待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
鼠校長……ではなく、根津校長は世界的偉人らしいの。鼠が偉人とはこれ如何に。と、思わなくもない。
じゃけど後で根津校長の成し遂げた事を聞けば納得はした。そして世界的偉人が本気を出すと、とんでもない事が実現されてしまうのと理解させられた。
先日、偶然にも特級呪具を拾った儂はひとまずそれを持ち帰ろうとした。試し切りならぬ試し打ちをしたかったからの。しかしそれは叶わんかった。游雲は雄英に取り上げられてしもうたわ。
一応学校の敷地内に安置されていたからと言う理由で、所有権は雄英側にある。学校の備品を勝手に外に持ち出すのは云々。誰がこんなものを置いて居たのかは分からないが、どうたらこうたら。説明が長くて頭に入らんかった。腹も空いていたから途中からどうでも良くなって聞き流した。
……まぁ教師達からすれば、貴重な呪霊対策となる呪具じゃ。これを現代科学とやらで解析して、呪霊対策に役立てたいと言う気持ちが有るのは分かる。分かるが、呪霊が奪いに来たら一巻の終わりじゃぞ? その辺り分かっているのか?
と、思っていたら。呪霊対策として校舎に一晩泊まってくれと頼まれてしまった。游雲の解析中に呪霊が襲ってきた場合、対処出来るのは儂だけじゃからの。なので、この申し出を断る理由が無かった。折角見付けた特級呪具が紛失した、なんて事態は儂も避けたかったからのぅ。全面的に協力するしかあるまい。
その旨を母と父に連絡したら、猛反発されてしまったが。被身子なんて「私も泊まります!!」と相澤を始めとした教師達に猛然と迫り、何だかんだで許可をもぎ取って見せたわ。これについては放っておいた。被身子が言わぬなら、儂が言うつもりじゃったからな。
それと、夕飯は不満しか無かったぞ。弁当が支給されたんじゃが、美味くなかった。被身子は美味そうに食べて居たんじゃが、儂にとっては被身子の弁当の方が何倍も美味じゃ。らんちらっしゅの飯は微妙。儂、覚えた。
で、じゃ。根津校長がやらかしてくれたのは、翌朝。被身子と一晩校舎で過ごした儂は、校長室に呼び出された。勿論被身子も一緒に。
そして校長室で儂を待っていたのは、なんと数々の呪具じゃった。
数は決して多くないが、これには驚かされた。何でも、游雲を見て呪具の存在を知った根津校長が、現代に現存する曰く付きの古びた武具を片っ端から取り寄せたそうじゃ。一晩で? 正気か貴様?
それなりにお金がかかったと笑っておる。世界的偉人は凄いのぅ。
「どうだい? 使えそうな物はあるかな?」
「……幾つかは。殆どは年季が入りすぎて、壊れかけ……ふわぁ……」
うむ……、眠い。昨晩はろくに寝ておらん。被身子に膝を貸しながら見張りをしておったんじゃが、何事も無かった。寝れば良かったかの……。途中で母が顔を出してくれなければ、仮眠の一つも取れなかったじゃろうて……。
儂、この状態で授業を受けるのか?
それは中々辛いものがあるが……游雲の解析が終わるまでは、気を抜いて休むことも出来ぬ。そもそも被身子から離れたくない。悪党連合の狙いが儂なら、両親と被身子は儂の弱点にしかならぬからな。
母はまだ呪霊が見える分、父や被身子よりは大丈夫と思いたい。いや、思いたいだけじゃ。儂の体は一つしか無いからの。三人を同時に守ることは出来ん。
この辺りは、正直不安でしかない。ううむ……気にしすぎて精神を疲弊させるのは良くないのぅ。向こうの思う壺じゃなこれは。かと言って心配せずに居られる訳でもない。困った。
「使えそうなのは……んん……この辺り。この短刀二振りは両親にでも持たせてくれ……。悪党の狙いが儂である以上、家族には自衛の術を……」
いかん、眠い。眠いぞ。このまま寝たい。頭が回らぬ。
……使えそうな呪具は……何振りかの刀に、小さな棍棒。刃幅の広い脇差し……。この辺りか……。どれも低級な呪具じゃけど、無いよりは……全然……。
駄目じゃ。目蓋が重い。ここで寝てはならん。寝るのは、今日の授業が終わって、家に帰ってからじゃ。いや、游雲の解析が済むまで……むしろ呪霊対策が万全になるまで……。
ああ、もぅ。今すぐ寝たい。布団にくるまって動きとうない。でも、我慢しなけければ。我慢、我慢……。
「校長先生。もう寝かせちゃって良いですね? と言うかこのまま寝かせます。円花ちゃん、ずっと気を張ってましたし」
止めろ被身子。抱き寄せるな。頭を胸に押し付けるな。甘やかすな。そんな風に頭を撫でられたら、寝てしまうじゃろ……。今は落ち着かせようとしないでくれ……。むしろ起こしてくれぇ……。
……そうじゃ、体を動かそう。歩いていれば眠くならぬ。儂は、一晩歩き通せるんじゃ。なら動いてさえいれば……いれば……。眠気、など……。
「――だね、しばらく睡――」
「私、今日は休――。――で、――を……」
「――ったら、――こで私が――業を――」
……。…………すぴぃ。
◆
ん、んん……。違うんじゃ被身子……。じゃって、どおなつは、捻って縄にして持ち運べば……いざと言う時……。そう、そうじゃ……砂糖をまぶせば滑り止めに……。違う違う、そうじゃない。常闇、こやつに手本を……。おい舎弟、砂糖を爆破して綿飴にするな……。
……。…………。眩しい。
あ、被身子の顔があるのぅ。何をそんなに真剣な顔をして……。そうか、授業中か。相変わらず勉強はしっかりして、頑張っとるのぅ。
ふへへ、その顔も好きじゃぁ……。一番は笑顔じゃけど……。
……。…………。
……はっ!? 寝ておったか!?
