待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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いんたぁん。白線の悪党

 

 

 

 

 

 

「騒がせてすまなかった。この通りじゃ、すまん」

 

 えんでゔぁから、轟家の長男について聞いた後。儂は、何度もあの糞野郎を殴り飛ばした。そのまま殺してやるつもりじゃったが、途中で騒ぎを聞き付けて駆け付けた焦凍や冬美、そして緑谷や舎弟に止められてしまった。それ自体は、仕方ない事じゃと思う。じゃが気に食わんのは、えんでゔぁの奴が黙って殴られ続けていたことじゃ。儂の拳が見えてるくせに、いちいち無抵抗を貫き通しおって。反射的に反撃してくれた方が、まだ納得出来たぐらいじゃ。まぁ、そんな真似をしたらそれはそれで殺していたじゃろうけど。

 

 気も憂さも晴れぬままじゃが、ここはもう引き下がるとする。引き下がるしかないじゃろく。ひとまずは殴るだけ殴ったからの。そのまま殺したかったが、そこは我慢してやる。あの糞野郎が、もう死ぬべきとしか思えなかったとしてもじゃ。

 

「エンデヴァーと何が有ったか分からないけど……、それでも人を殴るのは駄目だよ廻道さん」

「ん……。すまん。気を付ける」

「暴れんなら一声掛けてからにしろや」

「すまん。迷惑を掛けた」

 

 轟家の居間にて。儂を止めに来た全員に、頭を下げる。頭に血が上ったからと言って、直ぐに暴力に出たのはやはり良くなかったの。次からはもう少し言葉で……。

 

 ……いや。糞野郎に何を言ったところで、無駄じゃと思う。言葉で分からせようとしたって、あの手この手の言い分を並べて逃げようとするだけじゃ。えんでゔぁのような糞野郎は、これまで何度も見てきた。言い訳を並べて、我が子を傷付けることを正当化しようとする輩は、それこそ幾らでも。じゃから殺してしまうのが何より手っ取り早い。

 結局は、そう思ってしまう。いずれ誰かを手に掛けてしまう時が来るような気がする。いつまでもいつまでも、自制出来る自信がないのぅ。

 

「廻道さん、暴力は……めっ! ヒーローを目指してるなら、力は正しく使わなくっちゃ」

「……うむ。すまなかったの……」

 

 弾いた指で、額を叩かれた。目の前に居る冬美に、柔らかく注意されてしまった。まっこと、申し訳ない。もう少しこう、儂は自制をしなければならんのじゃろう。頭に血が上ると直ぐに手が出てしまう悪癖は、どうにか直さなければ。死んでも直らなかったものを直せるかは、甚だ疑問じゃけども。

 

 ……それでも。気を付けて行かなければ。相手が如何に悪かったとしても、暴力で訴えるのは違う。頭ではちゃんと分かってるんじゃけども、いざ糞野郎を前にするとこれが中々……。

 

 んんむ。こう言うところも、変わって行くべきなのかのぅ。人として、気を付けねばな。でないと、今回のように周りに迷惑を掛けてしまう。

 

「……でも。焦凍の為に怒ってくれたんでしょう? やり方は良くなかったけど、ありがとう!」

「いや……、単なる自己満足じゃよ。礼を言われるような事じゃない」

 

 えんでゔぁを殴ったのは、儂が許せなかったからじゃ。あの糞野郎が、どうしても気に食わなかったからじゃ。決して、礼を言われるような事では無い。なのにこやつは、儂に礼を言った。それは必要無い。救けたいから救けるだけ、守りたいから守るだけ。たったそれだけの事じゃ。

 なのに、昔からどいつもこいつも礼を言おうとする。そんなものを受け取る暇も、権利も儂には無いと言うのに。礼なんて、求めてない。そんなものを渡すより、後の人生を儂の知らんところで幸せになってくれとしか思えんのじゃから。

 

