待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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世界の危機。合流と解呪

 

 

 

 

 

 

 すたぁ達が主催した歓迎会はお開きとなり、儂等は全員で店を出た。提供された料理の数々は、本音を言えば不味かった。被身子曰く、米国(あめりか)人は食事をただの栄養補給と見ている節があるから、味付けの水準が低い……らしい。日本人って、美食家なんじゃなぁ……。

 それと、何故か全員からぽんこつ扱いされたことは解せぬ。解せぬぞ。うっかり、飾りの花を口にしただけじゃろうが。皿に盛ってあったら、食べれると思うじゃろ? 海外には花を食べる文化が有るんじゃなぁと思ったのが間違いじゃったかもしれん。些細な過ちぐらい、黙って見過ごして欲しいものじゃ。まったく……。

 

「Well then, Bloody. Good luck tomorrow」

「ぅ、うむ……?」

 

 すたぁが、何を言ってるのか分からん。まったく分からん。取り敢えず頷いておくとする。被身子に訳して貰うのが手っ取り早いんじゃけども、なるべく自分でも何を言っているのか考えてみることにする。でないと、永遠に英語が分からなさそうじゃし。

 

 ……ぐっどらっく。は……幸運を祈る、じゃっけ? で、とぅもろぉは……明日じゃな。明日の幸運を祈る? あぁ、明日の作戦のことか。ひゅうまらいずの支部に殴り込むのは、明日の晩じゃったの。

 宿(ほてる)に戻ったら、翻訳機を充電しておかなければ。でないと、会話に支障が出て英雄(ひいろお)活動どころではない。被身子を現場に連れて行くわけにはいかんし、じゃからってながんに通訳して貰うのも難しいじゃろう。やはり気を付けねばの、色々と。

 

「ぐ、ぐっどらっく? すたぁ」

 

 とだけ、返しておく。そしたらすたぁは大声で笑いながら、部下達と車で 帰って行った。まさか車を運転するのが、すたぁとはの。そう言えば、あやつだけは酒は飲んでおらんかったか。少しばかり窮屈そうじゃけど、大丈夫なのか……?

 

「すっかり歓迎されちゃったのです。スターちゃんもイーサンくんも、他のみんなも悪い人ではなかったですねぇ……」

「ひいろおがお人好しなのは、あめりかでも変わらんみたいじゃな」

 

 少なくとも、すたぁはお人好しの部類じゃろう。あやつに従う軍人達じゃって、そんな感じがした。盗聴器の件で、怒りを露わにしている者もおったぐらいじゃし。直ぐに何でも信用してやる訳にはいかんが、無闇矢鱈に警戒する必要も無い気がする。少なからず、信じても良い筈じゃ。……まぁ、今後深く信用したとしても呪術については秘匿させて貰うが。こればっかりは諦めて貰うか、成り行きで知って貰うしかないのぅ。儂等から話してやれることは、何も無い。

 

 ……さて。いい加減、宿(ほてる)に戻ろう。外はすっかり暗い。取り敢えず、被身子の腕を抱き寄せて手を繋いでおく。これで迷子にはならんじゃろう。被身子が。儂ではないぞ? 被身子が迷子になったら大変じゃから、こうして離れないようにしているんじゃ。

 

 って、こら。被身子。何じゃその顔は。儂を見て、何で微笑んでるんじゃ貴様は。

 

「……ここからなら歩いて帰れそうだけど、モラルを呼ぼう。そういうつもりだったろ?」

「そうじゃな。……ええっと」

 

 行きも帰りも、もらるに頼んでおいてある。が、近くに見覚えの有る車が無い。また何処かで、事件や事故の対応にでも追われているのかも。仕方ない、電話してみるか。ええっと、確か公安から支給された携帯電話(すまほ)が懐に……。って、んん? 無いのぅ。うむ、無い。思い返してみれば、寝具(べっど)の上に置きっぱなしにしていたような……。

 

「……ながん。もらるの奴に、連絡出来るかの……?」

「もうしておいた。そろそろ迎えに来るんじゃないか?」

「もぅ……。ちゃんとスマホを持ち歩かないと駄目ですよぉ。持ち忘れちゃ意味が無いのです」

「面目ない」

 

 んんむ。どうやら、すっかり忘れてしまったようじゃ。なるべく持ち歩くようにしてるつもりじゃったんじゃけど、今回はうっかり忘れた。これも気を付けねばの。でないと、いざ誰かに連絡しようとした時に困ってしまう。今みたいにな。

 

「じゃあ、今後の方針を決めちゃいましょう」

「……ここで?」

「ただ待ってても暇ですし。隙間時間は有効活用しないと勿体ないので!

