待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
寮の大掃除を終えた後。もうそろそろ日が沈み切りそうな頃に、儂は常闇の挑戦に応じることとなった。訓練場のひとつで、くらすめぇと達や相澤に見守られながら常闇は儂に一人で挑む。何か勝算があって儂に挑んで来たのは分かる。が、まさか一人で儂の前に立つとはな。だぁくしゃどうは確かに強力な個性なんじゃけども、現段階で儂の評価ではまだまだ荒削りじゃ。将来性で言えば大いに楽しみなんじゃけどな。だぁくしゃどうが暴走したあの姿を完全に物にしたなら、儂とて手を焼くじゃろう。実際、手を焼いたし。もしかすると、負けるかもしれん。
まぁ、その時が来たって負けてはやらんけど。勝つのは儂じゃ。子供達相手に、まだまだ遅れを取るつもりは無いんじゃ。
「双方、準備は出来たな? 勝負の範疇を越えたら、俺が割って入る。また、俺が続行不能とみなしたらその時点で終了だ。
……常闇。良いんだな?」
「はい。今日は勝ちます」
ほぅ? 随分と自信が有るようじゃ。気合も十分と見た。何せ、わざわざ
……それはそれとして。
「被身子。そろそろ離れてくれんか?」
そろそろ常闇との勝負が始まるところなんじゃけども、被身子が抱き付いて離れん。困った。離れてくれないと危ないんじゃが? そもそも、勝負そのものが始まらん。
「むーー……。怪我したら嫌ですからね」
「しない。しても治す」
「そういう問題じゃないのです」
「……すまん。気を付ける」
「ちゃんと気を付けてください。それと、ギュッてしてチューしてください!」
「ぁ、相分かった」
勝負の前じゃが、被身子の望みは叶えたい。ので、
要望通りにすると、被身子は渋々と儂から離れた。小走りで儂から遠ざかって、麗日の隣に立つ。多くのくらすめぇと達、と言うか全員が、儂等を白い目で見てるのは気のせいではないんじゃろう。何なら何か言っておるが、今は聞いてやらん。真剣さを欠ける行為をしたのは重々承知じゃけども、良いじゃろ別に。愛は大事なんじゃぞ、愛は。大っぴらに口走るのは流石に気恥かしいところじゃけども。
……さて。気を引き締めるとしよう。さっきから常闇が、それはもう儂を睨んでいるからの。やる気も準備も万全と見た。であれば。
さっさと掛かって来い。受けて立つ。
「始め!」
要らん号令を相澤が発した。と、同時に常闇は前傾姿勢で儂に向かって駆け出した。何を考えているかは知らん。それはこれから分かることじゃ。
両手を叩き合わせる。誰が挑まれようが、誰に挑もうが、儂はまずはここから始めるからの。真っ直ぐ向かって来るのなら、何を目論んでいるのか試してやろう。
程々に血液を圧縮していく。狙いは頭。避けるならそれで良し、防ぐならそれで良し。何もせずに当たるなら、期待外れじゃ。
「穿血」
狙いを絞り、放つ。その時、常闇は足から
ひとまずは、及第点としておこう。死なぬ程度に手を抜いてるとは言え、穿血を避けてみせたんじゃ。まぁ、このくらいの芸当は見せてくれなければ困るんじゃが。
滑走している常闇に向けて腕を振り下ろすことで、穿血の軌道を変えておく。速度は落ちているが、それでも手傷を負わせるだけの殺傷力は残っている。……が。振り下ろされた穿血は当たらなかった。当たる直前で、常闇の内からだぁくしゃどうが飛び出たからじゃ。
「効ネェンダヨ!!」
飛び出ただぁくしゃどうが、弧を描き上から迫る。同時に、儂との間合いを潰した常闇が下から全身ごと拳を振り上げる。残念ながら、動きそのものはそこまで早くない。拳の軌道もだぁくしゃどうの動きも見えている。
……甘いのぅ。それで攻めてるつもりなら、欠伸が出る。
下から迫る拳を、左手で受け止める。同時に上から降って来ただぁくしゃどうの拳を、右腕で受け止める。もちろん、呪力強化はしておるが。
む。どちらも力が増しているようじゃ。特にだぁくしゃどうの力が強い。常闇本人の拳は、残念ながらそこまで脅威ではない。前よりは鍛えているようじゃけど、まだまだ体が足りとらん。情けない奴め。個性伸ばしも良いが、身体作りもしっかりして欲しいものじゃ。
