待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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円花の停滞。回遊、そのさん

 

 

 

 

 

 

 年末の大掃除の為の買い出しに、儂は付き合わされることになった。常闇に強引に連れ出されて、何人かの女子達と合流する羽目にもなった。そのどちらも、この際仕方ないと思うことにする。何を言っても巻き込まれていたような気がしてならんし。ただ、背後からの視線だけが如何ともし難い。家を出てからずっと被身子と父が儂を尾行していて、何かある度……具体的には常闇やだぁくしゃどうが儂に触れる度に視線が鋭くなる。そろそろ放って置くのも怖いから話し掛けて合流しようと思ったんじゃが、近付こうとすると逃げられた。何をしてるんじゃ、あやつ等は。こうも背後から睨まれると、流石に落ち着かないんじゃけど……。

 

 で、じゃ。後で大変な事になる予感を感じつつ、儂は女子(おなご)達や常闇に連れ回されている。相変わらず視界の端には低級呪霊が居るが、呪術師活動を禁じられてる以上はどうこうするつもりは無い。まぁ近くに寄って来たら、鬱陶しいから流石に祓うつもりじゃ。

 

 ……緑谷が心配じゃ。今日もおおるまいとと共に居るなら良いんじゃが、単独での任務じゃとすると……。

 

 早く復帰しなければ。そんな焦燥感も確かに有る。じゃけど、それ以上に無力感が強い。被身子を元に戻せない事実が重くのしかかって、自責の念ばかりが強まって……。

 

「廻道ちゃん廻道ちゃん、これとかどう?

 これなら廻道ちゃんでも掃除出来るかも!?」

 

 ……。……葉隠に話し掛けられた。手には変な形をした室内履き(すりっぱ)を持っておる。何じゃこれ? 太い毛糸のようなものが大量に付いていて……。何と言うか、室内履きと掃除用具が一体化したような代物じゃの。そんなものを履いてどうするんじゃ。もしやそれで床を拭けと……?

 

「あ、これとかも良いんじゃない? 廻道にも使えそう」

 

 今度は耳郎が笑みを浮かべながら、厚手の手袋を持って来た。これも葉隠が持って来たものと同じで、毛糸まみれじゃ。……何で訳の分らん掃除用具……? を、儂に持ってくるんじゃ。こんなものを使わないと掃除も出来ないと子供達に思われているのは、解せぬ。とても解せぬ。幾ら儂でも、掃除ぐらい出来るんじゃが? なのに昔から、被身子や常闇は儂を掃除から遠ざけようとしている。これも解せぬところじゃ。

 

「いっそこれ着て床を転がるとか、……どう!?」

 

 ……芦戸、意味不明な服を持ってくるな。何処から持って来たんじゃそんなもの。何じゃこれ、毛糸の着ぐるみか……? こんなものを着て床を転がって、掃除になるのか甚だ疑問なんじゃけど。余計に散らかるような気がしてならんぞ。太い毛糸があらぬ所に引っ掛かって解れて、更に掃除の手間を増やすだけなのでは……?

 と言うかじゃな、どいつもこいつも儂の前に変な商品を持ってくるんじゃない。そもそもお主等は、大掃除に必要な物を買い出しに来たんじゃろ? 変なものを物色する前に、まずしっかりと買い出しをしてからじゃな……。

 

 まったく。まっこと、仕方ない奴等じゃ。誰かまともに買い出しに来た奴はおらんのか??

 

「ケロケロ。円花ちゃん、お掃除なら教えてあげられるわ。一緒に大掃除しましょう?」

「……まぁ……それはしなければならん事じゃけど……」

 

 大掃除は、しなければならん。英雄(ひいろお)科の寮には、儂と被身子の部屋もあるしのぅ。一部の着替えとか荷物は、別の寮に置いてあるけども。部屋自体はそう汚れてはないと思うが、年末じゃからの。大掃除はするべき……か。

 

 ……しかしのぅ……。そんな事をしている場合ではないんじゃけど。そもそも、部屋はそこまで汚れてはいないじゃろう。何ヶ月も使っとらんから埃は溜まっているかもしれんが、主だった汚れはそのくらいのとこじゃろう。恐らくじゃが、そんなに手間は掛からない筈じゃ。となると、大掃除らしい大掃除はしなくても良い気がしなくもない。実家の方も、同じ事じゃろう。年末に忙しくなった事は、実は無い。まぁ儂が大掃除から遠ざけられているのも事実なんじゃが。これはこれで、解せぬ。

 

 まぁ……とにかく。とにかくじゃ。儂はいつまでこの買い出しに付き合わされれば良いんじゃろうか? だぁくしゃどうは儂の腕に絡み付いたままじゃし、後ろからの視線は恐ろしいし。早いところ、家に帰った方が良い気がしてならん。

 

 

「ブラッディ……!?」

 

 

 ……小さな子供の声がした。思わず声がした方を見てみれば、そこには見知らぬ子供と……その父親と思しき男。何じゃっていつの時代も、子供は儂をあだ名で呼ぶんじゃ。英雄(ひいろお)名は頼皆じゃと言っているのに、何故か『ぶらっでぃ』の方が浸透してしまっている。どうにか出来んかのぅ、これ。そろそろ訂正することが面倒じゃ。かと言って、改名する気はまったく無いんじゃけども。

 

「わーーっ、ブラッディだ……! ホンモノ!?」

「……」

 

 儂を見た子供が駆け寄って来る。年の頃は六歳程、……か? このまま近付かれるのは、今は困る。どうしても子供の相手をする気分ではない。かと言って、無視するのは違う。困ったのぅ……。

 

「ちょっ、こら血汐(ちしお)……! ごめんね忙しいところに。友達と買い物してたんでしょ? もしかしてブラッディも大掃除?」

「……」

 

