待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
……ちっ。今日のいんたぁんは、えんでゔぁより速くは動けなかった。直ぐにでも追い越してやろうと思ってたんじゃけど、流石に年季の差が出ている。あやつは長年
ぐぬぬ。ぐぬぬぬ。
「ど、どぅどぅ……。落ち着いて落ち着いて」
「……ふん。儂はすこぶる冷静じゃけど?」
「そ、そうかなぁ……。物凄く不満そう……」
夕方。儂等は今日のいんたぁんを切り上げた。と言うのも、夜になったら呪術師としてえんでゔぁに指導せねばならんからじゃ。それまでの空き時間は、個性鍛錬に使わせて貰うことにした。出来れば実戦形式が好ましいんじゃけど、それをやる為の設備も場所もこの事務所には無い。仕方ないから、運動部屋で鉄亜鈴を回しておる。緑谷は、せっせと筋力を鍛えてる真っ最中じゃ。轟と舎弟は、一旦部屋に戻っておる。ながんとえんでゔぁは、二人で何処かに行った。多分この事務所の何処かに居るんじゃろう。何をしているのやら。
『すっかり拗ねちゃってるのです。エンデヴァーに何かされました?』
膝の上に置いた
「……別に。色々と気に食わんだけじゃ」
気に食わん。まっこと、気に食わん。今に見てろよ、あの燃え面め……! 直ぐにでも追い越してやる! ふんっ!
『ほんと、負けず嫌いなんですから。カァイイ♡』
「ははは……。廻道さん程の負けず嫌いは、そう居ないかも」
『A組のみんなも、しっかり負けず嫌いですけどねぇ。でなきゃ円花ちゃんに挑まないので』
「そ、そうかな……? 流石に廻道さんには負けるかなって……」
『五十歩百歩ですよぉ』
何やら話している二人を横目に、儂はひたすら鉄亜鈴を回す。右手と左手で、ぐるぐるぐるぐる。右回転も左回転も、等しく扱えるようになりたいからの。反動による目眩は吐き気は、いい加減に身体が慣れて来たのかそこまで酷いものではなくなった。とは言え油断していると直ぐに吐く羽目になるので、念の為に気を付けておくとしよう。
……それにしても。ぐるぐる回ってる物を見ると目が回りそうになるの。意識は向けたまま、視線は逸らすとするか。そうじゃなぁ、例えば緑谷。こやつもこやつで、ずらりと並んでいる鍛錬器具を使って体を鍛えておる。日々の努力はしっかりと継続中のようで、感心感心。
今、どこまで個性を引き出せるようになってるんじゃろうな? 前は確か、二割か三割程度じゃったの。そろそろ四割か五割ぐらいは引き出せるのか? ……いや、まだ早いか。今度聞いてみるとしよう。半分以上の力を引き出せるのなら、是非とも手合わせしたいところじゃ。かつてのおおるまいと並の動きをしてくれるようになれば、良い相手になるじゃろう。そうでなくては、困る。
「そう言えば、今のお主の課題は?」
「……いっぱい有るよ。でも今は、エアフォースを無意識で使えるようになりたい。それが済んだらひとつひとつ、別の事も無意識で使えるように訓練してく」
「なるほど。しっかり励め」
「うん。早く使いこなせるように、頑張るよ」
ひとつひとつ、無意識に使えるようになる……か。緑谷は覚えなければならん事が多過ぎるからの。時間は掛かるが、悪くない鍛錬方法じゃと思う。儂も、個性についてはひとつひとつやって行くしかないじゃろう。何度も何度も使い続けて、やがては術式と遜色無く扱えるようになりたいところじゃ。
その為にも、回転の反動に耐えられる身体作りをしなければな。これは個性伸ばしをしてればいずれ身に付くじゃろうから、ひたすら個性を使い続けるしかない。
……うっぷ。いかん、気持ち悪くなって来た。個性を使い続けながら、ひとまず
あぁ、そうじゃ。反転術式と言えば。
「……」
『んふふ。そんなに見詰めて、何ですか? もしかしてトガが恋しいとか!』
「いや……、別に……」
それはそうでは有るけれども、今は恋しくて見詰めてたわけではない。単純に、羨ましいから見詰めてただけじゃ。つまり、嫉妬じゃ。
何せ被身子は、反転術式を人に施せる。儂の記憶を体験して、儂に等しい呪力操作を得たのは良い。それは構わん。じゃけども、
『むーーっ。そこは恋しいって言ってくれないと!』
「……恋しいのはいつもの事じゃ。まったくお主は……」
『えへへぇ』
「褒めとらんからな?」
まったく。隙あらば調子に乗るんじゃから。今更それを駄目とは言わんけど。
……それにしても。まさか被身子が反転術式を使えるようになるとはなぁ。じゃからって呪術師になって欲しいとは思わんが、結局はあれこれと教える羽目になってしまった。今回の
呪術師に、
さて。個性伸ばしに集中するとしよう。
この後、儂は盛大に吐いた。まさか途中から、反転術式でも回復が追い付かないとはの。これは、反動が大きくなる理由を突き止めなければ……っ! おぇええっ!!
