待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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世界の危機。個性無き者

 

 

 

 

 

「円花ちゃんっ!」

「被身子っ」

 

 もらるの案内で廃工場の中に入り込み、地下へ通ずる階段を下ると被身子が駆け寄って来た。じゃから儂も駆け寄って、どちらからとは言えぬ形でお互いに抱き締め合う。良かった、被身子は無事じゃ。こんな目に遭わせてしまったことを謝りたい。何度だって謝らなければ、儂の気が済まない。……が、そうするにはまだ早い。反省も後悔も、後にしなければならん。

 ひとまず、被身子を奪還出来たと思う。大暴れした甲斐も有って、常闇達も無事のようじゃ。後はここから、全員で脱出するだけ。そしたら、何処かで一休みしたって良いじゃろう。そうした方が、被身子や常闇達が少しは気を抜ける。警戒するのは、もう儂だけで良いじゃろう。

 

 なんて考えていた、その時。背中に殺気が突き刺さった。何事かと思って咄嗟に振り向けば、儂の目に入ったのは儂等に向かって拳銃を構えた……もらるの姿じゃった。

 

「……おい。何をしてるんじゃ貴様」

「こうまでさレて、まだ分かラない? 信じてくレるのは結構だけどね、君はもう少し人を見ル目を養った方が良いんじゃない……?」

 

 ……。いや、そうまでされたら流石に分かるんじゃけど。人を見る目が何だのと、貴様に言われる筋合いは無いのぅ。

 とにかく。どういう事情かは知らんが、もらるが儂等に銃口を向けている。だけでは無い。何か、筒のような物を懐から取り出した。

 

 そして、どうにも虚ろな目をして乾いた笑みを顔に貼り付けておる。失意と呆れ、か……?  いや、どうでも良いな。儂等に向かって銃を向けるなら、もう儂がやる事は決まっている。

 両手を叩き合わせると同時、被身子や常闇達に儂の血を付着させておく。いつでも引っ張れるように。

 

「全員動かないように。何かしようとしたラ、直ぐにこのスイッチを押す。そしたラこの廃工場は、直ぐに個性因子誘発剤で満たさレル」

 

 個性因子誘発剤……? ……あぁ、確か例の……。

 

「―――っ!!」

「ふぅん? 君達はブラッディと違って、理解が早いね?」

「くそ……!」

 

 ……んん。まったく、まだまだ未熟者なんじゃから。個性因子誘発剤とやらが何かしらの脅威なのは、常闇達の反応で分かった。儂の真後ろに居る被身子じゃって、固くなっとるからの。危機なのは分かったが、じゃからって焦りを表情や気配に出したら向こうの思う壺じゃろうが。

 

「そのスイッチを押したら、貴方も無事じゃ済まない筈だ……!」

「いいや? 俺は無個性だかラ、ちょっと煙たいだけだよ。でも君達は、全員個性持ちだから死んじゃうけどね。

 だかラさ、……取引しない? ねぇブラッディ。ヒューマライズに入ってくレルなラ、こレは押さないでおいてあげルけど」

 

 ……ふぅむ。また面倒な事になって来た。案内役に選んだ男が、まさか悪党組織の一員じゃったとはな。いやまぁ、今更ながら思い返してみればそんな節が……有ったような無かったような。確か、ひゅうまらいず……とやらは所謂『無個性至上主義』じゃったか? それで今回、世界で無茶苦茶な真似をし始めたとか。悪党の事情なぞ知らんし、詳しくは知りたいとは思わん。今この場で被身子や子供達に危害を加えるつもりなら、儂はそれを止めるだけじゃ。

 

「君は、こちラ側だロう? 今の時代を、今の世界を良く思ってないのなラ……」

「……はぁ……」

 

 つい、溜め息を吐いてしまった。いやはや、これは何とも。

 

「何とも、くだらん勧誘じゃな」

 

 まっこと、くだらん。確かに、儂はこの時代を良いものとは思っておらん。個性が有って英雄(ひいろお)悪党(ゔぃらん)が居て、そして……子供が危険な場を輝かしい場だと勘違いしてしまう。じゃから、好きではない。好ましくない。何なら嫌いと断言出来る。じゃけどなぁ。

 

 じゃからって、暴力や破壊で世界を変えたいなどとは思わん。儂はそこまで耄碌しとらんて。

 

「交渉決裂……ってことで良いのかな?」

「そもそも交渉になっとらん」

「なラ、君の付け人。……レディ・ナガンを殺すと言ったラ?」

「それは脅しにすらならん。大人まで守ってやる程、儂はお人好しじゃない」

 

