待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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円花の停滞。入浴

 

 

 

 

 

 勝負は儂の勝ち。と言っても、まだ勝ち名乗りは上げとらん。常闇が気絶した後、上げる暇も無かったからの。負った傷は、反転術式(はんてん)で綺麗さっぱり治した。ぴくりともしなくなった常闇は保健室行きじゃ。飯田と障子が担架で運んで行ったわ。それを見送った後、今回は解散となった。取り敢えず儂は寮に帰るなり、被身子と風呂に入ることにした。何せ全身血塗れじゃったし。青ざめた麗日が、まずは風呂に入るべきじゃと皆の前で提案してくれたお陰でも有る。

 被身子はと言うと、風呂に入るなり儂に噛み付いて来たわ。儂の全身を染めている血を、お湯で流してしまう前に。こればっかりは仕方ないので、好きにさせてやった。儂がくしゃみをするまで一切自重してくれなくっての。それはもう大変じゃった。……別に良いんじゃけど。被身子に熱烈に求められるのは、嬉しいし。何ならその、色々してくれても良かったんじゃけどな。色々。

 どうにも被身子に噛まれると、その気になってしまう。いかんいかんと思いつつも、どうにも。流石に英雄(ひいろお)科寮の風呂場で事を始めるわけにはいかんから、我慢したけれども。

 

 ……むぅ。後で抱いて貰おう。滅茶苦茶にして欲しい。

 

 そんな煩悩はさておき。

 

「〜〜っ、はぁ……。染みるぅ……」

 

 風呂は良いぞ、風呂は。特に冬場は最高じゃ。湯船に浸かってゆっくりすると、心が安らぐ。疲れも取れるし、極楽じゃ極楽。まぁ夏場の風呂も捨て難いんじゃけどな。つまり、どちらも最高ってことじゃ。風呂は素晴らしい。最高なんじゃぁあ……。

 

 あぁ、溶ける。溶ける溶ける。体も心も、溶けていく。湯の中は心地良いなんてものじゃない。被身子に抱き締められて寝るのと大差無いぐらいに幸せじゃ。今宵も長湯して、何なら明日は朝から長湯してしまおう。結局泊まることになったからの。うむ、そうしよう。

 

「んふふ。ふにゃふにゃしちゃってカァイイ……♡」

「んん……っ。こら、被身子」

 

 隣に座る被身子が、儂の耳に接吻(きす)をする。肩を抱き寄せて、頭を撫でて。風呂の中でこうして触れられるのも、悪くない。喜ばしい限りじゃ。……まぁ、流石に程々にしてくれないと困るんじゃけども。この湯の中では、えっちな事は無しじゃからな? 駄目なんじゃからな??

 

「廻道ーー! たまには一緒に入ろーー!」

「お風呂で女子会しようよ廻道ちゃん!」

「円花ちゃん、お風呂で寝ちゃ駄目よ?」

「ご、ご一緒して良いかな……? 渡我先輩も、良い?」

「今日はお疲れ様でした皆さんっ。ぜひこの入浴剤を試してくださいませ!」

 

 ……騒々しくなって来た。風呂場でぐらい静かにしてくれと、思わんでもない。渋々と風呂の出入り口に顔を向けてみると、そこには芦戸やら葉隠やら、梅雨やら麗日やら八百万が居る。で、その奥で耳郎が服を脱いどるようじゃの。まさかの全員集合とは……。

 まぁ、疲れてるのは儂だけでは無い。今日は女子(おなご)達全員が疲れている。被身子じゃってそうじゃ。皆、年越しの為の大掃除で忙しかったからの。

 

「んふふ。ちゃんと体を洗ってから入ってくださいねぇ」

「肩まで浸かるんじゃぞぉ……」

 

 取り敢えず聞かれたからには、受け入れるとする。この大きな風呂は女子共用なんじゃし、断る理由が無い。そもそも借りてるのは、儂の被身子の方なんじゃから。

 まぁ、被身子と二人きりの方が良かったとも思うんじゃけども。間の悪い連中め。仕方ないから許してやるけどっ。

 

「ってうわ、血の匂いスゴッ……!?」

「あんなに血塗れでしたものね……。廻道さん、あれだけの血液を操ってお身体は……」

「大丈夫ですよぉ。あれは呪力を血液に変換してただけなので」

「……なるほど、そうでしたのね。心配しましたわ」

「えっ? 呪力を血液に変換……?」

「反転術式とは違うのかしら……?」

「んー……。まぁ、反転術式の応用みたいなものですよぉ」

 

