待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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常闇の世界。そのに

 

 

 

 

 

 

 まさかの躍進。まさかの大飛躍。常闇が作り上げたこの領域は、もしかすると儂を殺せる可能性を秘めている。暗闇を視覚を潰し、その暗闇に乗じてかつての筋肉阿呆並みの攻撃を何度も繰り出す。絶え間無く、とは言えんがな。しかしそれでも並大抵の悪党は、何も出来ずに負けるじゃろう。腕が立つ悪党じゃったとしても、苦戦は必須。何なら負ける。じゃけど、相手が呪詛師や呪霊ならばまた話が変わってくる。呪術師じゃとしても、違った結果が出る筈じゃ。呪術と個性には、どうしても大きな隔たりが有る。最も分かりやすいのが、領域じゃ。領域を使われれば、対抗手段を持たねば何も出来ずに死ぬことが殆どじゃ。

 残念ながら、領域展開とはそういうもの。領域には、領域でしか対抗出来ないからじゃ。

 

 故に。褒めてやろう。何ならこの勝負の後だけは、甘やかしてやっても良い。じゃって、儂が領域展開しなければならん程に追い詰められたんじゃ。そうしなければ、儂は確実に負ける。そしてまだまだ、儂は負けてやるつもりはない……! そしてっ、常闇の成長に最大の力を持って応える! 閉じぬ領域を、見せてやろう!!

 

 ―――けひっ。ひひ。

 

 まさかここまでとはな。ここまで強くなっていたとはな……! その事実が、嬉しくて堪らない。喜ばしくて悦ばしくて、笑うことを止められん。笑みが溢れて、どうしようもないっ。

 

 楽しい。楽しい、楽しい! いずれはこの域にまで達すると思っては居たが、まさかこうも早く進歩してみせるとは! それも、儂が想像した姿とは全く別の姿を見せてくれたんじゃっ!

 

 これを喜ばぬ奴はおらん。これを喜ばねば、むしろ常闇に失礼ってものじゃっ。

 

 じゃから。じゃからっ!

 

「苅祓っ!」

 

 まだ終わってくれるなよ! 常闇ぃ!

 

「っっ!!?」

 

 見えぬままに、一息に幾重もの苅祓を放つ。見えなくとも関係無い。儂の領域に招いた時点で、儂の術式は必中じゃ! 受ければ無事では済まぬ血の刃を飛ばす。それは呪力の無い常闇には防ぐことが出来ぬ。じゃからこそ領域展開はつまらんのじゃが、それでも今は、ただただ常闇に期待しておるっ。死なぬ程度に肉を裂かれたぐらいで止まったりはしないよなぁ!? これだけ素敵なものを魅せてくれた貴様が! こんな程度で倒れたりはしない筈じゃ!!

 

 抗って見せろ! 戦って見せろ!! もっともっと魅せてくれ!!

 

 貴様の才能はっ、貴様の力は! 儂を楽しませてくれるものの筈なんじゃからっ!!

 

「ぐっ、く……! まだだっ、ダークシャドウ!!」

「がっ!?」

 

 血の海の下から、何かが飛び出た。それは先程までとは違い、鋭い。確実に儂の腹を下から上へと裂いて見せたっ。良い、良いっ! もっとじゃ、もっと! こうなったら、我慢比べと行こう!!

 

「赤縛!」

「っあ!?」

 

 仕返しに、今度は縛り上げる。常闇と、常闇に付けた傷そのものを。楽しい時間じゃからこそ、死んで終わりなんて結末は許さんっ。互いに体力が尽きるまで、このまま戦おう! 楽しもうっ! 何、気にするな! 出血は儂の血で止めてやるから!!

 

「がっ、ァアアアッッ!!」

「ぐお……っ!?」

 

 何かに殴り飛ばされた。恐らくは、だぁくしゃどうの拳じゃ。それが左から飛び出して来て、儂は吹き飛ぶ。左腕が折れた。肋骨も折れた。反転術式(はんてん)は回さん……! こんな程度の傷で、儂の命に届くと思うなよ!?

