待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
っっぷはっ!! まったく、被身子め! 気の済むまで儂を抱き締めおってっ。駄目とは言わんけど、もう少しぐらい時と場合を考えんか貴様は……! 何で隠れ潜んでる間に窒息寸前まで抱き締めようとするんじゃ! まったく……!!
「てへっ。つい」
「つい、ではない。このたわけっ」
「んぎゅっ」
まったく反省しとらんようじゃから、仕返しに鼻を摘んでおいた。しばらく口で呼吸してれば良いんじゃ、たわけ。阿呆、へんたいっ。お陰で変に気が抜けて、集中が途切れた。外では常闇達が悪党と戦ってるのに、これでは気を引き締め直すのに時間が掛かりそうじゃ。
……まぁ、でも。少しは感謝しとる。被身子がこんなじゃから気が抜けて、落ち着くことが出来た。いや、落ち着かせられたと言うか何と言うか……。
と、とにかく。肩の力が抜けたのは良いことじゃ。儂は自分が思っているより、気負っていたのかもしれん。常闇達が心配で、それしか頭になかった。今でも心配は絶えぬけれども、それでも……もう少しだけ信じて頼ろうと思った。じゃからって、いつまでも隠れているつもりはない。そろそろ外に出て、もう一度常闇達の援護をしたい。……んじゃけども、問題がひとつ。
どうやら外には、警察やら
「まぁまぁ、もう少しゆっくりしてても良いんですよ?」
「良くないじゃろ。まったく……」
鼻を摘まれても尚、被身子は戯言を口にする。どころか、またも抱き付いて来たので抱き締め返しておく。ついでに頭も撫で回しつつ、これからどうすべきかを考えてみる。仕方ないから鼻は放してやった。
……まず。最優先すべきは常闇達への援護じゃ。やはりどうしても放っておけんし、ながんばかりに任せるのも悪い気がするしの。時折無線から聞こえてくる声や音を聞くに、常闇達はそこまで苦戦はしとらん。むしろ順調に進んでいるようにさえ思える。であれば、儂は何が有っても良いように此処で大人しく備えておくのが良い……か? いや、いやいや。それは嫌じゃのぅ。このまま身を潜めているのは、やはり性に合わん。
……いっそ、人目に付かぬように隠れながら動くか? また帳を身に纏うように降ろして、ひっそりと
これはこれで、問題がひとつ。悪党共の根城に忍び込む場合、被身子を此処に置いていくか連れて行くかしなければならん。当然どちらも、被身子に危険が及ぶじゃろう。それは避けたい。
あぁ、くそっ。どうにも動き辛い。考えねばならん事が増えてしまっている。以前ならば儂が独りで動いてしまえばそれで良かった。経過はどうあれ、最終的には何とでもなってたんじゃ。それが今では、儂独りではどうにもならなくなってしまった。やはりどうにも、人を頼るのは居心地が悪い。どうにも落ち着かん。結局儂だけが動くのが一番手っ取り早いと思ってしまう。……が、まぁ……。
……これは、自分で選んだ道じゃ。背中が重くとも、何かに足を掴まれる錯覚をしていようとも、視界の端に誰かが映っていようと、少しは誰かを頼ると決めたんじゃ。
「……のぅ、被身子」
「んぅーっ、何ですかぁ?」
ぐえぇっ。じゃから力いっぱい抱き締めるのは止さぬか。ここ最近、どうにも
……いかんなぁ。どうにも被身子が愛しくて、どうにかしてしまっている。儂はあと何度同じ反省をすれば良いのやら。
っと、いかんいかん。被身子ばかりに構ってる場合ではない。つい流されそうになってしまうが、流されるのは
「……今の儂は、間違っとるか?」
「えっ」
……おい。何でそこで意外そうにしとるんじゃ。目を丸くして固まるな。そんな変な質問をした覚えはないんじゃけど? ただ儂は、確認したかっただけで……。
「んー……。まぁ、それは……どうでしょうね? ぶっちゃけ分かんないのです!」
「は?」
「だって、こういう時のヨリくんって独りで突っ走っちゃいますし。ずぅーーっと独りで勝手に決めて、独りで戦って、滅茶苦茶トガやみんなを心配させまくって、ちっとも改めようとしなくって。
