待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「メイド服だ……」
「メイド服……」
「小さいメイドさん……」
「ロリメイド……っ」
喧しい。儂とて、着たくて着とるんじゃないわ。こんなものを着て体育祭に参加するつもりは、まったく無かったわ。こんなものを着て選手宣誓しなければならないのも、最初から観客に変な注目を浴びる羽目になってるのも、全部全部被身子のせいじゃ。何が「障害物競争と言えばコスプレですよね?」じゃ。と言うか、なんで貴様が種目順を知っているんじゃ。誰じゃこやつに情報を流した不届き者は。許さんからな? まっこと許さんからな??
あと峰田、血走った眼で儂を見るんじゃない。おい、みっどないと先生。頼むから主審としてこの格好は駄目だと言わんか。何で何も触れないんじゃ。
……はぁ。まったく被身子め。後で説教じゃな。
ひとまず、最初の出番じゃ。頼まれたからには、しっかりやらなければの。原稿は持った。じゃあ後は……壇上に上がって喋るだけじゃ。
段数の少ない階段を登り切ると、観客席がよく見える。何となく見渡してみると、かめら片手に楽しそうに笑っておる被身子が見えた。隣に父がおるの。いつの間に来たんじゃ。色々言いたいところじゃが、放っておくとしよう。
「……宣誓。私達は、切磋琢磨し、積み重ねてきた経験の成果を、この雄英体育祭で正々堂々発揮する事を誓います。
選手代表。廻道円花」
よし。取り敢えず相澤先生に頼まれた選手宣誓は済ませた。後は観客席から変な注目が集まる前に列に戻ろう。いや、既に奇っ怪な物を見る目で見られている気がするが。そもそも、何故こすぷれをして体育祭に参加しなければならんのじゃ。段々苛々してきたぞ。いかんいかん、平常心じゃ平常心。些細な事で感情を乱すなど、呪術師らしからぬ行動じゃ。
……いや、やっぱりこの格好はどうかと思うんじゃけど?? いやしかし、被身子にあんな顔で「着てくれないんですか……?」と言われた手前着ないわけには……。
これが惚れた弱味と言うやつか? そうなのか? ……うぅむ……。色恋は厄介じゃのぅ……。
「てめえ。ぶっ殺すからな」
「何じゃ突然。物騒じゃな」
壇上から降りると、何故か舎弟に睨まれた。今にも大爆発しそうな雰囲気をしておる。何がそんなに気に食わないんじゃ貴様は。
「俺がやる予定だったんだよ! 何でてめえが選手宣誓してんだおい!!」
「仕方ないじゃろ。貴様に選手宣誓など出来ぬじゃろうし」
「出来るわ! 誓い殺したるわ!!」
「うるさいのぅ。少しは大人しくせんか、たわけ。
あれか? さては最近儂に構って貰えなくて寂しかったのか? 仕方ない奴じゃな、ほれほれ」
「だっ、てめっ、頭撫でんなや!!!」
相変わらず面倒くさい奴じゃなこやつ。いや、ここ最近相手にしてやる事が出来なかったのは儂の方じゃが。それは悪いとは思っておるぞ? じゃからほら、頭撫でてやろう。何で髪の毛まで刺々しいんじゃこやつ。撫で心地は存外悪くないが……もう少し髪を柔らかくしても良いんじゃないか? いつか誰かに刺さるぞこれ。あと、もう少し頭を下げんか頭を。いつまで儂に背伸びさせてるつもりじゃ。
「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう! 今年はコレ!!!」
舎弟の頭を撫で回してやっていると、体育祭が進行していく。峰田が何か呟いているのは、多分気のせいじゃろう。そう思うことにする。おいなんじゃ常闇、呆れた顔でこっちを見るな。貴様も撫でて欲しいならこっちに来んか。
「―――と言う訳で、位置につきまくりなさい!」
何じゃって? いかん、聞いておらんかった。
……まぁ、聞かずとも良いか。障害物競争じゃろう? 適当に障害物を避けながら、ごおるに向かって走れば良いんじゃ、走れば。相手として楽しみなのは飯田かのう。あやつ、足速いし。
「スターート!!」
お、始まった。全員走り始めおったわ。儂も走らねばならんのじゃが、どこに向かって走れば良いのか分からん。取り敢えず先頭に付いて行くか?