 それにぃ、部屋に戻ったらイチャイチャしかしたくないのっ」

 

 ……それは、まぁ。……んむ。どちらも一理有る。ただ待ってるだけでは暇じゃから、どうせなら建設的な話をしておきたい。部屋に戻ったら、眠くなるまで被身子と愛し合いたいところでも有る。ながんが同室に泊まる以上は、身を寄せ合うぐらいしか出来んじゃろうけど。

 ただなぁ……。堂々と外で方針を決めるのは少し抵抗が有る。儂等は、今尚米国(あめりか)やら悪党に監視されている筈じゃ。そんな中であれこれと話し合って決めるのは、色々筒抜けになってしまう。日本語だけで話したとしても、日本語を理解出来る奴が居る筈じゃ。でないと、儂等を監視したって仕方ないんじゃから。

 

「じゃあ振り返りからしましょう。

 アメリカに来たのは、偽オールマイトをやっつけるのが主目的。ついでにヒューマライズ制圧作戦に参加、ですよね?」

「まぁ、そうなるの」

「……大忙しなのです。円花ちゃんだけ一人二役なのは納得行きませんけど、いったん仕方ないって思うことにします」

「まぁ……、仕方ない事じゃからな」

 

 こればっかりは、致し方あるまい。現状、特級呪霊を対処出来るのは儂ぐらいのものじゃ。おおるまいとや緑谷では、荷が重い。こうして米国(あめりか)に足を運んだのは、英雄の呪霊(らいあぁまいと)が何故か米国(あめりか)に出現したからじゃ。

 ……それから。ついでに悪党組織(てろりすと)の制圧をする為でも有る。こっちについては、儂等があれこれと考えなくても良いと思う。なるようになるじゃろう、……多分。

 

「現状、あいつについては何の情報も無い。あんたは、何か聞いてるか?」

「……もらるが、らいあぁまいと事件と言っていたの。目撃者が何人か居るそうじゃ」

「ライアーマイト、か。……そうだな、あいつのことはそう呼ぶか。

 目撃者については、全員視える側か?」

「分からん。中には、視える奴も居るかもしれんな」

 

 現状、あの呪霊についてはまるで情報が無い。米国(あめりか)の何処かに居るのは、間違いない筈じゃ。分かり易い根城でも作っててくれてれば、色々と楽なんじゃけどなぁ。わざわざあちらこちらを探そうとしなくて良くなるし。こちらから仕掛けることも出来るからの。もっとも、あやつが根城を持っていたとしても見付けるのは困難じゃろうけど。

 いつまでもいつまでも米国(あめりか)に居るつもりは無いし、祓えるものならさっさと祓ってしまいたい。……あやつとの実力差を、どの程度縮められたのかは分からんが。少しは縮まっていると思いたいところじゃけど、どうじゃろうな……。

 

「……続きはホテルに戻ってからにしよう。迎えが来た」

「はぁい。今晩、詰めれるところは詰めちゃいましょう」

「詰めれるところが、有ると良いんじゃけどな……」

 

 現状、儂等に出来る事はそう多くない。英雄の呪霊が何処に居るのか分からんし、そもそも接触することが出来るのかも謎じゃ。その上、悪党組織(てろりすと)の件も有る。やるべき事が多いのに、受け身で居るしか出来ぬとは。

 

 ……まったく。今回の任務は、ただひたすらに面倒じゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もらるが迎えに来たので、特に寄り道することもなく宿(ほてる)に戻った。明日の夕方、儂はひゅうまらいず制圧に駆り出される。英雄呪霊(らいあぁまいと)の方を優先したいところじゃけども、そうも言ってられん。ひゅうまらいずとか言う悪党共も何とかするのも、今回の任務の内じゃ。……それに、儂は英雄(ひいろお)候補生じゃからの。米国(あめりか)一の英雄(ひいろお)と仕事が出来るこの機会を逃すのは、流石に勿体ないと思う。すたぁから何が学べるかは分からんけども、必ず何かしらの糧になるじゃろう。むしろそうでなくては、困る。

