待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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笑顔と恋話。

 

 

 

 

 

 

「渡我先輩、ちょっと良い……?」

 

 常闇くんに連れ出された円花ちゃんを尾行していると、真剣な顔をしたお茶子ちゃんに話し掛けられました。トガとおじさんの尾行は完璧……でもなかったですけど、まさかお茶子ちゃんに見付かって話し掛けられるとは思ってませんでした。今は尾行に忙しいので断ろうかと思ったんですが、……その。つい、頷いちゃったのです。その理由は、単純明白で。

 

 ……正直。今の円花ちゃんを見るのは辛いです。ずっとしょんぼりしちゃって、全然笑ってくれなくて。しかも、私の事を見てくれなくって。何を言っても何をしても、笑ってくれないんです。もうずっと、何日も。

 それが堪らなく不愉快で、どうしようもなく嫌で。途中から、今日の尾行はするんじゃなかったって何度も後悔してました。

 

 今の円花ちゃんは、嫌いです。大っ嫌い。伴侶として、駄目駄目なのです。常闇くんに連れ回されて、みんなと合流して。私やおじさんに気付いてるくせに、隠れたら追っ掛けてくれなくって。不満です、不愉快です。

 

 だから、どうしても見たくなくって。つい、おじさんを置き去りにお茶子に付いて行っちゃいました。だから今は、ウーキーズに在るどこぞの喫茶店の中なのです。お茶子ちゃんと、二人っきりで。

 

 ……少し、間違えちゃった気もするの。だって、お茶子ちゃんの表情が固くって。これから真面目な話をされるんだなぁって気がして。正直、それも嫌で。今のトガに、余裕は無いのです。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 喫茶店に入って店員さんに席まで案内されて、それから二人でドリンクを注文して。あ、お茶子ちゃんはほうじ茶で私はコーヒーを頼みました。少しすると店員さんが持って来てくれて。その後は、ずっと無口です。……お互いに。

 お茶子ちゃんは話を切り出すタイミングを見計らっているようで、何か話したそうにしてますけどまだ喋りません。だからって、私から催促するのも違うかなって。

 だってきっと、勇気が要る話をしようとしてるんだと思います。まぁその内容は、想像出来るんですけど。お茶子ちゃんが話したいことなんて、二つか三つぐらいしかないのはお見通しなのです。お茶子ちゃんって割りとズバッと喋っちゃうところが有るんですけど、今回は結構躊躇ってますねぇ……。となると……、お茶子ちゃんが話したいことは……。

 

「え……っと。……渡我先輩」

「はぁい」

「……廻道さんと、何かあったの……?」

 

 あ、これはジャブですね。牽制です、牽制。本題に入る前の牽制で間違いないのです。

 

「んー……。ぶっちゃけ、円花ちゃんと揉めてます」

「えっ。……そうなんだ。珍しいね……?」

「色々有ったので。ただそれが、円花ちゃんにとって最悪過ぎたってだけの話なのです」

 

 トガ的には、やっぱり嬉しいことでしかないんですけど。でも円花ちゃんからしたら、この上なく最悪で。すっかりすれ違っちゃってるのです。今年は特に、すれ違う日々が多い気がします。雄英に入ってからの円花ちゃんは、余裕が無いのです。呪術科に入る直前ぐらいからは、特に。

 恋人や許嫁としては、それなりに前進してくれてますけど。ちゃんと愛を言葉にしてくれるようになりましたし、積極的になってもくれました。なのに今は、物凄く消極的で。去年よりも消極的になっちゃって。それも、すっごく不満です。……むーー……。

 

「だから、廻道さんも元気無いんだ……」

「そうなんですよぉ。しょんぼりしちゃって、くよくよしてばっかで。すっごく、弱ってるのです」

 

 どうにかしてあげたいんですけど、きっとどうにも出来ないんだと思います。だって、ヨリくんにとって譲れない部分ですから。誰よりも子供が傷付くことを恐れて、子供が不幸になることが堪えられなくって。そんな光景を見たくないから、人殺しになってでも子供を救けて……守って。時には失って、それでも諦めきれなくって。

 きっと、怖いんだと思います。子供に、何かが起こることが。まだ八年分しか見れてないですけど、あの時代のヨリくんに何が待ち受けているのか……何となくでしか想像出来ないんですけど。

 

「……力になるよ。ううん、ならせて欲しい。私に出来ることなら、何でも」

「……これ、夫婦の問題ですので。だからお茶子ちゃんには、きっと何も出来ないのです」

「でも、放っておけないんだ。どうしても、ほっとけないから」

 

 ……ん、んん……。まぁ……そう、ですよねぇ……。お茶子ちゃんは、と言うか……A組のみんなは、どうしようもなくお人好しなので。その点は円花ちゃんだってそうですけど。本人は自己満足とか私利私欲とか言いますけど、とっくに立派にヒーローなの。何だかんだで、大人だって助けようとしちゃいますしね。子供相手と比べたら、結構な塩対応ですけど。

 

「……余計なお世話なのは、分かってるけど。渡我先輩が望んでないのも、分かってるけど……」

「……」

「でも、私。渡我先輩が廻道さんの前だけでしか笑えへんのは、……やっぱり嫌や」

 

 ん、んん……。んんん……。やっぱり、この話になります……よねぇ……。だって、お茶子ちゃんは納得してなかったでしょうし。緑谷くんだって、あれで引き下がるとは思えないのです。取り敢えず私や円花ちゃんの意思を尊重して見守ってくれてる……とは思うんですけど。下手につつくと、円花ちゃんが激怒(げきおこ)なので。

