待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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いんたぁん。轟家の長男

 

 

 

 

 

 

「夏雄。少し良いかの?」

 

 何とか夏雄を見失わずに済んだので、台所で皿に水を掛け始めたところで声を掛けた。そしたらこやつは、少し驚いた素振りで振り向いた。面が申し訳なさそうじゃ。自分が悪い事をしたと思っているようじゃけど、それはそれで違う気もする。じゃって、悪いのはえんでゔぁじゃろ? こうも長男……? に、嫌われるような真似をしたのはあやつじゃ。

 

「……空気を悪くしたのは、謝るよ。でも、抜け出して良かったの?」

「ほっとけなかったんじゃ。この家の事情は、……焦凍から少し聞いとるからの」

「……話してたんだ、焦凍」

「えんでゔぁからも、少し聞いてる」

「……」

 

 ……あぁ。こやつは、えんでゔぁが余程嫌いなんじゃな。思いっ切り顔を顰めて、文句のひとつやふたつぐらいは容易に飛び出しそうな顔をしておる。きっと夏雄は、儂が轟の友人じゃから我慢してるんじゃろうな。きっとこんな風には、したくなかったのかもしれん。でもこうなってしまったのは、それだけ父親を嫌っているからじゃ。どうしてそこまで嫌っているのかは、全てを聞いてみなければ分からん。想像は出来るがの。

 

「あいつが、うちの事情を人様に話してるとは思えないけど?」

「あの糞野郎から聞いたのは、今後の姿勢じゃ。何でも、妻や子供に償いたいそうじゃ」

「……そんなの、信じられるかよ」

「信じなくて良いと思うぞ? 儂もそれは信じとらんから」

「……、は?」

 

 いや、そこで目を丸くされてもじゃな。……って、あぁそうか。夏雄の目からすると、儂が咎めに来たように見えなくもないのか。わざわざ追っ掛けて、今日が初対面なのにこんな話を振ってるんじゃから。

 うむ、それはいかんな。その認識は正して貰わなければの。じゃって、儂は別にあの男の味方ではない。むしろ敵じゃし、許されるのなら呪ってしまいたい。何なら、殺したいぐらいじゃ。なにせあやつは、とうの昔に儂の逆鱗に触れておる。今後、許してやるつもりはまったく無い。

 

「儂、いわゆる毒親ってやつが死んでも嫌いなんじゃ。見てるだけで反吐が出そうなくらいに。……儂自身、前はそういう父親を持ってしまったからのぅ。何ならえんでゔぁと大差ないか、えんでゔぁより酷いものじゃったから」

 

 あくまで、前世の親じゃけど。えんでゔぁが贖罪に生きようとしてる時点で、比較にならん気もするが。

 

「じゃから、あの男が父として口にする言葉は一切信用しとらん。なぁにが償いたいじゃ、馬鹿馬鹿しい」

「……」

「そういうわけで、儂は焦凍の味方じゃ。その辺は覚えておいてくれると、助かる」

「……そっか。良い友達を持ったんだな、焦凍は」

「多分な。がははは!」

 

 儂が良い友人かどうか知らん。何なら悪友かもしれん。関係自体は良好じゃと思いたいが、散々迷惑を掛けてるのは儂じゃからの。向こうがどう思ってるかまでは分からん。まぁこうして夕食に誘ってくれたんじゃから、そこまで悪いものではないと思いたいが。

 

「……で、じゃ。お主が良ければ全部聞いておきたいんじゃけど、良いか?」

「……」

 

 ……んん。駄目そうじゃな。それもそうか。おいそれと人に話すような事では無い。ただの家庭問題だから首を突っ込むなと言われれば、それまでとも言える。じゃからって黙ってるつもりは微塵も無いが。

 仕方ない。こうなったら、冬美にも聞いてみるか。最悪、えんでゔぁに口を割らせる。それで駄目なら、もう呪ってしまおうかのぅ。それが一番手っ取り早いんじゃけど、焦凍が望んでない以上は仕方ないか。

 

「……ごめん。焦凍の友達に話せるようなことじゃない。でも……ありがとう」

「……そうか。長男は大変じゃな」

「俺は次男。長男は……もう居ないけど」

「は?」

 

 ……は? 次男? 夏雄が長男なのではなくて? そして、もう居ないとは……? おい、おいえんでゔぁ。まさかとは思うが、もしや貴様……。

 

