待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
……くそ。くそ、くそっ! 不覚じゃ、不覚……!! まさか呪霊の腹の中に入る羽目になるとは……っ!! 儂だけなら、まだ良い。じゃけど、まさか子供達まで全員食われることになるとは……っっ。
何を、何をしとるんじゃ儂は……っ! 情けない、不甲斐ない……!!
「どうどう、落ち着いて落ち着いて。そんなカッカしても、解決しませんよぉ」
儂に抱き付いたままの被身子が呑気にしているが、大人しくなどして居られん。とにかく、全員連れて今直ぐにでも脱出しなければ。呪霊の腹の中に入るのは別に初めてでは無いんじゃけども、じゃからって焦らずに居るのは無理じゃ。
呪霊の腹の内に居ると言うことは、つまり呪いの中に居ると同義じゃ。儂は別に良い。呪術師や呪詛師は呪いに耐性が有る。しかし非術師は話が別じゃ。呪霊の腹なんぞに居たら、呪力に当てられて無事では済まない。
「びっっ、くりした〜〜っ! まさかみんなして食べられちゃうなんてっ!?」
「こうなったら、脱出するしか無いよね」
「でも、どうやって?」
「……まずは、居なくなった血汐くんの保護が優先よ。私達と同じように食べられたなら、急いだ方が良いかも」
「呑気している場合か、たわけっ。急ぐぞ!」
儂と被身子を除く全員が呪力に当てられてしまう前に、ここから脱出しなければ。腹の内に居るんじゃから、中から突き破るのも手の一つじゃ。わざわざ中を探索しなくとも、祓ってしまえば全員外に出られる……筈じゃ。まずは、先に喰われた子供の保護からじゃ。時間はそうない筈じゃから、急いで見付ける。その後で、中から呪霊を祓ってしまおう。いやいっそ、先に祓ってしまえば……!
「ま、待ってくれ……! ここは、いったい何なんだ……!?
「いえ、違います。まずは、落ち着いてください。パニックになっては……」
「落ち着いて居られるか……!! 何なんだよここは!!」
「血汐くんは俺達で必ず救けます。もちろん、貴方も。此処が何なのか、その説明は……今は出来ませんが」
「出来ない!? 何で!!?」
……ちっ。面倒な事じゃ。大の大人が混乱しおって。非術師である以上仕方ないとは言えるが、状況を知ろうとする前にまず我が子の心配をして欲しいものじゃ。親ならば、子の心配が先じゃろうて。
このまま混乱されていては、面倒じゃ。ただでさえ時間が無いんじゃから、大人を諭している場合ではない。常闇が説得しようとしているが、時間が掛かってしまうじゃろう。騒ぐ大人を連れて歩きたいとは思わぬが、今はとにかく急がなければ……!
「どぅどぅ、お父さんも落ち着いてください。ここは呪霊のお腹の中なのです」
「呪霊……!?」
「……おい、被身子」
こうなった以上仕方ないとは言え、すんなり説明しようとするんじゃない。一応、呪術界の事については秘匿義務が有るんじゃが? この秘匿は、非術師が呪霊への恐れを発しない為に必要なことなんじゃぞ。下手に公開してしまうと、呪霊への負の感情が流出して……。
「まぁ簡単に言うと、お化けとか悪霊ですね。それに私達は食べられました。でも大丈夫なのです、ここに居る円花ちゃんがしっかり対処出来ますから! ねっ!」
ねっ。では無い。……まったく、易々と話してしまいおって。呪術界の事を公に出来ない以上、後でこの大人の口を閉ざさねばならんのじゃぞ? まぁその辺りの些事は総監部の方が何とかするんじゃろうけども、人の口はそう固くない。こんな真似を今後も続ければ、いずれ何処かで広まってしまうじゃろうに。
「……彼女の言う通りです。ここに居るブラッディが、呪霊を退治できます。血汐くんも貴方も、必ず救けます」
「……っ、何が何だか分からないけど、だったら早く救けてくれ……!」
「ですから、落ち着いてください。パニックになられては動き辛い。こう言う時こそ冷静に。俺達と血汐くんを救けましょう、お父さん」
「……ぁ、ああ……。分かっ、分かった……」
……どうやら。ひとまず落ち着いたらしいの。まだ困惑しているようじゃが、混乱して妙な行動を起こさなくなっただけ良しとするか。殴り飛ばして気絶でもさせた方が早かったとは思うが。
「……ブラッディ、多分この先に居るよ。多分20メートルぐらい先」
壁。と言うか、呪霊の肉に耳朶を突き刺した耳郎がそう言った。先んじて周囲の音を聞いていたようじゃ。この先に子供が居るのなら、直ぐにでも救出せねば。
「血汐くんの保護を急ぎましょう。ブラッディ、脱出する方法は有るかしら?」
「……見付け次第、内側から祓う。それで脱出出来る筈じゃ」
「それと、急いだ方が良いですね。私と円花ちゃんは平気ですけど、ここに長く居るのは良くないので!」
「……急ごう。ダークシャドウ、先導してくれ」
「バッチリ付イテ来イ!」