 

 ……我ながら、二足の草鞋を履くのは無茶な気がしないでもない。しかし、英雄(ひいろお)としても人救けをすると約束したからの。両親の気持ちには、しっかりと報いたい。無茶でも何でも、やり通さなければ。

 

 で、じゃ。それはそれとして、ひとつ気になる事が有るんじゃけど。

 

「……何で貴様が此処に居るんじゃ」

 

 宿(ほてる)の部屋に戻ると、何故か室内に翼男が居た。相変わらず嘯いた面をしているから、思いっ切り睨み付けておいた。

 

「そりゃあ、ヒューマライズ制圧の為に。それと、君のお目付け役兼補助監督として」

「補助監督なら私達で間に合ってるのです!」

「日本ならそうだね。でもここはアメリカ。いつ何が起きてもおかしくないから、人手は多い方が良いでしょ?」

 

 んぎゅぅ。ほぉくすの言い分に、直ぐ被身子が反応した。のは別に良いんじゃけど、何で儂を抱き寄せて、ほぉくすの目から隠そうとするんじゃ。そんな露骨な警戒心を見せたって仕方ないと思うんじゃけどなぁ。

 ……いや、よくよく考えれば翼男を嫌っててもおかしくはないか。思い返してみれば京都やら九州で、滅茶苦茶に振り回されたしの。お陰で何度か被身子の手料理やおやつを食べ損ねた。うむ、それについては今でも許さん。食べ物の恨みはそう簡単には晴れんものじゃと思い知れ。

 

「ならホークス。さっそくひとつ頼まれてくれ」

「テーブルに有った盗聴器の件で? それならもう手配しといたっスね。数日もしない内に、何か分かるでしょ」

「……仕事が早くて助かる。ライアーマイトについて対策を練りたい。あんたも手伝ってくれ」

「もちろん、先輩の頼みなら喜んで」

「……先輩呼びは止めろ。そんな関係じゃない」

 

 む? ながんが、先輩?

 

 ……あぁ、そうか。ながんは、元・公安の英雄(ひいろお)じゃからの。かつては、今のほぉくすと同じ役職に就いてたわけじゃ。なら、こやつがながんを先輩と呼ぶのは何ら不思議ではないか。確かに先輩後輩の仲と言えそうじゃし。ながんは嫌がってるみたいじゃけども。

 まぁ取り敢えず。被身子に抱き付かれたまま、ほぉくすを退かして儂は部屋の中へ。二人並ぶと手狭な廊下を抜けると、まず真っ先に目に入った奴が居るの。お行儀良く椅子に座っているが、儂等を見るなり席を立った。そして被身子は、増々儂を抱き締めおった。んんむ……、まさかこやつまで米国(あめりか)に来てるとはのぅ。

 

「廻道。今回の作戦、俺達もアメリカに派遣された。よろしく頼む」

「な ん で っ ! 常闇くんまで来てるんですかぁ……っ」

「ヒィッ!?」

 

 い、いかん。被身子が、わなわなと震え始めた。対して常闇は、何処か諦めたような面をして天を仰いだ。だぁくしゃどうは、盛大に怯えた。

 

「もぅっ、もうっ! 円花ちゃんの補助監督は、トガと火伊那ちゃんだけで良いんですぅ!!」

 

 ぐぇえっ。こ、こら被身子っ。腕に力を込めるなっ! 息が詰まるんじゃ息が……っ! 