 

「ひひっ。もっとじゃ! もっと!!」

 

 死なぬ程度に加減した穿血を放つ。肉を貫く程じゃない。当たれば物凄く痛い程度の穿血を撃つ。

 

「ぎっ!? ぁあぁあああっっ!!」

「ごはっ!」

 

 今度は真後ろから、右肩を貫かれた。爪と思しき何かを苅祓で何度も切り刻み、無理矢理にでも引っ込ませるっ。やってくれるな貴様! お陰で肩に穴が空いたわ!!

 

 肩の傷を止血し、加減した穿血を幾重にも放つ。そして次なる反撃に備―――。

 

「が……ぁ……っ……」

「……ちっ」

 

 くそ。くそっ! 駄目じゃ常闇っ、それはつまらん! まだじゃ、まだ足りぬ! こんな程度じゃ、儂は満足出来ないっ。もっとやれるじゃろ!? まだ動けるじゃろっ!? 更なる向こう側へと、行って見せろ!!

 

 おい、おいっ。次じゃ次! こんなところで終わってくれるな! 久しぶりに楽しいんじゃからっ。久しぶりに、嬉しいんじゃから!!

 

「おいっ、常闇!」

「ま、だ……だ……っ!」

「――!」

 

 あぁ、そうじゃよなっ! そうに決まってるよなぁ!? じゃったらほらっ、今直ぐ撃ち返して来いっ。まだまだ続けよう! 大丈夫じゃ、お主が死ぬ前にちゃんと切り上げる!!

 

「まだ……、ぐぅ……っ」

 

 そうじゃ、立てっ。立って見せろ! 姿形は見えぬが、それでも常闇が何処に居て何処に伏しているのか、足元にある血の海が教えてくれる。動くことで生じる波紋が、血飛沫が教えてくれるんじゃっ。

 

「……こ、ここは……闇の中。影の中だ……」

「じゃから、どうしたっ」

「分から、ないか?」

「何がじゃっ!」

 

 何がしたい。何を言いたいっ。そんな事よりも、早く反撃してみせろ! 喋っている時間が勿体ない! 誰かに止められる前にっ、誰かに割って入られる前にっ、早く次を―――!!

 

「……上も、影だ―――!」

「っっ!!」

 

 怖気がした。今日一番の、寒気がした。咄嗟に、本気の苅祓と赤縛を真上に向かって飛ばす。放った儂の血が、何かに触れた。しかしそれは止まらない。大きく、巨大な何かが上から迫る。

 暗闇の中なのに、それは確かに見えた。獰猛な化け物の如き面が、確かに。

 

 次の瞬間。それは、血の海ごと儂を喰らった。直後。凄まじい力でそれは動く。儂を噛み潰そうとしている訳ではなく、儂を何処かに連れて行こうとしているっ。何じゃおい、何をするつもりじゃ!?

 

 上へ、上へ。物凄い勢いで高度が上がっていく。何処まで上がっていく気じゃ貴様っ!?

 

「俺達ノ勝チダゼ、円花ァ!」

「あ? 勝つのは儂、じゃっ!」

 

 此処がだぁくしゃどうの口の中で有るのは、明らかじゃっ。儂を喰ったまま器用に喋りおって……! このまま口の中に居てやると思うなよ!?

 領域からは大きく引き離されてしまったが、まだ領域を操れないわけじゃない。だぁくしゃどうの肉体に、外から幾度も攻撃を加える。そして口の中をぶん殴ろうとした、その時。

 

「勝、つのは……! 俺達だ……!!」

「―――」

 

 殴られた。真横から、横っ面を思いっ切り。何処かから現れた、傷だらけの常闇によって。儂に縛られておきながら、それでも真っ直ぐ突き出した右腕で。直後、落下していく。だぁくしゃどうの口の中に居るまま、今度は下へ下へと。

 

「必ず、勝つ……! だから廻道っ!」

 

 両肩を掴まれた。落下しているが、振り解くのは容易じゃ。これが最後。これが常闇の、最後の反撃。それが分かってしまった。もうこやつに余力は無く。次の瞬間には、意識を失っていてもおかしくはない。

 

 くそ、くそ……っ! 楽しい時間が終わってしまう……! まだ足りぬのに、全然満足しとらんのに……っ!!

