待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

452 / 553
円花の停滞。模索

 

 

 

 

 

 

 ……とにかく。とにかく、じゃ。

 

 どうにかして、現状を打破する手段を見付けなければならん。長く呪霊の腹の中に留まっている訳にもいかんから、急がなければの。

 不満と怒りを露わにしている被身子は、今は放って置く。意見の相違じゃ。こればっかりは、どうしても譲れん。被身子なら、被身子だけは分かってくれていると思っていたのに。何じゃって、今になって反発して来たのか。お陰で顔も合わせたくない。子供達に要らん気苦労も掛けてしまったことは、申し訳ないと思っとる。

 

 ……。……まずは、現状の整理からじゃ。儂等を飲み込んだ呪霊の体内は、ある種の結界となっていると断定して良い。前後の空間が繋がっていて、そのせいでどれだけ歩こうと儂等は前に進めない。これをどうにかするには、結界を中和するなり破るなりしなければならん。……が、しかし。

 

 結界の中和は、現実的じゃない。これは儂の結界術の手腕が、そう優れていないからじゃ。領域も彌虚葛籠も、広範囲に展開することは出来ん。そうなってくると、やはり手っ取り早いのは結界の破壊じゃ。それならば、そう難しくはないじゃろう。呪力をぶつけるだけでは手こずるじゃろうから、破るとするなら領域展開が頼りじゃ。一部を儂の領域で中和しつつ、術式で破壊する。不可能では無い筈じゃ。最終手段、じゃけどな。

 と、言うのも。この結界を破り呪霊を祓った時、喰われた儂等が何処に転送されるか分からんからじゃ。地面付近ならば良いが、もし呪霊が高所に居た場合を考えると……。うむ、やはり先に行方知れずとなった子供の保護が要じゃ。儂の近くに居てくれれば、着地の心配は要らない。逆に遠く離れていたり側に居なかったりすると着地が危険じゃ。呪霊から助け出したのに、落下死させてしまっては何の意味も無いからの。

 

 ……まずは、子供の保護からじゃ。その為には、どうにかして結界を打ち破らなければな。取り敢えず……。

 

「どっ、こいせぇ!!」

 

 呪力を漲らせ、全力で直ぐ側の肉壁を殴ってみる。

 

「ちょっ、ブラッディ!?」

「何しとるん……!?」

 

 芦戸と麗日が声を上げたが、無視じゃ無視。殴り付けて見たものの、得られた結果は良いものではない。やはり単純に呪力をぶつけるだけでは、破壊出来ぬか。拳に返って来た感触は、肉と言うよりは何か柔らかものに触れた感触じゃった。つまり、肉の手前に結界が張ってある。どうにかしてこれを破りたいんじゃが、どうしたものか……。単純な呪力では駄目じゃけど、術式はどうじゃろうか?

 

 両手を叩き合わせる。

 

「待て、頼皆っ!」

 

 常闇が止めに入ったが、待たん。

 

「穿血」

 

 穿血を放ってみる。儂の血は結界に勢い良くぶつかり、確かに結界そのものを貫い―――。

 

「んぎ……っ!?」

「ブラッディ!?」

 

 たと思ったんじゃが、違った。結界に向けて放った穿血は、どういう訳か儂の背中を貫いた。……なるほどのぅ。どのように空間を繋ぐかは、呪霊側の勝手か。穿血の速度に合わせて空間を繋いだとしたなら、相当の実力じゃな。それとも、余程この結界が特殊なものなのか。ひとつ気になるから、もう一度殴ってみる。すると。

 

「おぐっ」

 

 今度は儂の拳が、儂の背を殴った。まさか、自分で自分を本気で殴る羽目になるとは……っ。反転術式(はんてん)が有るから別に平気じゃけども、痛いものは痛い。痛みには慣れとるけど。

 