 

 ……まったくっ。直ぐそうやって、独占欲を丸出しにするんじゃから。嫉妬深いのは構わんけども、もう少し手加減してくれると息がし易いんじゃが? まっこと、仕方のない奴め。仕方のない奴めっ。

 

「っぷは! ひ、人手が多いのは助かるが、お主は下手に動くなよ?」

「……承知。だが廻道も、無茶は禁物だ」

「分かっとる。被身子を心配させたくな、ぐぇえ……」

 

 何とか被身子の胸から逃れて常闇と話してみれば、また顔面が胸の中じゃ。容赦なく圧迫されて、息苦しい。うっかり窒息してしまいそうじゃから、そうなる前に被身子の背を軽く叩く。が、離してくれん。むしろ儂を抱き寄せる力が、より強くなったような気さえする。あぁもう、駄目じゃこれは。被身子が落ち着いてくれるまで、しばらく会話が出来ん気がする。力強く抱き締められるのは嫌いではないが、時と場合は選んで欲しいのぅ。あと、呼吸を邪魔するのは勘弁してくれ。窒息しそうなんじゃ。流石に、被身子の胸で死にたくはないんじゃけど? おい、被身子。被身子ったら。

 

「ぶへぇっ! と、とにかくじゃ……! ほぉくすも混じえて、今後について話を……!」

「……そうしよう。ホークス、火伊那さん。任務について、直ぐにでも話し合いましょう」

「むーー……っ」

「んぐむぅ……。んぐぐぐ……っ!」

「……渡我先輩、廻道が苦しそうですが……」

「むーーっ。ちょっとだけ緩めてあげます。ぷいっ!」

 

 ぶはぁっ。あ、危うく(まこと)に窒息するところじゃった。少しは理性を取り戻してくれたようで、何よりじゃ。被身子は依然として儂にくっ付いたままじゃけども、それでも何とか席に着く。ひとつの椅子に二人で腰掛ける羽目になってしまったから、とても狭い。が、密着出来るのは……悪くない。米国(あめりか)の冬は寒くて敵わん。身体を冷やさぬよう、気を付けねば。

 

 ……なんて、思っていると。

 

 ほぉくすもながんも、取り敢えず椅子に腰掛けた。この部屋に居る全員が席に着いたの。では、色々と話し合うとしよう。少し座を正そうとすると、またも被身子に抱き寄せられて姿勢を正すどころではなくなってしまった。仕方ないから、このまま話すしかないのぅ。常闇が居るからの、一から説明してやるとするか。

 

「……まず、常闇。昨年の八月頃なんじゃけど、たるたろすで呪霊が産まれた」

「呪霊が?」

「そう、呪霊じゃ。囚人共の負の感情が集まって、結果……英雄の呪霊が産まれた」

「……英雄の、呪霊。……なるほど、呪霊は負の感情から産まれるから……」

「そうじゃ。ひいろおへの憎しみが産み出した、呪霊じゃ。こやつが中々に曲者での。儂より強いと来たもんじゃ」

「は?」

 

 そこは驚くのか。いやまぁ、こやつは儂に変に憧れてる節が有るからのぅ。何せ儂を目標として鍛錬してるぐらいじゃし。じゃからこそ、にわかには信じられないんじゃろう。しかし、嘘を言っているつもりは無い。これは二度の手合わせで確信した事じゃ。あの呪霊は、確実に儂より強い。少なくとも昨年の夏の時点ではな。この事実は共有しておかねばならん。そうすれば、ほら。常闇が下手に首を突っ込まんじゃろ? ……突っ込まんよな……?

 

 ……んんむ。この事実は伏せておくべきじゃったかもしれん。話を聞いた常闇が、意を決したような面をしおった。まったく、これだから英雄(ひいろお)候補生は。

 

「で、その呪霊による人的被害は、昨年夏から続いておる。にゅぅすを見たとは思うが、警察の前に意識混濁の悪党が届けられる事件が頻発してた時期が有ったじゃろ? あれじゃ」

「そしてその呪霊が、今はアメリカに居るんだよね。だから特級呪術師のヨリミナが派遣されたってこと」

「……分かりました。つまり、その英雄の呪霊をどうにかして祓えと?」

 

 ほぉくすが、横から話に混じって来た。まぁ良い、説明を手伝うならそうしてくれ。儂一人で全てを説明するのは、それなりの時間が掛かってしまいそうじゃからの。

 

 常闇がほぉくすと話始めたので、不安そうにしてる被身子を撫でる。少しでも落ち着かせなければ。また心配させてしまったのは、不甲斐ない。……んん、申し訳ないのぅ……。ってこら、だぁくしゃどう。机の下から儂の腕に絡み付くな。まったく、仕方のない個性じゃなお主は。

 

