた。呆れた顔をしておる。常闇が黙る時は、いつもそうじゃ。黙って儂を見詰めおって。

 

「木椰区のショッピングモールに向かう。と言ったんだが……」

「……好きにしろ」

「そうさせて貰う」

 

 どうやら。次は商業施設にまで連れて行かれるらしい。少し遠出になりそうじゃ。確か前に、被身子と逢瀬(でぇと)したところじゃな。あの時は、呪霊が鬱陶しかった。この寒空の下で出歩くのは気乗りしないが、仕方ない。こやつの気が済むまで解放されそうにないしの。好きなようにさせてやるとしよう。

 でないと、またこんな事態が起きるかもしれんし。それは流石に勘弁じゃ。店を出てからと言うもの、後ろからの視線が凄まじくての……。

 被身子を嫉妬させるべきではないと学んでくれ。主に儂が大変なんじゃから。

 

「……円花ァ……」

 

 何なんじゃもぅ。常闇に手を引かれて歩いていれば、今度はだぁくしゃどうが話し掛けて来た。涙目で、儂の腕に縋り付いて来る。何でこやつは、昔から儂に懐いているんじゃろうなぁ……。案外個性にも、人格や意思は宿るのかもしれんな。だぁくしゃどうを見ていると、不思議とそう思わされてしまう。

 

 何と言うか、小さい子供なんじゃよなぁ。どうにも式神らしくない。そのくせ、戦闘となれば強くて万能じゃ。まぁそれでも、常闇は儂に届かんけど。

 思えば。もっと鍛えてやるべきじゃったのかもしれん。緑谷に色々と教えたように、常闇にもあれこれ手解きしても良かったのかも。そうしたらほら、もっともっと……。

 

 ……なんて、今更遅いか。呪詛師が子供に何を教えるって言うんじゃ。教えられる事など、もはや何も無い。何かを教える立場には、もう立てん。

 

 

 ―――何をしとるんじゃろうな、儂は。

 

 

 呪術師でありながら、被身子を呪って。呪詛師に堕ちて。そのくせ、何の責任も取れてない。責任を取ることすら、許されない。なのにこうして、何をするわけでもなく同じ事ばかりを考えて。時には幻聴や幻覚と会話して。

 被身子に掛けた呪いを解きたくとも、その方法が分からない。探しても探しても見付からなかった。残る思い当たる節は……一つだけ。反転術式による呪力の中和。しかしそれを行うには、反転術式(はんてん)を人に施せるようにならなければならない。じゃけども、儂にその才能は無い。どれだけ試しても、儂は反転術式を人に施せない。どうして儂は、比奈のように出来ないんじゃ? 今こそ、必要じゃというのに……っ。

 

「気晴らしをしよう」

「……は?」

 

 気晴らし、じゃと? そんな真似、出来る筈が無い。どうして今の儂が、気晴らしなんて出来るんじゃ。そんなことは許されない。儂自身が許せない。

 このままで良い筈が無いのは分かってる。でも、何も出来ないんじゃ。何一つ、被身子にしてやれることがない。謝ることすら、許して貰えない。被身子は儂を好きじゃから、愛してるから、じゃからこそ何も言わないんじゃ。責めたって良いのに、いっそその方が楽なのに。なのに、あやつは儂と同じになれたと喜んでばかりで。

 

 それが、何より心苦しくて。被身子が呪術界に踏み入ってしまったことが、どうしようもなく嫌で。

 

 どうにかしなければ。どうにも出来なかったとしても、儂が何かしなければ。そうしなければ、被身子が死んでしまうかもしれない。多くの子供達が儂を真似しようとして、死んで行った。このままじゃと、被身子も……。

 

 ……あぁ……。

 

 あぁ、そうか……。きっと儂は、とっくの昔から……。

 

「行こう、廻道。今日は、何も考えずに親睦を深めよう」

 

 右腕を引かれる。左腕は、絡み付いただぁくしゃどうに引っ張られる。常闇は少し早足になって、進んで行く。だぁくしゃどうも居るとは言え、こんなに力が強かったか? それだけ鍛えたのか、或いは儂が……もはや抵抗のひとつも出来ていないのか。

 

 少し後ろで、被身子と父が何か言っている。……もう儂は知らんぞ、常闇。後で刺されそうになっても、放って置くからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「常闇おっそーーい! 何してんの!?」

「すまない」

「まぁ、ちゃんと連れて来てくれたから良いけどさ」

「やーっと来たね! あれでも、渡我先輩は……?」

「ケロ……。被身子ちゃんは居ないのね……?」

「渡我先輩と一緒じゃないのは、珍しいね?」

 

 常闇に引っ張られるまま木椰区の商業施設に着くと、そこには芦戸や耳郎、葉隠や麗日が居た。何でじゃ。お陰で、いきなり騒々しくなった気がするの。今は騒ぎたい気分では無いんじゃけどなぁ……。出来れば、静かに過ごして居たい。誰かと接することすら、嫌に思ってるんじゃから。

 ……それにしても。何をしてるんじゃ、こやつ等は。常闇の目論見か? 或いは最初から、合流することを取り決めていた……?