 ながんが死ぬなら、その時はその時じゃ。親しくないと言えば嘘になるが、いざとなれば儂はあやつを切り捨てる。じゃって大人が死んだり殺されたりしたところで、それは当人の自己責任でしかないからの。生きるも死ぬも勝手にしたら良いんじゃ。まぁ血迷って子供に危害を加えるなら、流石に儂が止めに入るが。

 ……被身子が、儂の服をこっそりと摘んだ。何も言わんが、不安に思ってることだけは分かる。じゃからこそ、儂がここで引き下がったり弱味を見せることは出来ん。

 

 それに、分かっとる。ながんも守って欲しいんじゃろ? お主が拉致されている以上、ながんもそうなってたとしても何ら不思議ではない。……大人まで守るのは主義では無いが、まぁ良い。日頃世話になっとるんじゃから、そのぐらいの恩返しはする。と、なると……。

 

 まぁ、とっ捕まえて吐かせれば良いか。それだけの話じゃ。

 

「良いの? こレ押したラ、全員死ぬよ?」

「貴様にそんな暇が有ればな」

 

 これ以上話を続けたって、何にもならんじゃろう。じゃから、穿血を放った。狙いは左肩、小さな筒……押し釦(すいっち)を持ってる腕を、ひとまず動かさせない為に。

 

「ぐぁ……っ!?」

 

 案の定と言うか、やはりと言うか。穿血は、もらるの肩を貫いた。咄嗟に避けようとしたのは評価してやる。が、余程に腕が立つ英雄(ひいろお)でなければまず避けれん。

 肩を射抜かれた衝撃や痛みで、一時的にも握力を無くしたんじゃろう。押し釦(すいっち)が宙を舞った。直後、儂の横を常闇達が猛烈な勢いで駆け抜けた。ので、仕方ないから悪党警官の右腕を苅祓で切り裂いておいた。

 壁や天井を蹴ることで宙を舞った尾白が上から、思ったより速く駆ける砂藤が真正面から。ほぼ同時に、悪党の頭やら腹やらをぶん殴る。常闇は、だぁくしゃどうと共に押し釦(すいっち)を確保した。尾白と砂藤は、些かやり過ぎでは? いやまぁ、相手が何をしでかすか分からない以上は手は抜くべきではないか。迅速な悪党制圧は、英雄(ひいろお)なら出来て当たり前みたいなものじゃし。

 

 まぁ、何処ぞの筋肉阿呆や燃え面とは遥かに遅いが。

 

「……終いじゃ。もう諦めておけ」

「―――っ、……っっ!!」

 

 殴り倒された悪党を、赤縛で拘束しておく。下手な動きをされても面倒じゃから、念入りに。気絶させるのが手っ取り早い気もするが、もうそこまでする必要は無いじゃろう。

 

「……ふぅ……。あとは、此処から脱出するだけだね」

「早く外に出よう。この状況を見せれば、流石にヒーローも警察も濡れ衣だったと分かってくれる筈だ」

「行こう、みんな。まずは渡我先輩を安全な場所に。その後で、次はレディ・ナガンを救けねーと」

 

 ……そうじゃな。その通りじゃ。被身子は、こうして救け出せた。ならば次は……ながんじゃな。何処に捕らえられてるかは知らんが、とにかく探すしかない。大人を救けに行くのは気が乗らんが、放っておくのは流石に英雄(ひいろお)らしくないか……。勝手に逃げ出せと思ってしまうのは、被身子を救け出せたからじゃろうなぁ。少し、と言うか結構安心してしまった。一息入れたいところじゃけども、まだ足を止めるわけにはいかんな。

 

 次は、ながんじゃ。さっさと救けてやらねば。

 

「……そ、くそ……! くそぉ……っ!!」

 

 儂の目の前で、常闇達の足元で。もらるが悔しそうに呻いている。どうにか拘束から逃れようとしているようじゃけども、それは無駄じゃ。生半可な縛り方はしとらん。何も出来ぬよう、手足どころか腕や指まで縛り付けてやったからのぅ。このまま放っておいても良いが、ながんを救けに行く前にもらるから情報を引き出した方が良いかもしれん。よし、直ぐに動いてしまおう。まずは……止血でもしてやるか。穿血で肩を貫いてしまったからの。何かしてやらんと、下手すれば失血死してしまう。

 

「……まったく、馬鹿な真似をしおって。何なんじゃ貴様」

 

 取り敢えず止血の為に、悪党警官に近付いてしゃがむ。処置してる最中に情報を吐いてくれると楽なんじゃけども、上手く行くかは知らん。

 

「ぅ、ルさぃ……! 何も、何も知ラないくせに……!!」

 

 うぅむ。ながんの居場所を聞き出すのに、少し時間が掛かりそうじゃ。聞いても素直に答えはしないじゃろうし、かと言って長々と尋問するのは誤りじゃ。救けに行くのなら、早い内が良いじゃろう。

 

「もう止めとけ、馬鹿を積み重ねるのは。ながんは何処じゃ?」

「分かったような口を……! 個性を持ってて、オールマイトの後継でっ! 恵まれてる君なんかに……!!