「そゆこと。問題は、こちらの最高戦力より向こうの実力が勝ってるってこと。ヨリミナ、今やったらどう?」

「……さぁの。どうなるかは分からん。儂自身、あれから成長出来てるかは分からんから。

 ……じゃけど」

「じゃけど?」

「祓ってみせる。次は逃がさん」

 

 あやつを祓うのは、そう簡単な事ではない。何なら一つ目の奴を祓う方が今は簡単かもしれん。えんでゔぁとの手合わせや、指導を受けたお陰で炎への対抗策が有る。まだまだ付け焼き刃じゃけども、数ヶ月前と比べたら着実に成長しているからの。これでも、まだまだ成長期じゃ。もっともっと、強くならなければ。でないと、被身子を安心させられない。不安も心配も、拭い去れるようにならなければ。

 

「だが実際、どうやってライアーマイトと接触する?」

「ライアーマイト?」

「……英雄の呪霊の事だ。アメリカじゃそう呼ばれてる。何せあいつは、オールマイトそっくりだからな」

「……は?」

 

 常闇が目を丸くした。そう言えば、英雄の呪霊の見た目については教えてなかったの。

 

 ……そう。あの呪霊は、おおるまいとと瓜二つじゃ。これについては、日本における英雄(ひいろお)像があの筋肉阿呆じゃからじゃろう。たるたろすは、監獄じゃ。中には、おおるまいとが捕らえた悪党(ゔぃらん)が相当数居る筈じゃ。そんな輩共が負の感情を向ける先は、おおるまいとってことになる。

 

「呪霊発生のメカニズムは教えたでしょ? ヒーローと言えば、やっぱりオールマイト。彼に恨みや憎しみを抱いてる(ヴィラン)は、それこそ山程居るって話だよ」

「……なるほど。では師よ、俺達補助監督の使命は」

「ん、そう。まずは俺とツクヨミで空から探す。今夜から、ニューヨークのパトロールも兼ねて早速動く」

 

 ん。それは助かるの。空からなら、あの呪霊を発見する確率が少しは高くなるじゃろうし。それに、空から見下ろす分には常闇に危険が及ぶ事は無いじゃろう。ほぉくすがどうなろうと構わんが、常闇に何か起こるのは駄目じゃ。こやつの実力を認めては居るが、やはりどうしても心配してしまう。補助監督に任命したのは、やはり軽率な判断じゃったかもしれん。少しでも誰かを頼ると決めたのは儂じゃけども、やはりどうしても心配は尽きんのぅ……。

 

 ……一言、言っておくか。ここはしっかりと、釘を刺しておかねば。

 

「常闇、ほぉくす。見付けても接触するなよ」

「……分かってる。無闇に手出しはしない」

「まぁ俺としては、話せるなら話してみたいけどね」

「おい、ホークス」

「分かってますよ。どんな危険が有るか分からないから、接触はしない。見付けたら直ぐにヨリミナと先輩に報告。そうしますって」

 

 ……まったく。へらへらと笑いおって。どうにも真剣さが足りん。こんなでも公安の英雄(ひいろお)で、それも日本で三本の指に入る実力者なのがとんでもない。いつかこの翼男とも手合わせしたいところじゃの。何じゃったら、早速明日にでも―――。

 

「……私達は陸路で探す。情報共有は怠らないようにしよう」

「もちろん。何か気付けば直ぐにでも。……ところで、ナガン先輩」

「……何だ?」

「その首の痣、まだ消えないんスか?」

 

 ちっ。儂が目で訴えてるのに無視しおって。一度目が合ったなら、何か反応せんか。決めた、この翼男はいつか殴り飛ばす。

 

 ……それはそれとして。ほぉくすが、ながんの首筋について聞こうとしている。未だながんの首には、あの呪霊が刻んだ呪いが有る。今のところ、健康に害はない。この呪いについて分かっているのは、英雄呪霊(らいあぁまいと)が出現する出入り口みたいなものじゃってこと。どういう理屈かは知らんけど、あやつはながんの側に転移することが出来る。恐らくはこの呪いを通して……じゃけども。

 この呪いをどうこうすることは、儂には出来ん。早いところ解呪してやりたいんじゃけど、やはり手っ取り早いのは……って。あっ。

 

