待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
……あれだけ派手に暴れたのであれば、何かしら痕跡が残っていても良いような気がするんじゃが……。公安や警察が何か見落としたか? 或いは、意図的に情報を伏せているのか?
どちらにせよ、分からんところじゃ。被身子を元に戻す為の手段も、それを知る為の手掛かりも今は存在していない。しかし、最後の希望として
……それでも。それでも、やるしかない。悪党連合をひっ捕らえて、背広男が盗んだ資料が何処に有るのかを吐かせる。その為には、どうにかして連合と接触しなければならん。何か手段が有れば良いが、現状では何も。公安は何か知っとるじゃろうか? それならば話は早いんじゃけども。
「……どうにも、上手く行かんものじゃなぁ……」
「何がです?」
「何でもじゃ。儂の人生、上手く行かん事ばかりでの」
どうしたものかと自室で考えていれば、被身子に後ろから抱き締められた。何ならそのまま畳に寝転ばされた。儂は抱き枕では無いんじゃけども、良しとする。こうして被身子に抱き締められるのは好ましいから。……少し、申し訳ない気持ちも有るが。じゃけどまぁ、申し訳ないとばかり思っていると拗ねられるからのぅ。それはそれで、儂の望むところではない。
ちなみに。緑谷は儂とあれこれ話し合った後に帰った。今夜もおおるまいとと任務に出るそうじゃ。それを引き留めはしたんじゃが、言葉で止まるような奴ではない。怪我はしないと言い残して、飛び出して行ったわ。赤縛で縛り上げてやろうかと思ったが、あやつ外に出るなり個性で跳びおって。一瞬筋肉阿呆と見間違えそうになったわ。
一刻も早く、復学せねば。その為にはまず、両親に頼まなければなぁ。一筋縄ではいかんのじゃろうけど。
「……必ず、お主を元に戻すからな。今直ぐは無理じゃけど、必ず。じゃから……今もこれからも側に居させて欲しい」
被身子の頭を撫でながら、大事な事を伝える。改めて、言わなければと思ったから。
我ながら、何とも浅ましい。最低最悪じゃ、こんなの。それでも、儂は被身子の側から離れたくなくて。それだけは、どうしようもない本心で。
真っ直ぐ被身子の瞳を見詰めると、目を丸くされた。で、次の瞬間には不満たっぷりの顔になった。唇を尖らせて、文句のひとつやふたつでも言い出しそうじゃ。……い、いかん。間違い……じゃったか?
「別にトガは元に戻らなくて良いのです。それと、円花ちゃんの居場所は私の隣ですっ。今も昔も、これからもっ!」
「ぐぇえっ」
こ、こら……っ。全力で抱き締めるんじゃない。息苦しいじゃろ、たわけ。どうしてお主はそうやって不満を表すんじゃ。もっとこう、別の方法が有るじゃろ別の方法がっ。何じゃってこやつは、苦しくなる程に抱き締めたり全身で押し倒して来るんじゃ!
「……ぐすっ。もぅ、もうっ。やっとまともに目を見てくれました! しょんぼりしてばっかで、全然見てくれなくって……!」
「ん、ぐ……。す、すまん……」
ん、んん……。確かに、そうじゃったかもしれん。ここ数日は、全然被身子の目を見ていなかった。申し訳なくて、どうしても見れなかった。今じゃって、申し訳ないと思っとる。解決策が見付かったわけでもない。希望と言うには余りに小さいものを、見付けただけじゃ。
じゃから、今じゃってこうして居て良いのか……迷う。こんな資格は無いんじゃと、思ってしまう。じゃけど、じゃけども。
どうしたって、儂は被身子の側に居たくて。例え自分を許せなかったとしても、それでも離れがたくて。
いつまでもいつまでも、気を沈めては居られないと思ったんじゃ。勝手な振る舞いじゃけども。何も解決していないのに被身子の側に居たいと願うなんて、最低じゃと思うけれど。
でも、約束は約束じゃから。一緒に変わるって、決めたんじゃ。少しずつ、じゃけども。くらすめぇと達に頼るようになるのは、やはり怖いんじゃけども。
でも、被身子が。被身子が一緒に変わってくれると言ったから。それなら……少しは怖くなくて。
ん、んん……。駄目じゃ、やはり駄目じゃ。心配で仕方ない。子供達を、呪術界に踏み込ませたいとは思えない。やはり儂が独りで……!
