待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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世界の危機。せぇふはうす

 

 

 

 

 

 

 

 車で移動すること、十時間程。途中で車を乗り換えたり、時折周囲を気にしつつも色々と買い出しをしたり、儂等はひたすら北へ北へと移動した。気が付けばすっかり夜更けで、目的地に辿り着いたのは日付が変わる一時間前。つまり、夜の十一時じゃの。長らく車に乗っていたせいで、すっかり体が固まってしまった。移動してる間、隙あらば被身子がせくはらしようとするから色々と大変じゃったわ。途中で気付いたんじゃけども、お預けされた事が心底気に食わなかったようじゃ。

 

 ……まったく。悪党やら警察やら英雄(ひいろお)に追われている状況でも我慢が出来ぬとはな。これでは、今夜は寝れぬじゃろう。別に良いんじゃけど。

 

「んふふ。昨日のモーテルより、結構良い感じなのです……!」

「空軍が用意したセーフハウスだ。取り敢えず、今夜は此処で過ごそう」

 

 空軍が用意した、……せぇふはうす? あぁ、隠れ家の事か。いや寧ろ、別荘……? 何でこの家が、空軍のものじゃとながんは知っているんじゃ?

 

 ……まぁ、今は細かい事なんて気にしなくて良いか。重要なのは、儂等が辿り着いたのは自然に囲まれた隠れ家ってことじゃ。それと、寒い。とても寒い。何時間も前から雪が降っていて、厚着していても凍えてしまう。何せ被身子と手を繋いでいても、手が悴みそうなぐらいじゃ。冬の米国(あめりか)は結構冷え込むようじゃな。にゅうよぉくとは、また随分と気候が違うような気がしないでもないが。

 

 とにかく、じゃ。今晩はこの隠れ家で一晩過ごす。幸いにも、周囲に住宅は無い。何なら街まで遠い筈。仮に追っ手が此処に来て戦うことになろうとも、周りを気にせず戦えるのは有り難い。念の為、帳を降ろして非術師には察知されないようにしておくがな。最低でも、今晩は此処で過ごせるじゃろう。

 

 ……それにしても。隠れ家と言うには、随分としっかりした作りじゃな? まず、建物そのものが大きい。二階建てなんじゃけども、上の階も下の階も広そうじゃ。それに、手入れが行き届いてるような気がするの。多分じゃけど、最近まで誰か使ってたんじゃろうな。多分。

 

「……良かった、此処ならゆっくり休めそうだね。ツクヨミ、シュガーマン。朝まで交代で外を見張ろう。いつ追っ手が来るか分からないから」

「承知。頼皆と、……筒美さんもそれで良いですか?」

「あぁ、そうしよう」

「……そうじゃな」

「なら、まずはローテーションを決めないとな。どうす―――」

「それよりも! 先に中に入りましょう!」

 

 砂藤の発言を被身子が盛大に遮ったものじゃから、全員で被身子に注目してしまった。まったく、こやつと来たら……。まぁでも、その提案には賛成じゃ。あれこれと決める前に、先に隠れ家の中に入ってしまおう。雪の中で話し込む理由はどこにも無いんじゃし。

 

「まぁ、話し合うのは暖を取ってからで良いじゃろ。一応、帳も降ろすしの」

「そうですよぉ。早くしないと凍えちゃうので!」

 

 んぎゅっ。またも抱き付きおって。寒いから身を寄せ合いたい気持ちは分かるんじゃけど、何もわざわざ見せ付けるような真似はしなくて良いじゃろうに。こんな時でも平常運転と言うか、如何なる状況でも自重しないと言うか……。

 ……お陰で、気が抜けそうじゃ。悪党やら警察やらに追われてる身じゃというのに、どうにも緊張感が保てん。下手に緊張し続けるよりは良いんじゃけども、まったく緊張しないで居るのもそれはそれで違うと思うんじゃけど。

 

 そんなこんなで。被身子に急かされるような形で、儂等は一度隠れ家の中へ。鍵はながんが持っておったわ。なんでも、検問の際にこの隠れ家の住所が記された紙ごと握らされた……とかなんとか。

 

 それと。隠れ家に入る際、念の為にあれこれと拡張した帳を降ろしておいた。これで当面は人目を欺ける……、と思いたいところじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隠れ家の中は、やはり広い。まず、部屋数が多い。儂等全員がそれぞれ部屋を使ったって余るぐらいには多い。それから、台所から通じる地下室が有った。これは被身子が見つけて、ながんが中を調べた。結果、銃火器が幾つも置いてある事が分かった。まぁ儂も常闇達も銃なぞ使わんが、ながんには有り難いじゃろう。未だに個性が使用出来んからの。緊急事態なんじゃから個性ぐらい使ったって良い筈なんじゃけど、今は公安と連絡が取れん。故に、ながんの首飾り(ちょおかぁ)にある機能を無効化出来ん。いっそ儂が壊してしまっても良い気がする。今以上に面倒な事態が起きたら、さっさと壊してしまおうかの。後で叱られるかもしれんが、そこは見逃して貰おう。と言うか見逃せ。

