待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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円花の停滞。これから

 

 

 

 

 

 

 常闇が成長を見せ付けてくれた、その翌日。儂は被身子と、昼過ぎ頃に起きた。昨晩はすっかり盛り上がってしまったとは言え、怠惰な生活を送ってる気がする。……まぁ、良いか。冬休みじゃし。

 そもそも休学中の身分であることには、目を背けたいところじゃ。昨晩は仕方ないと見逃して欲しい。今晩は少し自重するとしよう。毎晩毎晩、大盛り上がりするのは違うからの。

 

 ……それはさておき。

 

 汚れた布団は何とか人目につかないように纏めて洗濯機に放り込んで、そのまま風呂へ。寝起きから長風呂をしたその後で、遅過ぎる朝食で胃袋を満たして、たまたま居合わせたくらすめぇと達に全員集めるよう頼んでおいた。一応、勝負の結果について話しておきたいと思ったからの。それと、常闇を認めたと決めたことも。

 ……まぁ、何と言うか。常闇を認めようと思った時点で、色々と話さねばならん事がある。それも含めて、話すべきなんじゃろう。元々、儂はくらすめぇと達とは意見を対立させている。今一度考えてみても、悪党は殺すべきじゃと思うから。殺人は良くないと思いつつも、結局は殺してしまうのが一番手っ取り早いと思ってしまう。

 

 じゃって、そうじゃろ? 一度捕まった程度で、悪党が更生するとは限らない。刑期を終えた後、自らを捕まえた英雄(ひいろお)や警察に何かしらの復讐を働かないとは言い切れんのじゃ。復讐を未然に防いだり、防げなかったりした時、全ての英雄(ひいろお)が仕方ないの一言で済ませられるとは思わんから。

 

 善なる者が、悪意に染まらないとは言い切れんし。中には居るじゃろうな、悪党に堕ちてしまう英雄(ひいろお)が。

 人を救ける者が、人を傷付ける者に変わるなど笑い話にもならん。

 

「まーどーかー、ちゃんっ♡」

「んぐっ。……何じゃもぅ、仕方ない奴め」

「んふふ。トガはまっこと仕方ない奴なので! イチャイチャしてないと気が済まないんですよぉ」

「まっこと、仕方ない奴じゃなぁ……」

 

 くらすめぇと達全員が食堂に集まるのを、茶でも啜りながら待っていると、洗い物を済ませた被身子が抱き付いてきた。仕方ないから頭を撫でたり頬を撫でたり、それと抱き締め返してみたりする。今日も被身子は平常運転、とでも言うべきか? この甘えたがりめ。ほれほれ、 思う存分甘やかしてやろう。

 

「ヨリくんて、ほんと撫で上手なのです。何処で覚えたんですか?」

「知らん。お主の四倍ぐらいは生きてるからじゃろ」

「八年貰ってるので、正しくは三倍です」

「儂の記憶をお主の人生に含むのは違うと思うんじゃけど」

 

 そもそも、儂の記憶を夢で追体験してるだけで実際に八年過ごしたわけでは……。いやまぁ、被身子の体感的には八年経ってるわけで。精神的には、今は二十五歳ってことになる……のか? いやいや、肉体は十七歳なんじゃから十七歳じゃ。儂の記憶を追体験したって、性格とか考え方に変化が起きたわけでもないしの。と言うか、呪術界を八年も見ておきながら被身子は何も変わらないのか。それはそれでこう……。

 

「私の人生ですぅ! そのうち同じだけ過ごすので、待っててくださいっ!」

「儂の記憶なんて、そんな良いものではないんじゃぞ……?」

「トガにとってはとっても大切なのっ。もぅ、分からず屋なんだから」

 

 いや、分からず屋はお主の……。……まぁ、良いか。過去も未来も現在も、儂の全ては被身子に渡したって良いと思ってる。まさかここまで惚れ込むとは思わなかったし、何か負けた気がして悔しいが。同じぐらいに幸せじゃと思ってしまうのも、また事実じゃけど。

 

 ……まっこと、どうにかしてしまったのぅ。被身子が愛しくて堪らん。人間、誰かを好きになり過ぎるとこうもおかしな考えをしてしまうのか。愛に生きるとは、こういう事なんじゃろうか? じゃとしたら、恋愛とか結婚とかしてる連中は例外なく狂ってるのでは……?