伴侶としては、さいてーでしたよねぇ」
「ぬ、ぬぐ……」
まぁ、それは……そうじゃけども。独りで決めて、独りで突っ走って来たのは儂じゃ。伴侶として最低と言われても、否定出来ん。こればっかりは黙って受け入れるしかないのぅ。散々心配させてしまったのは、儂の方なんじゃから。
「でも、そんな滅茶苦茶なヨリくんを私は否定したくないです。ヨリくんが滅茶苦茶だったからこそ、今のトガが此処に居るので!」
「んん……」
……まったく、こやつと来たら。あれこれ悩ましく思うことが、何だか馬鹿らしくなって来た。儂は真剣に悩んでいたと言うのに、被身子のせいでどうでも良くなってしまう。もはや悩んでいたことが馬鹿らしいと言うか、何と言うか。
「ヨリくんが、……円花ちゃんがしたい事をするのが一番なのです。それだけは絶対、間違いなんかじゃないってトガが保証します」
「んぅ……」
あぁ、もう。まっこと、敵わんなぁ……。不安も悩みも、こうして被身子さえ居てくれればどうでも良くて。被身子さえ居てくれれば、後はどうとでも出来るような気さえして来て。何が解決した訳でもないのに、次第に気が楽になる。すっかり籠絡されてしまっているのぅ。いや、この自覚は今更か。儂はもう、とっくの昔からこやつに……。
じゃから、こそ。為すべき事を、すべき事を定められる。この国での逃避行を始める前、そう……被身子を救けに行く直前に一度決めた事を、もう一度心に据える。肝に命じる。揺れるな、迷うな。考える前に走り出せ。細かい事は、後になって考えれば良い。今はただ、自分で決めた事をやって行けば良いんじゃ。
「……んっ」
「んんっ」
一度だけ儂から
「すまんが、儂は動く。……危険じゃけど、付いて来てくれるか?」
「何処でも付いて行きますよぉ! ちゃんと守ってくださいねっ!」
「ぐえっ。じゃから、お主なぁ……!」
何でまた、全力で抱き付いて来るんじゃ。仕方ないから受け止めてやるし、抱き締め返しもするんじゃけど。お陰で、出鼻を挫かれた気分じゃ。儂はこれから気を張らねばならんのに、また気を緩ませようとして……!
「んふふ、無事に色々終わったらデートしましょうねっ!」
「……そうじゃな。でぇとしよう、でぇと」
今から先の事を考えるのはどうかと思うが、まぁ先の約束をしておくのは悪くない。そうと決まれば、さっさとこの状況を何とかして事態を終息させねばな……!
◆
「と、言うわけで。そろそろ儂等も行くぞ」
『どういう訳で儂等も行くぞ、なんだ? あんた達は、とにかく隠れてな』
「まぁまぁ火伊那ちゃん。円花ちゃんが黙って隠れてるなんて無理ですよぉ」
『……はぁ……。それで? どう動くつもりだ?』
「どうって……うぅむ……」
再び屋上に躍り出て、弓の準備をしつつ無線を使ったら、ながんに問われた。しまった、とにかく動くことしか考えていなくて、何をどうするかまでは考えてなかった。これでは行き当たりばったりになっしまうのぅ。我ながら短絡的と言うか、考え無しになってしまったというか……。
まぁ、良いか。出たとこ勝負で。
……なるほど。抗戦中の悪党共の中に、防御系の個性を持ってる奴が居るな。それと、何やら巨体の悪党もおる。見境無く暴れてるおるのぅ。あ、相対していた
「まぁ取り敢えず、常闇達はどうした?」
『最上階に突入してから応答が無い。戦闘中なのは確かだ』
「……ちっ。万事順調とは行かんようじゃな」
仕方ない。さっさと救けに向かいたいところじゃが、真正面から向かうと色々と邪魔じゃ。かと言って、姿を潜めて動いてはそれはそれで時間が掛かる。被身子を連れて動く以上、下手に危険な真似は出来んしのぅ。と、なると……。
少し、手荒く行くか。
弓と矢に呪力を叩き込み、それから引き絞る。狙いはひとまず、あの……猿なのか熊なのか、或いは