 円花ちゃん、私の笑顔をとっても大事にしてくれてて。それと、実は物凄く独占したがってて。結構独占欲が強いんですよね、ヨリくん。私の事は「全部儂のじゃっ!」って絶対思ってます。それを分かってるからこそ、笑顔を隠してる部分もあったりします。きっと円花ちゃんや輪廻ちゃん、それとおじさん以外の誰にも受け入れて貰えないって諦めも有りますけど。

 

 ……とにかく。私は円花ちゃんや、輪廻ちゃん。あとおじさん。この三人の前以外では、笑いません。ほんとの笑顔は見せないって決めてます。好きな事だって、話しません。もう緑谷くんとかお茶子ちゃんとか常闇くんには、バレちゃってますけど。あ、それとオールマイトにも。

 

「……ごめん。それだけ、どうしても伝えたくって。いつもと二人が違ったから、気になっちゃって……」

「……どうして、トガが円花ちゃんの前でしか笑わないのが嫌なんですか?」

「……えっと、それは……」

 

 一応。一応なんですけど、聞いておこうかなって。聞いたところで、私のスタンスは変わりませんけど。私は、円花ちゃんの……廻道家の前でだけ笑います。小学生の頃にそう決めました。だって、受け入れてくれたんです。輪廻ちゃんもおじさんも否定することなく、特別な笑顔って言ってくれたの。

 ヨリくんなんて「うむ、良い笑顔じゃ。ひみこよ、その笑顔は今日から儂のものじゃ。儂の為だけに笑うと良い。儂の前だけで笑うが良い」って言ってくれたんですよ? まぁ今思えば、円花ちゃんは隠すべきだって思ってたんでしょうけど。でも、そんな私の笑顔を大好きなってくれたの。今では、とっても大切にしてくれるの。私が笑えば、一緒に笑ってくれて。優しく見守って、微笑んでくれて。

 

 あの日。私は救けて貰ったの。円花ちゃんが、救けてくれたの。だから、円花ちゃんの前でだけ笑いたいんです。

 

「……昔から、人の笑顔が好きなの。みんなが笑ってる姿が、大好きで。だから、渡我先輩が気になっちゃって」

「お人好しですねぇ……」

 

 気にすることなんて、何も無いのに。私を気にするより、もっと別の事を気にした方が良いに決まってます。ヒーローになることだけを考えてれば良いのに、それなのに余計な事を考えちゃって。

 ……でも、だからこそヒーローなのかなって思わなくもないです。何となく、ですけど。

 

「良いんですよぉ。気にしなくったって。私は円花ちゃんのお陰で、幸せなんです。円花ちゃんの前でしか笑えなくったって、なーんの不満も無いですから」

 

 ……まぁ、人目を気にせず笑えたらって思わなくもないですけど。何も気にせずに好きな事を好きって言えたらなって、思う時もありますけど。この世界は、どうしようもなく生きにくいのです。でも私には、円花ちゃんが居てくれるから大丈夫です。ヨリくんが居てくれるから、幸せに生きて行けます。

 

 今の円花ちゃんは、やっぱり大っ嫌いですけど!

 

「……私は大丈夫です。だからお茶子ちゃんは、別の誰かを救けてあげて。きっと何処かに、救けて欲しい人が居ますから」

 

 私は、円花ちゃんが救けてくれました。でも、私にとっての円花ちゃんと出会えなかった人はきっと……絶対、沢山居るの。そういう人こそ、救けてあげて欲しいのです。

 

 ……って。あぁ……。今、愛想笑いをしたのは駄目でしたねぇ。間違えました。これじゃ、お茶子ちゃんは余計に気にしちゃうのです。やり直しましょう。

 

「私は、大丈夫ですよぉ」

 

 ヨリくんと二人きりの時みたいに、笑ってみせます。あんまり円花ちゃん以外には、見せたくないんですけど。

 そしたら、お茶子ちゃんは私の笑顔見て……また息を呑みました。んん……、こっちの笑顔を見せるのも間違いでしたかねぇ……。

 

「……素敵なのになぁ……」

「……えっ?」

 

 えっ。

 

「……素敵だなって、思うんだ。渡我先輩の笑顔」

「……ん、ふふ……。私、カァイイ?」

「とっても。世界一」

 

 ……えへへぇ。なんだか嬉しいのです。そうやって言って貰えるのは。

 円花ちゃんより先にお茶子ちゃんに出会ってたら、うっかり惚れちゃってたかもしれません。

 

「んふふ。お茶子ちゃんの笑顔も素敵ですよぉ」

「そ、そうかな……」

「そうですよぉ。緑谷くんも、きっとそう思ってるのです!」

「ギョッ」

 

 ……もぅ。お茶子ちゃんは相変わらずなのです。恋バナしようとすると、固まって汗だくになって。ちょっと円花ちゃんに似てて、カァイイなって思います。円花ちゃんは円花ちゃんで、恋バナ苦手ですから。恋バナって言うか、ガールズトーク全般が苦手なんですよねぇ。

 

「もっと緑谷くんとデートしましょうよぉ。しまっちゃってると、もったいないですよ?」

「な、ななな何を言うてるん……!? デクくんとは、そ、そんなんやないから……!」

「もう一回ダブルデートしましょう!」

「ぅえぇっ!?」

 

 んふふ。余計なお世話には、余計なお世話で返すのです。今度、円花ちゃんにも手伝って貰いましょう! なんなら三奈ちゃんとか、透ちゃんにも!

 

 絶対、ぜーったいダブルデートして見せます……!

 

 ……その前に。今のヨリくんをどうにかしなきゃいけないんですけど。

 

 んん……。どうしたら良いのか、分からないのです……。もぅ、ヨリくんの馬鹿。円花ちゃんの馬鹿っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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