「心配性で、過保護なのです。みんな頑張ってるんですから、そんなに弱くは無いですよぉ……。
あと! 今はトガを慰めて甘やかしてくださいっ!」
「ん、んぐぅ……っ」
ぅぐ、んぐんぐ……っ。い、息がっ。儂の頭を胸に押し当てるのは止さぬか。分かった、分かったから……っ。
「……っぷは。す、すまん。嫌な思いをさせて……」
「まったくです! 私を見てくれないのは心外ですっ。私の許嫁なら、私を見てくれなきゃヤ!」
ん、んんむ……。すっかり拗ねてしまった。こうなった被身子は、それはもう大変で。今日は丸一日使って慰めなければ、許してくれそうにない。こういう姿も嫌いじゃないと思ってしまうのは、物凄く負けた気分がするんじゃけども。
結局。何処まで行っても勝てん気がしてならん。被身子はいつも、いつじゃって儂を大切にしてくれて。儂を想って、色々してくれて。時には危険すら鑑みずに、突っ走るような真似をして……。
……そう考えたら。何と言うか……。
「……んん……。被身子ぉ」
「むーー……。何ですか?」
「……いや、その……」
言葉にするのは、その。上手いこと、伝わらんかのぅ。何とかしてこう、伝わってくれんものかと。何なら汲み取ってくれんものかと。
直接伝えるのはとてつもなく気恥ずかしい気がして、代わりに思いっきり抱き締めてみる。そしたら、被身子は抱き締め返してくれて。
「もぅ。言葉にしなきゃ伝わらないのです」
……駄目か。いや、しかし。でもでもじゃって。思った事を素直に伝えるのは、やはり気恥ずかしさが勝ってしまうもので。
「……じゃから、その……」
「はい」
「……その……」
「はい」
……い、言えぬ……っ。気恥ずかしくて、伝えられん。それにほら、伝えたら被身子が際限無く調子に乗るような気がして。そうなったら儂が大変じゃし。じゃからほら、ほら。やはり伝えないで置いた方が……!
「……」
「……」
「……」
「……」
ち、沈黙が重い……。被身子は黙って待ってくれているが、徐々に不機嫌になっている気がする。あまり待たせるのは良くないと思いつつも、この気恥ずかしさはどうにも。ぐ、ぐぬぬ……。
「むーーっ。何でも言ってくれなきゃ、ヤです。おこですおこ。もっと拗ねますよ? 絶対許さないから……!」
「じゃ、じゃから……。その、……ええっと……」
ぐ、ぐぬぬ。いかん、これ以上は本気で拗ねてしまう。被身子が全力で拗ねたら、それはもう大変じゃ。それはそれで、困る。被身子には、いつじゃって笑っていて欲しいと思うから。……じゃから。じゃ、じゃからな……?
「……、……直したというか……」
「はい?」
「……ほ、惚れ……」
「……聞こえないです」
聞こえてるくせに。絶対聞こえてるじゃろっ。お主、分かってて聞き直してるんじゃないか? ゆ、許さん……っ。貴様、後でおぼえていろよ……っ!
「……惚れ……直したんじゃけども……」
気恥ずかしい。気恥ずかしい、気恥ずかしい。顔から火が出そうな気がしてならん。やはり言うべきではなかった。上手いこと伝わるまで、行動とかで示すべきじゃった……!
「んふふ。えへへぇ」
あ、いかん。いかんぞこれは。被身子が際限無く調子に乗った。さっきまで拗ね始めていたのに、次の瞬間にはこれじゃ。こやつの情緒はどうなっとるんじゃいったいっ!
「そうやって、もっともっと伝えてくださいねぇ。態度でも言葉でも。それとぉ……。
今日はぁ、カァイイ格好してますね♡」
お、おい。覆い被さるな。良いじゃろたまには、自分から洋服を着たって。今朝は、たまたまそういう気分じゃったんじゃ。なのに何で、そんな風に大喜びで……っ。
「イチャイチャしましょうっ。昨日も一昨日も、全然イチャイチャ出来なかったので!!」
「さ、昨晩したじゃろ!?」
「毎日したって良いんですぅーーっ! さぁしましょう、今直ぐしましょう!!」
こ、こやつ……っ。何なんじゃもぅ。そうやっていつもいつも、儂とくっ付いて過ごしおって。別に駄目とは言わんけど、もう少し自制とか自重とかをじゃな……!?
「んー、ちゅっ♡」
「ん、んん……っ」
唇を奪われた。両手首はいつの間にか掴まれて、畳に押し当てられて。覆い被さった被身子が、一瞬だけ
◆
危うかった。真っ昼間から襲われるところじゃった。途中で珍しく被身子が理性を取り戻したから良かったものの、あのままじゃったら好き勝手に抱かれているところじゃった。被身子の阿呆、たわけ。へんたいっ。そういうところが良くないんじゃぞ。いつもいつも、儂を好き勝手にしおって……! 今夜は覚えてろ。今夜こそは、ぎゃふんと言わせてやるんじゃ……っ!