 子供の次は、その父親まで話し掛けて来た。何なんじゃもぅ、今は話し掛けないでくれ。ふぁんさぁびす……とやらはしないぞ。そういう真似をしたいとは思わんし、そもそも儂のような人間に子供を近付けさせるんじゃない。英雄(ひいろお)でもなければ呪術師でもなくて、ただの呪詛師なんじゃから。

 

「ブラッディブラッディ、ファンサしてあげなよ〜〜」

「意外と子供から人気あるよね、ブラッディって。子供っぽいから?」

「そーそー、子供っぽい子供っぽい。わがままで短絡的だしさ」

「でもきっと、そんなブラッディだから好かれるのよね」

 

 今度は女子(おなご)達まで何か好き勝手に言っている。葉隠も芦戸も、耳郎も梅雨も後で覚えておけ。儂の恨みは根深いんじゃぞ。

 

 ……ところで、麗日は何処に行った? さっきから姿が見えんような気がするが……。まぁ、良いか。そのうち戻って来るじゃろう。あやつは迷子になる程、幼くは無いんじゃし。

 

 それと。ふぁんさ……? は、しない。しないったらしないんじゃ。いやまぁ……子供から求められたら、結局は応えるしかないんじゃけども。

 

「ねーねーブラッディ! 個性の使い方教えてよっ!」

「あ、うちの子の個性はブラッディと似たような感じで血を操れるんだ。それで将来はブラッディみたいなヒーローになりたいって憧れてて」

 

 ……。……なるほど。この子供は、血を操る類いの個性を持っているのか。じゃからって儂に憧れてしまうのは、どうかと思う。と言うかそもそも、親ならまず止めろ。儂の術式に似た個性となると、子供が気軽に扱って良いものではない。下手をすれば失血死するんじゃぞ。こ時代の、こういうところが嫌いじゃ。子供が英雄(ひいろお)に憧れて、戦いの場に赴こうとしてしまうところが気に食わない。それを良しとする大人や親は、もっと気に食わん。

 

 じゃから、返答は決まっている。そんなのは一つしかない。

 

「―――断「教えてくれるそうだ」

 

 ……は?

 

「そうだろ? 廻道」

 

 は?

 

 おい……。おい、常闇。儂の言葉を遮って、勝手なことを口走るな。子供に向かって、無責任な言葉を吐くんじゃない。教えないぞ、儂は絶対に教えない。そんな真似をしたらこの子は、増々英雄(ひいろお)を目指してしまう。儂からしたら、何一つ喜ばしくない。

 なのにお主が勝手な事を言うから、子供が喜び始めてしまった。その父親も、何やら嬉しそうじゃ。おかしいじゃろ、どう考えても。間違っているとしか思えん。親ならば、まず心配しろ。子供が英雄(ひいろお)を目指すことを、快く思わない方が先じゃろうが……!

 

「じゃあ、じゃあ! あのビューーってやつ教えて! 雄英体育祭でやってたやつ……!」

 

 大喜びの子供が、両手を重ね合わせてそう言った。穿血を教えろ、と……? 無茶を言うな。あれは呪術じゃ。個性とは違う。儂に教えられることなど、何も……。

 

 ……なのに……。

 

「あれは……、血液を圧縮することと足腰の強さが肝心要じゃ。圧縮すればするほど、強くなる。足腰を鍛えるのは、反動に耐える為と覚えておけば良い」

 

 なのに、何で。

 

「うん! 分かった!」

 

 どうして、教えてしまうのか。

 

「……毎日、ほんの少しの……指先が少し濡れる程度の血液で一回ずつじゃ。体が大きくなったら、飛ばす血を少しずつ増やして良い。それと、体はしっかり鍛えること。

 ……あぁそれと、勉強はしっかりな」

「うん! ありがとうブラッディ!! 全部頑張って、ヒーローになる……!!」

 

 こんな真似、するべきでは無いのに。子供に戦う為の技術を教えるなんて、絶対に間違ってるんじゃ。それなのに、どうして儂は……。

 

 この後。大喜びの子供は父親を引っ張るような形で帰って行った。早速鍛錬をするつもりか? それは、親として止めるべきじゃ。小さな体で血液を操るのは、かなりの危険性が有る。何で気付かない? どうして子供の好きなようにさせてしまうんじゃ。その果てに有るのは、きっとろくでもない未来なんじゃぞ……っ。

 

「常闇くん常闇くん。あの子、きっと良いヒーローになるね!」

「……あぁ。廻道を目指してるなら、きっと」

「もしかしたら廻道の弟子を名乗れるかもね……! てゆーか廻道、あたし達にも色々教えてよ〜〜!」

「ぐえっ」

 

 抱き付いて来るな、たわけ。後でどうなっても、儂は知らんぞ。今じゃって、直ぐそこで被身子が……居ないの……。父は居るが、被身子は居ない。何処に行ったんじゃあやつ。ついさっきまで、これでもかと背中に視線が突き刺さっていたのに。麗日の姿も相変わらず見えんし。二人とも、何処で何をしているのやら。

 

「……と言うか貴様等、買い出しは?」

 

 訳の分らん掃除道具を儂に勧めてくる前に、まず買い出しを済ませる方が先じゃろうて。するべき事をしてから遊べと、思わんでもない。

 

「あ、そうだった……。先に必要な物を揃えないとね」

 

 ……駄目じゃこりゃ。こうなってしまうと、儂はもう少し買い出しに付き合わされるじゃろう。こんな事をしている場合では無いんじゃが、もうここまで来たら……振り回されるしかない気がする。

 

 どいつもこいつも、まっこと仕方ないんじゃから。

 

 

 

 

 

 

 






三人称による補完は要りますか?

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