待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
ようやく。ようやく、被身子が居るであろう場所に辿り着いた。塀に囲われた廃工場に明かりは無いが、それでも人の気配が確かに有る。ひとまず儂等は錆びた門の陰から中の様子を窺っているが、時折人影が目に入るからの。どれだけ悪党が居るのかは、分からん。分からんが、ここまで来たのなら数などどうでも良い。こうなったら真正面から殴り込んでくれるわ……!!
「……まだだ、頼皆。まだ動くな」
「あ゛?」
「渡我先輩が何処に居るのか分からないんだ。下手に突入しては、渡我先輩に危険が及ぶ」
「……ちっ」
……くそっ。今直ぐ殴り込みたい。殴り込みたいが、常闇の言う事は一理有る。確かに今ここで真っ直ぐ殴り込みに行ってしまえば、その瞬間に悪党共が儂を察知してしまう。そうなれば、被身子が危ないじゃろう。なら、方法はひとつしかない。まずは被身子を取り戻してから、この廃工場の中を制圧するべきじゃ。そうするべきなのは、分かっている。じゃけど。
『―――また、見殺しにする気か?』
こんな時じゃって言うのに、かつての儂が目の前に現れた。
分かっている。ここで子供達と離れたら、子供達が死ぬって言いたいんじゃろ? そんな事は、言われなくたって分かってる。相手は、儂を調べ上げて被身子を拐うような連中じゃ。そんな奴等が、子供に対して何をするかなんて容易に想像出来てしまう。
……じゃから。じゃから、もうここから先は……。
『―――そうだ。許すな、頼るな。お前は、頼皆だろう』
そうじゃ。分かってる。分かってるんじゃ。儂は誰にも頼らない。頼ってはならない。また子供を、死なせるつもりか。ただでさえ被身子を連れ去られて、その上……他の子供達まで危険に付き合わせて。
……反吐が出る。被身子を守れなかったことも、ここまで学友を巻き込んでしまったことにも。
今からでも、遅くはない。ここから先は―――。
「……大丈夫だ、廻道。俺達で救けよう」
独りで動こうとした、その時。常闇に手を握られた。
「廻道さんでも、不安になるんだね。今こんな事言うのもあれだけど、ちょっと安心した」
「無事に乗り越えたら、甘いものでもどーだ? 渡我先輩と、みんなで」
尾白や砂藤まで、儂に寄り添って背中を擦って来る。……おい、何なんじゃたわけ。せくはらのつもりなら、後で被身子に言い付けるが? それが原因で刺されたって庇ってやらんぞ。
「……恐怖は、俺達にも有る。だからこそ、支え合って行こう」
は?
何……を、言ってるんじゃこの鳥頭は。
恐怖? 恐怖じゃと? 儂が怖がっていると……? そんなもの、とっくの昔に……。
……いや。否定は、出来ぬの。子供が傷付くことが怖い。子供が死ぬのが恐ろしい。それ自体は否定はせんが、指摘されるとそれはそれで逆らいたくなる気もして来た。誰が、怖がってる、じゃって??
ふんっ。鳥頭如きに儂の何が分かるんじゃ。被身子のように、儂の全てを知った訳でもあるまいに。
直ぐ側に居る幻覚をそのままに、ゆっくりと立ち上がる。いつかの儂が、今の儂を黙って睨む。じゃから。
「……黙って見てろ。儂はもう、
それだけは、かつての儂にも今の儂にも言い聞かせておく。かつての自分を、加茂頼皆を捨てるつもりは毛頭ない。どうしたって過去は消えない。それがどんなに重いものじゃったとしても、背負って抱えて生きて行くしかない。……じゃけど、それでも。
それでも。今の儂は、廻道円花なんじゃから。
「廻道?」
「いや、何でもない。……救けに行くぞ、被身子を」
今は、被身子を救ける。その一点だけを考えろ。どうすれば救けられるのか、どうすれば何一つ失わずにこの事態を終わらせることが出来るのか。それだけを思え、それだけに集中しろ。今は、かつての自分など知ったことか。
「陽動は儂がやる。儂なら気を引き易いじゃろ。……じゃから」
じゃから、まぁ……。やはり考えるだけでも、気乗りしない提案では有るんじゃけども。
……んんむ。これは、どうにも言い難いな。たった一言を口にするのが、何じゃか今更な気がしての。気恥ずかしいと言うか、何と言うか……。今は、気後れしている場合では無いと言うのに。
軽く深呼吸をして、三人の面を見詰めてみる。常闇も尾白も砂藤も、気まずいことに黙っておるわ。こういう時ぐらいは軽口のひとつぐらい叩いてくれたって良いと思うが、どうにも
「潜入したいと思うのなら、譲ってやる。……ふんっ」
不器用か。我ながら、今の物言いはどうかと思う。何じゃか情けなくなってきて、つい顔を逸らしてしまった。居心地も悪くなってしまったので、返事など待たずに動いてしまおう。これで三人が動かぬのなら、それで良し。動いてしまうなら、それも良し。出来る限り儂が騒いで、悪党共の注意を引くことが出来れば三人が動き易くなるじゃろう。
呪力を纏い、廃工場の門を潜る。そしたら直ぐ、……広場とも言えそうな開けた場所に居た悪党二人と目が合った。案の定武装しておるが、まぁそれだけじゃ。数時間前の制圧任務の時と、そうやることは変わらない。ただし、手加減は無しじゃ。片っ端から、殺すつもりで相手にしてやる。
儂の被身子に手を出したらどうなるのか、思い知らせてくれる……!!
