待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「私は、ティモシー・アグパー。スターに命令出来る立場にある者だ」
「なら、さっさと話せ。儂の気はそう長くないぞ」
何故、儂にかけられた指名手配が解かれぬままなのか。それと呪術に何の関係が有るのか。それをさっさと、この男に吐いて貰いたい。納得出来れば暴れないでおいてやる。納得出来なければ、その時はもう暴れるしかないのぅ。何せこの一件、既に被身子や常闇達が巻き込まれてしまっている。それがどうしても気に食わん。儂が何に重きを置くか、それをこの国に思い知らせてやっても良い。相手が国じゃろうが何じゃろうが関係無い。知ったことか。外交問題でも何でもなってしまえば良いんじゃ。
なんて、考えていると。被身子が後ろから抱き付いて来た。腕に力が込められているのは気の所為じゃない。……はぁ……、仕方ない。解せぬところじゃけども、少し落ち着くとするか。
「勿論、私が知りうる事は全て話すつもりだ。……だがその前に、この件は君とだけ話したい」
「あ゛?」
「呪術に関する事だ。当然君には守秘義務が生じているのだろう? 無論、それは私にもだ」
……ちっ。今更何を気にしてるんじゃか。呪術の守秘義務なぞ、被身子や常闇達、そしてながんが気にするような事でもない。既に全員、呪術について色々と知っている。特に被身子は儂と同じだけの知識を持ってしまっているからの。じゃから儂からすれば、守秘義務なんて今更じゃ。しかしまぁ、こやつの申し出は少しばかり好都合では有るかもしれんな。儂だけが事情を知っている形になれば、恐らく
そう考えたら、……うむ。話は儂だけで聞いた方が得策じゃ。得策では有るんじゃけども、被身子や常闇が大人しくしてくれる気がせん。特に被身子は、何が何でも一緒に話を聞こうとするじゃろう。儂は被身子を言い聞かせる術を持たん。ここ最近のこやつと来たら、それはもう聞かん坊じゃからなぁ……。
「円花ちゃん一人とお話なんて、トガは許しませんっ。ここで話してくださいっ!」
「ぐえっ」
儂を抱き締める腕に更に力が込められて、息が詰まった。まったく、どうしてこう……儂を独占したがるんじゃお主は。悪い気はせんけど、こういう時ぐらいは大人しくして欲しいのぅ。話を拗らせるような真似は止さぬか。それと、そんなに怒って警戒しても、何にもならんと思うんじゃが? まっこと、仕方のない奴め。
「……アグパーさん。呪術の守秘義務は俺達にも課されています。隠す必要は無いかと」
「それはつまり、……君達も」
「いいえ。俺達は非術師ですが、頼皆の協力者です。それ故、呪術界を幾らか知っている。
俺達の前では、守秘義務を気にする必要は無いかと」
あぁ、もう。被身子の次は常闇まで。儂の協力者で有る事を明かす必要なぞ無いというのに。何でどいつもこいつも、自分から巻き込まれに来てしまうのか。少しぐらいは頼ると決めたが、こうして被身子や常闇に積極的に関わられてしまうと……それはそれで不満が募る。
「……なるほど。良いチームだな、ヨリミナ」
は? どこが? 何が?? 何を勝手に納得してるんじゃこやつ。訳の分からんことを口走らないで欲しいものじゃ。
そもそも。何で儂の指名手配が解かれぬのか、その理由をさっさと話せ。儂の気は長くないと言った筈じゃが??