 

 ……。どうじゃって良い。いちいち構ってられるような余裕は無いんじゃ。叶うことなら、今直ぐ帰りたい。と言うか、独りで過ごしたい。……んじゃけども、どうせ独りにさせては貰えないんじゃろう。まっこと気乗りしないが、仕方ない。今日は仕方なく、常闇や女子(おなご)達に合わせるとしよう。

 

「……何なんじゃ、いったい」

「何って、今みんなで年越しの準備中! 寮を大掃除するから、その為の買い出し!」

「年明けはみんなインターンやから、今の内にって話になって……」

「ケロケロ。だから円花ちゃんも、買い出しを手伝ってくれないかしら?」

 

 ……なるほど。確かに聖夜(くりすます)が過ぎ去った以上、次にやって来るのは年末じゃ。買い出しやら何やらは必要じゃろう。しかしそれなら、雄英近くにある商業施設で良かったのでは? と、思わんでもない。そもそもよく外出許可が降りたの……?

 わざわざ電車に乗って此処に来ているのは、どういうつもりなのかさっぱり分からん。大掃除ともなれば忙しいんじゃから、遠出してまで買い出しをするのは違うじゃろ。

 

 ところで。儂の数(めぇとる)後方から飛んでくる視線がますます鋭くなっているような気がする。後ろを振り向いたら、そこにはさぞ不機嫌な被身子が居ることじゃろう。申し訳ない気持ちでいっぱいじゃ。後でどんな制裁が待っているのやら。

 

 ……まぁ、どこか喜ばしく思ってしまう自分が居るのも事実では有るんじゃけど。

 

「あ、でも廻道は大掃除しないでね。寧ろ渡我先輩を貸して……!」

「廻道ちゃんは渡我先輩を眺めてるだけで良いから! あ、でも大掃除が終わるまでイチャイチャは禁止!」

「絶対掃除しようとしないでよ? 余計に散らかるから」

 

 何故か掃除を禁じられたことについては、些か解せぬところではある。別に掃除ぐらい出来るんじゃけど? 何じゃってどいつもこいつも、儂を家事から遠ざけようとするのか。多少の失敗ぐらいするかもしれんが、そこは寛大に見守って欲しいものじゃ。横から儂を遠ざけようとするんじゃなくて。……と言うか。

 

「……儂は休学中じゃ。被身子は公欠で、寮に戻る理由は……」

「それは相澤先生から聞いてるわ。……でも、円花ちゃん。何でも話して良いのよ」

「むしろ、話して欲しいなって。廻道さん、何にも言わへんから……」

 

 ……。……はぁ……。どうしてこうなんじゃ、英雄(ひいろお)候補生は。余計な世話を焼いて、相手を考慮しないで手を差し伸べて来る。その手を儂が掴むことは無い。掴める筈が無い。誰かを頼ってどうにかなる事なら、とっくにそうしている。呪術師としての活動も、被身子の事じゃって。

 じゃけど。儂が何を言おうが、儂が何をしようが、皆は儂から離れようとしない。と言うよりは、儂を諦めようとしない。どいつもこいつも、儂を放っておいてくれない。

 

「みんな待ってるからね、廻道ちゃん!」

「いつでも話してよ。ウチ等、友達じゃんね」

「……」

 

 話せる事など、何も無い。誰に話したとしても、今の状況がどうにかなるとは思っとらん。打開策など、何一つ……。

 

「さてそれじゃあ……」

「時間も無いし!」

「買い出し済ませちゃうおう!」

 

 ……。何が何だじゃか分からんが、どうやら儂は買い出しに付き合わされるようじゃ。すっかり黙り込んでいる常闇を見てみると、だぁくしゃどうが儂の腕に絡み付いた。今日は随分と甘えん坊じゃな。個性が甘えん坊とは、これ如何に。

 ただまぁ、何と言うか。可愛らしいものに触れるのは、少し気が紛れる。こんな事で癒されている場合では無いんじゃけども、僅かに……気が抜けてしまう。実質常闇を撫で回してるのと大差無いような気がするし、だぁくしゃどうを撫でると後ろからの視線が鋭さを増すんじゃけども。そろそろ被身子に声を掛けた方が良い気がする。このまま放って置くわけにもいかんし、恐る恐る後ろを振り向いて見る。が。

 

 被身子の姿も、父の姿も無い。注意深く見渡して見れば、物陰に身を潜めているのに気付けた。このまま後ろから睨まれるのも生きた心地がしないし、声を掛けて合流するとしよう。ぽんこつな父をくらすめぇと達の前に晒すのは気が引けるが、付いて来たのなら仕方ないのぅ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アニマルセラピーならぬ、ダークシャドウセラピーに少し絆されるしょんぼり円花の図

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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