待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
ん、んん……。あぁ、うむ……。少し寝ておったな。ほぉくすの暗号文について考えていたら、いつの間にか寝ていたようじゃ。我ながら気が抜けているの。未だ儂の膝枕を堪能している被身子のせいにしておこう。幸せそうに寝惚けおって、こやつめ。ほれほれ、頬を弄くり回してやろう。ふふん、珍しくされるがままじゃの。何じゃか楽しくなって―――。
……はぁ……。それどころではないか。
居間を見渡して見ると、誰の姿も見当たらん。が、耳を澄ませば物音が聞こえる。流石に話し声までは聞こえんけど、それぞれ動いているのは分かる。生活音が聞こえるというか、何と言うか。まぁとにかくじゃ、ひとまず体を伸ばして欠伸をしておく。で、首を回して肩を回して小気味良い骨音を鳴らした後。意識を隠れ家の外へと向ける。ついさっき、帳を通り抜けた奴が居る。目が覚めたのはそのせいじゃ。ただ、通り抜けた輩は非術師ではない。この隠れ家の外に感じる気配は、間違いなく呪霊のそれじゃ。それも特級。そしてこれは、何度も感じて来た。
つまり。外に居るのは
どうせ何かと理由を付けて、あやつは逃げる。そうでなくとも、何かしらの邪魔が入る。そう思ったら、つまらなくて堪らん。どうせ最何かしら誰かしらに邪魔されて、お預けになると考えたら興が削がれる。
全身全霊で、持てる全てをぶつけて呪い合う。それが儂にとって、唯一の楽しみなんじゃけどなぁ……。いや、被身子と愛し合うことと天秤に掛けたらどちらが大事かは決めれそうにないが。この悪女のせいで、随分と価値観を変えられてしまった気がするの。ぐぬぬ、それはそれで悔しい。責任取れ責任。こうなったら人生全てを添い遂げて貰わんと、納得出来ん。貴様に言っとるんじゃぞ被身子。いつまで寝てるつもりじゃ、まったく。
「……勝手に入れ。今なら許してやる」
聞こえてるかどうかは知らん。が、玄関の方に向かって言い放っておく。ついでに呪力を練り上げ、身に纏っておく。術式を回し、赫鱗躍動も使っておく。寝ている被身子が眉間に皺を寄せたのは、儂の呪力を間近で感じたからじゃろうな。このまま臨戦態勢で居たら、そのうち起きそうじゃの。
「廻道、どうした?」
む……。間の悪い時に面を見せたな、この鳥頭め。相変わらず真っ黒な
「……追っ手か?」
今の儂を見るなり、常闇は気を引き締めた。と、同時にだぁくしゃどうを身に纏った。確か今は、
……それより、じゃ。
「全員二階に上がれ。呪霊じゃ」
「……分かった。だが廻道、いざという時は」
「分かっとるから早く行け。ついでに被身子も頼む」
「……あぁ。運ぼう」
少し申し訳無いとは思うが、被身子にはこの場を離れて貰う。起きてたら絶対離れようとしないじゃろうから、今こうして寝ているのは都合が良い。常闇が纏うだぁくしゃどうが、静かに素早く儂の方に伸びて来た。まだ起きん被身子は直ぐに抱え上げられて、常闇と共になるべく静かに二階へと向かっていく。その様子を見届けた後、再び意識を隠れ家の外に向ける。感じる気配は、やはり
なんて、思っていると。玄関の方から戸を叩く音がした。おいおい、まさか儂に出迎えろと? 面倒この上ない。入って来たければ、勝手に入ってくれば良いじゃろうが。そもそも、勝手に入れと儂は言ったが? ……まったく。
あの呪霊が何を考えてるかは知らぬが、こんな時に訪ねて来たのなら無視する訳にもいかん。仕方ないから出迎えてやるとするが、何で呪霊を招かねばならんのか。解せぬ。
「……で? 何の用じゃ貴様」
玄関の扉を開いてみれば、やはり訪ねて来たのは
「や、やぁブラッディ。お邪魔して良いかな……?」
「さっさと入れ。冷える」
「じゃあ、お邪魔します……」
ちっ。何なんじゃこやつ。やたら畏まった素振りを見せおって。どうやら儂を見て肝を冷やしとるようじゃが、特級呪霊のくせに呪術師を恐れるのはどうかと思う。貴様、そんな情けない奴じゃったか? そもそも、その姿形を止めて欲しいものじゃ。そのうち、おぉるまいとをこやつと間違えて殴りそうな気がしてならん。
腑抜けた様子を見せる呪霊を取り敢えず隠れ家に上げて、居間に通してやる。もっとも、何かするつもりなら今直ぐ殴り掛かってやるが。上の階には、常闇達やながんが居る。いざとなったら、まずは上の五人を逃さねば。特級呪霊との呪い合いに巻き込む訳にはいかんからの。