「……そうじゃ、ながん。もしかしたらそれ、被身子が消せるかもしれん」

「あっ、そうですね。ワンチャン消せると思います!」

「……何だって?」

「いや、じゃから。その呪い、今ならどうにかなると思うんじゃけど……」

 

 そうじゃ。今ならば、どうにかなる筈じゃ。呪いを解く方法はそう多くはなく、そのどれもが儂には難しい事じゃった。儂に出来る解呪法と言えば、呪いを掛けた呪霊そのものを祓うことぐらいじゃからの。しかし、被身子は違うんじゃ。被身子の場合、あらゆる呪いを中和出来る可能性が有る。じゃって、呪術とは言ってしまえば負の力じゃ。そして被身子は、反転術式を体外に出力出来る。反転術式は、正の力。負の力とぶつかれば、相殺し合う筈じゃ。

 

 なので、試してみるとしよう。被身子の顔を覗いてみると、やる気満々のようじゃの。こればっかりは、任せるしかないか……。

 

「じゃあ火伊那ちゃん、試してみましょうっ。ちょっとこっち来てください!」

「……渡我、何をするつもりだ?」

「何って、反転術式ですよぉ。トガは円花ちゃんと違って、人に施せるので!」

 

 ぬぐ……っ。ぐ、ぐぬぬ……っ。被身子貴様、さては自慢か? それは自慢か? 儂が幾ら試しても出来なかった技術を、お主がさらっと会得した自慢なのか??

 

 ゆ、許さん……っ。そもそも何で儂の記憶を見ただけで、さらっと反転術式(はんてん)を回せるようになってるんじゃっ。いや、儂と同じだけの体験をしたんじゃなら反転術式ぐらい使えて当然じゃけども、じゃったら体外出力は出来ないんじゃないのかっ? 何じゃってお主だけ……! ぐ、ぐぬぬぬっ。

 

「か、廻道。落ち着いてくれ……」

「これが落ち着いて居られるか……! 物凄く悔しいんじゃぞっ!?」

「オ、落チ着ケッテ円花ァ」

 

 ぐぬぬ。ぐぬぬっ! 被身子の才能が妬ましい。羨ましいっ。それは儂には出来ぬことなのに……! くそっ、被身子が出来るなら儂に出来たって良いじゃろうがっ。

 

 んぐぐ。ぐぐっ。悔しい゛っ゛!!

 

「ん、ふふ。カァイイ♡ 説明出来るようになったら、手取り足取り教えてあげますねぇ♡」

「……絶対じゃぞ。絶対じゃからな……!?」

 

 ひゅぅ、ひょい。以外で、しっかり教えろっ。まったく……!

 

「……じゃあ、始めますね。んーー、……んんんっ」

 

 ……。……被身子が、ながんの首筋を両手で包み込んだ。それから眉間に皺を寄せて集中すると、手のひらから確かに反転術式が出力され始めた。それが妬ましくて仕方ないが、今はひとまず……身構えておく。もしかすると、解呪に反応して英雄呪霊(らいあぁまいと)の奴が姿を現すかもしれん。その旨を、ほぉくすや常闇に目で指示しておく。

 

「……はいっ。円花ちゃん、こんな感じでどうです?」

「……ぬぅ……」

 

 もはや、唸るしかない。じゃって、ながんの首筋に有った痣が綺麗さっぱり消えてるんじゃもん。被身子はさらっとやってのけたが、これはとんでもない事じゃ。ほぉくすの前でやらせたのは、間違いじゃったかもしれん。総監部に報告されると、色々面倒な事になりそうじゃ。……まぁ、総監部の方から被身子に接触するのは許さんが。被身子が補助監督になろうが、そこは関係無い。どんな形であれ、相手が誰であれ、被身子を利用するのは決して許さん。

 

「あー、ヨリミナ。今、渡我さんは何を?」

「……ながんに掛けられていた呪いを、解呪したってだけじゃ。これで多分、ながんは大丈夫じゃろうな」 

「それも反転術式ってやつ? ……待った。彼女は非術師でしょ?」

「……非術師じゃったよ。儂がやらかしたから、偶然呪術師の素養を得てしまった。怪我の功名……ってやつかのぅ」

 