「人に優しくされたら、ありがとうってお礼を言うの。それは大事な事だから」

「……まぁ、ひとまず受け取っておく。……ありがとう?」

「どういたしまして。ありがとう廻道さん、焦凍の為に怒ってくれて」

 

 ……むず痒い。礼を言われるのは、どうにも苦手じゃ。それから、何故か教員に諭されてる気がする。今の冬美が見せている態度は、教師のそれな気がしなくもない。もしや教員として働いているのか? ……まぁ、そうじゃとするなら色々納得ではあるけれど。

 

「……そろそろ学校に送る時間だ」

 

 顔に氷嚢を当てたえんでゔぁが、居間に姿を見せた。どうやら、鼻血は止まったようじゃ。顔に出来た青痣はまだしっかりと残っとるようじゃけど、それを申し訳ないとは思わん。こうなって当然じゃとしか思えん。

 えんでゔぁの面を見ていると、また殴ってしまいそうじゃから壁に掛けられた時計を見る。もう遅い時間じゃの。この糞野郎に雄英まで送られるのは良い気がしないので、儂はながんが運転する車で帰るとしよう。そもそも、この和屋敷に来る際も儂だけはながんの車じゃったし。

 

「色々とすまなかったの、冬美。今日は……ご馳走になった」

「ごちそうさまでした……!」

「四川麻婆のレシピ教えろや」

「後でラインに送ってもらうよ」

 

 ……さて。そろそろ雄英に帰るとするか。寮に戻る頃には随分と遅い時間になってるじゃろうけど、被身子は起きているじゃろうか? わがままを言うなら起きていて欲しいところじゃけど、寝てても文句は言えん。車に乗ったら、連絡のひとつでも入れておこうかのぅ。

 

「……緑谷くん、廻道さん。焦凍とお友達になってくれてありがとう」

「そんな……、こちらこそ……です……!」

「どういたしまして。今日はすまなかったの」

 

 帰り際。玄関先で冬美に言われた礼は、少しむず痒かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はぁ。何じゃか、疲れてしまった気がする。実地研修(いんたぁん)の後、轟の家で食事を振る舞われたり夏雄と話したり。えんでゔぁから今は亡き長男、……燈矢について聞いて。その後はえんでゔぁを何度も殴り飛ばして。後は雄英に帰れば、ひとまず休むことは出来るか。もう二日程も被身子と離れ離れじゃ。実地研修(いんたぁん)が続く限りは、こういう事が続くんじゃろう。喜ばしいとは言えんな。むしろ、気分的には最悪な方じゃ。仕方ない事とは思いつつも、寂しいものは寂しい。

 

 まったく。儂をこんな風にしおって。責任を取れ責任を。帰ったら甘やかして、甘えさせて貰おうかのぅ。取り敢えず、起きているかどうかの確認を―――。

 

「不機嫌そうだな。どうした?」

「……えんでゔぁを殴り飛ばした」

「は?」

 

 車の助手席で携帯電話(すまほ)を弄ろうとすると、ながんに話し掛けられた。不機嫌なのは否定しない。えんでゔぁが気に食わなくて仕方ないし、被身子に会いたくて仕方ない。あの糞野郎のせいで、どうにもご機嫌斜めじゃ。まったく、人を救け守る英雄(ひいろお)でありながら我が子を事故から守れんとは。燈矢の事は、思い出すだけで胸糞悪い。よくもまぁ、あんな男がこの国の頂点に立ってるものじゃ。長男の件が世間に知れ渡りでもしたら、頂点から引き摺り降ろされるぞあやつ。そうなると、おおるまいとが頂点に返り咲くことになるじゃろう。それはそれで、また世の中が荒れそうな気がするが。

 

「何が有ったか知らないが、自分から人を殴るのは止めておきな。立場が悪くなる」

「……分かっとる。今後は気を付けるつもりじゃよ」

「なら良いけど。あまり渡我を心配させるなよ」

「それも分かっとる。中々上手くは行かないんじゃけどな」

 

