待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
儂が放った三本の矢が、それぞれ悪党共の膝や肩を射抜くと同時。常闇達が真正面から突入した。突然の奇襲で対応が遅れたのか、悪党共は慌てて動き始めたようじゃ。こうして外から見ていると、初動が遅いのがよく分かる。指揮系統がしっかりしてないのか……? まぁそれならそれで、容赦無く掻き乱してやるとしよう。隙を見せる方が悪いんじゃ。
再び矢を三本番え、洋弓を引く。矢の数に限りは有るが、じゃからって出し惜しみするような真似はしない。常闇達が長く戦闘しないで済むよう、見える範囲に居る連中は一人残らず射抜く。
矢を放つ。弓を引く。矢を放つ。二百
……けひっ。やるなぁ、あやつ。やるなぁっ! 今度、的当てでも何でも勝負して貰わねば……! いやいっそ、今この場でどちらがより多くの悪党を仕留められるか競うのも悪くない……!
「……むーー……」
……、ぬ? 被身子? 何で急に、不満そうに唸った? 何でそんなに儂の顔を見つめるんじゃ。まぁ、良いか。悪党とは言え、人が一方的に射抜かれる場面を見て欲しいとは思わん。儂の過去を追体験している以上、こんな気遣いは今更じゃ。でも、出来れば見て欲しくはない。血生臭い光景なんて、被身子には無縁で有って欲しいからのぅ。
不満気に見詰められていると、うっかり手元が狂いそうじゃ。仕方ないから被身子と目を合わせつつ矢を放つと、不貞腐れた。何なんじゃもぅ、訳の分からん奴め。後でたっぷり話を聞いてやらんと、それはもう大変な事になりそうじゃなぁ……。
「っと」
もう一度矢を放とうとしたその時、流石に儂の居場所に気付いた悪党共が窓から身を乗り出しながら、筒状の重火器を構えた。その次の瞬間、肩に担いだ重火器から大きな弾? が飛び出した。それが儂の方に向かっているのは明白じゃったから、矢で射抜く。すると、大爆発じゃ。派手な炸裂音と、爆炎。そして煙。
「……ちっ」
つい反射的に射抜いてしまったが、間違いじゃった。爆発と煙のせいで、視界が遮られてしまっている。こうなってしまうと、もう此処から狙撃するのは無理じゃろう。そもそも居場所を知られてしまっているしの。下手をすると、直ぐにでも悪党共が儂等の方に向かってくるかもしれん。建物の裏口から出て来られでもしたら、察知出来ん。そうでなくとも、正面玄関以外から出て来られたらそれはそれで分からん。
……仕方ない。矢はまだまだ残ってるが、一度この場から動こう。煙に遮られることなく悪党共が居る高層建築を見ることが出来て、かつ離れた場所は……。……うむ。右斜め前、三つ先の建物の屋上が良さそうじゃ。
赫鱗躍動に、呪力強化。そして足裏からの呪力放出。この三つを掛け合わせれば、例え被身子を抱き抱えていても三歩で移動出来るじゃろう。
「被身子、跳ぶぞ。口は閉じとけ」
「えっ、ちょ……っ! ひゃあぁっ!?」
被身子の腰を抱き、跳ぶ。口を閉じろと言ったのに、叫びおって。まぁ流石に、急じゃったから仕方ないか。
「も、もぅ……っ! やるならやるって、言って欲しいのですっ!」
「跳ぶと言ったじゃろ? それと、お主は伏せておけ」
……よし。移動したから、煙の向こうがよく見える。距離的にも少し近付いたから、さっきよりも狙い易い。真正面から射抜くことは出来なくなってしまったが、まぁ良い。斜めからじゃろうと、特に問題は無い。
被身子を降ろしてから再び洋弓を引き、矢を放つ。常闇達の姿は見えないが、それでも派手に暴れているのは分かる。じゃって、悪党の一人が三階の窓から外に吹き飛んだからの。って、いかん。そのまま落下したら死ぬなあれは。流石に常闇達を人殺しにさせたくはないので、悪党の襟を狙い矢を放つ。何とか上手いこと、落下中の悪党を壁に縫い付けることが出来た。まったく、肝が冷えたぞたわけ。吹き飛ばすなら、もう少し方向を考えてじゃなぁ……!