 何でも持ってル君に、分かラレて堪ルか!!!」

「―――」

 

 ―――……、……何でも……?

 

 ……まぁ、確かにそうかもな。そうじゃと思う。儂を愛する人が居て、我が子を愛し育める親を持てて、理解ある友人を持てていると思う。生まれ持った力にじゃって、儂は恵まれている。何でも持ってると言われたら、そうとしか言えん側の人間なんじゃろう。じゃけども。

 

 じゃけども、儂は『何でも』は持っていない。それは断言出来る。じゃって、そうじゃろ? 何でも持っているなら、何も失わずに済んだ。糞親父に、弟妹の命を奪われることはなかった。両面宿儺に勝って、いつか夢見た世界を掴み取れた。でも、そうじゃない。幾つも幾つも取り零して、その果てに何を掴むこともなく……死んだんじゃ。

 救けようとして、守ろうとして。救った子供の何倍もの命を奪い、そのまた何倍もの命を奪われて。

 

「―――……は?」

 

 あ、いかん。被身子が怒った。これはあれじゃ、激(おこ)ってやつじゃ。威圧感が凄まじい。もしかすると過去一かもしれん。何でお主は、怒るとそうなるんじゃ。放っておいても良いが、下手な真似をされても敵わん。ひとまず、もらると被身子の間に腕を伸ばして制止しておく。

 

 ……まったく。お陰で言い返す暇も無い。その分被身子が怒ってくれてるから、まぁ良しとしておく。こやつと来たら、まっこと仕方のない奴なんじゃから。良いがな。愛い奴め。

 

「もう一度聞くぞ、もらる。ながんは何処じゃ?」

「……言うもんか。俺の役割は、君の足止めなんだかラ」

「そうか。……おい、行くぞ。次はながんじゃ、ながん」

「その前に刺しますっ。その人、刺します!!」

「止さぬかたわけ。ほら、良いから行くぞ」

 

 すっかり激怒している被身子を無理矢理引っ張る形で、地に伏した悪党を跨ぐ。手を離したら絶対に大惨事じゃから、落ち着くまではこのまま手を握っておこう。それに今後は、もっと被身子の側に居なければな。

 

「ぉ、おう……。でもよ、……良いのか?」

「何が?」

 

 来た道を被身子を引っ張りながら戻ろうとすると、砂藤に驚かれた。何でじゃ。

 

「いや、ほら……もっと怒るかと思ってたから。渡我先輩を拉致されて」

「あぁ、もちろん殺してしまいたいぞ? じゃけど、約束は約束じゃろうが」

 

 本音を言えば、もちろん殺してしまいたい。儂の被身子に手を出した奴は誰であれ、ただでは済まさん。……が、約束は約束じゃ。人殺しはしない。今はまだ、この手を血で汚すつもりはない。悪党相手に不殺を貫くなどと、我ながら随分と甘い考えじゃと思うけど。

 

 まぁ、それはさておき。

 

 早くながんを救けに行かなければ。その為にまずは、手掛かりを探すところからじゃな。もらるは何も吐かんから、表で拘束しておいた連中から聞き出すしかあるまい。何か役立つ手掛かりを持ってれば良いんじゃけど、あまり期待出来そうにないのぅ……。

 

「……救けに行くにも、情報が居るよ。長居は良くないけど、いっそ此処を探してみるのはどう?」

「……うむ。まぁ、そうじゃな……?」

 

 先に階段を何段か登っていると、今度は尾白が提案して来た。悪くない案じゃとは思う。ながんを救ける為には、やはり情報が要る。この廃工場の中に、何かしら有ると良いんじゃけども。

 

「……探し物は任せる。儂は見張りでもしてとく」

「あぁ。頼む」

 

 そこらに悪党共が転がっているが、どいつもこいつも気絶しとるから大丈夫じゃろう。意識が有るのは、もらるくらいじゃ。諦めたのか逃げ出す算段でも立てているのか、今は大人しくしとるがな。