 ……それにしても。こうしてながんと二人きりで話すのは、なんじゃか久しぶりな気がするの。そんなに長い時間顔を合わせなかった訳では無いんじゃけども、なんかそんな気分がする。雄英に着くまで時間が掛かるじゃろうから、何か雑談でもして時間を潰すか。もしくは、寝てしまっても良い。今日は帰ったら寝かせて貰えないじゃろうし、寝かすつもりもない。今の内に仮眠しておくのは賢い選択じゃと思う。

 

 ん、んん……。駄目じゃなぁ。やっと帰れると思うと、やはり被身子に会いたい気持ちが抑え切れん。寂しがりになった覚えはないが、今だけはどうにも……。

 

 雄英まで、あとどれくらいじゃろうか? もうそろそろ着いても良いんじゃないのか?

 

 なんて、思っていると―――。

 

「―――! 掴まりな!!」

「ぬおぉっ!?」

 

 車が急停止しつつ、右に曲がった。何事かと思い外を見てみれば、車道のど真ん中に誰か立っている。だけではない。儂が乗る車の先を走っていた、えんでゔぁや緑谷達が乗っている車も急停止しつつ左に曲がった。直後、車からえんでゔぁが飛び出す。向かう先は儂等が乗っている車……ではなく、その手前。車道に立っていた誰かと、その隣で縛られたまま宙吊りになっている―――。

 

「おいおい……!」

 

 儂も、車から飛び出た。宙吊りになっているのが、見覚えのある顔じゃったから。何やら薄汚れた白い帯のようなもので、夏雄が簀巻きにされている。放っておくわけにはいかん。車の屋根に跳び乗り、両手を叩き合わせる。様子見は要らん。射線上にえんでゔぁが居るが、いちいち気にしてる場合ではない。

 

「待て! 人質が先だ!」

 

 車の中から、ながんの声が聞こえた。咄嗟に狙いを、帯のような何かに定める。よくよく見てみれば、あれは道路に塗ってある塗料じゃの。であれば、強度的には大したものじゃあるまい。個性で幾分かは頑丈になってるかもしれんが、儂には関係ない。

 

「お前じゃないっ! 邪魔をするなぁあ!!」

「っ、くそ!」

 

 そこらの塗料が滅茶苦茶に動き出す。夏雄は勢い良く振り回され、更には視界が遮られる。これでは狙いを付けるどころではない。周囲を走る車まで巻き込まれ、何台も空に弾かれてしまっている。儂の力ではその全てを無事に着地させることは出来ん。……くそっ、随分と派手に暴れ回る悪党じゃ!

 

「緑谷ぁ!!」

「任せて!」

 

 幸いじゃったのは、この場に居るのが儂だけではないこと。塗料が暴れ始める直前に、悪党の向こう側で止まっている車から飛び出した三人が見えた。えんでゔぁは、悪党を前にしながら未だ動いていない。何をやってるんじゃ、あの燃え面は……!!

 とにかく、今は悪党を好きに暴れさせるわけにはいかん。儂の視界を塞ぐように動き回る塗料に向けて、穿血ではなく苅祓を放って切り刻む。それから呪力を放出し、跳ぶ。

 

 宙に跳び出て塗料を越えてみれば、まず目に入ったのは空中で夏雄を奪取している舎弟じゃ。それから、圧縮した炎を噴出し悪党に向かって高速移動している轟。えんでゔぁは、未だ動かん。何なら棒立ちじゃ。何をやってるんじゃ、この糞野郎は……!!

 

「穿血!!」

「がぁっ!?」

 

 宙に居るまま、悪党に向けて血を放つ。狙いは肩。ほぼ真上から放った穿血は、目論見通り悪党の肩を貫いた。と、同時。間合いを潰した轟が燃え盛る拳で悪党を殴り飛ばす。宙に飛ばされていた車は、大きな音を立てながらも壊れることなく着地した。どうやら緑谷が上手くやったようじゃ。

 着地と同時、悪党に向けて赤縛を放つ。下手に抵抗出来ぬように、雁字搦めにしておいた。騒がれるのも癪じゃから、ついでに口も縛っておいた。

 

「……はぁ……。まったく、何をやってるんじゃあやつは……!」

「廻道」

「……分かっとる。分かっとるから」

 

 今直ぐにでも殴りに行きたかったが、抑えるとする。轟に肩を掴まれてしまったしの。ろくに動かなかったえんでゔぁは、……何やら舎弟ごと夏雄を抱き締めているようじゃ。その様子だけは、我が子を案じる親のように見える。

 ちっ。仕方ないから殴らないでおいてやる。後で足ぐらいは踏んづけてやるつもりじゃけどな……!