……いや、詰まっとるの。人がぎゅうぎゅう詰めになっとる。道が狭いせいじゃな。じゃったら……跳ぶか。
呪力を下半身に流し込み、膝を曲げる。跳ぶ先は人で溢れ返った細道の、壁。一足でなだらかな壁に向かって跳んだ次は、その壁を蹴って今度は天井へ。地面は人で埋まっておるが、上はそうでもない。そもそも誰も跳ぶと言う発想が無い。空を飛ぶなり、空を跳ぶ個性ぐらい幾らでも有りそうなもんじゃけどなぁ。おおるまいとは跳べるんじゃっか? あの筋肉め。やはり滅茶苦茶じゃなぁ……。
「どけやクソチビィ!!!」
お。空を飛ぶ奴がおったわ。そうじゃな。舎弟の個性ならば飛べるじゃろうて。ただその位置は良くないのぅ。儂の手の届く範囲で前に出るなよ。それとも舎弟として踏み台になるつもりで儂の前に出たのか?
よし、ちょうど良い。足場にしてやろう。
天井を蹴る。向かう先は、舎弟の背中じゃ。
「助かる。良い踏み台じゃな」
「ああ゛っ!? てめ……っ!!」
宙に居る舎弟が再び加速した瞬間。それに合わせて、儂はこやつの背中を踏み付ける。結果どうなるか。儂は前へ、舎弟は下へ。慌てて体勢を立て直そうとしているが、少し間に合わんの。よし、これで当分こやつは遅れるじゃろうて。
先頭を走っているのは、轟か。地面を凍らせて後続を凍らせる、手厳しい真似をしておるわ。まぁ、未だ宙に居る儂からすればありがたい。じゃってほら、轟の氷を避けようとして跳んだ奴が沢山おるわ。高く跳んでいるのは常闇に八百万に、あと尾白か。うむ、これまたちょうど良い。
「踏み台ご苦労」
「えっ!? 廻道さ……っ!?」
「常闇、背後には気を付けい」
「何っ!?」
「尾白もご苦労」
「うわっ!?」
宙に跳び出してきた三人を更に足場にして、前へ。先頭を走るのは……轟だけか。これは抜かすか悩ましいの。どこをどう進めば良いか分からんから、頭が紅白なあやつの背中を追った方が良い気がする。良い気がするが……。
お? こうして上から見下ろしてみると、左右に柵が設置されているの? ならこの柵の内を真っ直ぐ道なりに進めば良いのか。分かりやすくて助かる。これなら道に迷うことは無いじゃろう。
よし。なら、どう動くは決まりじゃな。先頭に跳び出て、そのまま大差を付けてくれよう。まずは着地……、……いや、これまたちょうど良い位置に轟が居る。ならば、流れのまま動いて良いな。次の踏み台はお主じゃよ、轟。
「次は後ろにも目を付けるんじゃな」
「っっ!?」
最後に轟の左肩を踏み台にし、もう一度跳ぶ。ついでに真後ろを確認しておくか。
……ふむ。直ぐに付いて来そうな奴はおらんな。ならこのまま、先頭を走らせて貰うとするか。何じゃ何じゃ情けない連中じゃのぅ。個性は何でも有りみたいなものじゃろう? 儂一人に良いようにされてどうすんじゃ。まぁ良いようにしてるのは儂じゃけどな。ついでに少し、後続を困らせてやるか。
「赤縛」
着地前に、後方に向かって血の縄を飛ばしておく。特に狙いは付けておらんが、誰かしらが引っ掛かれば儲けものじゃな。
『おいおいおい何だその動きはぁあ!? イカれてんのかデストロイガール!!』