 ……こんな言葉で済ませて良い話ではない。儂は被身子を呪ってしまった。被身子がこうして反転術式を使えるのは、そのせいじゃ。儂が愚かじゃったから、こんな事になってしまった。申し訳なくて仕方がない。当の本人は一切気にしてないどころか、大いに喜んでるんじゃけどな。じゃからって、それに甘えることは許されん。儂が儂を、許せない。

 

 早く……。早く、解呪の方法を見付けなければ。

 

「それ、報告すべきでしょ」

「……これ以上巻き込みたくないんじゃ」

「んな今更……。……はぁ……、分かった。

 俺の方からは、報告しないでおく」

「助かる。……すまんの」

 

 まぁとにかく、……じゃ。ながんに掛けられていた呪いは、被身子が解呪した。これでもう、ながんには何の危険も無いじゃろう。しかしそうなってくると、ながんの処遇はどうなるんじゃ? 儂が護衛する必要が有るから、ながんは牢の外で過ごしていた。儂の補助監督として、働いていた。じゃけど今、こうして呪いが解けてしまったのなら、もう檻の外にいる必要が無い。

 

「でも、ホークス。火伊那ちゃんは円花ちゃんの補助監督でお願いしますっ! 居なくなったら寂しいので!」

「あ、そこは安心して。ナガン先輩には、引き続きヨリミナの補助監督をして貰うから」

「いやったー! まだまだ一緒ですね、火伊那ちゃんっ!」

「……別に牢屋暮らしに戻っても良いんだけどな。公安に利用されたくないから。でもまぁ、今更この子を放り出す真似もしたくないか……。

 これからも、よろしく頼む。頼皆も、渡我も」

 

 んん……? これはもしや、ながんの立場は現状維持……ってことかの? 儂の補助監督として、変わらず外に居ると。公安がながんの処遇をどうするかは分からんが、今回の任務が終わったら儂からも強く要望しておこう。解呪が済んだから牢へ戻すべき、なんて意見を出す程儂は薄情じゃない。

 

「それと、もうひとつ決めておこうか。明日の、ヒューマライズ制圧の件について」

 

 ……。……あぁ、うむ。そっちも有ったの。そろそろ被身子が我慢の限界を迎えそうな気がするんじゃけど、大丈夫かのぅ……? いやまぁ、最悪作戦会議は中断して明日の昼間に話し合えば良いか。どれ、もう少しばかり集中して話を……って。こら。太腿を撫で回すんじゃないっ。せくはらじゃぞ、せくはらっ!

 

「まず前提として明日は、このコスチュームで参加すること。普段のじゃ駄目だから、間違えないように」

 

 ぬお。何処にしまってあったんじゃ、その旅行鞄(きゃりぃけぇす)。然りげ無く机の下から取り出しおって。

 

「それじゃあ作戦概要を話すから、覚えておくように」

「ぅ、うむ。頼む……」

 

 いかん。何じゃか話が長くなりそうな予感がする。偽筋肉阿呆ばかりにかまけている場合でもないことは分かっているし、これからされる話もちゃんと聞いておくつもりじゃ。じゃけども、もう被身子が我慢出来そうにない。せくはらの頻度が増して来たと言うか、触り方が露骨になって来たと言うか……っ。こ、こうなったら……!

 

「んっ」

「……!」

 

 こう、がばっと。不意に、接吻(きす)してみる。そしたら、せくはらの手は止まった。ついでに一言だけ、言っておこう。

 

「つ、続きは……後でな?」

「―――」

 

 ……間違いじゃったかもしれん。被身子は一瞬固まって大人しくなったけども、それは(まこと)に一瞬じゃ。次の瞬間には、いつもの悪どい笑みを浮かべ始めおったわ。

 

 あぁ、もう。誰か被身子に我慢を覚えさせてくれんかのぅ!?

 

 

 で、この後。ほぉくすの話を聞き終えるまで、いや聞き終えてからも、何なら聞いている最中にも、儂は盛大にせくはらされた。お陰で何度も呆れた顔をされる羽目になってしまった。や、やはり時と場合は選ばねばならんな。ぅむ……。

 

 

 

 

 

 






実はヒーラートガの爆誕回でもあります。

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
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