待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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世界の危機。円花の逆鱗

 

 

 

 

 

 けひっ。ひひ……っ。

 

 背筋が粟立つ。奴の姿を見たと同時、どうしようもなく胸が騒ぐ。雑魚ばかりを相手にしていては決して得られぬ高揚が、猛者を前にした時にしか感じられぬ喜びが、血と共に駆け巡って儂を熱くする……っ!

 

 あぁ……、あぁ……っ! やっとじゃ。やっと、やっと……!

 

 やっと! 儂が楽しめる相手が、再び現れた!

 

「ふーーっ、ふーー……っ!」

 

 ここからじゃ。ここから、楽しい時間が始まるんじゃ。他の何にも代え難い、喜ばしい一時が!

 

「っ、落ち着け頼皆……!」

「円花ァ!」

「もう離せっ、儂は行く!!」

「ギャッ!?」

 

 呪力を放出し、だぁくしゃどうの腕から無理矢理離れる。手にしたままの脇差しを振り被り、あの猛者に向かって落ちて行く……! 風を切りながら、あの呪霊の頭目掛けてっ。

 

「おいっ! 儂はこっちじゃ!!」

 

 そう叫びながら、落ちて行く。向かって行くっ。逆手に構え直した脇差しを振り被り、あの呪霊の脳天に向かって―――!

 

「げぇっ!? 何で君が此処に!?」

「こっちの台詞じゃ、たわけ!!」

 

 刃を振り下ろす! が。奇襲となり得る一手は、容易く左拳で迎え撃たれた。全力で振り下ろした刃は、同じく全力振り上げられた拳とぶつかり合うっ。

 その直後、刃を通して凄まじい衝撃が儂の身体を貫いた。手首から乾いた音が響いた。息が詰まり、一瞬体が浮き上がったかのように思える。そして、改めて理解する。目の前の呪霊が、正真正銘の猛者じゃってことを!

 

「い、きなり刃物なんてね……! まったく君は、どうしてこう……!!」

「喧、しい!!」

 

 着地。同時に、砕けた両手首を治癒しながら真っ直ぐ駆ける。三歩も掛からず懐に潜り込み、下から刃を……振り上げるっ。

 一閃。腹を狙った逆袈裟は、右腕で防がれた。深く肉を斬り裂いた感覚が有る。左拳は、さっきの衝突で貫いた。これで、両腕は奪った……!!

 

「っ、この聞かん坊めっ! ワタシは君と戦いに来たんじゃないんだよっ!」

「喧しいと言ったじゃろうがっ!」

 

 両腕を斬り裂かれ、思わず跳び退いた呪霊を追い掛けるっ。そんな程度の後退で、儂から逃げられると思うなよ……!

 

「マジで待った! ワタシはヒューマライズをやっつける為に此処に、あぁもう!!」

 

 うるさい奴め……っ。儂の前に現れたのは、こうなると分かってのことじゃろうが! 悪党組織(ひゅうまらいず)の事など、もう知らんっ。雑魚ばかりの悪党共など、貴様を前にして眼中に入るものか!

 

 さぁ! 今度こそ! 思う存分呪い合うぞ!!

 

「どっ、こいせぇ!!」

「ぐぅっ!?」

 

 全力で、腹を殴るっ。赫鱗躍動に呪力強化を掛け合わせた身体で、腹のど真ん中に拳を叩き込む! 確かな手応えが有った。並みの呪霊ならば祓える程の一撃じゃ。それでも尚、この呪霊は立っている。多少体が後退しただけで、今の拳が響いてるようには見えん。じゃからっ!

 

 じゃから、再び脇差しを振るうっ。こやつの肉体に、拳は有効じゃない。けれども、刃は通っていた! ならば儂がやる事は、ひとつ!

 

 その分厚い腹を、斬り裂いてくれる!!

 

「あ゛っ、づ!? この、聞かん坊め!!」

「っっ!?」

 

 がむしゃらに振るわれた腕を、全力で後退することで何とか躱す。が、腕を払っただけで生じた風圧でこの体は余計に飛んでしまう。地面に切っ先を突き立て、必要以上に飛んでしまわぬように踏ん張ってみせる。この呪霊、ひとつひとつの挙動が儂の命に届きそうじゃ……! とんでもない化け物めっ。ここまで命が脅かされたのは、果たしていつ以来か……!!

 

「けひっ。ひひ……!」

 

 あぁ、楽しい。楽しい、楽しい……!! こんな化け物と向き合えることが、あの時と同じような感覚を味わえることが! 堪らなく嬉しい!!

 あの時以来じゃっ。この喜びはっ、両面宿儺を前にした時とまるで変わらんのじゃから!

 

「だからっ、話を聞こうよ!? ワタシはヒューマライズを倒す為に此処に―――!!」

「一足遅いんじゃ、たわけっ!!」

「ヒーローは遅れてやって来るものだからね!?」

 

 この呪霊の目的が何であるのか。それを詳しく聞いてやるつもりは微塵も無い。無いったら無い! そんな事より、さっさと儂と呪い合えっ。悪党共を制圧するつもりで此処に来たのなら、貴様の出番など何処にも無い! 出遅れ過ぎなんじゃ!!