 

「クソチビぃ! 白線野郎は!?」

「……とっ捕まえたぞ」

「クソデク! モブは!?」

「知らない! 車に乗ってた皆さんなら大丈夫!!」

 

 えんでゔぁの腕から抜け出した舎弟が、何やら叫び散らかしておるわ。状況確認ぐらい静かに出来んのかこやつは……。まったく、仕方のない奴め。

 

「何だっけなァNo.1!! この冬!? 一回でも!? 俺より速く!?

 (ヴィラン)を退治してみせろ!?」

 

 ……。……あぁ、なるほど。確かにそんな事を、儂等は言われてたの。じゃから舎弟は、妙に誇らしげにしとるのか。子供か貴様。まだまだ子供じゃったわ。

 

 まぁでも、確かに今回は。儂等はえんでゔぁよりも速く悪党をとっ捕まえた。とは言えそれは、夏雄を人質に取られたあやつが無様に棒立ちしてたからじゃ。実力とは違う。あの燃え面がいつも通りに動いていれば、結果は普段と変わらなかったじゃろ。じゃからほら、喜ぶにはまだ早いんじゃないのか?

 

 

「あぁ……! 見事だった……!!」

 

 

 いや、おい。おい、えんでゔぁ。そこで褒めてしまうのは、どうかと思うぞ? 今回の結果は、偶然みたいなものじゃ。

 

「俺のミスを、最速でカバーしてくれた……っ!」

 

 いや、じゃから。仕方ないと言えば仕方ない部分が有ったじゃろうに。まぁ儂からすれば、我が子が人質に取られた程度で動きを止めるなと言いたいが。そこは何が何でも、夏雄を助けに動くべきじゃったろうが。まったく、いちいち気に障る奴め……!

 

「悪かった……! 一瞬、考えてしまった……!

 俺が助けたら、この先お前は……俺に何も言えなくなってしまうのではないかと……っ!」

 

 は?

 

「廻道」

「……分かっとるよ。分かっとるから」

 

 轟が肩を掴んだままじゃなければ、殴りに行っていたかもしれん。何なら緑谷まで儂の腕を掴んでくる始末じゃし。今は黙って見てろってことじゃろ? 分かっとるから、そんな二人で止めようとしないでくれ。これ、被身子に見られたり知られたりしたら大変なんじゃけど?

 

 ……この後。儂は轟と緑谷に抑えられながら、えんでゔぁと夏雄の会話を聞き届けた。許されたいのではなく償いたいと、我が子に向かって言っていた。それを夏雄は信用出来なかったんじゃろう。涙ながらに「償うって、あんたに何が出来るんだよ!!」と叫んでいたから。でもどこかで、少しは受け入れようとしていたのかもしれん。少なくとも儂には、そんな風に見えた。

 えんでゔぁは、やはり父親として信用ならん。それでも、父親としてやるべき事をしようとしている。償いに生きようとする姿勢は、どうやら嘘ではないようじゃ。とは言え、儂はまだまだ信じてやるつもりはないが。今後とも、見張っておくとしよう。

 

 それから。帰り際に、えんでゔぁに一声掛けられた。何でも、悪党の中で儂の存在が知れ渡っている……じゃとか。これは帰りの車の中で、ながんにも言われた。じゃからまぁ、気に留めておくとする。狙いが儂だけならば良いが、被身子や両親、そして子供達が巻き込まれるような事態は避けたいからのぅ。

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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