「ちょっ、だから何して……! 平気!?」

「ブラッディ、何かするなら一声欲しいわ。大丈夫?」

 

 反転術式(はんてん)を回していると、今度は耳郎と梅雨に駆け寄られた。取り敢えず、この結界については少し分かった。儂の行動を見ていたなら分かるとは思うが、ちゃんと説明してやるべきじゃろう。……あまり気乗りはしないんじゃけども。こんな形で、対呪霊やら対結界について話すことになろうとは。

 

「……今試した感じ、儂の攻撃は肉まで届いとらん。肉の前に、見えない膜が有る感じじゃの」

「……なるほど? つまりつまり?」

「この膜が空間を繋いどる。前に進むものは、後ろから来る」

「じゃあ本当に、空間が繋がってるの? そ、それってどうすれば……!?」

 

 ……いちいち反応が大袈裟じゃなぁ、葉隠は。落ち着きが無い奴め。と、それより……。

 

「やはりこの結界は前後を繋げとるわけなんじゃが、逆に後ろに向かったらどうなると思う?」

「今度は前に行くんじゃないのか?」

「つまり……前に行っても後ろに行っても進めない、……ってこと?」

「恐らくな。そして恐らく、空間は常に繋がってるわけじゃない。繋げる繋げないは、呪霊次第と見た」

 

 仮に常に空間が繋げられているのなら、最初の一撃が儂に向かって来た筈じゃ。一撃目で儂の行動を察知し、二撃目以降は儂の前後に空間を繋げた。それならば、穿血や拳が儂に当たったのも分かる。

 そして呪霊は恐らく、結界内の状況全てを把握しきってるわけでない。ついでに言えば、繋げられるのは空間の前後だけなのか気になる。もしかすると、あらゆる方向に繋げられるのかもしれんな。……と、なると……。……うぅむ……。

 

 恐らく、じゃけども。儂等が前後に向かって唐突に走れば、対応しきれない筈じゃ。二手に別れて動けば、どちらかが奥に進めてどちらかは取り残される筈……じゃ。しかしそれは、皆を危険に晒すと言うこと。それは駄目じゃ。それだけは避けねばならん。これ以上悩むのも、駄目じゃ。時間が無い。

 

「ならさ、やっぱり渡我先輩の言った通り二手に別れて……」

「駄目じゃ。それは危険過ぎる」

 

 被身子が出した案に乗ることは出来ない。儂は絶対に乗らん。じゃからどうにかして、他の方法を見付けなければ。……そうじゃ、個性はどうじゃろうか? 儂の個性で、結界を捻ってしまうのは? 呪力強化した個性ならば、捩じ切れるかも。……じゃけど、危険が伴うかもしれん。んんむ……、それはそれで駄目じゃなぁ……。

 

「……頼皆。自分の身は自分で守れる」

「相手は呪霊じゃ。守れんじゃろ」

 

 相手が呪霊でなければ、……最悪、今の常闇の言葉に頷くことは出来た。こやつ等は知らない。呪霊との戦いを。悪党と戦うのとは、まったく別の戦いなんじゃ。それ故に、儂が守るしかない。儂が救けるしかない。儂が、儂が何とかしなければ……っ。

 

「ブラッディ、信じて」

「大丈夫。守られなきゃいけない程、ウチ等は弱くないから」

「強い弱いの問題ではない」

 

 どうしても、嫌なんじゃ。子供が呪われることが。子供が傷つけられることが。儂に大丈夫と言った子供が、何人も死んでいった。また同じ光景を繰り返すのは、もう……堪えられない。じゃからこそ儂が。儂が……っ!

 

「……信じてくれ。俺は……俺達は、廻道を目指してやって来た。廻道の隣に立ちたくて、追い付きたくて……訓練して来た。

 俺は、廻道を独りにさせたくない。隣に居たいんだ」

「……止してくれ……」

「廻道」

「止せ!!」

 

 何で、どうしてじゃ……っ。どうして、どうして儂を独りにさせないんじゃ! 儂独りでどうにか出来るのにっ、独りで戦えるのに!!