 ……んん。騒々しい。被身子が八百万に説明してくれたから、儂は黙っておこう。今は口を開くことすら面倒じゃから。そんな事より、しっかり湯船を堪能したいんじゃ。広い湯船は良い。温泉じゃったらもっと最高なんじゃけども、そこまで求めるのは贅沢か。まぁでも雄英は広いし、その辺を掘れば温泉のひとつやふたつぐらい出て来たりしないかの? 流石に、幾ら雄英でも無理か。何なら露天風呂でも良いんじゃけどな。はふぅ……。

 

「それで、廻道ちゃん。常闇くんはどうだった?」

「……ぁー……」

 

 常闇……。常闇かぁ。葉隠よ、今その名を口に出すのは止した方が良い。と言うか、止せ。せっかくの広い風呂で、あれやこれやと考えたくはない。何より、被身子が不機嫌になるじゃろ。後で大変なのは儂なんじゃぞ。……って、別に今夜は大変になっても良いか。そういう気分じゃし。ほへぇ。

 

「まぁ常闇くんについては、後でです後で。今の円花ちゃんに物事は考えられないので」

「廻道ってお風呂入ると溶けるよねー」

「ふにゃふにゃのとろとろなのです。昔からこうなんですよねぇ」

 

 うるさいぞ芦戸。良いじゃろ溶けたって。極楽なんじゃから、溶けるのは自然の摂理じゃ。誰じゃって疲れた体で風呂に入れば、それはもう自然と溶けてしまうものじゃ。ぁあ゛っ、極楽極楽……。もはやこのまま寝てしまいたいぐらいじゃなぁ。被身子に抱き寄せられたまま、湯に浸かって寝る。それはひょっとして、悪くないのでは? 最高に幸せな気がしてならん。

 

 ……無理か。流石に無理じゃな。湯に浸かったまま寝ようとすると、叩き起こされるし。

 

「気持ち良いのは分かるけど、寝ちゃ駄目よ? 危ないわ」

「気を付けてね廻道さん。湯船で溺死は洒落にならんから」

 

 んん……。うるさぃ。分かっとる分かっとる。危険なのは、知っとるわ。じゃからこうして気を付けて……。気を、付け……て……。

 

 んぅ……。

 

「もぅ。カァイイですけど、寝ちゃ駄目ですよぉ」

「寝とらん寝とらん……」

 

 起きてるぞ。起きてるからな……? じゃから頬を抓るんじゃない。大して痛くもないから、気付けにもならんのじゃ。どちらかと言えば、くすぐったいぐらいで。

 瞼は重いが、しっかりと開いて置かなければ。でも眠いし、片目ぐらいは閉じてて良いかのぅ……? 半分だけ、半分だけ寝てしまっても……。ってこら被身子。何で首を擽ってるんじゃ。人前でせくはらは……。……良いけど。今は許して……。ん? おい、何で離れ―――。

 

「ぬおあっ!?」

 

 なんて思っていたら、首から大きな音が聞こえた。驚いて跳ね上がると、原因が分かった。被身子の指かと思っていたものが、耳郎の耳朶だったからじゃ。お陰で、良い具合にうたた寝していたのに目が覚めてしまったでないか。何をしてるんじゃこやつは!?

 

「起きた? 寝たら駄目でしょ」

「……まぁそうじゃけど。ぐぬぬ……」

 

 確かに風呂で寝てしまうのは危ない。危うく寝惚けるところじゃった。起こしてくれた事自体はありがたいものの、良い気分が台無しじゃ。ありがたいが恨めしいので思いっ切り睨んで見るが、耳郎は飄々としとる。……ちっ。まぁ許してやろう。寝そうじゃった儂が悪い。

 しかし気分は台無しじゃから、もっと長湯するとしよう。いや、むしろ後で入り直すとするか。今は気が逸れてしまった。

 

「……はぁ……。まったく……」

 

 気が変わってしまった。風呂から出るのは名残惜しいが、今夜はこのくらいにしておくかの。もっともっと長湯したいと思ってしまうが、風呂場が騒々しいのは好きではない。風呂はこう、ゆっくり静かに長々とじゃな……。