 

「あ、なんか今失礼な事考えました?」

 

 ぎ、ぎくっ。

 

「……ぉ、お主が愛おしいって思っただけじゃぞ?」

「えへへぇ。もっと言ってくださいっ」

「ぐぇえっ」

 

 じゃ、じゃからっ。そんな全力で抱き締めるんじゃない。息が詰まる、顔が胸に埋もれるっ。まったく、お主はいつもいつも仕方ないんじゃから。そういうところも、大好きじゃけどなっ。

 

「いつも廻道と渡我先輩は仲良しだな」

「仲良しなのは良いことだぞ轟くん! しかし廻道くん、渡我先輩! 人目は気にして頂きたいっ!」

「また二人して座敷牢行きになるんとちゃう……?」

 

 ……被身子と触れ合っていると、何やら騒がしくなってきたの。轟と飯田と、麗日が姿を見せた。珍しい組み合わせな気がしないでもない。じゃってほら、飯田に麗日と来たら緑谷な気がするじゃろ? 今回は轟じゃけども。

 

 と言うか、緑谷は居るのか? 昨晩も任務じゃったなら、今の時間は寝てるかも知れん。もし寝てたら、起こすのは気が引ける。姿が見えないままじゃったら、緑谷無しで話を進めよう。今日儂が話すことは、後で誰かに伝えて貰えば良い。そうじゃなぁ、麗日にでも頼むか。

 

「んふふ。おはようございますお茶子ちゃんっ」

「もう昼やけどね。おはよう渡我先輩。廻道さんも」

「……おはよう」

 

 ……ちっ。麗日め。被身子の意識を儂から逸らしおって。被身子を絆す暇が有るなら、さっさと緑谷とくっ付いてしまえ。そしたらほら、被身子に構う暇も無くなるじゃろ?

 いやまぁ、被身子に信頼出来る友人が増えるのは良い事ではある。こやつは友達が少ないからの。しかしそれはそれとして、恋人として許嫁として嫉妬してしまうんじゃけど。

 

 あぁ、そうか。被身子が常闇に嫉妬してる時は、こういう感じなのか。儂を一番に好いてくれてるのは分かっていても、それでもむっとしてしまうものなんじゃなぁ。ぐぬぬ、理屈としては分かるがじゃからって納得出来ん。儂の被身子じゃぞ、儂の。その辺り、分かってるんじゃろうな麗日ぁ……!

 

「んふふ。嫉妬しちゃってカァイイねぇ、カァイイねぇ」

 

 ぐぬぬ。頭を撫でたって騙されんぞ。騙されんからな?? まったく、こやつと来たら。儂が嫉妬してるんじゃから、もう少し焦ったって良いんじゃないのか? 儂はお主が嫉妬する度に冷や汗ものなんじゃぞ。たまには慌てふためいたら良いんじゃ。

 それはそれとして、撫でるならもっと撫でろ。雑に撫でたら許さんぞ。こう、真心込めて撫でると良い。ふふん。

 

「来たぜー廻道。全員集めて、話って何だ?」

「なんか真面目な話、……って感じでも無さそうじゃね?」

「座敷牢放り込んどけやクソ髪」

「いや、まだ何もやらかしてねーって」

 

 被身子に撫でられていると、今度は四馬鹿がやって来た。舎弟が何か言っとるが、それは切島にでも任せようかのぅ。他方面に噛み付くよくなどうしようもない小僧じゃけども、割りと切島や上鳴。あと瀬呂とはそれなりに仲良く出来とるようじゃし。現に四人纏まって顔を出したんじゃから、何だかんだで居心地良く思ってるんじゃろ。知らんけど。

 ……まぁ、いい加減。舎弟を真面目に躾けてやらんとなぁ。一度絞めるか……? いや、余計に反発するだけか。これは後で考えるとしよう。

 

 ……さて。続々とくらすめぇと達が食堂に集まっているの。姿が見えないのは……常闇と緑谷か。緑谷については来れなくても仕方ない。儂が休学しとるせいじゃ。それで、常闇は? あやつが来ないと、話を始め難いところなんじゃが……。

 

「俺が最後か……」

 

 お、来たの。気怠そうにしているが、体は大丈夫そうじゃ。昨日の怪我は、保健室でしっかり治して貰ったんじゃろう。結局、緑谷だけは居ないけれども。……まぁ、話してしまうとしよう。

 