「あ、起きました? もう少し寝てても良いのです。放課後になったら、また寝れませんし」
「……いや、起きる。手をどかさんか……」
いかん。完璧に寝ておった。眠気が完全に消え去る程、寝ておった。儂、何時間寝たんじゃ? 確実に六時間以上は寝ておるの……。
「んー……、駄目。まだおねんねしててください」
「大丈夫じゃ。もう十分寝た」
「駄目。あと一時間」
いや、もうそんなに寝れん。寝てられん。体を起こすから、その手をどけんか貴様。何で太ももに人の頭を押し付けるんじゃ。止めろ、よせ、頭を撫でるな。人前で甘やかすな。そこに根津校長が立ってるじゃろうが。
「……起きたようだね。今日の授業は公欠にしてあるし、もう少し休んでいれば良いのさ」
じゃから、そうは言われても寝れんのじゃ。しっかり寝た後なんじゃぞ儂は。もう起きる。多少強引にでも、起きる。よっこいせえっ!
よしっ。起きれたな! 被身子の膝枕から逃れるのは大変じゃった。程よく柔らかい枕は危険物じゃのぅ。とても離れ難い。それはもう、とてつもなく離れ難い。
そふぁで寝てしまった儂も儂じゃが、目の前の状況も中々おかしい事になっとるの。
低い机の上には教科書やらノートがところ狭しと散乱しておるし、積み重なった問題集の上には根津校長が立っておる。その背後には大きさが調整された、ほわいとぼおど。どうやらこの鼠先生は、ここで被身子に授業をしておったらしい。
ところで、今は何時じゃ? 周りを見渡しても、何故だか時計が無い。おかしいの、寝る前には壁に掛けてあった筈じゃが……。
「時計なら、君が寝てる間に撤去したよ。時間を気にしてたら休めないと思ったからね」
「……それは要らん気遣いじゃよ、校長。それより儂、どれだけ寝てた?」
「きっかり六時間。すっかり熟睡してたのさ」
「游雲は? と言うか、呪霊は来なかったのか?」
「来ていないよ。来てたら、とっくに起こしてるさ。君が熟睡出来たのが、平和の証拠」
まぁ、それもそうじゃな。気を付けねばならないのに寝惚けてしまったことは反省するとして、ひとまず何も無かった事を喜ぼう。
……完全な油断じゃな。不甲斐ない。しっかりしなくては。現状、呪霊と戦えるのは儂だけなんじゃから。
「廻道さん」
「何じゃ?」
改まった顔? をするな。貴様は校長、儂は生徒。歳の差が幾つあるかは知らんが、教える立場の者が子供の前で目を伏せるでない。
「現状、呪霊に対抗出来るのは君だけ。これに甘んじて君に負担を掛けることを、申し訳なく思う」
「……止めい。謝られたくて呪霊を祓ってるわけじゃない」
「教師の立場にある者が、生徒に危険を強いるなどあってはならない。だけど現状、君に頼るしか手段が無いのさ。
……どうか、力を貸して欲しい。当然我々は、最大限のバックアップをする。させて欲しい」
……だから、頭を下げるな。面倒この上無い。儂が呪術師である以上、呪霊は無視出来ぬ。まして学校では、子供達に危険が及ぶ。じゃから誰に頼まれずとも、勝手にやる。儂自身がそうしたいから、呪霊を祓う。
儂が儂の為にやってる事に、謝罪も礼も要らぬ。黙っててくれた方が、よっぽど気分が良い。
それに、被身子の前でそんな話をするな。こやつが拗ねたらどうするんじゃ。
「止せ。儂がやりたくてやってるだけじゃ。分かったら二度と頼むな。頭を下げるな。貴様はここの主じゃろう?」
「
「……相分かった。ただなぁ根津校長、被身子を説得するのは……骨が折れるぞ?」
現に今も、思いっきり貴様を睨んでおるからの。どうするんじゃこれ。儂は知らんぞ? どうなっても、儂は知らんからな?
被身子は怒ると大変なんじゃぞ? 大変なんじゃからな??
游雲ついでに、低級呪具の山も一晩で根津校長に用意してもらいました。そして改めて円花に協力要請。まぁこれでも円花にかかる負担は全く減っていませんけどね。あと一つやんなきゃならない話を書いたら、やっと体育祭に入れそうです。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