 

 それで、じゃ。儂は、と言うか儂等は交代で見張りを立てることにした。もっとも儂や被身子の目からは帳が見えてしまうので、帳の外を把握することは出来ん。それでも非術師が帳の内側に入れば、儂が察知出来る。そうなるように組み立てた。また即興の縛りを課すことになってしまったが、こればっかりは仕方ない。結界術はどうにも難しいからの。儂の場合は縛りを課さないと思い通りにはいかん。

 今回、非術師の侵入を察知する帳を降ろす為に課した縛りは『非術師の侵入を察知した時点で結界術を終了。終了後、二十四時間経過するまでは同じ要項の帳を降ろすことを禁ずる』じゃ。また変な縛りを課してしまった気がするが、こればかりはな。こんな帳を降ろす機会はもう二度と無いとは思うが、縛りは縛りじゃ。

 ちなみに。帳の範囲はこの隠れ家を中心として半径五(めぇとる)じゃ。

 

  さて、それはそれとして……じゃ。

 

 帳を降ろしている以上、外部からこの隠れ家の様子が認識されることは無い。中で何をしていようがどれだけ騒ごうが、帳の外に居る者には決して認知されん。じゃから、言ってしまえば見張りの必要性はあまり無い。今こうして、儂が砂藤と寝ずの番をしているのは念の為でしかないんじゃ。まぁ、朝日が登る前に常闇や尾白と交代じゃけどな。被身子には悪いが、先に見張りをしてしまうことにした。後で何とかして宥めなければ。すっかり拗ねた様子で寝室に向かって行ったからの……。ううむ……。

 

「……あー……。その、どうかしたか……?」

「何じゃ藪から棒に」

 

 被身子の機嫌を直す方法を考えていると、向かいの椅子(そふぁ)に腰掛けた砂藤が口を開いた。頭や肩に雪が乗ってるのは、ついさっきまでこの隠れ家の周りを歩いて見回っていたからじゃろう。それ自体はあまり必要の無い行為じゃと思ったが、別に止めはしないでおいた。儂に結界を張って貰ったからって、このお人好し共は気楽に休みたいとは思わないじゃらうからな。気が済むようにやらせてやろうとは思う。まったくの無駄じゃとも思うけどな。誰かが帳を通り抜けた時点で、儂が気付くんじゃから。

 

「いや、なんか難しそうな顔をしてっから。何か考え込んでるのかと思って」

「……」

「まぁ別に、言いたくないなら良いけど。無理には聞かねー」

「なら、被身子を宥める方法でも一緒に考えて貰おうかのぅ」

「え゛っ」

「すっかり拗ねとるんじゃけど、どうしたら良い?」

「……あー、いや……。えーー……っと……」

 

 ……ちっ。役に立たんお人好しめ。たまには役に立つ助言ぐらいして欲しいものじゃ。被身子に関して相談すると、大抵ろくな返事が返って来ない。仕方ないから、手を焼かされるのも恋愛の楽しみの内と思っておくことにする。

 それに。儂より被身子に詳しい奴が居たらそれはそれで心外じゃ。儂の被身子じゃぞ、儂の。そこは絶対に譲らん。

 

「やっぱ、ほら。甘い物で機嫌を取る……とか?」

「……」

 

 甘い物で機嫌を取る? ……いやまぁ、たまには有りかもしれんな。被身子も被身子で、甘味には目が無い。しかし今、おやつを用意するとなると中々に面倒じゃ。儂はほら、料理とかお菓子作りは出来ぬし。かと言って、外に出て買いに行くような真似は出来ん。そんな油断しきった事が出来る状況では無いからの。いつ何時、誰が攻め込んでくるか分からん。

 とは言え。あまり拗ね続けられても、それはそれで困る。今の儂が被身子にしてやれることはそう多く無いんじゃけども、何かしてやりたい気もする。こんな状況に巻き込んでしまって申し訳無い気持ちも有るしの。

 

 ……今後。儂はどう立ち回るのが正解じゃろうか?

 

 何せ、思った以上に悪党に注目されてしまっている。被身子が儂の弱みである事は、もう悪党共全員に知れ渡っていると考えて良いじゃろう。となると、被身子自身に警護を付けて貰うべきか。それ相応に腕が立って、同時に儂が信用を置ける英雄(ひいろお)なんかが居れば話は早い。じゃけど、被身子を任せても良いと思えるような奴は居ないのが現状じゃ。出来ることなら、ながんが英雄(ひいろお)として活動出来れば良いんじゃけどな。しかしあやつは、個性が使えぬ状況じゃ。無個性同然の状態で、誰かを警護するのは難しいじゃろうて。かと言って、儂自身がずっと警護する訳にもいかん。いつでもどこでも行動を共にするのは悪くないし、むしろそうしたい気持ちも有る。が、任務の内容によってはやはり儂一人で現地に赴かねばならん時が有る。大抵の雑魚呪霊が相手なら連れ回したって良いんじゃけども、万が一猛者と呼べる類いの呪霊が出て来てしまうと……。……んんむ……。

