待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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※呪術本誌のネタバレがあります。


円花の停滞。兆し、そのいち

 

 

 

 

 

 

 

 ちっ。よく暴れる呪霊じゃ。厖大(ぼうだい)なのは図体だけではなく、呪力もじゃ。この牙を持った芋虫のような呪霊は、その図体に見合わず動きが素早い。儂に向かって飛び掛かる速度は、それなりじゃ。避けれん程でないが、受け止めるのは難しいじゃろう。何せ儂の体は、小さく軽いからのぅ。じゃから、呪霊の体当たりは大きく避けるしかない。

 その結果として、周囲の建物が幾つも壊された。それが面倒この上ない。ここは商業施設の一角じゃ。当然、被身子が降ろした帳の内には儂以外にも人が居る。大人が巻き込まれるのはどうでも良いが、子供が巻き込まれているのは最悪じゃ。視界に映る子供は全て、血を飛ばして無理矢理にでも移動させた。中には怪我をした子供も居た。骨が折れ、出血している子供居た。

 

「何だあれっ! 何なんだよ!?」

「ば、化け物……!!」

「痛い、痛い……っ! 誰か助けて……っ!!」

「ヒーローは何してんだよ!? 何で誰も来ないんだ……っ!!」

 

 周囲が騒然としている。最悪じゃ。選択を誤った。呪霊の外に放り出された時点で、直ぐ様領域を展開するべきじゃった……! 問答無用で、祓うべきじゃったっ。くそ、くそっ。何を、しとるんじゃ儂は……!!

 

 今からでも、遅くはない。これ以上被害が広がってしまう前に、あの呪霊を領域に閉じ込める。そうすれば、周囲を巻き込まずに祓うことが出来る。じゃけど。

 

 ひとつ、懸念点が有る。あの呪霊の内に、子供達がいる。被身子が居る。穿血で貫いてしまえば、食われた子供達ごと貫く羽目になってしまうかもしれん……っ!

 

「ち……っ!」

 

 考えている暇は無い。呪霊が再び、飛び掛かってきた。避ければまた被害が広がる。それは防がねばならん。

 

「領域展開」

 

 今回は、領域を閉じる。でなければ、暴れ狂うこの呪霊が余計に被害を増やすだけじゃ。

 

 

「奉迎赭不浄」

 

 

 創り上げるのは、儂の世界。儂の心の内。故に、もうこの呪霊に出来ることは無い。一方的に蹂躙して、終わりじゃ。

 こうなってしまったことを、つまらんと思う。この呪霊は、或いはそれなりに楽しめる相手じゃったかもしれんのに。

 

 ……ここ最近、楽しめていない気がするの。猛者と言える者と出会わなかったわけじゃない。楽しめた呪い合いは、幾度か有った。……ただ。

 

 ただ、何も考えずに呪い合える機会が減ったと思う。それが不快じゃ。不愉快じゃ。

 

「……憂さ晴らしに付き合って貰うぞ。呪霊」

 

 穿血は、使わないでおいてやる。中に居る子供達を、被身子を巻き込むわけにはいかん。今更な気遣いとも言えるが、じゃからって儂の手で傷付けて良いわけじゃない。故に必中対象を、この呪霊のみに絞る。

 領域を使ってまで、何で誰かを気遣わなければならんのかとも……思ってしまうが。

 

 まずは、苅祓を飛ばす。呪霊は結界を張ったようじゃが、無意味じゃ。領域に付与された術式は、彌虚葛籠でも使わん限りは必中じゃからの。

 呪霊の肉も牙も、容赦無く切り刻む。じゃが、決して肉の奥深くまでは儂の血が届かんように注意する。一息に祓ってしまいたいが、如何に巨大な図体とは言え……中の子供達が巻き込まれるかもしれんしの。こんな手加減に意識を割かねばならんことが、今は不愉快で堪らない。

 