「だが、君達がそうであるように私にもそれ相応の責任が有る。すまないが、ヨリミナと二人で話をさせて欲しい。この通りだ」
……はぁ……。まったく、面倒な事じゃ。この男は、どうしても儂と二人だけで話をしたいようじゃの。いっそこの場で離してくれてしまった方が色々と手っ取り早かったんじゃけど、そうもいかんか。儂としては譲歩してやるつもりは無かったんじゃが、此処で揉めるのもまた面倒じゃ。権力を持った大人が頭を下げたところで面倒以外に思うことは無いが、じゃからって跳ね返すと……それはそれで面倒じゃ。
ちっ。面倒ばかりが生じている気がしてならん。こんな状況じゃ仕方ないとは思うが、やはり解せぬなぁ。
「……二人で話してくる。お主等は此処で待っとれ」
「でも、円花ちゃん……っ」
「大丈夫じゃ。少し話すだけじゃし、面倒事は避けるから」
「……むーー……っ。じゃあちょっとだけ、ちょっとだけなのですっ!」
「相分かった。少しだけの」
まるで納得していない被身子じゃけども、それでも一旦離れることを許してくれた。顔が物凄く嫌と語っておる。後で何を話したのか根掘り葉掘り聞かされそうじゃの。まぁ、今のところ隠すつもりは毛頭無いが。
「常闇、ながん。すまんが被身子を頼む」
「それは構わない。だが、廻道。……気を付けてくれ」
「……一応、そうしてやる」
要らん心配じゃと言ってやりたいところじゃけども、此処で跳ね除けるとそれはそれで文句を言われそうじゃ。黙って受け取っておくとしよう。ながんは黙って儂の目を見詰めて来たから、同じく見詰め返しておく。何を考えてるかは知らんが、好き勝手にやらせてやるとしよう。少しぐらいは尻拭いしてやっても良い。
まぁ、尻拭いが必要な真似をする奴でもないんじゃけども。
「話は聞いてやる。ほら、さっさと連れてけ」
「……すまない。恩に着る」
「恩を売った覚えはない。さっさとしろ、たわけ」
儂としては、さっさと話を済ませたいだけじゃ。色々解せぬから、納得に足る理由を語って貰わねば困る。とにかく、この男の話を聞いてやるとしよう。どうするかは、その後で決めれば良いか。
◆
それで、じゃ。ひとまず儂と、目の前の男は皆が居る場所から少し離れた。扉の向こうに有ったのは淡く光る電灯に照らされた、薄暗い廊下。奥には薄っすらと階段が見える。僅かに風の流れを感じるから、多分外と繋がってるんじゃろうな。この古びた拠点に通ずる道が、下水道だけとは思えんし。
儂が後ろ手で扉を閉めると、先を歩くあぐぱぁが足を止めて振り向いた。薄暗い場所に立つと、肌の気も相まって少しばかり不気味じゃの。あくまで人間としては、じゃけども。
まっこと。この時代の人間は多種多様じゃよなぁ。平安時代の人間と比べたら、とても同じ人間とは思えん。まぁ、もう見慣れたもんじゃが。
「単刀直入に言う。この国は、……君が欲しい」
「断る。儂は誰のものでもない」
……こともないか。誰のものかと聞かれたら、被身子のものと答えられる。こんな場面で、大して知らん奴に惚気るつもりは無いから言わずにはおくが。
「無論、君は君のものだ。誰のものでもない。
……だが、それでも君を欲しがるだけの理由が有る。まずはそれを聞いて貰いたい。少し、長い話になってしまうが」
「聞いてやるから、さっさと話せ」
まぁ本音を言えば、手短に済ませて欲しいところではある。何でって、それはこの男がすたぁに命令出来る立場にある奴じゃからじゃ。昔から、偉い奴の話は無駄に長いんじゃ。
「我が国の首相は、いや……中国やロシアと言った大国の首相は。八百年ほど前、とある男によって呪術界の存在を知った。と、されている」
……八百年前? それはまた、随分と昔の話じゃの。平安程遠い過去の話ではないが、この時代を生きる人間からすれば古過ぎる話じゃ。