失敬な教師が居たもんじゃ。その呼び方は止めんか。まっこと喧しい奴じゃな、ぷれぜんと・まいくは。もう少し声量を抑えんか声量を。小声で話すぐらいがちょうど良いんじゃないのか貴様は。
さて、着地じゃ着地。後続は遅れておる。走る速度は……まだ抑えなくて良いか。疲れ始めたら考えよう。と、思ったら。
『さぁいきなり障害物だ!! 第一関門、ロボ・インフェルノ!!』
……おぉ、大きな。入試の時に蹂躙しまくったろぼと比べ、何倍も大きいろぼが道を塞いでおる。倒したいと思うが、これは障害物競走じゃしなぁ。今回は……諦めるか。被身子が見てるんじゃし、そちらが優先。であれば……無視に限るな。
まだ、単純な呪力操作だけで良いじゃろう。大きいろぼが目の前に立ち塞がっているだけじゃ。ならば、足の隙間でも走り抜ければ良い。この体は小さいからの。他の奴よりは、足元を通り抜け易いじゃろうて。
◆
特に語ること無くろぼの足元を駆け抜けた儂を待っていたのは、幾つもの崖じゃ。あと、崖を繋ぐ綱。喧しい英語教師曰く、綱渡り。何じゃこれは? どの辺が障害物なんじゃ? 手緩いのぅ。
崖の下から呪霊でも這い出てくれば少しは楽しめるんじゃけど、そんな愉快な事は残念ながら起きそうにない。いちいち立ち止まるのは無駄じゃし、勢いのまま跳ぶか。
綱の前で踏み切り、思いっきり、跳ぶ。
ところでこれ、綱を切っても良いのか? 切れれば後続への良い妨害になるからそうしたいんじゃけど……。まぁ、流石に勘弁してやるか。綱が無かったらここを通り抜けられない子供が多そうじゃからのぅ。切らぬ代わりに、血を付けておこう。
宙に居る間に後方確認。ううむ、足が遅いのあやつら。ここを越えたら速度を緩めるとしよう。体育祭はまだまだ続くんじゃ。
最初の綱は抜けた。次の綱も跳び越えるか。いや、流石に一足では届きそうに無い。なら次は綱の上に着地して、また跳べば良い。もう一度後ろを見てみれば、まだ後続の先頭とは距離が離れているのぅ。何でまだ綱渡りにすら辿り着かないんじゃ貴様等。もう少し頑張らんか。儂に退屈させるな。
「よっ、と」
ううむ……。つまらんなぁ。退屈じゃなぁ。そろそろ手を抜くべきか? いやしかし、露骨な真似をすると文句を言われそうじゃしのぅ。気にせず先を行くべきか?
……行っておくかぁ。余計に後続との差が付くような気がするが……。とは言えそろそろ速度を緩めて、体力を温存するか。もう綱渡り終わったし。これ、歩いても良いか? 良いよな。
「お、そうじゃ」
良いことを思い付いた。この障害物競走、後続への妨害は許されておる。でなければ轟が足元を凍らせたのは反則じゃからな。ならばこの最後の崖から、少しばかり試してやろう。
距離はそれなりに離れている。となると。
「百斂」
まずは血液を圧縮して、飛距離を伸ばす。しかしこれから行うのは穿血による狙撃ではない。そんな事をしたら、死人が出る。じゃから、少し集中するとしよう。儂がやりたいのは……。
「穿血」
まず、穿血を撃つ。穿血は音を超える速度じゃから、目視では遅い。感覚で……ここじゃな!