「あー……、結構派手にやってますねぇ。常闇くん達、大暴れなのです」
「……そのようじゃな。まったく……!」
儂やながんが援護してるからって、好き勝手し過ぎじゃ。駄目とは言わんが、この距離で常闇達を守ろうと思うと骨が折れる。やはり儂も、一緒になって突入すべきじゃったかもしれん。こうして遠くから眺めているのは、どうにも歯痒い。肝が冷える。
……とは言え。常闇はもちろんとして、尾白や砂藤もそれなりの実力が身に付いている。儂からすればまだまだじゃけども、並大抵の悪党ぐらいならば相手にならん筈じゃ。
砂藤は大きな体と個性を活かして、真正面から悪党共を殴り飛ばしたり投げ飛ばしたり、何なら壁を殴り抜く時もある。筋肉ひとつで物事を解決しようとする様は、何処ぞの筋肉阿呆を嫌でも連想させられるのぅ。個性の強弱や差異は別として、緑谷と違って体が大きい分無理が利く。殴る蹴るが通用する相手には、苦戦するようなことは無いんじゃろうなぁ。
そして尾白は、これまた中々に器用な真似をしているの。真正面から殴り込む砂藤の邪魔にならんように、かつ自分が巻き込まれないように、壁や天井を蹴ることで廊下を跳ね回っておるわ。速さと鋭さを掛け合わせた一撃は的確に悪党共の急所を撃ち抜く。分かり易さは有るが、尾による打撃が中々に強力そうじゃ。狭い場所限定ならば、砂藤との連携は厄介かもしれんな。まぁ儂や儂程の猛者からすれば、大した事ではないんじゃけども。
で、最後に常闇なんじゃが……。
「オォオオオッ!!」
もしかすると一番大暴れしてるのは、常闇かもしれんなぁ。いや、正確にはだぁくしゃどうと言うべきか……? どちらにせよ、大暴れは大暴れじゃ。縦横無尽に飛び回るだぁくしゃどうが、目に付く悪党共を容赦無く叩き伏せている。半ば暴走しているような気がしないでもないが、死人が出とらんところを見るに力加減は出来ているらしい。手狭な廊下を自由に飛び回り、悪党を蹂躙する姿は……流石と言っておいてやろう。常闇に関しては、あまり気に掛けないで良いかもしれん。
……それにしても。
「妙な感じじゃな」
何と言うか、奇妙じゃ。何が奇妙って、事が上手く進み過ぎているような気がする。相手は、世界を壊そうとするような連中じゃぞ? そんな連中が簡単に攻め込まれて、設置しておいた爆弾を簡単に確保されるのか?
儂の想定以上に常闇達が力を付けていた、と言う線も有るには有る。前に立つあやつ等が優れているから、並大抵の悪党では太刀打ち出来ない。そんな可能性も有る。が……。
っと。屋上から儂等を見下ろす奴が二人も居たから、直ぐに射抜いておく。それぞれ肩を射抜いてやると、長銃やら重火器が地面に向かって落下した。それから、少し面倒な事になりそうじゃの。何が面倒って、騒ぎになり始めている。道路から一般人の悲鳴やら何ならが聞こえるからのぅ。人的被害は出来る限り避けておきたいが、わざわざ避難誘導をする余裕が有るとは言えん。が、
……もう少し、隠密に徹する作戦を立てるべきじゃったか? いや、それを考えるのは今更じゃ。あぁくそ、
『頼皆、警察とヒーローが直に来る。後は私が受け持つから、あんたは姿を隠しときな』
「そうですねぇ、後は火伊那ちゃんに任せましょう!」
「……は?」
は? いや、いやいや。何を言ってるんじゃこの二人はっ。まだ矢が残ってるのに、何で隠れなきゃならないんじゃ。それに常闇達の援護は続けたい。警察やら
『頼皆、俺達なら大丈夫だ。ここは任せてくれ!』
『警察やヒーローが来たらややこしくなりそうだし、……ねっ! 頼皆は身を隠して!』
『頼むから大暴れしないでくれよ! 余計な混乱は避けてーから!』
「は? じゃからそういう訳には……!」
「どうどう、ここは一旦隠れておきましょう。警察やヒーローが円花ちゃんを捕まえようとしたら、余計滅茶苦茶になっちゃうので!」
「な……っ!? こらっ、被身子!」
抱き付くな、引っ張るなっ。何でこの場から儂を遠ざけようとするんじゃ貴様は! それに常闇達じゃって、まるで織り込み済みとでも言わんばかりに語りおって……! さては貴様等、儂に内緒で結託しておったな!? こうなる事を予測してたんじゃな!? ゆ、許さん……!!
『後は私が受け持つ。渡我、その子を頼んだ』
「はぁい、頼まれました! ほら円花ちゃん、一旦隠れて様子見なのですっ!」
「ぐ、ぐぬぬ……っ。貴様等ぁ! 死んだら呪うからなっ!?」
解せぬ、まっこと解せぬ……! 全員、後で覚えてろよ。納得の行く説明が出来なければ、全員拳骨じゃからな!?