「緑谷は来れんようじゃから、緑谷は無しで進める。麗日、儂の話は後で伝えてやってくれ」

「えっ、うん。分かった」

 

 緑谷には、後で麗日に伝えてもらうとしよう。……それじゃあ、真面目に話すとするか。大事な事じゃから、しっかり伝えないとな。その結果どうなるかは、何となく想像出来てしまうんじゃけど。

 

 ……騒がしくなるんじゃろうなぁ……。んんむ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑谷以外の全員が食堂に集まったので、まず全員を椅子に座らせることにした。長い話にするつもりは無いけれども、立たせっぱなしにしとくのはそれはそれで違うからの。

 

 これから話すことは、……まぁその。とても重要な事じゃ。重要な事なんじゃけれども、やはりどうしても気が引ける。昨晩はそうしようと決めていたのに、いざ話す機会を設けると……足踏みしてしまいそうになる。

 らしくないと思いつつ、深呼吸をひとつ。それから、全員の顔を見渡す。真面目に聞こうと固くなってる者も居れば、早く済ませろと言わんばかりの態度を取っている奴も居る。後者は一人だけじゃけども。それと被身子。これから真面目に話すんじゃから、儂の手を弄くり回して遊ぶな。まったく、仕方のない奴め。お陰で、少し気楽じゃけども。

 

「……全員知っての通り、昨晩常闇は儂に挑んだ。結果は見た通り、儂の勝ちじゃ」

 

 昨晩の勝負の結果は、やはり儂の勝ちじゃ。そこは譲らん。絶対に譲らん。まだまだ負けてやるつもりは無いからの。……じゃけど。

 

「じゃけど、常闇は儂に奥の手を使わせる程の成長を見せた。儂はそれが嬉しかったし、楽しかった」

 

 そう。常闇の成長は、著しいものが有った。試す形、受けて立つ形では有ったものの、儂が領域を使うしかないと思ってしまう程に強くなっていたんじゃ。また手合わせしたいところじゃ。もちろん次も儂が勝つが、常闇が更なる成長をすればもっと楽しい筈じゃからの。

 それに、場合によっては遊びを捨てねばならんじゃろう。儂はほら、どうしても戦いを楽しんでしまうから。真正面から受け過ぎる悪癖がの……。手っ取り早く終わらせることは出来るのに、長引かせたくなってしまう。楽し過ぎて、どうにも続けたくなってしまうんじゃ。

 

 あぁ、次の機会が楽しみじゃなぁ……。まさか常闇と、あんなに楽しい時間を過ごせるとは。思い返してみたら、また手合わせしたくなって来た。後で提案してみよう。けひっ。

 

「……おほん。それで、じゃからまぁ……。そのぉ……」

 

 言い難い。つい、子供達から目を逸らしてしまう。そしたら被身子が、儂の肩に頭を乗せた。背中に回した手で、背中を軽く叩いてくれた。また見透かされてるのぅ。何じゃか悔しい。

 ……でも。大丈夫じゃと言ってくれているようで、少し安心してしまう。

 

「その、な。……勝てなかったとは言え、常闇は儂に届いたと思う。じゃから」

 

 ……じゃから。……むぅう……。

 

 

「……常闇だけは、認めることにしたんじゃ。頼ろうと思う……し、まぁ少しは……考えを改めてみても……」

 

 

 ……ぐぬぬ……。何か負けた気がする。勝ったのは儂なのに、敗北した気分じゃ。って、おい。何じゃ貴様等。何で全員して固まってるんじゃ。常闇は実力を見せた。まだ儂に勝つことは出来ぬが、儂が認めても良いと思う程の力を見せ付けたんじゃ。

 じゃったら、儂は考えを改めようと思っても何ら不思議では……。

 

「そ、それ……って……」

「それって! ヒーロー目指すってこと!?」

 

 んぐっ。いや、何故そうなるのか。確かに認めたし、考えを改めようとは思っとる。でも何で、そこで儂が英雄(ひいろお)を目指すって話になるんじゃ。それは違うじゃろ。そもそもじゃ、元はと言えばこの件は殺人の是非についての衝突じゃ。あの時は儂が勝ったから、儂は妥協して英雄(ひいろお)科に残った。……もっとも、今は呪術科に移籍しとるんじゃけども。その点は約束を破ってるから、申し訳ないと思ってる。

 

「違ぇだろ。クソチビと、(ヴィラン)を殺る殺らないの話をしても良いってだけだろうが」

 