 二度、三度。四度、五度と切り刻む。途中で余りに暴れるものじゃから、赤縛で縛った。それでも空間を繋げる結界を駆使し拘束から逃げ出そうとするものじゃから、もう一度苅祓を飛ばした。時には圧縮した血を炸裂させ、頭を血の海に叩き付けた。

 

 ……それでも、尚。この呪霊は息をしている。図体に見合っただけの生命力は有るようじゃの。面倒なことじゃ。ただただ、手間なだけじゃ。時間はそう無い。呪霊の腹の中に居る子供達が呪力に当てられてしまうのではないかと、心配じゃ。じゃからって、このまま様子見を続ける訳にもいかん。

 

 狙うは、頭。折れた牙だらけの面のみに、狙いを絞る。頭の位置ならば、喰われたままの子供達を巻き込むことは無いじゃろう。

 

「いい加減、くたばれ」

 

 頭のみに狙いを絞り、穿血を放とうとしたその時。再び呪霊が暴れ始めた。狂ったように頭を振るい、悶えている。足元の血が飛沫となって飛散する中、ふと気付く。呪霊の内側で、被身子の呪力が迸った。お陰で、何処を狙ってはいかんのか知ることが出来た。

 

 その時。

 

「……は?」

「え……っ」

 

 不可思議な事が起きた。見えぬ筈の被身子の姿が見える。それは被身子も同じようで、二人して目を丸くする羽目になった。……何じゃこれ、どういうことじゃ? こんな現象は、初めてじゃ。いったい、何がどうなって……。

 

「血汐くんは保護しました! 祓っちゃってくださいっ!」

「っ、相分かった……!」

 

 何が何だか分からぬが、被身子達は呪霊に喰われた子供を見付け出したようじゃ。ならばもう、何も考えなくて良い。後はこやつを、祓うだけじゃ……!

 穿血を、幾度も放つ。頭にも、体にも。被身子の呪力が迸った辺りには、決して当てぬように。

 頭を潰した。体を貫いた。儂の血を混入させた。これで、詰みじゃ。

 

 呪霊の内側から、全ての臓物を引き出す。厖大な図体はその全てが肉片となり、あちらこちらへと飛び散って行く。やがて、呪霊じゃった肉片が煙となって消えて行く。同時に、子供達と被身子の姿が見えた。……これで終い、と見て良いじゃろう。色々と最低じゃったが、ひとまず呪霊は祓えた。決して少なくはない数の一般人を巻き込んだことと、直ぐにでも呪霊を祓わなかったこと。被身子や子供達を巻き込んでしまったこと。

 

 ……後悔ばかりじゃ。どうして、儂はこうなんじゃ。何で直ぐに動かなかった? 何で、直ぐにでも呪霊を祓わなかった? 儂なら、出来た筈じゃ。誰一人傷付けること無く、巻き込むことなく、祓えたじゃろうが……っ。

 

 情けない、不甲斐ない……っ。呪術師の恥さらしめ……! とうに呪詛師の身じゃとしても、やりようは幾らでも有ったじゃろうが……!!

 

 ふぅ。ふぅぅうぅぅ。落ち着け、落ち着け……。まず真っ先に、やるべき事が有るじゃろうが。後悔も反省も、その後じゃ。今は、子供達と被身子の無事を確認する方が先なんじゃ。それから、巻き込まれた者達を救助しなければならん。怪我人は大勢居るんじゃから、そちらも優先しなければ。

 

「うっひゃあ!? 血の海……!? えっ、これってブラッディの血……!?」

「うっわ。大惨事じゃんこれ……」

「げほっ、げほっ! 煙たぁ……っ」

 

 呪霊の消失反応の中から直ぐに姿を現したのは、葉隠と芦戸と耳郎じゃ。その後ろには、梅雨に常闇に麗日も居る。先に喰われていた子供と、後から儂等ごと喰われたその父親は……あまり良い状態とは言えんな。特に、子供の方が。最低じゃなぁ、儂は。いったい、幾つ間違えたら気が済むのか。今回、と言うかここ最近は多くの事を間違えてしまっている。他のやりようは有った筈なのに。もっと良い形の未来を、選べたかもしれないのに。