いつものように、いつも通りに、両手を叩き合わせる。その時、門の陰で人が動く気配がした。こんな時だけ察しが良いのか、もはや諦めたのか。どちらにせよ、三人は動き始めた。どう動くかは知らん。勝手にしたら良い。……ただ、一言付け加えておくべきじゃったの。
死んだら呪うぞ、馬鹿共め。と。
◆
儂が姿を見せると同時、一人が廃工場の中に駆け込みもう独りが銃を構えた。から、直ぐにその場から跳んで銃口から逃れる。同時に苅祓を飛ばし、銃を持つ手を切り刻む。それから真っ直ぐ、悪党の懐に跳び込んで……!
「せぇ、のお!!」
全力で、下から拳で悪党の顎を突き上げる!
嫌な音が響いたと同時、儂がぶん殴った悪党は真上に吹き飛んだ。どうせ派手に暴れるんじゃから、もう一つ派手に行くとしようっ。
吹き飛んだ悪党に向かって跳び、今度は全力で蹴り飛ばす。狙いは、廃工場の開けた出入り口。中に向かって、吹き飛ばしてやったわ。悪党の一人は二度、三度と床を転がった。その直後。
「喧しいのぅ……!」
それはもう喧しい音が響き渡り、何なら壁にある回転灯が赤く光る。儂に向かって、奥から悪党共が続々とやって来たわ。また、どいつもこいつも銃ばかり持っておる。から、銃口が向いた瞬間に足元に転がってる悪党を血で持ち上げて盾とする。ついでに、ろくに狙いも定めず赤縛も苅祓も四方八方に放っておく。それからっ。
儂自身は、真上に向かって跳ぶ。宙から見下ろしてみると、悪党の数は決して少なくない。が、多いと言うにはまだまだ物足りんの。そんな程度の数しかいない、なんて事は無いじゃろうっ? もっと出て来い!!
天井を蹴り、今度は勢い良く地面に向かって跳ぶ。その途中、何度か銃声が響いた。弾丸が当たることはなかったがなっ!
「どっ、こいせぇ!!」
「うわぁあっ!?」
全力で呪力を放出し、地面を殴る。儂の周囲に拡散した呪力が、何人か纏めて吹き飛ばした。
まだじゃ、もっと……! もっと派手に暴れなければ!!
今度は個性に、正の力を叩き込む。突き出すのは左手。建物ごととまでは行かんが、この場は無事で済むと思うなよっ。
「逆巻け!!」
術式反転ならぬ、個性反転。その力を以て生じさせるのは、発散する回転そのもの。触れた空気は猛烈に回り始め、それは数秒と経たぬ内に―――。
「ぬ、お……っ!?」
―――物凄い突風となり、周囲全てを吹き飛ばす。
い、いかん。もう少し加減するなり直ぐに退避するべきじゃった。悪党どころか、儂自身まで吹き飛んだわ。何とか受け身を取って直ぐに立ち上がれば、目に見えていた悪党共は全員吹き飛んでおったわ。中には壁にめり込んでいる奴まで居る始末。……んんむ、やはり個性の扱いはどうにも難しい。要鍛錬じゃの。今はこんな程度で済んだだけ、良しとするが。下手すると、建物ごと吹き飛ばしていたかもしれん。って、うぇえっ……! め、目が回る……っ!!