 

 再び距離を潰し、次は膝を狙って刃を振るう。が、今度は避けられた。どころか拳が迫ってきたから、大きく左に跳んで風圧すらも躱してみせる。くそっ、いちいち大きく避けねばならんのが煩わしい……! 回避に手間取るなんて無駄な真似はしたくないっ。したくないが、確実に避けねば殺される気がしてならん!

 

「もう一度言うよ!? ワタシはヒューマライズをとっ捕まえに来たんだ! 君と遊んでる暇は無いんだ!!」

「ああ゛っ!?」

 

 遊び、じゃと? 遊びと言ったか貴様……! 儂との呪い合いが、遊びじゃって……!?

 

 ふ、ざけるなよ……! ふざけるな……っ。良いじゃろう! そんな軽口も叩けぬ程に、儂に向き合わせてやるっ。儂と心行くまで呪い合うことしか考えられないようにしてやるっ!!

 

「ふっ!」

「うわっとぉ!?」

 

 跳び上がり、喉を狙い刃を振るう。が、これは本気で避けられたわっ。(ころ)してやるつもりで喉を狙ったのに、容易く躱しおってっ。良いがな! この楽しい時間は、どれだけ長引いたって儂は構わん。むしろ望むところなんじゃから……!

 

「本っ当にもぅ……! バトルジャンキーにも程が有るね!?」

「っっ!!」

 

 右拳が振り下ろされた。それを前に踏み込むことで避けると、今度は下から膝が飛んできたっ。から、刃を立てて防ぐ! なのにっ、刃が肉に食い込んですらいない……! さっきまでは斬ることが出来たのに、何がどうなってるんじゃっ。化け物め!!

 吹き飛ばされつつ、今度は苅祓や赤縛を飛ばす。が、苅祓は奴に触れる直前で消え失せた。赤縛は届いたが、容易く引き千切られてしまう。

 

「言っておくけどね! ワタシの術式は『平和』だ! ワタシに向けられた攻撃は、全て届かない!!

 だからね!? やるだけ無駄だから話をしようよ!?」

 

 ……は? 平和? 攻撃が届かない……? 何じゃその訳の分からん術式はっ。勝手に開示などしおって! それで儂が退くと思うなよっ。術式によって攻撃が届かんと言うのなら、まずは何が何でも届かせてやる……! どれほど優れた防御じゃろうと、必ず攻撃を通す手段が儂には有るんじゃからなっ。

 

 脇差しを真上に放り投げ、両手を叩き合わせる。あやつの言う術式がどの程度のものなのか、まずはこれで測ってくれるわ!

 

「穿血!」

「それも、届かないっ!」

 

 ……ちっ。どうやらそのようじゃなっ? 全力で放った穿血は、奴に届く寸前で消えてしまった。儂の手の内に有った血まで、綺麗さっぱり消えてしまった……! ならば!

 

 落下して来た脇差しを掴み、呪力を流し込むっ。つい先程と同じように、この呪具に刻まれた術式を以て大波を真正面に向けて放つ!

 

「だからっ、効かないんだって!」

 

 けひっ。あぁ、(まこと)に……! まっこと、とんでもない術式じゃな!? まるで無下限でも前にしてるかのようじゃっ。赤血操術も、呪具も駄目。となれば、殴るのはどうじゃ? 斬撃は? いや、いっそ領域を―――!

 

「待った! 本当に話をしようっ!! いずれ君にとことん付き合うから、その時まではワタシの話を聞いてくれないかなぁ!? この際縛りでも良いからっ!!」

「……ぁあ゛っ? 貴、様という奴は……!!」

 

 いつまでもいつまでも、話し掛けおって……! 何が話をしよう、じゃっ。何が縛りじゃっ。何で儂が呪霊なんぞと縛りを結ばねばならんのじゃ……!! いい加減にしておけよ、この筋肉阿呆めっ。いや、筋肉阿呆の偽者めぇ!!

 

 もう良い。こうなったら、儂と呪い合う以外の選択肢を削いでやる……!

 

 脇差しを鞘に収める。その時、英雄呪霊(らいあぁまいと)は露骨に安堵した顔をしおった。何を気を抜いてるんじゃ貴様はっ。これから儂と呪い合う羽目になるんじゃから、気を抜くような真似は許さんぞ!

 

 呪力を練り上げ、掌印を組む。今回は逃さん為に、領域に閉じ込めてくれるわっ!!

 

「領域―――」

「ちょ……っ!? 今のは話を聞いてくれる流れじゃないの!?」

「はいはいはーーい。ちょっともう待とうかヨリミナっ!」

「廻道、待ってくれ……!」

「落チ着ケ円花ァ!」

「頼皆、ちょっと待った!」

「マジでもう暴れるなって……!」

 

 ぬ、ぐ……っ。な、何なんじゃ貴様等ぁっ! 気が付けば、どいつもこいつも儂の前に集りおって! 邪魔じゃ邪魔! 呪霊が目の前に居るんじゃから、黙って見てろっ!!