◆
「ぐぬぬぬ……っ! 被身子、お主なぁっ!」
「どうどう。顔真っ赤な円花ちゃんもカァイイですけど、これは仕方ないですよぉ」
「仕方なくないっ。常闇達が危ないじゃろっ!?」
「まぁそうなんですけど。でも一旦円花ちゃんが隠れないと、もっと危なくなるかもしれませんし」
「ぐぬぬぬぬっ」
結局。儂は被身子に引っ張られる形で、一旦は身を隠す羽目になってしまった。直ぐ近くに有った屋上の出入り口を通って、階段の踊り場に待機中じゃ。この建物自体は大して使われていないのか、埃っぽい上に人の気配もしない。ひとまずは一般人の目に付くこともなく、このまま隠れて居られるのじゃろう。外からは、戦闘音が聞こえてくる。常闇達も、ながんも派手にやっているようじゃ。
……くそっ。何で儂だけがこうして身を隠さねばならんのか。確かに駆け付けた警察やら
「一旦休憩ですよ、休憩。ずっと張り詰めてちゃ疲れちゃうので! ねっ?」
「ぐぬぬぬぬぬ……っ!」
何が休憩じゃ。こんな時に休憩なぞ要らん。休むのは、悪党共を制圧した後で良いじゃろ。そもそも常闇達だけに戦わせてる状況で、儂だけ休むなんて真似が出来るかっ。儂が居ない間に何か起きてしまったら、それこそ大惨事じゃ! まったく、こやつと来たらっ。いつもいつも好き勝手しおって……!
「ほーら、落ち着いて落ち着いて。そんなに心配しなくても、みんなは大丈夫ですよぉ」
「んぐっ、むぐぐ……!」
こ、こらっ。こんな時に、力いっぱい抱き締めるんじゃない! どうしていつもいつも、儂を窒息させようとするんじゃ貴様はっ。普段ならこれで誤魔化されてやっても良いが、今は違う。常闇達が心配で堪らん。ながんは、……まぁ上手くやるんじゃろうから放っておいても良いが、常闇達は別じゃ。緑谷の安否じゃって気になるところじゃし、他の国に派遣されたくらすめぇと達も心配なんじゃ。
……くそ。どうにも歯痒い。今直ぐ外に飛び出してしまいたい。悪党も警察も、
「……今は信じて待つのです。これからの円花ちゃんには、そういう強さも必要ですから」
「む、ぐぐ……っ。ぐぬぬ……っ!」
分かっ、……てはいる。分かっているつもりじゃ。少しでも周りを頼ると決めたのなら、時には歯痒くとも落ち着かなくとも、信じて待つ時間を過ごさなきゃならない。そういう強さも持ち合わせなければならんことも、頭では理解しとるつもりじゃ。
……でも、じゃけど。今はどうにも落ち着かない。落ち着けない。子供達が、くらすめぇと達が、常闇達が戦っているのに……儂だけが隠れ潜むなど……!
「……ほんとに、ヨリくんは過保護なのです。そうなっちゃった理由も事情も全部知ってますし、これはもう仕方ないって思ってますけど」
「ん、ぐむ……っ」
「それでも、時には信じて待ちましょう? 過保護過保護してばっかじゃ、円花ちゃんが頼りたいって思えるような強さをみんなは手に入れられないので。
……みんなの為にも、円花ちゃんの為にも、何よりトガの為にも、今は信じて待ってください。ねっ?」
「……むぐぅ……」
被身子の言う事は、……正しいと思う。確かに儂が動いてしまえば、常闇達が成長する機会は失われるんじゃろう。じゃって、大抵の戦闘は儂独りで何とでも出来るんじゃから。でもそれが、子供達の成長を妨げるのなら……時には自重しなければならん。理屈の上では、分かっとる。頭では分かるんじゃ。でも、心が納得しない。もしも儂が戦わなかったせいで誰かに何か有ったなら、儂はとても堪えられない。今度こそ、駄目になってしまう自信が有る。
……頼ることが、怖い。子供達に戦いを任せることが、恐ろしくて堪らない。変わろうと思っても、こればっかりは拭い去ることが出来なくて。
「……怖い、ですよね。ヨリくんにとって、きっと今が、一番怖いタイミングなのです」
「……」
「でも、……今はもう独りじゃないです。私が居ます。ヨリくんの事が大好きで、ヨリくんも大好きに思ってるトガが居ます!
だから、ね? そう思ったら、少しは気が楽じゃないですか?」
「……む、ぐぬぅ……」
あぁ、もぅ……。何なんじゃこやつは。いつもいつも儂を好き勝手に振り回して、これでもかと困らせて。それなのに、こういう時は……儂に何か有れば絶対に側から離れようとしなくて。いつもいつもそうやって、最後は……無理矢理にでも落ち着かせようとして。分からず屋の儂を、分からせようとして……。
……まっこと、こやつと来たら。どれだけ儂の事が好きなんじゃ。いつまで好きで居るつもりなんじゃ。お陰で、もう……。もう、こんな時なのに儂は……。
「……分か、……った。分かったから、一旦離れてくれ」
少し、安心してしまって。
「あ、それはヤです。もう少しこのままで!」
「んぐっ、こら……っ!」
ぐ、ぐえぇ。おい、何で余計に力強く抱き締めるんじゃ貴様はっ。更に息がし辛くなったじゃろ。窒息しそうになるから、頭を抱き抱えるんじゃない! 顔に胸を押し当てるなっ!
おいこら、被身子っ。被身子ったら!
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