子供達を連れて呪霊の腹の内を探るのは気乗りしないが、そうも言ってられん。此処に長く留まる方が危険じゃ。出来る限り迅速に行動し、さっさと脱出しよう。儂と被身子以外が、呪力に当てられてしまう前に。
◆
呪霊の腹の中を歩き回るのは、良い気分とは言えぬ。何せ呪霊の腹の中は、呪力で満ちている。儂と被身子は呪力を持つが故に耐性を持っているが、非術師である子供達や大人は違う。急がねば、いずれ呪力に当てられて体に障る。不幸中の幸いとでも言うべきか、呪霊の腹の中は呪力が満ちているが故に少しだけ明るい。呪力による淡い光じゃが、真っ暗闇よりは良いじゃろう。
胃袋とでも言うべきか、それとも食道とでも言うべきか。肉の通路を歩き続けて、既に十分程。儂等よりも先に喰われてしまった子供の姿は、まだ見えない。早く見付けて此処から脱出したい所なんじゃが、どうにも見付からない。急がなければと、気が急いてしまう。
「……もうとっくに20メートルぐらいは歩いてるよね……?」
「血汐くんはもっと奥に進んじゃった、ってこと……?」
……確かに。葉隠や芦戸の言う通り、もう二十
なのに、居る筈の子供と出会うことが無い。それは妙じゃ。急がねばならんと言うのに、何か……妙な仕組みが有ると見た方が良いようじゃ。
「いや、待って……。音は……まだ20メートルぐらい先。でもこっちに向かって歩いて来てるよ、間違いない」
「血汐ーー!! 居るのかーー!?」
耳郎の言葉を聞いた父親が、ここ肉の通路の先に居るであろう我が子に向かって叫んだ。が、返答は無い。お陰で気付けたが、そもそも音の通りが妙じゃ。父親の発した声が、大分後ろから聞こえてくる。となると……。
「……何か、変だね?」
「うん。後ろから声が聞こえてきた」
「……今のは後ろから聞こえて来てるよ、間違いない」
「いったいどういう事かしら……?」
「ブラッディ、何か分かる?」
……流石に気付くか。まぁこのくらいは気付いて貰わねば、何と言うか困る。こんな程度の事にも気付けないような柔な鍛錬を、こやつ等がしている筈は無いしの。
今の儂等がどういう状況に居るかは、仮説が幾つか立てられる。それに伴い、解決策も思い浮かばんでも無い。が、しかしなぁ……。それを口にするのは、憚られる。それ以外に道が無いのなら伝えるが、最悪今この場で呪霊を祓う選択肢も有るわけじゃし。うぅむ……。
「……えーっと。ある種の結界? になってると思います。多分前後の空間が繋がってて、私達は前に進んでるようで進んでない……ってところですかねぇ……」
「……おい」
「躊躇うのは分かりますけど、黙ってちゃ駄目ですよ? 早く脱出しなきゃいけないなら、尚更なのです」
……それは、そうなんじゃけども。被身子の言うことは間違ってはいないんじゃけども。
被身子の言う通り、恐らく空間の前後が繋がっている筈じゃ。ここは呪霊の腹の内じゃから、ある種の生得領域と言える。言ってしまえば、展開された領域の中に居るのと同義じゃ。つまり、ここは結界の内でも有る。
気になる点は、この結界の構造がどうなっているかじゃ。儂等の動きに合わせて空間を継ぎ接ぎにしているのか、或いは空間そのものが円形に繋がっているのか。何処かに印でも付けていれば断定出来たんじゃが、しとらんしなぁ。
「それって、ずっと同じ所をぐるぐる回ってるってことだよね?」
「お茶子ちゃんの言う通りだと思います。こうなってくると結界の中和が手っ取り早いと思うんですけど、でも……んん……」
「中和は難しいのぅ」
「そうなんですよねぇ。領域展開にしろ彌虚葛籠にしろ、中和出来る範囲は限られてますし……」
その通りじゃ。この結界を中和をする為の手段を儂は二つ持っているが、問題が有る。中和出来る範囲が、そう広くないってところじゃ。領域展開にしろ彌虚葛籠にしろ、この結界全てを覆い尽くせるような範囲は持ち合わせていない。領域の要項を変更すれば或いは可能かもしれんが、生憎と儂は結界術にそこまで優れとらん。何せ、儂に結界術の才能は無いからの。領域も彌虚葛籠も、会得するのにかなりの年数が必要じゃったから。何なら帳を降ろすことすら、手こずってたぐらいじゃし。
「……あー……、ちょっと待って渡我先輩。何か……詳し過ぎない……?」
「ピンキー。気にしてる場合では……」
「いやでも、ツクヨミだってそう思うでしょ?」
「いや、それは……」
「もしかして、ブラッディに色々教えて貰ってたり……!?」
「まぁぶっちゃけ、トガは円花ちゃんの記憶を追体験してる最中なので。基礎的な部分については色々知ってますよぉ」
「記憶を……」
「追体験……?」
「……その話は、今は良いじゃろ。それより、今どうするかをじゃな……」
話が脱線しそうになっている。被身子の言っていることについては、後で説明せざるをえんか……。常闇は、今の被身子の状況を知ってるんじゃけどな。どうやら誰にも話していないようじゃ。まぁこれについては、率先して人に話すことでも無いんじゃけども……。