「ふっ!」
掛け声と共に、外套の内から拳が飛び出した。それを左手で掴み取り、引き寄せ、常闇の腹に膝を打ち込む。頭上から迫りくるだぁくしゃどうの拳やら爪は、血液を飛ばすことで迎え撃ったり、それで間に合わなければ右腕一本で受け流す。
「ぐぅ……っ!」
腹に膝がめり込んだ程度で怯むな、たわけ。常闇は一歩、二歩と後退する。が、だぁくしゃどうの動きは激しいものに変わった。先んじて血を飛ばし牽制し、それでも迫った拳は腕や拳で防ぐ。
だぁくしゃどうが放つ攻撃は、その一発一発が重い。呪力強化しているのに、拳を受けた腕が衝撃で痺れる。やはり個性そのものは、しっかりと鍛え上げているようじゃ。強みを活かすのは悪くないが、これではまだまだ物足りん。
「円花ァア!!」
「よし来い。もっと見せろ」
上から降ってくる拳を防ぐ。一撃毎に重さが増しているのは、気のせいではない。だぁくしゃどうの攻め手を捌きつつ、儂も一歩二歩と後ろに下がる。と言うより、下がらざるを得ない。一撃一撃が、それなりに重くてのぅ。この小さく軽い体では、呪力強化のみでは真っ向から受け止め続けるのは少し難しいのかもしれん。儂は儂で、僅かでも身長と体重を増やせるよう努力するべきかもしれん。休学の間、身体作りに勤しむのも悪くない。いやしかし、背は伸びぬし体重も増えないんじゃよなぁ。今生は身体作りの才が無い。前世の肉体が恋しいのぅ。何より男の身じゃったし。
上から、右から、左から。時に下から。拳やら爪やら頭やらが攻め込んで来る。防ぎ、打ち払い、受け流し、だぁくしゃどうの攻撃を捌き続ける。が、そろそろ呪力強化だけで受け身に回るのは面倒じゃの。術式を混ぜて対応しているものの、攻め手が止まる気配が無い。隙が無いわけではないが、衝撃で腕が痺れるのはそれはそれで面倒じゃ。
「何じゃ、少しは成長しとるんじゃな」
「少し、どころじゃない……っ!」
お。常闇も動き始めた。それと同時に、だぁくしゃどうが少し膨らんだ。何じゃ何じゃ、ここまで儂相手に小手調べのつもりか? そんな余裕が有るように振る舞われるのは、少々癪じゃ。
少し太くなった拳を半歩動くことで避け、同時に赫鱗躍動を用いる。その時、また常闇が踏み込んで来た。馬鹿正直に近付いてくるのは良くな―――。
「おっ?」
常闇の外套が投げられ、視界が妨げられる。だぁくしゃどうも常闇も見えなくなった。見えなくなったんじゃけども、それで不意を突くつもりならまだまだ甘い。常闇の位置もだぁくしゃどうの位置も、儂は直前まで把握してたんじゃから。
「甘い」
「ぐぁっ!?」
外套越しに、常闇を殴る。布越しじゃが、捉えたのは顔面で間違いない。だぁくしゃどうは……。
「っと」
儂の後ろに回り込んで、爪か拳を突き出して来た。それを感じた気配だけで避け、ついでに踏み台にして大きく背後に跳ぶ。空中から下を見てみれば、外套の向こう側で常闇が倒れているのが分かった。じゃから身体は作れと言っておるんじゃ。打たれ弱い奴め。まぁ意識は無くしておらんようじゃし、もう少し勝負は続きそうじゃけど。
着地っと。なぁ常闇、こんなものか? こんな程度で儂に勝てると思ったのか? じゃとしたら、何とつまらん。成長しつつあることは認めるが、それではまだまだ足りない。こんな程度では、期待外れじゃ。
「そんなものか?」
「いや、ここからだ……っ!」
ほぅ……。まだ萎えとらん。それどころか、気迫が増した。地に倒されてなお、儂を睨んでおる。なるほど、ここから本領発揮のようじゃ。それで? これから貴様は、何を見せてくれる? 単身で儂に挑んだからには、それなりのものを見せてくれないと困る。
「……っ、やるぞ! 闇は溜まったな!?」
「バッチリトナァ!!」
お、何じゃ何じゃ? 闇を溜めた? 何をするつもりじゃ。
気が付けば、外の暗さが増している。どうやら、完全に日が沈んだようじゃの。となると、……なるほど。確かに闇は溜まりそうじゃな。だぁくしゃどうの力の源は、影。つまり闇なわけじゃ。
「ダークシャドウ・
お? おっ? だぁくしゃどうが、儂等の周りを大きく膨れながら飛び始めた。いやこれは、膨れていると言うより……溶けている……?