◆
機嫌が悪い。吐くと機嫌が悪くなるのは、誰でもそうじゃとは思うが。いっそ誰かに八つ当たりしたい気分じゃけども、流石にそれは控えねばならん。人として駄目じゃろうて。
まぁ、
……ふぅうう……。
……、……よし。気持ちを切り替えよう。これから儂は、えんでゔぁにあれこれと指導しなければならん。具体的には、補助監督としての立ち回りが何たるかを教える。そうして補助監督として経験を積んでから、窓になってもらう。それが総監部の算段じゃ。儂もそれで良いとは思う。
夜。すっかり日が落ちて、人目が付かなくなった夜更け。儂は、えんでゔぁとながん、それから緑谷……に、轟と舎弟を連れて廃病院にやって来た。
どうやら十年程前に病院が移設したそうでの。その際残った建物を解体しようとしたら、何やら不可解な現象ばかりが起きて工事の手を止めざるを得なかったらしい。で、そのまま十年近くも放置と。そうこうしている内に、地元で有名な心霊
何にせよ、じゃ。この廃病院は、不可解な出来事が多く起きている。じゃから、今回儂や緑谷に任務が振られた。ついでにえんでゔぁの教育まで任されておる。何とも面倒この上ないが、今後の為じゃ。面倒臭がらず、指導して行くとしよう。
「緑谷、帳」
「……うん。分かった。
闇より出でて闇より黒く。その穢れを禊ぎ祓え」
おっ。駄目元で頼んでみたが、どうやら帳程度は降ろせ……るようにはなっておらんか。駄目じゃこりゃ。まるで形になっとらん。
「ご、ごめん……。まだ上手く行かなくって……!」
「自信満々にやって出来ねえのかよ!? くたばれクソナード!!」
「黙っとけ小僧」
「っで!? だから人の頭を気軽に殴ってんじゃねぇえ!!」
「……緑谷は結界術に向いとらんなぁ。
闇より出でて闇より黒く。その穢れを禊ぎ祓え」
またも爆発した舎弟は放って置くとして、緑谷が帳を降ろせなかったので儂が降ろした。まぁ結界術は難しいからの。儂も、結界術を会得するのにかなり苦労した覚えが有る。今でこそ困らんが、かつては大いに困ったものじゃ。懐かしい。
……さて、それでは帳の内側に入るとするか。
「轟と舎弟は入ってくるなよ。貴様らは周辺の人払いじゃ」
「……あぁ、分かった。気を付けてな」
「うむ。そうしよう」
「うん、行ってくるね」
「……チッ。さっさと済ませやがれってんだ……!」
お? 意外と素直じゃの。てっきり付いて来ようとするかと思ったんじゃが……。まぁ、良い。さっさと済ませて帰るとしよう。儂が居るなら、そう時間は掛からんじゃろうて。
「ほら行くぞ、えんでゔぁ。勝手な真似はするなよ」
「その前に教えろ。この黒い膜のようなものが、帳か? これは何の為に有るものだ?」
「……外部から内部を認識させない目隠しじゃの。呪術界は、いつの時代も秘匿せねばならん」
「何故だ?」
「……呪霊が人の負の感情から産まれるものじゃからじゃ。下手に呪霊が知れ渡ると、呪霊への恐怖で余計に産まれる」
「そもそも、呪霊が産まれないようには出来ないのか?」
「出来ん」
それが出来るのなら、過去の呪術師達がとっくにやっている。なのに前世でも今生でも、呪霊は蛆のように湧いてばかり。背広男の言葉が
「呪霊が発生する仕組みは、負の感情が集まるから……だったな。なら、その負の感情を分散させるのは?」
「人類の感情を操れるのなら、恐らくは可能じゃろうな」
ながんの提案は、存外間違ってはいないんじゃろうな。ただし、その為に必要な技術が無い。人間である以上、何なら生命である以上、感情は必ず備わってるものじゃ。それを操るなり、排除するなんて真似は誰にも何にも出来んじゃろうて。
結局のところ、ひとつひとつやって行くことしか呪術師には出来ん。呪霊が産まれたら祓う。また産まれたら、それも祓う。いつまでもいつまでも、そうするしかあるまい。他の方法が有るんじゃったら、是非とも教えて欲しいものじゃ。何なら、実践して見せてくれ。
「……この時代は呪霊が産まれやすいと聞いた。その原因は?」
「それは知らん。儂以外に呪術師が居なかった事も、こうも呪霊が産まれやすい事もな。いつまでも立ち話をしとらんで、さっさと終わらせるぞ」
えんでゔぁの質問にいちいち答えていると、きりが無い気がする。もしや、これから先ものやつのように質問されるのか……? それはそれで、中々面倒じゃのぅ……。事前に非術師が抱き易そうな疑問に回答しておいてくれんかの、総監部。何でもかんでも儂に押し付けるのは止めてくれ。面倒じゃし、任務に集中出来んじゃろうが。
とにかく。今はさっさと任務を終わらせよう。下手に時間を掛けてしまうと、帰るのが朝になってしまうからの。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