「要はその男に唆されてね。我が国は日本人を拉致し、呪力や呪術の研究を始めようとした……そうだ」
「それで?」
「結果から言えば、この研究は直ぐに凍結され闇に葬られた。……そしてそれから百年。人類は呪力から脱却を果たし、呪術界は失われた」
……ううむ。呪力からの脱却、か。にわかには信じられんが、これは嘘ではないんじゃろうな。神野であの背広男、そう……おおる・ふぉお・わんが言っていた。あやつは日本に残されていた呪術界の情報を独占していた。じゃが、流石に
「……筈だった。だが近年、我が国では不可解な行方不明者が少しずつ増えていてね。原因は
話が長いのぅ。出来ればもっと要約して欲しいものじゃが、もう少しぐらいは聞いてやるとするか……。うぅむ……。
「……。……つまり、この国は呪術界に再び目を向けた。そこで国の守護の為に、もっと情報が欲しい。一度は手放した研究故に、資料となるものはその殆どが破棄されていてね。だがこれは、君が居れば解決出来ると上層部の一部が考えた」
「じゃったら、指名手配なんぞは必要無いじゃろ。儂か、或いは日本の公安に聞けば済む話じゃ」
「最初は、その筈だった。だが呪術に関するやり取りでは、我が国は慎重にならざるを得ない理由が有る。それで焦ったのか、上層部の一部が強硬手段を取ろうとしているようだ。
君の指名手配が解かれないのは、そのせいだ」
……はぁ……。まったく、面倒な話じゃ。要するに、
「上層部は私を飛ばして、君を拉致するようスターに命じた。呪術界について知りうる事を話しつつ、だ。
そしてスターは、上層部の意向に逆らい君を護ろうと動いている」
「じゃからこんな場所に儂等を向かわせたのか。そうならそうと言って欲しかったのぅ」
「何処で誰が聞いているかは分からない。それを警戒して、君達には多くを語らなかったのだろう」
取り敢えず、じゃ。すたぁは
「……で。貴様はすたぁの味方か?」
「そうだ。彼女がそうであるように、君達の敵ではない」
ふぅむ……。まぁ、嘘を吐いてるようには見えんか。あの滅茶苦茶な筋肉阿呆の上司をやってるんじゃから、こやつもお人好しの類か? とは言え、全面的に信用してやるつもりは無い。大人は信用ならん。ある程度の地位を持つ奴は、腹の内で何を考えてるのか分からんしな。
「君が呪術師で、ヒーロー候補生だとしてもまだ子供。未成年を不当に拘束し、情報を絞り出すような真似は許されない。ましてや人体実験など……。
君達の安全は私達が必ず護る。少しの間不便かもしれないが、潜伏してくれ」
この男の、あぐぱぁの言い分は分かった。話が長かったが、そこは許してやろう。
まったく。
……いやまぁ、被身子が海外旅行したいと言い出したら最終的に日本から出る羽目にはなるんじゃけども。ほら、
「……ひとまず、話は分かった。日本に帰る準備が整うまで、儂等は身を潜める」
「このような事になってしまい、申し訳なかった」
「偉い奴が頭を下げるな。鬱陶しい」
謝罪なぞ、今は何の価値も無い。人として頭を下げたくなる気持ちは分からんでもないが、大人に謝られても素直に受け取れん。どうせ裏で何か考えてるんじゃろうなとしか思わんし。
とにかく、この男の話は聞いてやった。今聞いた話を被身子達に言うのは、……止しておくか。わざわざ儂と二人きりになってから話したと言うことは、隠しておかねば色々と不都合が有るからじゃ。
遥か昔の出来事とは言え、日本人を拉致して呪術の研究……か。いやはや、にわかには信じ難い話じゃのぅ。
頭を下げた男は放っておいて、後ろの扉を開き被身子達が居る大部屋に戻る。儂が戻って来たこと事に真っ先に気付いた被身子が駆け寄って来とるから、受け止めてやるとしよう。
……まっこと! 仕方のない奴なんじゃからっ。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