 あぁいや、やはりもう少し……。せっかく湯から、何か良い香りがするんじゃから。そうじゃな、足だけでも浸からせておこう。こう、浴槽の縁に腰掛けてじゃな……。うっかり体を冷やさなくて良いように、頭に巻かれていた長手拭い(ばすたおる)を体に巻いておくか。うむ、これでよし。

 

「目も覚めたみたいだし、……廻道さん。改めて、常闇くんはどうやった?」

 

 髪やら身体やらを洗い終えた麗日が、儂の横を通り過ぎて良い香りがする湯に浸かった。他の女子(おなご)達も、続々と湯に入り始める。被身子は儂の足元に来て、儂の足に横から寄りかかったけども。

 ……常闇の実力……か。どうかと聞かれたら、それは十分と言わざるを得ないじゃろう。じゃって、攻撃力だけならあの筋肉阿呆を想起させるぐらいのものじゃった。学生で、しかもまだまだ子供なのに……じゃ。その点については、褒めるしかないぐらいじゃの。まさかあれ程までに個性を鍛えていたとは。力だけではなく、操作精度も高めていたように思える。

 

「ダークシャドウちゃんに包まれた後、何が有ったの? 外からは何も見えなかったわ」

「儂も見えとらんよ。中は何一つ見えんかったからのぅ」

 

 ただ、感じることは多かった。間違いなく、何度もだぁくしゃどうに殴られた。引き裂かれた、貫かれた。儂に大怪我をさせる程の力を、まさか常闇で堪能出来るとは思わなかった。不完全燃焼じゃったけども、大いに楽しめた。嬉しかった。喜んだ。まぁ、まだまだ課題点は有るんじゃろうけどな。もっともっと、あの技を洗練出来るはずじゃ。あれが限界点では勿体ない。更なる成長を見せて欲しいのぅ。

 

 ……それと、最後に言っていたあの言葉は。夜闇の中で、落下しながら叫んでいたあの言葉は。

 

 

『俺達と! ヒーローになろう!』

 

『誰も殺さない、誰も殺させない……! そして誰かを救けられる、そんなヒーローに……!!』

 

『俺は、もう……! 廻道を独りにはさせない……!!』

 

 まだ、はっきり思い出せる。こうして思い出してみると、やはり少し……嬉しくて。あぁ、そうじゃ。僅かでも、嬉しいと思えた。喜ばしかった。じゃって、常闇は確かに力を示した。その力で、儂に勝とうと挑んで来た。他の者と強力すれば、もしかすると勝っていたかもしれんのに。それでも独りで、儂に挑んで。

 ……そう考えると、馬鹿者じゃなぁ……。何に拘ってるかは知らんけど、拘ったせいで儂に負けて。じゃけど。

 

 じゃけど。常闇のあの成長を、あの力を、無かった事にしたくない。儂に勝ち切るにはまだまだ足りぬけど。今はまだ、満足させてやるつもりは無いんじゃけども。

 

 ……でも。ひとつだけ。これだけは、譲っても良いのかも知れん。その資格を、常闇に与えたって……良いのかもな。

 もっとも、守る対象であるのは変わらん。そこばっかりは、変えられん。死んで欲しく無いんじゃ。どうしたって儂は、子供に傷付いて欲しく無いんじゃから。

 

「……勝ちは譲らん。じゃけど、まぁ……」

 

 まぁ、その。大分言い難い。言葉に出すのを、躊躇ってしまう。いっそ態度で察してはくれんかの? ……無理か。

 どうするべきか。どうしたら良いのか。ふと、被身子を見る。そしたら儂を見て、手を握ってくれた。笑ってくれた。……背中を、押してくれた。

 すっかり見透かされてしまっている。何じゃか悔しい。ぐぬぬ。

 

「……言っておくが、まだまだ足りんけど。じゃけど」

 

 まだ足りない。まだ認められない。……それでも、信じて良いんじゃな? 少しは、今だけは……信じようとしたって。譲ってみても、良いんじゃよな……?

 

 これが正しいのかは分からん。やはり心の何処かで、間違いじゃと思う。でも、じゃけど。

 

 力を、成長を。実力を示した常闇だけは、認めようと思ったんじゃ。

 

 

 

「……その。常闇を、認める。

 常闇だけじゃからな? 常闇だけなんじゃからな!?」

 

 

 

 

 

 

 






常闇くん、知らぬところで円花に認められるの図。次回更新で、円花の停滞編は終わりです。その次は年明けのインターン編です。またしばらく、更新はお休みしようと思います。

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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