くそ、この反動ばかりはどうにも……っ。
「……さて、次じゃ」
反動による目眩は消え去った。周囲に倒れた悪党を全員残らず赤縛で縛り、ついでに一塊にして廃工場の外に向かって蹴り飛ばした。何人か骨が折れたような音を出したが、放っておく。命があるだけ幸運じゃったと思えよ、儂の被身子に手を出した屑共め。かつての儂じゃったら、皆殺しにしてるところじゃ。
……それで、じゃ。ひとまず、姿を見せた悪党共については制圧した。怪我人多数じゃろうが、死人は出とらんようじゃからそれで良しとする。中には拘束から逃れようと藻掻いている奴が何人か居るが、今は放って置く。生半可な縛り方はしとらんし、儂は儂でさっさと先に進むとしよう。もう少し時間を掛けて暴れれば良かったのぅ。いや、長引かせるのは良くないか。
回転灯で赤く染まる工場内を進んで行く。悪党共が出て来た扉の向こうは、これまた薄暗い廊下じゃの。人の気配は無さそうじゃ。一応両手を合わせ、いつでも穿血を放てるようにしつつ奥へ奥へと進んで行く。被身子は、……多分地下じゃのこれは。潜入している筈の常闇達が先に進んでいるとは思うが、警戒は続けておく。まだ何処かに悪党が潜んでるかもしれんしの。って。
「っと……」
左右に気配を感じたので、その場から真後ろに向かって跳ぶ。すると、ほんの数瞬前に儂が居た場所に何か得体の知れぬ物が叩き付けられた。暗くて見え難いが、これは……木の根か? いや、よく見れば幾重にも絡み合った銅線か。左右から飛び出て来たそれは、儂の目の前で絡み続けて壁となる。どころではないな。
「ぬおっ!?」
壁を作る程に絡み合った銅線が、急に儂の方に向かって伸びてきた。ので、もう一度背後に跳んで避ける。ちっ、結局進んだ分だけ下がる羽目になってしまった。跳び下がりつつも穿血を放ってみたが、駄目じゃ。貫くことは容易じゃったが、銅線の壁は直ぐに元通りになってしまう。呪具で叩き斬るのは有効か……? いや、直ぐまた壁になるだけじゃろう。それから、銅線は常々蠢きおるから見ていて気色悪い。まったく、どういう個性なんじゃか。
「は、ハハ。ひひっは、はは……!!」
「あ゛?」
何処ぞから妙な笑い声が聞こえてくる。音の反響からして、恐らくは銅線の向こう側なんじゃろうけど。
「ヒャぁアあっッ!!」
「ちっ」
幾本もの銅線が凄まじい勢いで迫る。前から上から、右から左から。捕まったら無事では済まなそうじゃから、更に背後に向かって跳ぶ。蠢く銅線のせいで、外まで下がらざるを得なかった。さっさと被身子を救けに行きたいのに、まさかこんな形で足止めされるとは。それが気に食わん。……気に食わんが、この銅線を操る悪党が常闇達の方に向かっていないだけ良しとしておくか。儂を狙って暴れる分には、むしろ好都合と言えるじゃろう。
「は、はは……っ! ひひハ、ふひ……っ!」
また笑い声が聞こえて来て、銅線が蠢いた。まるで道を開けるかのように、左右に分かれる。その様を観察してみると、やはり銅線は尋常じゃない長さと量をしていることが分かる。そして、これだけの量の銅線を苦も無く操る悪党の姿が見えた。何やら白い服に身を包んだ、青白い面の男じゃ。ただ、明らかに様子がおかしいの。遠目から見ても、目の焦点が合ってないことが分かる。薄ら笑いを浮かべて笑い続けている様は、とても平静な振る舞いとは思えない。あれは間違いなく、気が触れているようじゃの。
……こんな奴が、被身子を連れ去ったのか? いや、流石に有り得ないじゃろう。こやつ自身は、儂や
いや、良い。悪党の正体なぞ、どうじゃって良いんじゃ。それよりも今は、他に気にせねばならん事が幾つも有る。
もう一度両手を叩き合わせて、構えておく。すると、また銅線が動き始めた。一斉に儂へ向かってくるから、穿血を放つ用意をしたまま今度は右に跳ぶ。その直後、一瞬前に儂が立っていた場所は銅線の波に呑み込まれた。
ふむ……。速度はまぁまぁじゃ。恐らく威力じゃって、それなりじゃろう。しかしなぁ、まるで恐さがない。ただ個性を、力任せに振るっているようにしか見えぬ。それでは、楽しくも何ともない。
「穿血」
銅線の向こう側、悪党が居るであろう所に向かって穿血を放つ。儂の血は容易く銅線の壁を突き破って見せたが、どうやら無意味じゃ。人に当たった手応えが無い。が、穿血ならば容易に風穴を開けれることが分かっただけ良しとしよう。恐らくは苅祓でも切り裂ける筈じゃ。銅線自体に、大した強度は無いと見た。
ならば。
儂に向かって四方八方から殺到する銅線を避けつつ、悪党の位置を探る。単純な物量攻撃故に、少々面倒じゃ。もはや個性で吹き飛ばしてしまいたい気すらしてくる。被身子が捕らわれて居なければ、とっくにそうしてるところなんじゃけどなぁ。
銅線が頬を掠めた。徐々にでは有るが、確実に儂を捉え始めている。ちっ、対した脅威でも無いくせに面倒じゃな。悪党一人如きに、時間を稼がれてしまっている。
「ひとつ聞いておくぞ悪党。被身子は何処じゃ?」
「ふひっ、ヒひゃひゃァアア!!」
幾重もの銅線が迫る。それを苅祓で切り裂き、拳で打ち払い、蹴り飛ばしたり跳び避けたり。まだまだ捌ける範疇では有るから問題は無い。……んじゃけども、この悪党から情報を引き出すのは無理そうじゃな。さっきからずっと、気味悪い笑い声を上げ続けてばかりで意思疎通が出来ん。何じゃこやつ、気が狂ってるのか?