 

「こ、これ大丈夫なん……? 前も見たけど、こんなに血を出したら死んじゃうんじゃ……」

「儂の呪力を血に変えてるだけじゃ。問題ない」

 

 麗日が青ざめているので、取り敢えずの説明はしておく。この血の海は全て儂の血で出来ているけども、じゃからって体内から血を引っ張り出したわけではない。……まぁ、体内から血を引っ張り出していると言っても間違いではないんじゃけど。呪力は腹で回すものじゃし。

 

「……これは……。そうか、これが……。なら、もしかすると……」

 

 常闇は、儂の領域に目を奪われていた。何を考えているのかは知らんが、何処か気になる部分があるらしい。……そう言えば、儂の領域の内に入った事が有るくらすめぇとはそう多くない。麗日と緑谷ぐらいじゃったか? あまり見詰められるのは良い気がしないの。ここは儂の心の内じゃから。いや別に、見られたって問題は無いんじゃけど……こう。気分的に。

 

「ブラッディ、外に居たのね。救けて勝てて、良かったわ」

「勝ちとは言えんな。おい、その子を見せろ」

「大分衰弱してるみたいなの。ブラッディ、分かる?」

 

 結果として救けることは出来た。呪霊も祓えた。しかし、勝てたかというと微妙な気もする。領域を解きつつ、儂は衰弱して動かない子供に近寄る。見たところ、やはり呪力に当てられて衰弱しておるの。幸いなのは、原因となった呪力の元は儂が祓っとる。この分じゃったら、しばらく寝てれば回復するじゃろう。時間は掛かるかもしれんが、今直ぐ命に別状が有るってわけじゃない。

 こうなる前に、救けられなかったのか。子供達が、被身子が言うように動いていれば……少しはこの結果も違ったか?

 

 ……いや、それは論外じゃろう。どんな理由が有ったにせよ、子供を呪霊の前に立たせるわけにはいかん。絶対に駄目じゃ。今回は無事じゃったが、次も同じようになるとは……。

 

「ブラッディ?」

「……いや……。大丈夫じゃ。病院に連れて行こう。しばらく休ませれば、回復する筈じゃ。当面は入院じゃろうけど」

「ケロ。良かった、救けられて」

「……そうじゃな。それと、呪霊が大暴れした結果被害多数じゃ。人命救助優先で頼む」

「えっ、うわ……! 大変だこれ……!!」

 

 周囲の状況を見た子供達が、大慌てで救助に当たっていく。あ、そうじゃ。被身子に帳を上げて貰わねば。でないと、この騒動が明るみに出ない。外部が気付かねば、救助が滞ってしまうじゃろう。

 そう言えば被身子は……。……って、あぁ……。

 

「ん、ふふ……♡ やっぱり、素敵……♡」

 

 いかん。儂の血に当てられて、すっかり舞い上がってしまっておる。んんむ、やはり儂の領域を見せるのは良くない気がするの。じゃって、被身子がこうなってしまうし。……まぁ、でも。喜んでるなら良しとするか。いやむしろ悦んでると言うべきか……。

 

 ……とにかく。この状態の被身子を抑制するのは難しいのぅ。せめて人目が無いところまで我慢してくれれば良いんじゃが、それを求めるのは酷と言えば酷じゃ。ひとまず声を掛け―――。

 

「お母さんの言葉は、守りなさいっ」

「ぐぎっ!?」

 

 ようとしたところで、拳骨が降ってきたわ。父よ、急に現れて拳骨はどうなんじゃ。別に痛くはないんじゃが、頭に響く。何で毎度毎度、脳天に拳骨を落とすんじゃ。人は頭を殴られると脳細胞が死滅するんじゃぞ? いやまぁ、儂の場合は綺麗さっぱり治せるんじゃけども。

 

 それと、今は説教されている場合では……!