「で、何の用じゃ? 儂の気が変わらん内に話せ」
「えっ、……大丈夫? 何か悪いものでも食べた……? 君にしては、やけに大人しい……」
「あ゛?」
よし、祓おう。やはり祓おう。興が削がれたとか言ってる場合ではない。今度は逃がさん。逃げ道など与えると思うな。
「領域」
「ま、待った待った! それは止めてね!? 話すどころじゃなくなっちゃうから!!」
「喧しい。静かに出来んのか、たわけ」
騒がしくしたら被身子が起きるじゃろ。まったく、何なんじゃこやつは。儂の前に現れたくせに、これっぽっちも呪い合おうとしない。そういう所が好かんのじゃ。面を見てるだけで苛立って来た。やはり問答無用で襲い掛かってしまいたい。興など削がれ切っているが、呪い合ってる内に気分も高まるじゃろ。
そもそも。呪霊なんぞと話したいとは思わん。呪術師ならば、問答無用で祓うのが定石じゃろうて。
よし、止めじゃ止め。呪霊と話す必要なぞ何処にも無い。こやつはここで祓って終いじゃ。命懸けになるじゃろうが、何としてでもここで祓う。でないと、今後何をしでかすか分からん。見逃してやる理由は、どう考えても無い。
「手土産として君達を追ってたヒューマライズはやっつけておいたから、ちょっと話さない……!?」
「呪霊の言う事を信じるとでも?」
「そう言うと思ってさぁ! 帳の外に山程置いておいたから!!」
「……あ゛?」
帳の外に山程置いておいた、じゃと? それを確認するのは、こやつを祓ってからで良いじゃろう。そもそも呪霊の言う事を鵜呑みにするつもりはない。どうせ邪魔が入るからと萎えていたところじゃが、領域を閉じてしまえば横槍は……無いとは言えんけども。何せ儂の領域は、侵入自由じゃからの。
「と、ともかくっ。ワタシはヒューマライズをやっつけたい! 君達はヒューマライズに追われている! ほら、これって利害が一致してるんじゃないかな……!?」
「……つまり、ひゅうまらいずを潰すのに協力しろと?」
「そ、そうそう。そういうこと! ど、どうかな……?」
どうと聞かれても、論外としか儂は言えんが?
……でもまぁ、確かに。確かに儂等は
呪霊なんぞに頼る呪術師はおらんし、呪霊なんぞに頼る
「……断る。儂は呪霊の頼みなんぞ聞かん」
「あーー……、やっぱり駄目……?」
「駄目に決まっとるじゃろ。何なんじゃ貴様」
「平和の象徴さ! 二代目の、……ねっ!」
「あ゛?」
平和の象徴の二代目、じゃと? 訳の分からん事を立て続けに言い放ちおって。まっこと、意味が分からん。いずれではあるが、その肩書きを継ぐのは緑谷じゃ。その時が来るまでは儂が預かっている。断じて、おぉるまいとの紛い物が背負って良い名ではない。
「……おぉるまいとの後継は儂じゃ。勝手に二代目を名乗るな、たわけ」
「まぁ確かに、君は彼の後継者ってことになってるけどね。でも、捕まえた
「呪いを振り撒く貴様が、ひいろお? ……っは、片腹痛いわ」
やはり、呪霊の話など聞くものではない。訳の分からん事しか口走らないんじゃからな。この偽者の何処が
「もう
今度こそ、逃さん……! この呪霊は、今此処で祓う!
「交渉決裂……ってとこかな? それでも良いさ。ワタシも、実のところ君が気に入らないからねっ!
だからここからは、二代目の座を懸けて勝負と行こうか!! どちらがより優れたヒーローとして認められるか、今から競争だっ!!」
「……あ゛?」
また訳の分からん事を口走りおって……! いったい何なんじゃこの呪霊はっ。儂より強いくせに、儂と呪い合うことを徹底的に避け続けて……!
だが、ここからは違う。もうここで、決着をつけて見せるっ。
「領域、くそ……っ!! 何なんじゃ、あやつ!!!」
領域に閉じ込めてやろうと呪力を練り上げたその時。目の前に居た
何が競争じゃっ。何が優れた
「ふざけおって、ふざけおってぇ……!!」
くそ、くそっ。結局こうじゃ……! あの呪霊とは、何故か呪い合うことが出来んっ。あんな猛者と呪い合える時を、儂はずっと待っているのに……!
だいたいっ。猛者なら猛者と呪い合いたくなる筈じゃろう!? 出会う度に儂の目の前から消えおって!
いい加減! 儂と! 呪い合え!!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