 じゃから、そうじゃなぁ。周囲に気を配りつつ、被身子を宥めよう。すっかり不機嫌になっておる。やっぱり仕方ない奴なんじゃから。ほれほれ、しかめっ面なぞするんじゃない。ほれほれ。

 

「ん、むむぅ……。もぅ、何ですかぁ……っ」

「いや、宥めようと思っての?」

「そんなんじゃ宥められてあげません。ぷいっ」

 

 む。これでは駄目か。被身子があまりに顰めっ面じゃったから、試しに両頬を揉んでみたんじゃけども。余計に拗ねてしまったの。でも少し喜んでるのはお見通しじゃ。こんな時でも甘えおって。拗ねながら甘えるとは、中々器用な真似をするの貴様。

 こんな場所ではあるが、仕方ないから甘やかしてやるとしよう。頬を撫でて頭を撫でて、ついでに抱き寄せて。こうして触れていると、少しずつ機嫌が良くなっていくのが分かる。扱い易い時は扱い易いんじゃよなぁ。こやつは時折、浅薄で愚かというか。……そう、ちょろいってやつじゃ。被身子はたまに、ちょろい。そう言うところも、儂は愛おしいと思うが。

 

「まったく、お主と来たら……」

「まっこと仕方ない奴にしたのは、ヨリくんですよぉ……♡ 責任取ってくださいっ!」

「ぐぇえっ」

 

 抱き締め返された挙句、全体重を預けられてしまった。何とか壁に寄り掛かって転ばぬようにはしたが、姿勢が不安定で立ってられん。結局、被身子に抱き付かれたまま階段に座り込む羽目になってしまった。すっかり甘え始めてしまった被身子をそのままにしつつ、周囲に気を配っておく。もらるは……大人しくしとるの。そこらに転がったままの悪党共は、……念の為に縛っておくか。血を飛ばして拘束しておく。これで目が覚めても、動く事はままならんじゃろう。

 

 ……それから。

 

「言っておくが、儂は『何でも』持ってるわけじゃない。何ならこの世界は生き難いし、大嫌いじゃ」

 

 被身子を甘やかしつつ、それだけは言っておく。返答は無い。これ以上、悪党なんぞに何かを伝えるつもりもない。……ただ。

 

 ただ、何と言うか。少し……この世の中について考えてしまうのぅ。個性なんて力が有って、そのせいで生き辛い者が少なからず存在していて。

 

 例えば、無個性。個性を持って産まれて当たり前のこの時代、無個性はさぞ生き辛いんじゃろう。

 例えば、異形。産まれながらにして、人から大きく離れた容姿や力を持ってしまっている。結果、差別の対象にされることは……残念ながら多いようじゃ。儂も見慣れるまではいちいち目を丸くしたし。田舎の方では、根強い差別意識が残ってるそうじゃ。

 

 ……そして、被身子のような場合も有る。自らの個性に振り回されて、肉親から見離されてしまった者。この世の中が、酷く生き難い者。

 儂が居なければ、儂と出会うことが無かったら、被身子はどうなってたんじゃろうなぁ……。誰彼構わず血を啜ったり、刃物を振り回したりしてたんじゃろうか。案外、良き理解者に出会えて今と大して変わらない……なんて事も有り得るか。

 

 まぁ、何にせよ。個性なんて力が有るから、それに振り回されて傷付いた子供は確実に存在している。親に恵まれなかった子、力に振り回された子、誰にも救けられなかった子。色々と居るんじゃろうな。多分そのせいで、悪党が産まれたりするんじゃろう。そう考えると、遣る瀬無いのぅ。

 

 

 子供が力を持つ事は、何も悪いことじゃない。力を持って産まれることも、持たずに産まれることじゃって、悪い事ではないんじゃ。けれど。

 

 力の扱いや、力との向き合い方はしっかりと教え込むべきじゃろうて。でないと、ほら。そこの悪党警官のような奴が出て来てしまう。

 

 

「……むぅーー……」

 

 

 あ、いかん。あれこれと考えていたら、被身子が不満そうにしている。気が付いたら撫でる手を止めてしまっていた。余計に不機嫌になられても敵わんし、しっかり甘やかしておかねば。小難しい事を考えるのは止めじゃ止め。考えるのは、後でだって良いじゃろう。考えたところで、何が変わるわけでもないとは思うが。

 

 

 とにかく。今は被身子が最優先じゃ!

 

 

 

 

 






年内最後の更新となります。読者の皆様には今年もお世話になりました。また来年もよろしくお願いします。

三人称による補完は要りますか?

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