 

「呪術師は禁止って言われてたよね? 何で真っ先に動いたの?」

「……す、すまん。でも、仕方ないじゃろ。子供が喰われたんじゃから」

 

 まぁその後で、儂も喰われたが。ああなってしまっては、呪術師として動く他無い。でなければ、全員死んでいたんじゃから。

 

「まぁ緊急事態だったのは分かるけど。でもせめて、一声掛けてくれても良かったんじゃないかな??」

 

 ……それは、そうじゃったかもしれん。父が尾行して回ってたのに気付いてたんじゃから。いやしかし、でもでもじゃって。そんな暇は無かった。急がなければ、救けられなかったかもしれないじゃろ。

 

「まぁお母さんには言わないであげるけど、気を付けること。それと、どうしてもそれが円花のしたい事ならお父さんは味方してあげるから」

「……母を言い包められるのか……?」

 

 このぽんこつな父親に? 常日頃、年がら年中、母の尻に敷かれているのに?

 

「ところで円花、被身子ちゃん……どうするの?」

「どうって……」

 

 いや、どうするのかと聞かれても。どうしようもないと思うんじゃが? 今はまだ、領域展開の痕跡……。つまり、残った血溜まりを夢中で眺めておる。次の瞬間には儂の方に突撃して来ても、何らおかしくはない。じゃって被身子じゃもん。ちうちうされるのは嫌ではないが、人前では流石に……。

 あ、駄目じゃ。被身子が儂を見た。口元を覆い隠している両手を離して、満面の笑みを露わにして、こっちに駆け出し始めた。どう……したものかのぅ。いやもうこれ、どうしようもないのでは? 駄目なやつなのでは??

 

「ヨリくんっ♡」

「ぐぇえっ」

 

 つい反射で受け止めて、そのままいつものように押し倒されてしまった。駄目じゃこれ。まっこと、どうしようもない。せめて、少しでも人目に付かなければ良いんじゃけど……。

 

「ちょっ、ちょ……っ!? 渡我先輩、人前ではあかんよ!? 流石に駄目だから!!」

 

 む……。慌てた麗日が駆け寄って来たと思ったら、視界が暗くなった。どうやら、そこらに落ちていた大きな布を儂等に被せてくれたようじゃ。これでひとまずは人前から隠れられたか。麗日、良くやった。……って、この布。儂の血に染まっておる。そんな物で覆い隠されたらじゃな??

 

「ん、ふふ……♡ ヨリくん、ヨリくん……♡」

 

 余計被身子が止まらなくなるんじゃけど。まぁ……良いか、この際。元々、被身子がこうなってしまった時は儂にはどうしようもないんじゃし。

 

 ……それに、それにな。こんな被身子を、どうしようもなく愛しく思ってしまうんじゃ。こんな儂でも、被身子は変わらず愛してくれる。それが嬉しくて、喜ばしくて。同時に、申し訳ない。

 

「ん……っ、こら。少しは落ち着、んぅ……」

 

 噛まれた。首筋を盛大に。背中がぞくぞくして、つい……熱っぽい吐息を吐いてしまって。いつものように、下から被身子を抱き締めて。

 

 良いんじゃろうか。こうしていて。こんな儂で良いのかと、聞きたくなって。……でも。

 

 でも。じゃけど。きっと儂が大切にしたいのは……、もう被身子だけで。呪詛師になろうと、被身子だけがどうしようもなく愛しくて。

 

 

 ―――いったい儂は、何処へ向かっているんじゃろうな。

 

 

 落ち着かない被身子を抱き締めながら、ちうちうされることに喜びながら。そう思ってしまったんじゃ。

 

 

 

 

 







以下呪術本誌ネタバレとなる話。













円花とトガちゃんに起きたのは、呪術本誌で宿儺が言ってた「稀に相手と繋がることがある」のそれです。この設定の詳細が謎だし説明されることは多分無いでしょうから、あまり使う気はありません。

三人称による補完は要りますか?

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