 

「やっぱ、色々心配しちゃうよな。渡我先輩のこと」

「……今度は何じゃ?」

「いや、すげぇ顔に出てるから。今回こうなったからには、どうしても考えちまうだろうし」

 

 ……。……まぁ、その通りじゃけども。ただ、砂藤に腹の内を見透かされたのは何か悔しい。いやそもそも、誰に見透かされても悔しいんじゃけども。そこまで顔に出てるものかのぅ……? 呪術師として、顔に出さんように気を付けねば。昔は出来ていた筈なんじゃけども、何じゃって最近……と言うか今生は顔に出てしまうのか。

 

 腹の内を見透かされるのは悔しいので、何か別の事でも考えるとしよう。いや、今は被身子が気になってしまう場面じゃけども、何か別の……。

 

 ……。……あ、そうじゃ。

 

 英雄呪霊(らいあぁまいと)の奴に手渡された本でも読もう。見張りとしてやれることは既にやっているし、交代までまだ二時間以上はあるしの。

 長椅子(そふぁ)の前、低い長机(ろぉてぇぶる)の上に放ったらかしにしておいた本に手を伸ばす。異能解放戦線……? とか言う、変な題名の本じゃ。翼男の奴は呪霊なんぞにこの本を届けさせたんじゃから、何か意味が有るんじゃろう。無かったら無かったらで、そこの暖炉にでも投げて薪替わりににでもしてしまおう。

 

 それで、ええっと……?

 

「……目が滑るの」

 

 試しに本を開いて(ぺぇじ)を捲って見るが、内容はさっぱり頭に入らん。と言うか、真面目に読む気がしない。やはり今直ぐ暖炉に放り投げてしまうか。いやしかし、ほぉくすの奴が呪霊に届けさせたんじゃ。きっと何か、何か意味が有る筈……じゃ。

 興味も無い内容を流し読みしつつ(ぺぇじ)捲り続けていると、蛍光(ぺん)で線が引かれた文章が幾つも出て来た。……何じゃこれ? いったい何のつもりじゃ?

 

 んんむ……。うむ、あぁ。なるほどの。つまり、儂にはさっぱり分からん!

 

「何じゃこの本は。訳が分からん」

 

 本を読むのは止めじゃ、止め。机の上に本を放り投げて、体を伸ばす。ついでに欠伸も。見張りと言う大事な役目が有るが、それはそれとして退屈じゃ。外を眺めようにも、儂の目には帳しか見えんからの。いっそ帳の外に出て周囲を見張るって手段も有るには有るが、外は雪じゃならなぁ。この隠れ家に来る時にも結構降っていたし、何なら積もってたし。これだけ寒いんじゃから、悪党連中じゃって儂等を探しはしないじゃろ。……なんて、能天気な考えは出来ぬか。しっかりと、見張りの仕事をするとしよう。

 

「儂、少し帳の外を見てくる。お主は中に居てくれ」

「いやいやいや、廻道は中で見張りをしてくれ。迷子になられたら大変だからよ……!」

「は? 迷子になぞならんが??」

 

 おい。おいこら、砂藤。何を大慌てで止めようとしてるんじゃ。こんな状況で迷子になるなんて真似は、流石の儂でもしない。と言うか、被身子の居る方角が分かるようになったんじゃから少し離れたって問題無いじゃろ。仮に迷子になったとしてもじゃな、被身子を目指して歩けば帰って来れる。つまりじゃ、今の儂は方向音痴ではない……!

 

「いいから、暖炉の前で暖まっててくれよ。ほら、冷えるし温かいお茶でもどうだ?」

「……なら、茶を飲んでから外に出るとしようかのぅ」

「ぁ、甘いもんもどうだ? 簡単なのなら、直ぐ作れるんだけど」

「……まぁ、悪くないの」

 

 ……仕方ないのぅ。暖炉に火は点いているがそれでも寒いし、外に出る前に熱い茶を飲んでおくのは悪くない。甘いものについては別に無くても構わんが、作ると言うのなら作らせてやるとするか。見張りの最中じゃってのに好き勝手しおって、まったく。何でそんなに慌てた顔をしてるんじゃ貴様は。緑谷じゃあるまいし、もう少し落ち着きを持て落ち着きを。

 

 この後。砂藤が紅茶を淹れた。ついでに、飴で覆われた果物を幾つか持ってきての。これが意外と美味くて、見張り中じゃってのについ堪能してしまった。その間、砂藤がやけに安心した顔をしていたのが気に食わなかったがな。

 

 あ、そうじゃ。後で被身子にも、この果物飴を持っていくとしよう。これで機嫌を直してくれれば良いんじゃけども、流石に甘いもので機嫌を良くするほど子供ではないか。

 

 ……今夜は、と言うか今夜も。儂はあまり寝れなさそうじゃのぅ。

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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