 

 そうしたら、誰も傷付かないで済むのに!!

 

 なのに、何でじゃ。何で、どいつもこいつも儂から離れようとしない!? 儂と共に戦おうとする……っ!? それが間違いじゃって、何で気付かない!!

 

「……一緒に、戦いましょう? (ヴィラン)も呪霊も、一緒によ。だって円花ちゃんは、大事なお友達だもの」

「友達が独りで戦ってたら、やっぱり辛いから。一緒に居ようよ、廻道」

 

 あぁ、もう……っ。どいつも、こいつも……! どうして英雄(ひいろお)は、こうなんじゃっ。貴様等は、これまでたった独りに押し付けて来たじゃろうが。おおるまいと一人に、頼って来たじゃろうが……っ。じゃっなら、それと同じように儂を扱えば良い! そうしてくれた方がずっと楽なんじゃ!

 

 いい加減、分かってくれ! 儂の隣で戦うことが、無謀なんじゃってことをっ。呪霊との戦いを知らんくせに、こちら側に踏み込もうとするな!!

 

「……もう、良いじゃないですか。こんな時ぐらい誰かを頼ったって、誰かと一緒に呪術師をしたって」

「……るさぃ……」

 

 うるさい、うるさいっ。その果てに何が待ってるかを知らないくせに。誰かを頼ったその先で、何人死んだかも分からんくせに!

 

「……円花ちゃんのバカ。分からず屋。今の円花ちゃんは、大嫌いです」

 

 何とでも言えば良い。嫌いたければ嫌えば良いじゃろっ。儂は譲らん。これだけは、絶対に譲ってなるものかっ。……ふんっ。

 

 ……もう良い。もう良いじゃろ。このまま子供達と言い争ってる場合じゃない。子供の救出と全員での脱出を優先しなければならないんじゃから。こうなったら……。

 

 結界に触れる。中和は出来ん。破壊も……呪霊の意識が儂に向いている限りは、難しいじゃろう。しかし今、何の警戒もしとらんようじゃ。ただ触れるだけならば、警戒は無いってことみたいじゃな。お陰で、ひとつ試せる。

 

 破壊も中和も出来ないのなら、この結界を無理矢理一箇所に収束させてしまうのはどうじゃ?

 

 個性に呪力を流し込み、個性を使って結界を―――。

 

「……は?」

 

 破ろうとした、その時。膜のような結界が形を変え、儂を飲み込み始めた。

 

「っ、円花ちゃん!?」

「頼皆!!」

「円花ァ!!」

 

 被身子が常闇が、だぁくしゃどうが手を伸ばして来た。が、これは間に合わんの。巻き込むわけにはいかん。じゃから。

 

 伸ばされた手を、纏めて血で払う。救けは要らん。

 

 

「平気じゃ。待ってろ」

 

 

 何処に空間が繋がっていようが、関係無い。儂だけを連れ去ってくれるのなら、むしろ好都合じゃ。今は……今は独りが良い。さっさと呪霊を祓って、それで終いじゃ。

 次の瞬間。儂は結界に飲み込まれた。一瞬視界が歪み、全身が奇妙な感覚で覆われた。そして。

 

「……ちっ。器用な真似を」

 

 儂は、宙に居た。より正確に言うのなら、呪霊の体内の外じゃ。真正面には、儂等を飲み込んだ呪霊の面が有る。……無駄に巨大じゃ。芋虫のような体のくせに、やたらと巨大な牙ばかり持ちおって。何処に目と鼻が有るんじゃこやつは。

 ……まぁ良い。さっさと祓ってくれる……! 図体が厖大(ぼうだい)じゃからって、儂に勝てると思うなよっ!

 

 まずはその牙、残らず叩き壊してくれるわ!!

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。