狙いを定めて、引くだけ引いた弓弦を離す。矢は……穿血程速くはないが、それでもかなりの速さで真っ直ぐ的まで飛んで行く。一秒もかからぬ内に、大暴れしとった巨漢の左太腿を貫いた。っと、いかん。呪力を込めすぎたか……? 拳大程の風穴が空いてしまったように見える。それでもまだ倒れぬようじゃから、今度は肩に向かって矢を放っておいた。さっきよりは、少しばかり加減しつつじゃけども。そしたら、今度は風穴が空かなかった。深々と突き刺さっただけじゃな。貫けると思ったんじゃが、途中で邪魔が入ったの。巨体の奴と矢の間に、見えぬ壁が張られたからじゃ。どうやら割りと呪力を込めれば、貫けるらしい。
「んふふ……」
……横の被身子が儂を見詰めて喜んでるのは今は放って置くとして、もう一度矢を番える。次の狙いは……あいつじゃな。小柄で、
的となる悪党を選び、次の矢を番える。と、その時。何やら空が騒々しいことに気付く。聞き覚えが有る音じゃなこれは。あぁ、
まぁ、そういう事じゃ。つい空を見上げてみれば、儂の視界を横切ったのは戦闘機じゃ。そして見覚えしかない人影が、悪党の巣窟に向かって飛んで行く。
「Isn't that like you?」
着地と同時、すたぁは何かを叫びながら地面を殴る。その衝撃で周囲の悪党共が吹き飛びおったわ。ちっ、儂の狙ってた奴まで纏めて吹き飛ばしおって。と言うか貴様、何で儂の方を見てるんじゃ。戦闘機から飛び降りる際に気付いたのか? いやまぁ、それは別に何じゃって良い。それよりも。
「……日本語で話してくれ。英語は分からんて」
まぁ、こんな文句は向こうに聞こえてはいないんじゃろうが。それなりに距離があるしの。すたぁが急に飛び込んで滅茶苦茶してくれたから、予定が狂った。何が起こるか分からんのが戦場とは言え、登場するだけで状況がこうも激変するとはのぅ。さては緑谷も将来はあんな感じか……? あの筋肉阿呆の後を継ぐなら、そうなってもおかしくはない。んじゃけども、あまり想像したい絵面ではないの。緑谷までああなってしまうのは、御免被りたいところじゃ。
ともかく、じゃ。抗戦していた悪党共は吹き飛んだ。これで警察も
「come with me! I'm talking to you, bloody!」
……また、すたぁが何か言っとるわ。じゃから日本語で話せ。取り敢えず儂に向かって何か言ってるのは分かるが、今は翻訳機を付けてないんじゃって。
「あ、一緒に来て欲しいみたいですよ? どうします?」
「……まぁ、行かん理由は無いの。ほら、跳ぶぞ」
「えっ、ちょっ……! だからそんな急に、わひぁあ!?」
取り敢えず、被身子を抱えて跳ぶ。隣接する建物の屋上を足場に、二度三度と。すたぁが出て来たものじゃから、状況が変わってしまった。警察や
四度、五度と跳躍を繰り返して着地。っと、いかん。被身子の顔色がよろしくない。流石に抱えて跳ぶのは良くなかったか。いやしかし、儂独りで動くわけにもいかんからの。取り敢えず今は、抱き締めて背中を擦っておこう。この先の事は、被身子が落ち着いてから考え―――。
「Don't move!」
「Stop, or I’ll shoot!」
ようとでも思っていたら。周囲の警察が儂等に銃を向けた。
脇差しの柄を逆手に握ると、手首を掴まれた。儂を止めに入ったのは、すたぁじゃ。顔を睨むと、片目だけで瞬きしおった。確か……ういんく? とか言う合図じゃったか?
「Wait. I'm here」
たった一言。何を言ったのかは分からんが、警察や
「……This girl is innocent. I take responsibility.Ok?」
今度は、動揺が見て取れた。すたぁの言葉を聞いて、どいつもこいつも動揺しておる。中には呆れてる奴も居るの。
「This is good. Come on, let's go together! HAHAHAHA!!」
……いや、じゃから。何を言っとるのか分からんのじゃが? おいこら、儂の手を引っ張るんじゃない。引き摺るなたわけっ。何なんじゃいったい!!
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