 

「俺達と! ヒーローになろう!!」

 

 ……は……?

 

「誰も殺さない、誰も殺させない……! そして誰かを救けられる、そんなヒーローに……!!」

 

 この、たわけ……! 阿呆っ。そんな事を言う暇が有るならっ。そんな説得をするぐらいじゃったら! もっと続けろ! 楽しい時間を、こんなところで終わらせようとするんじゃない……っ!!

 

 儂は続けたいんじゃっ。まだ満ち足りないんじゃ! なのに、なのに……!!

 

 そんな言葉を、必死になって叫ぶなっ!!

 

「俺は、もう……! 廻道を独りにはさせない……!!」

 

 ぅ、るさい奴めっ! 分からんやつじゃなっ!? そんな事を口走る余裕が有るのなら、最後まで抗え! 儂を倒すことに全て注げ! 心血も、魂さえも投げ打って見せろ……!! 余計な事を考えおって! 楽しい時間を、終わらせないでくれ!!

 

「だから―――!!」

 

 落ちて行く。下へ、下へ。地面に、儂の領域へと。もう、限界なんじゃろう。儂等を口に入れていた筈のだぁくしゃどうは、いつの間にか消えていた。暗い空が見える。地面まで後どの程度なのかは、分からん。分からんけども、このまま落下している訳にはいかん。下手すれば死ぬからじゃ。

 

 ……仕方ない奴め。まっこと、どうしようもない。勝てた筈じゃ。説得などせずとも、他にやりようは有った筈じゃ。なのに、傷だらけの体を動かして。空から落ちながら、伝えたい事を叫んで。

 絆されたわけじゃない。じゃけど、このまま落下しては二人して死ぬかもしれん。……じゃから。

 真下……いや、真上? に有る領域を操作し、血の海を高く上へと上げる。まるで逆流する滝のように。そして、落下している儂等二人を受け止めさせる。

 

 血の海に沈んだ。自らの血液に全身丸ごと浸かる羽目になるとはの。常闇は、気を失ったか? 下手に離れると危ないから、仕方なく抱き寄せてやるとしよう。それから血の海……もとい逆流していた血の滝を緩やかに真下に向かって流していく。正しく下へ。重力に引かれるがままに。

 

 やがて。

 

「ぶはっ。……まったく……っ! つまらん決着にしおって! この鳥頭めっ!」

 

 血の海から顔を出せたので、念の為に儂の血で常闇に止血を施し、それから領域を解く。儂の上で気絶しているこの鳥頭は、ぴくりともせん。お陰で重いわ、たわけめ。何が、英雄(ひいろお)になろうじゃ。何が、殺さないし殺させないじゃ。何が、独りにさせない……じゃ。

 くだらん。くだらんくだらん。結局こうして気を失ってしまえば、それは儂の勝ちでお主の負けじゃろうが。勝負である以上、勝ちは譲らんぞ。絶対譲らん。今回は、今回も儂の勝ち。ふふん。出直して来い。

 

「双方止まれ! そこまでだ!」

 

 号令が掛かった。と言うことはつまり、儂の勝ちじゃの。勝負が終わってしまったことが、ただただ不満じゃ。もっともっと楽しめたのに、こんな形で終わらせおって。

 くらすめぇと達や相澤が、一斉に駆け寄ってくる。当然被身子も。これはもう、後で大変かもしれん。じゃって領域を見せてしまったわけじゃし。麗日が青ざめているのは気の所為ではない。また苦労を掛けることになりそうじゃ。それから。

 

 ……繰り返すが、別に絆されたわけじゃない。ただひとつだけ、言えることが有って。

 

 常闇の言葉を。今まで不快じゃと思っていた、皆の言葉を。

 

 

 今は少しだけ、嬉しいと思えたんじゃ。

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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