 

「いいから待った! 渡我さんが連れ去られた!!」

「……は?」

 

 は?

 

「は??」

 

 ……。……、…………。

 

「おい、詳しく話せ……っ」

 

 被身子が連れ去られた、じゃと? 何を言ってるんじゃ、ほぉくす……! 儂を落ち着かせる為の嘘じゃったとしても、言って良い事と悪い事が有るじゃろうがっ。貴様、許さんぞ。幾ら儂を止める為じゃからって、そんなくだらん嘘を口走るならその赤い羽根を全て毟り取って―――!

 

「フィアンセが連れ去られたのは事実だよブラッディ。ついさっき、秘密裏に警護を当たってたお兄ちゃん達から連絡が来た」

 

 今度は、すたぁまで出て来おった。英雄装束(こすちゅうむ)が多少汚れてはいるものの、怪我一つしとらんようじゃ。米国の頂点に立っているだけあって、武装した悪党では手も足も出なかったようじゃな。……いや、そんな事は今はどうでも良い。それよりも、今は被身子じゃ。すたぁの言い分を聞くに、どうやら被身子が連れ去られたのは事実らしい。

 意識を向けてみるものの、被身子が居る方角が分かるだけで無事かどうかまでは分からん。くそっ、何処のどいつじゃっ! 儂の被身子に手を出した連中は……!!

 

「渡我先輩が連れ去られたって、本当ですか!?」

「事実だ。警護が破られてる。連れ去ったのは、……ヒューマライズだ」

「あ゛?」

「何で渡我先輩を……! 許せねぇ……!」

「……同意する。だがテイルマン、シュガーマン。今は落ち着け。頼皆も、落ち着いてくれ」

 

 悪党組織(ひゅうまらいず)が、連れ去った……じゃと? なら、都合が良い。そこらで気絶してる奴を叩き起こして、情報を聞き出してくれる。儂の被身子に手を出したんじゃ、生温い聞き方をされると思うなよ……!

 

「待った。こいつ等は何の情報も持っちゃいないよ。とっくに聞いたからね。

 ……ブラッディ、フィアンセの奪還は私達でやる」

「ふ、っざけるなよ……!」

「ふざけてない。大真面目さ。フィアンセを連れ去ったってことは、つまりブラッディが狙いって事だ。直に出張るべきじゃない」

「ふざけるなよ……!!」

 

 ふざけた事を、口走りおって……! 被身子を救けに行くなじゃと!? 何で儂が、何もせずに待機しなければならないんじゃっ。儂が、儂が被身子を救けに行くべきじゃろうが!!

 

 あぁもうっ、腹立たしい! 被身子を連れ去った連中も、被身子を側に居させなかった儂自身も許せないっ。許してなるものか……!! 今に見てろよ、悪党共めぇ……っ!!

 

「あのー、発言しても良いかな……?」

「黙ってろっ。貴様の相手などしてられるかっ!」

 

 よし、決めた。もう決めたっ! 今直ぐ、被身子を連れ去った悪党組織(ひゅうまらいず)の奴等を見付け出して、殴り飛ばす。いや、この手で殺す。確実に屠る。今回ばかりは駄目じゃ。我慢も何も無い。それで英雄(ひいろお)になれなくとも、檻の中に入れられたって構わん。絶対に、絶対に殺してやるっっ。

 

「君のフィアンセ探しを手伝わせてくれないかな? 誘拐なんて、ヒーローとして見過ごせないね!」

「黙ってろと言ったじゃろ!?」

 

 こ、の……っ。何なんじゃこやつはっ。儂と呪い合わないくせに、被身子を救けに行くのを手伝うじゃと……!? ふざけるなっ。何で儂が、呪霊なんぞの手を借りると思った!? 話にならんっ。もう、どいつもこいつも知った事かっ。儂は独りで動く!! 被身子が居る方角は分かるんじゃから、そっちに向かって真っ直ぐ突き進めば良いだけの話じゃ!!

 

「だから、待ったヨリミナ。闇雲に探したってしょうがないでしょ!」

「居場所なら分かる!! 儂はもう行く!!」

「居場所が分かる……? 分かった。それなら、せめて三人連れて行け。ツクヨミとテイルマンと、シュガーマンを!」

「知るか!!」

 

 もう、誰の話じゃろうと聞いてやるつもりはないっ。英雄(ひいろお)じゃろうが呪霊じゃろうが、くらすめぇと達じゃろうが聞いてやらん!

 意識を集中させると、被身子がどの方角に居るのか分かる。その方角に向かって、全力で……跳ぶ!!

 

「待て! 廻道!!」

「円花ァ!!」

 

 跳んだ直後。常闇と、だぁくしゃどうの声が聞こえた。が、無視じゃ無視! 一刻も早く被身子を見付ける。そして救け出す! 悪党組織の連中は、残らず殺してやる……!!

 

 

 

 

 

 





三人称による補完は要りますか?

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