「赤縛」
穿血が綱渡りを始めた後続に迫ったその時、飛ばした血を網のように広げる。結果どうかるか。答えは簡単。突如として飛来した血の網に、どいつもこいつも雁字絡めじゃ。飛ばした血の量は多くないから、拘束力は大したものじゃない。じゃけど、足止めには十分じゃろうて。効果の程を確かめるつもりはない。直撃したのは確認したから、先に進もう。
当面は歩いていても良さそうじゃな。誰かが綱渡りを終えたら、走るとしよう。
いやはや。それにしても。まだまだ大した事無いのぅ。子供じゃから仕方ないとは分かってるんじゃが、どうにも期待してしまう。もしかしたら英雄科の生徒達の中に、儂とやり合える者が居ると思ってしまう。……高望みじゃな。同世代で儂を満足させてくれるような猛者など、多分居ない。居て欲しいのが本音じゃけど、今年も駄目かぁ。
あぁ、つまらん。つまらんつまらん。雑魚呪霊の相手をしてるような気分じゃ。祓わなければならない分、雑魚呪霊の方がまだ良いか? いや、あれはあれでつまらんのじゃけども。
もう一度後方確認。赤縛から脱け出した奴が最初の綱に足を乗せたな。では……揺らそう。赤血操術は、血液が付着した物も動かせるからの。ほれほれ、激しく揺らしてやろう。お、何人か崖下に落ちたな。……くだらん。
「儂はいつになったら走れるんじゃ」
先頭は孤独じゃ。喋り相手もおらん。こんな事になるならもっと手を抜いて、轟の隣を走り続けるべきじゃったかもしれん。今からでも轟が追い付いてくるのを待つか? 休憩するのも悪くはないが……足を止めると後で教師の誰かに怒られる気がする。それにまぁ、被身子との約束もあるしのぅ。
仕方ない。競い合うのは諦めるか。
『おいおいデストロイガール!! ちったぁ加減してやれよ!? いや、してこれか!!?』
してこれじゃ。現に歩いてるじゃろ。何を見てるんじゃ貴様は。
『後続トップ! やっと綱渡りを終えたかぁ!? 二番手の轟、デストロイガールに手が届きそうだぁ!!』
お、じゃあ走ろ。休憩は終わりじゃ。もう少し早く来んか轟。割と休めてしまったじゃろ。この分だと、儂は最後まで駆けれてしまいそうだぞ?
『デストロイガールは早くも最終関門!! 一面地雷原!!! 怒りのアフガンだ!!』
地雷? 何じゃっけそれ。確か歴史の授業で少し触れられていたような……。あぁ、踏んだら爆発するとか言うあれか。と言うことは地雷は地面の中か?
うむ。考えるのも面倒じゃ。呪力防御しつつ、踏みながら進めば良かろう。
おぐっ。
「げほっ、げほっ」
早速地雷踏んだ。砂ぼこりが酷い。とは言え体は無傷じゃし、踏ん張れば吹き飛ばされることも無さそうじゃ。うむ、気にせず走ろう。こんな場所は駆け抜けてしまおう。
んぐっ。
うべっ。
ぷわっ。
……何で四回も爆発するんじゃ!!
ふざけるなよ!!! もう地雷原とやらは抜けたがな!!!
『デストロイガールよぉ!? 滅茶苦茶やってんなお前!!? 何てこったメイドが一位だってよ!!!』
お、なんじゃなんじゃ? もう終わりか?
……つまらん。つまらん競い合いじゃった。もっともっと手を抜いて良かったのぅ。何はともあれ、障害物競走は儂の勝ち。
服、最後の地雷で大分痛んでしまったのぅ。いやこんな服はどうなっても良いんじゃが、あまり汚れたり破れたりしてしまうと被身子が心配して……。
まぁ、良いか。こすぷれ衣装なんてどうなっても。何はどうあれ一位は一位じゃ。被身子はどこじゃ被身子は。
お、見付けた。笑っておる。手も振ってるな。じゃあ手を振り返して、笑顔のひとつでも見せてやるか。ほれ、一等賞じゃぞ一等賞。もっと喜ばんか。これはお主の為に取ったんじゃからな!
ちなみに。二位は緑谷、三位は轟、四位は舎弟じゃった。儂が被身子と手を振り合っている間に、後ろで白熱した競い合いがあったらしい。良いのぅ貴様等は楽しめて。まっこと羨ましい限りじゃ。儂はつまらんかったぞ。
じゃから次の種目は、もっと楽しませてくれよ? 頼むぞ?? 儂を退屈させないでくれ!!!
以上、円花無双part1でした。
穿血からの赤縛への派生は必中捕縛コンボみたいなもんです。一応穿血が直撃する前に上下左右に網状に広げ速度を消してから捕縛してます。でないと皆が細切れになるからね。音速で飛んでくる網なんて生身で受けたらサイコロステーキになっちゃう!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