どういう事じゃ。常闇、貴様いったい……何をするつもりじゃ?
次の瞬間。儂の視界は、己の手すら見えぬ程に黒く染まった。
◆
暗い。何も見えぬ程に。そのせいなのか、或いはこの場が脅威そのものとなったのか、寒気を感じる。膨れ上がり、そして溶けただぁくしゃどうによって、何も見えぬ暗闇が生み出された。この暗闇に閉じ込められているような気がする。まるで、領域の内側に招かれたような気さえしてくる。
これは、いったい何じゃ? 常闇とだぁくしゃどうは、何をした?
……いや、良い。何をしたのかはこれから分かるじゃろう。実際に経験してみれば良いだけの事じゃ。
恐らく。恐らくじゃけども、膨れて溶けただぁくしゃどうが、僅かな光すら通さぬ程に儂等を覆った。完全に視界が暗くなる前に、そう見えた。
「闇は、良い。ここは……俺の、俺達の世界だ」
「……そのようじゃな」
まさかこんな形で、視覚を潰されるとはの。まっこと、何も見えん。音はしっかり聞こえるものの、一寸先すら見えやしない。こんな状況を用意したら、大抵の悪党は戦えんじゃろう。しかしなぁ、こんな状況程度で狼狽えるような奴は呪術界にはそう居ない。呪術師にしろ呪詛師にしろ、何も見えぬなら見えになりにやれる事をやるからの。呪霊じゃってそうじゃろう。
まぁ、視覚を潰すのは悪手ではない。この場に居る自らが、視覚に不自由しないのならな。
「彌虚葛籠」
ひとまず、結界を張る。本来は領域を中和する為の結界じゃけども、結界である以上彌虚葛籠の内部に侵入したものを多少なりとも検知出来るからの。対個性の役には立つなんてことはないじゃろうが、張らんよりは良いじゃろうて。
さて。何も見通すことが出来ないこの暗闇の中で、常闇は何をどうするんじゃか。まさかただ、儂を閉じ込めるだけの技では有るまい。
「っと」
背筋が冷えた。咄嗟に身を屈めると、頭上が何かを高速で通り抜けた。何が通り過ぎたかまでは、まったく分からん。ただ、受けてはいけないと直感で分かる。凄まじいと言える程の風圧が有った。直撃したら、流石に無事では済まんじゃろう。
恐らく、これが常闇の奥の手……なんじゃろう。まるで、領域の内に招かれたような気さえしている。つまりこれは、常闇なりの領域展開……とでも言うべきか?