 お、そうじゃ。そうじゃぞ舎弟。分かってるではないか。その調子で周りを黙らせてくれると、儂は大助かりじゃ。たまには役に立つの、舎弟のくせに。

 

「いやでも、その話するってことは結局さ。俺達とぶつかり合って……ヒーロー目指すって事じゃね?」

「違ぇわアホ面。殺す殺さねぇの話を、トリ頭だけがしていいって話なんだよ。

 んで、これからどうすんだクソチビ。トリ頭」

「……まぁ、その件では常闇の話には応じる。し、色々と……少しは頼るつもりじゃ」

「あ゛? 何を頼んだよ……!」

「……色々じゃ。呪術界での事も、……ひいろおの事も」

「……ちっ。んな事言う為に、わざわざ全員集めてんじゃねぇ……!!」

 

 え、えぇ……? 何でそこで、こうも大爆発するんじゃ貴様。物凄い面をしおって。儂からすれば、これは大事な話なんじゃが?

 それをぞんざいに扱いおって。ゆ、許さん……!

 

「―――爆豪くん、ちょっと黙ってください」

 

 ひえっ。い、いかん。落ち着け被身子……っ。いきなり隣で殺気立つんじゃないっ。肝が冷えたじゃろうが……! それとっ、呪力を練るんじゃない……!

 

「これはとっても大事な話なのです。あの円花ちゃんが、人に頼ろうとしたり考えを改めようとしてるんですよ?」

「そうだよ爆豪! これって大事件だよ!?」

「その通りだ爆豪くん! 廻道くんの新たな門出を邪魔してはいけない!!」

 

 いや、飯田。新たな門出て。そんな大層なものではないじゃろ。そもそも、何じゃってどいつもこいつも大騒ぎし始めるのか。いかんのか? 儂が人を頼ろうとしたり、考えを改めようとするのがいかんのか? げ、解せぬ……。あれだけ儂に独りになるなと言っておきながら、いざ頼ろうとするとこの反応……! き、貴様等ぁ……!

 

「と言うわけで、現状円花ちゃんは常闇くんだけしか頼らないのです。みんなも頼られたいなら、しっかり強くならなきゃ駄目ですよぉ。

 円花ちゃんみたいなヒーローになりたいなら、もっとプルスウルトラしてください!」

 

 おい。おい被身子。何を勝手に話を纏めて、何を勝手に焚き付けてるんじゃ。そういう風に宣うと、それはそれで良くないじゃろっ。

 

「っしゃ、みんな特訓しようぜ特訓! 廻道に認めて貰えるように!」

「おーーっ! やろうぜみんな!」

「そうですわ……! 私達も、常闇さんのように!」

「じゃあウチ、場所借りてくる」

「私も行くわ響香ちゃん」

「みんなで頑張ろう!」

 

 ……はぁ、まったく。それ見たことか。お主が焚き付けたから、こうなったんじゃぞ? 年末じゃって言うのに、やたら騒々しくなってしまった。いやまぁ、被身子が焚き付けんでもこうなってたかもしれんけど。儂が常闇を認めてしまったから、他のくらすめぇと達も常闇のように認められたいと思うのは当然と言えば当然で。

 

 まぁ、でも。儂に認められたいと、儂に頼られたいと張り切る子供達の姿は、何と言うか悪くない。こういう光景を見るのは、久しぶりな気がしないでもないしの。

 

 どれ、そうじゃな。久しぶりに、儂も混ざって鍛錬するか。個性伸ばしは目下の課題じゃし、いつ一つ目の奴と遭遇するのか分からんしの。轟に付き合って貰おう。

 

 ……それはそうと。常闇、何じゃその面は。まるで納得しとらんような顔をしおって。仕方ない、後で話し掛けてやるとするか。

 

 

 この後。儂は一日中、くらすめぇと達の鍛錬に付き合った。儂の個性伸ばし自体は、進歩してるのかしてないのかまるで分からん。流石に吐く回数は減った……と思いたい。個性の扱いについては、急いだ方が良さそうじゃ。

 来年の抱負は、個性を完璧に使いこなせるようになる……ってところかのぅ。

 

 

 

 

 

 






と、言うわけで円花の停滞編はこれにてお終いです。もうちょっと短く纏めたかったですね。次回はインターン編です。ちょっとお休みして、また年内に更新出来たらなと思います。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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