待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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呪霊を()る。

 

 

 

 

 

 祭りは楽しいものじゃ。いつの時代も、人々が笑って過ごしているところを見るのは気分が良い。まぁ喧しいと思わんでもないが。

 この時代の甘味の素晴らしさに心躍る一時を過ごした儂は、そろそろ帰ろうと父や母に言われて被身子と共に神社を後にしようと帰路に就く。どうやら母の調子が悪いらしい。父と結託して隠しておるが儂には見え見えじゃ。仕事の疲れが出たんじゃろ。後で労ってやらねばなるまい。いやこれは、そう言うんじゃないな。そうか、母よ。お主、あれが分かるのか。

 

 それはそうと、射的の後から被身子はずっと顔を赤くして俯いとる。でも時折、薬指に嵌めた指輪を見ては笑う。ちょくちょく呪霊顔負けのとんでも笑顔を浮かべるものだから、すれ違う大人達は被身子を見ては度肝を抜かれているようじゃ。まぁそれが正しい反応ではある。こやつの笑顔は目に毒だからの。

 

 とは言え、唯一無二の笑顔でもある。両親が言っていたように、被身子の笑顔は特別じゃ。そのうち、儂以外の前では笑わんように教え込まんとならんな。周囲の反応を見るに、隠させた方が良い。儂の前だけで笑えと言った手前、面倒は見なければならん。

 

 ううむ。最後に綿飴を食べたいのぅ。次はいつ食べれるか分からん。はんばぁぐも美味いが、綿飴も美味いのじゃ。製法を店の者に聞いておくべきじゃったか。惜しいことをした。

 まぁこの時代の情報はいんたーねっとやてれび、百科事典なる分厚い書物で得ることが出来る。そのうち調べておけば良い。誰でも気軽に情報が得れるなんて、素晴らしいが恐ろしいがな。じゃが、いんたーねっとが平安にあれば宿儺の情報を知れたのではないか? そう思わんでもない。

 

「まどかく、……ちゃん。きょうは、ありがとぅ……」

「よい。礼には及ばん。儂も楽しかったからな」

「……ゆびわも、ありがとぅ」

「だから礼には及ばんて。お主が欲しがってたから獲ったまでじゃ。儂も被身子が笑って喜ばしい。

 うぃんうぃんとか言うやつじゃな。がはは!」

「……え、えへへ……。まどかちゃん……しゅき……」

 

 おい父と母。何故儂と被身子のやり取りを見て生暖かい目で笑うのじゃ。止めんかその薄ら笑い。頷くのも止めい。最近思うのじゃが、儂の両親は変人の類いか? いや、この話は止めよう。蛙の子は蛙だからのぅ。儂まで変人ということになってしまう。

 

 さて、それはそうと……。

 

 

「おい、そこな呪霊。祓われたくないなら、その無粋(ぶしゅい)な面を引っ込めよ。この者等に呪うつもりなら、(ころ)すぞ」

 

 人が良い気分になっとると言うのに、禍々しい気配を醸すな。儂は被身子と両親を庇うように前に立ち、指を組む。ええっと何じゃったかな。確か……。

 

 ああ、そうじゃ。思い出した。

 

 

「闇より出でて闇より黒く

 その穢れを禊ぎ祓え」

 

 ひとまず、帳を降ろして……む? 帳降ろせぬが? は? 何でじゃ?

 

 ……いや。降りとるな。ただ結界として非常に薄い。これじゃ機能しとらんに等しい。おかしいの。儂は天元の奴と関わりがある。いや正確には加茂家が、じゃがな。

 であれば儂が使っても帳は天元によって底上げされとる筈じゃ。なのにこの程度じゃと?

 

 もしや。もしやとは思うがこの時代……天元がおらんのか? 待て待て待て。六眼は? 星漿体は?

 

 そもそも、おかしいの。あの呪霊……神社の鳥居に巻き付いとる巨大な人面芋虫みたいなやつ。あやつ、一級程はあるじゃろ。そんなもんが堂々と姿を現し品定めをしていて、何故呪術師は気付かん。突発的に発生したって線もあるが……あれはどう見ても発現したばかりじゃないのぅ。

 

『見エ、ル? 見、エル?』

「おー、見えとるぞ。なんじゃ貴様は」

『聞コ、エル? 聞コエ、ル?』

「応とも」

『アア、ア。アア、ア』

 

 まぁこの会話に意味など無い。呪霊の言葉など騒音みたいなものじゃ。ただ、喋りかけられるとの。返事したくなるじゃろ?

 

 何より。呪霊とて自分を祓う存在の事はちっとは知りたい筈じゃ。呪い合うなら、誰だって猛者が良かろう?

 

 安心しろ。儂は強い。宿儺には劣るが、いずれ超えるから良い。

 

「百斂」

 

 両手を叩き合わせる。今度見せるのは射的の時とは比較にならんぞ。

 ……いかんな? 年甲斐もなく胸が高鳴ってきた。やはり良いのぅ。戦いの場に身を置くと言うのは!

 

穿血(しぇんけつ)

 

 さあこれをどうする呪霊。距離は離れてるとは言え、儂の穿血は音など置き去りにするぞ。

 

 

 あっ。

 

 

 ……。………。…………。特に何もせず祓われおった。

 

 雑魚め!!! 貴様!!! それでも一級相当か!?!? おい!!!! この胸の高鳴りをどうしてくれんじゃ!!!!

 

 許さぬ……! 雑魚は許さぬぞ……!! 猛者だ、猛者をつれてこい!! 宿儺はどこじゃ!!!

 

 ぬ。おい待て母よ。なに気絶しとる。父も何をそんなに青ざめとる。被身子は……何か嬉しそうじゃの。

 さて、呪霊なんぞに水を差されたところじゃが帰るとしよう。これ被身子、儂の手を取ってどうするつもりじゃ。そんな熱っぽい顔で笑いながら何をするつも、いっっ!?

 

 おいこら、何故噛んだ!? 待て! 待たぬか!! 何!? 血を吸いたい!?

 

 そういうのは事前に言わんか!!! 血ぐらい幾らでもくれてやるわ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 不覚じゃった。この廻道円花、一生の不覚じゃ。この時、血なんて幾らでもやるなんて口走ったから被身子は儂から離れなくなった。思えばこの夜が始まりじゃったかのぅ。

 

 被身子が、鬼気迫る押し掛け女房の如き姿を見せるようになったのは。

 

 何? あの時惚れちゃったから仕方ないのです? お主なぁ……。相手の気持ちと言うものを……。

 

 

 うるさい。不満など無いわ、たわけ。

 

 

 

 




存在しない次回があるなら、次は中学生編かなとは思う。

円花の個性? 名前から察して。
見た目? 次回な次回。次回無いけど。

帳と天元の関係その他諸々うろ覚えなんで、間違ってたらごめんなさいってことで。

ま、続かないんだから間違ってても良いな!

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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