……まぁ、良い。立ち塞がるなら、押し通るだけじゃっ!
「苅祓!」
四方八方から儂に向かう銅線に、血刃を放つ。いちいち全てを切り裂くような真似はしない。ただ、ほんの少しで良いから時間を稼ぎたかっただけじゃ。
迫り来る銅線を切り裂くことで出来た隙間に、強引に身体を捩じ込ませて右手を伸ばす。触れるのは、悪党と儂を遮る銅線の壁。狙いはひとつ。この鬱陶しい銅線全てを、使い物に出来なくしてやる……!
「回れっ!!」
呪力強化した回転。その対象は、銅線のみに限定しておいた。故に、儂の個性は銅線だけを回転させていく。下手に巻き込まれぬよう、再び周囲から迫っていた銅線を術式で防ぎながら後ろに跳ぶ。
二歩下がった時、個性の反動で視界が歪んだ。吐き気を堪えつつ、もう一度大きく跳ぶ。結局儂は、廃工場の出入り口から大きく離れる羽目になってしまった。……が、問題は無い。
大きく跳び退いて正解じゃった。儂が触れた箇所に向けて回り始めた銅線は、物凄い勢いで収束していく。あんなのに巻き込まれたら、身動きが取れなくなってしまう。下手すれば圧迫されて骨が砕ける。場合によっては、死ぬかもな……。って、いかん。向こう側の悪党がこれに巻き込まれでもしたら大惨事に……!
……。なったらなったらで、構わんか。すまん被身子、儂は人殺しになったかもしれん。
「ギぃ、やぁあアアぁア……!!?」
あぁ、うむ……。回ることで収束した銅線の中から、断末魔のような声が聞こえた。儂の目の前に出来上がったのは、銅線の球体。単なる偶然か、悪党の右腕と頭だけが外に出ておるの。死ん……では居ないようじゃな。息は何とか出来とるようじゃし、放っておいても大丈夫じゃと思う。一応、念の為に右手首に触れてみる。脈は、……有るの。狂ったように早いことが気になったが、血は巡っておるようじゃからこのままでも死にはしないじゃろう。なので。
「ふんっ!」
「グぎゃッ!?」
思いっきり側頭部を殴って、気絶させておく。銅線を操る個性じゃからな。意識が有っては、また暴れ出すに決まっている。悪党はぐったりして、ぴくりとも動かなくなった。取り敢えずこれで、またひとつ常闇達の危険が減ったとは思う。早いところ合流するなり、先に儂独りで被身子を救けに行きたいところなんじゃけども……。
……そうも言ってられぬか。銅線の球体が道を塞いでおる。仕方ない、何処か迂回路を探して廃工場の中に入るか。その辺に非常口か何かが有るじゃろ、多分。急ぎ、周囲を確認してじゃな……。って。
「ブラッディ、こっち……!」
建物の陰から、見知った奴が飛び出して来た。何じゃってこんな場所に居るのかは知らんけど、まぁ警官じゃからな。居てもおかしくはない、とは思う。
「ここで何をしとるんじゃ貴様は」
「何って、ヒミコさんを連レ戻しに……! ごめん、俺が付いて居ながラ……!!」
「……そうか。じゃったら、中の道案内は頼んだ」
「もちロん、安全確認は任せて……!」
まぁこの際、もらるに道案内をさせるとするか。何でこの場に居て、何で頭に包帯を巻いてるのかは知らんけどな。とにかく付いて行くとしよう。被身子の居る方角は、……やはり斜め下じゃの。多分、と言うか間違いなく地下室か何かじゃな。でなければ斜め下に被身子を感じるなんてことはことは無いじゃろう。
とにかく、急ぐとしよう。被身子と、ついでに常闇達が心配なんじゃ。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