とにかく、話を戻そう。恐らくは空間の前後が繋がっているこの結界。これを中和するなり、何なりしなければ。でないと、永遠に歩く羽目になってしまう。時間が無い今、それは望むところではない。
「気になるのは、呪霊が結界をツギハギに繋げてるのか、ループなのかってところなのです。前者なら別方向に全速力で走ればワンチャン、後者ならお手上げです。
まぁ空間を繋げる程の結界なら、何処かにタネとか綻びになる部分が有る筈なんですけど……」
「なら、やる事は一つだ。二手に別れて、前後に走ろう」
ん、んん……。それは、そうなんじゃけども。結界が継ぎ接ぎなのか、円形なのか。それを知る為に二手に別れて行動するのは……間違いじゃない。むしろ現状、それしか無いような気さえする。でも、じゃけど。それはつまり……。
「じゃあトガ班と円花ちゃん班の二つに別れましょう。それなら、何か有っても対処出来ると思うので!」
つまり、こういう事で。
「……やじゃ。断る」
分かってはいる。被身子の言った通りにすることが、解決に向かう手段なのは理解しとる。被身子には呪力が有る上に儂の記憶を追体験しとるから、何か有っても多少は大丈夫なんじゃろう。言ってしまえば、呪術師としてまったくの素人では無い。じゃけど、じゃからって許容は出来ん。呪力が有るから、儂の記憶を通して経験を積んでいるから、……そんな理由で目を離したくない。これ以上被身子に何か有ったら、儂はもう堪えられん。ただでさえ、皆に色々と説明しとる被身子を見るのが嫌なのに。
「絶対に、駄目じゃ」
「大丈夫ですよぉ。このくらいなら平気です」
「絶対、駄目じゃっ」
「でも」
「駄目じゃ!! そんな軽々しく決めるな!!」
駄目じゃ。駄目なんじゃっ。駄目に決まってる……!! 呪力を扱えようが、儂の記憶を見ていようが、今この状況で儂無しで動くのは絶対に駄目なんじゃ! もしそんな真似を許して、これ以上被身子に何か有ったら……っ。被身子以外の誰かにも、危害が加わってしまったら……っ。呪われて、しまったら……っ!
「……軽々しくなんて、決めてないのです。これは、ちゃんと考えた結果です」
「考えとらんじゃろ!? お主は何も分かってないっ!! そんな、自分から傷付きに行くような真似をするなっ!!
儂が何とかするからっ、儂だけでどうにかするからお主は何もするな!!」
頼むから。お願いだから。何もしないでくれ……っ。今はただ、儂に守られていてくれ……!
「……そうやって……、そうやって……! 何で独りで立ち向かっちゃうんですか!! こんな時ぐらい、頼ってくれたって良いじゃないですかっ!!」
「頼る理由が無いじゃろうが! 危険なんじゃぞ!? これ以上お主に何か有ったら、儂はもう……っ!!」
「危ないのは分かってます! ヨリくんが怖がってるのも、知ってるの! でもそうやって、いつまで独りで戦うつもりなんですか!? いつまで、独りぼっちで……っ!!」
「儂は、独りで良いんじゃっ! 独りが良い!! 何で分からない!? 何でどいつもこいつもっ、……お主まで……っ!!」
危険じゃから、危ないから。怖いから、恐ろしいから。子供達が何かに傷付けられることが嫌じゃから。
じゃから、じゃから独りで呪霊と向き合うんじゃ。儂だけしか、呪霊から子供を守れないじゃから。儂だけが、唯一の呪術師じゃったんじゃから。
なのに、どうして。どうして誰も、儂を独りにさせてくれない? 儂の隣に立って、儂と共に戦おうとするのか。それを許した儂が、どれだけの命を失ったと思ってるんじゃっ。
もう失いたくない。もう、誰も傷付いて欲しくない。そう思って独りで戦うことの、何が悪いんじゃ……っ!
「分かってます! 分かってるの! 怖いのも、嫌なのも! 全部分かってます!!」
「っ、じゃったら……、じゃったら何も……!」
「でもじゃあ! そうやって独りで居るヨリくんを、誰が守ってくれるんですか!? ヨリくんが苦しくて辛い時に、誰がヨリくんを救けるんですか!?」
「救けなんて要らん! 守って欲しくも無い! 儂は―――!!」
「ちょっ、ちょっ! 待った待った! 喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」
「落ち着いてくれ頼皆、渡我先輩も。今は血汐くんの救助を優先しよう」
……っ、……っっ。……あぁ、ああそうじゃ。落ち着け、落ち着け……っ。被身子と言い合っている場合では無い。子供が呪霊に喰われてしまったんじゃ。時間じゃってそう残されてない。
何か、何か有る筈じゃ。この場を乗り切る方法が。それを見付けて、子供達を……救けて守るんじゃ。
時間は、そう残されていない。急がなければ……っ!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