「……っはぁ。まったく……」
居間。たまたま被身子の魔の手から逃れられた儂は、
じゃったら、少しでも外に出て……。そうじゃな、
まさか、こんな形で
「それで? これからどうするの?」
被身子を待っていると、母が話し掛けてきた。儂の隣に腰掛けて、儂を真っ直ぐ見詰めてくる。魂を読むつもりなのか、単に様子を見ているだけか。どちらにしても、母に隠し事は出来ぬからのぅ。素直に話すことにする。
「……ひいろお活動をしたい。もしかしたら、悪党共が手掛かりになるかもしれんから」
「そう。まぁ、良いんじゃない?」
「反対しないのか?」
「ヒーロー活動は許してあげるって言ったでしょ。動機も動機だし、反対はしないわよ」
まぁ、それもそうか。いやしかし、こうも簡単に許可を出されるとそれはそれで拍子抜けな気がしてならん。もっとこう、色々と言われると思っていたんじゃが。
「でもね。被身子ちゃんの事は、円花だけのせいじゃないのよ。私達親にも、責任はあるの」
「……」
それは、……んんむ。それは、違うと思う。じゃって、儂が気付くべきじゃったから。儂が気付いていれば、こんな未来は訪れなかったかもしれん。両親に被身子の嗜好を止めて欲しいとは思わなかったし、放っておいて欲しかったのも事実じゃから。
少しでも、被身子を言い聞かせることが出来たなら。或いは、儂がもっと気を付けていれば。そうしたら、……もしかしたら。
「円花だけじゃ被身子ちゃんを止められないでしょ。結局甘やかしちゃうんだから」
「んぐ……。それは、母や父も同じじゃろ」
「そうよ。私達は被身子ちゃんが可愛くて仕方ないから、幾らでも甘やかしちゃうの。円花だってそうでしょ?」
「そうじゃけども」
被身子を甘やかす。この一点については、儂も両親もついやり過ぎてしまっている気がしないでもない。でもそれで、被身子が幸せそうにしてくれるのなら止める理由も無くての。このまま行くと生涯甘やかす羽目になる気がするんじゃが、まぁそれはそれで。駄目とも嫌とも言えん。
「まぁヒーロー活動するなら、被身子ちゃんが拗ねるからちゃんとフォローしなさいよ? 助けを求めたってお母さんは知りません」
「……」
ん、んん……。まぁ、それもそうか。被身子はほら、儂が
……とにかく。とにかくじゃ。母から許可は降りた。
「呪術師の方は駄目よ。円花が誰かを頼れるようになるまでは許しません」
ぬぐっ。じゃから、魂を読むな魂を。何か言う前に先手を打ってくるのは、狡じゃと思わんのか狡じゃとっ。
「だから、ちゃんと言葉にしなさい。そんなだなら口下手になって被身子ちゃんを拗ねさせるのよ? そろそろ学習したら?」
「つ、伝えるようにしとるじゃろ。最近は」
「それじゃ足りないって話よ。もっと伝えなさい」
ぇ、ええ……? 最近は、それなりに伝えるようにしとるのに? それでは駄目なのか? 流石にそれは気恥かしいんじゃけども……。
「その通りなのです! もっともっと伝えてくれないと!!」
母の言葉に動揺していると、着替え終わった被身子が現れた。まだ拗ねた口振りをしておる。どうやらまだ許してはくれないようじゃ。ここ数日は儂が悪かったとはいえ、まだ駄目か……。これは、少しばかり時間が必要かも知れん。今日の
それにしても、今日も同じ服か。儂とまったく同じ服を着ておる。相変わらず、何でもかんでも一緒じゃないと気が済まんらしい。ぺあるっく……? と言うのはよく分からんが、まぁ同じ物を身に着けるのは悪い気はしない。と言うか被身子。それ、ちゃんと下を穿いとるのか? 何も穿いてないような気がしてならん。いや、今の儂も同じ格好なんじゃけども。あぁそうか、丈が短くて隠れとるだけか。上着が長めじゃからの。穿いてないように見えてしまった。
何はともあれ、準備は出来たようじゃ。なら、そろそろ出掛けるとしよう。
「ん」
「んふふ。はいっ」
こうして母の前で手を繋ぐのは、それはそれで気恥かしい気がする。今日は特に。でも被身子が喜ぶし、儂も手を繋ぎたいし。これはまぁ、仕方ない仕方ない。必要経費じゃと思うことにする。
このまま
今は、被身子を最優先したいんじゃ。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