―――こんな技を、いつ編み出した? 作り上げた? 儂に勝つ為に、密かに研鑽していたのか? 或いは、思い付きの付け焼き刃なのか。どちらにせよ……。
どちらにせよ。これは、中々に……。
「ぐおっ!?」
彌虚葛籠の内に何かが入ったと気付いたその時、儂は何か大きなものにぶつかられた。その威力は凄まじく、踏ん張る暇も無く吹き飛ばされた。この感覚には覚えがある。
宙に浮かされた体は、壁のような何かに激突して息が詰まる。体の中で、何か嫌な音がした。聞いたことが無いわけではない。これも、確かに覚えている。
「―――けひっ」
一撃。ただの一発で、思い知らされた。同時に、どうしようもなく楽しくなって来た。まさかまさかじゃ。
まさか常闇が、あの筋肉阿呆と変わらぬ一撃を繰り出してくるとは―――!!
「ひ、ひひ……っ」
たったの一撃で肉が潰された。骨が砕かれた。息が詰まる程の激痛が走って、どんどん楽しくなってくる。
やっとじゃ。やっと、やっと……!
やっと実を結んだか! 常闇踏陰!!
「良いな、貴様……! 良いなぁ!!」
両手を叩き合わせる。直後、暗闇の中で気配が蠢いた。彌虚葛籠は何の役にも立たん。見えぬ何かが儂に届くより先に、その場から右に転がる。左肩を何かが掠め、肉が抉られた。転がりながら暗闇の中に穿血を放つものの、思った通りの手応えは無い。何かに当たりはしたが、どうやら貫く迄には至っていない。恐らくは、辺りを包むだぁくしゃどうの一部に当たったのじゃろう。領域の外殻とでも言うべきか。恐らくはそれに当たった筈じゃ。
しかし、暗闇は晴れない。依然として、何も見えぬまま。呪力の淡い光を当てにしても、それでも何一つ見えん。じゃからもう、意識を周囲に張り巡らせる。その直後、また暗闇が蠢いたような気がした。咄嗟に跳躍すると、足元を何かが通り抜ける。
「けひっ。ひひひっ」
怖気がする。寒気がする。何も見えぬこの空間は、放っておけば間違いなく儂の命に届く。 それが嬉しい。それが楽しくて堪らない!
求めていたんじゃっ。命のやり取りが出来る相手をっ。思う存分呪い合える、そんな相手を! それだけの力量を持ち得る誰かを!
まさか貴様も、その一人になるとはなぁっ!!
「……ここは俺達の世界だ。どんな暗闇だろうと、俺達は必ず相手を追い詰める!
行けっ! ダークシャドウ!!」
「円、花ァアア!!!」
常闇と、だぁくしゃどうの声が聞こえる。直後に、また何かが儂に迫っている。儂は着地と同時、衝撃に備えた。が、無意味じゃ。次の衝撃は、間違いなく足元から来た。腹、どころか胸や肩まで一緒くたに撃たれる。骨が何本も折れた。内臓から、嫌な音がした。同時に
攻撃力だけで言うならば、個性を持っていた頃のおおるまいとと大差ないっ。期末試験の時に感じた脅威と、似たようなものじゃ……!!
吹き飛ばされながら、考える。この楽しい時間を直ぐに終わらせたいとは思わん。思わんが、何も見えぬこの暗闇の中で頼りになるのは聴覚と触覚のみ。今のだぁくしゃどうの攻撃を防ぐことは出来ぬ。避けることも、難しい。この領域が完成した時点で、常闇の勝ちが確定したような―――。
―――いや、それは無い。考えろ。吹き飛ばされながら。考えろ、打ちのめされながら。考えろ、考えろ考えろ……!!
この領域に打ち勝つ為には。今、常闇に負けぬ為には―――。
「けひっ」
まさかまさか、じゃ。まさかここまで。ここまでとはなっ。その飛躍が喜ばしい。その進化が喜ばしい。その成長が、悦ばしい!!
じゃからこそ。なればこそ! 貴様は何処までも、儂に付き合ってくれるんじゃよなぁ!?
「領域展開」
ここからじゃっ。ここからが勝負じゃ! 容易く負けてくれるなよっ! 儂を、もっともっと、もっともっともっともっと!!
もっと!! 楽しませろ!!!
「奉迎赭不浄!!!」
ダークシャドウ・終焉『界』についての説明は次回だと思います。多分。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