「これだけは教えてくれ。長男は、生きてるのか?」

 

 場合によっては、増々えんでゔぁを許せない。もはや、贖うどころではない。償うどころではない。あの男、やはり今直ぐにでも―――。

 

「……燈矢兄は、事故で」

「分かった。……すまん、ありがとう」

 

 これ以上、夏雄から聞くのは止しておく。事故ならば仕方がないのかもしれんが、それでも親としてどうかと思う。我が子の命すら守れんのか、あの男は。増々許せん。何なら憎いぐらいじゃ。取り敢えず、一度戻るとしよう。えんでゔぁの口を割らせる。あの糞野郎、まさかこれ以上何かしでかしてないじゃろうな……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、えんでゔぁ」

 

 やっと見付けた。まさか人様の家の中で迷子になるとはの。迷いながら思ったが、この家はかなり居心地が悪い。前世の家と妙に似てるんじゃ。お陰で、嫌なことまで思い出して最悪じゃ。それなりに美味かった夕食が、すっかり台無しじゃの。ちっ。

 

 

「……姿が見えないと思ったら、家の中ですら迷子になるのか」

「うるさい。それよりも、長男について話せ……!」

 

 広い家の何処かの和室。仏壇がある部屋に辿り着いて、えんでゔぁを見付けられたのは幸いじゃった。今直ぐに掴みかかりたいところじゃが、仏の前じゃ。それは我慢してやろう。このまま感情任せに動いては、死んだ子に申し訳ないからの。

 

「長男、……燈矢について……か? 夏雄から聞いたのか?」

「さっさと話せ、この糞野郎。儂の気はもう長くないぞ……っ」

 

 今直ぐにでも、殴り飛ばしたい。許されるのなら、殺してしまいたい。何でこんな糞野郎を前にして、儂が我慢しなければならないんじゃ……! もう良い、被身子には迷惑を掛けてしまうが、やはり今この場でこの男を……!!

 

「……燈矢は、事故で亡くなった。俺が殺したも同然だ」

「―――」

 

 こ、の……!!

 

 

「糞野郎がぁ!!」

 

 

 殴り飛ばした。いかんと思っていたのに、とうとう手が出てしまった。それでも赫鱗躍動だけで済ませたのは、被身子と……仏壇の長男にに申し訳ないからじゃ。何ならもっと本気で殴り飛ばすべきじゃったかもしれん。呪力を込めたって良かった。いやしかし、流石に殴り殺すのは駄目じゃ。暴力自体も、本来は駄目なんじゃけども。

 

「親は、子を守るものじゃろうがっ。何をしてたんじゃ貴様!!」

「……何も言えん。俺は、あの子を見放した。見ようとしなかった」

「あ゛?」

 

 貴様、まだ殴られ足りないか……! 良いじゃろう……っ。立て! もう一度その面をぶん殴って―――!

 

「……だから今、家族を……子供達を見ている。家族の為に何が出来るのか、毎晩考えて眠りに付く」

「じゃから、何じゃ……っ!」

「貴様が怒るのは、焦凍を……夏雄や冬美まで想ってのことだろう? 余計な気苦労を掛けてすまないと思っている。……感謝も、している」

「じゃから何じゃ!?」

「燈矢の事まで話すのは……気が引ける。だが、聞きたいと言うなら……全て話そう」

 

 ……ちっ。糞野郎が……! 前置きが長いんじゃ、前置きがっ。儂が聞いたなら、さっさと話せ! そもそも最初から聞いてるじゃろうが……!

 

「―――全部話せよ。もう貴様は、家族の事を儂に隠すな……!」

「……あぁ。すまない」

「さっさと話せ。次は殺す気で殴るぞ……!」

 

 この糞野郎をどうするのか。この手で殺すのか、或いは贖罪を見届けるのか。それを決めるのは、長男について聞いてからにしてやろう。今直ぐにでも殺したい衝動を抑え込むのは大変じゃが、殺してしまえば話が聞けなくなる。既に情状酌量の余地は無いが、話は全て聞き出したい。

 

 さぁ、話せ。今直ぐ話せ。全てを、話し尽くせ。儂の気は長くない。こうして殺意を抑え込んでやってる内に、全部語れ!!

 

 

 

 

 

 

 






三人称による補完は要りますか?

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