待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

513 / 553
米国逃避行。地下の生活

 

 

 

 

 

 

 あぐぱぁと何を話していたのか。それについては、あまり語れないのぅ。被身子もながんも常闇達も気にしていたが、儂が露骨に口を噤むと追求してくることは無かった。一応察してはくれたようじゃが、納得はしとらんようじゃ。特に被身子が不満気にしていて、後でどうにかして機嫌を取らなければ。でないと、無理矢理聞き出されそうじゃしの。

 

 まぁ、それはひとまず置いておくとして。

 

 この地下でどう過ごして行くか決めねばならん。と言っても、儂が扉の向こうで話している間に被身子達や、いぃさんが話し合って決めていたんじゃけども。

 

「……案外悪くなさそうじゃな?」

「まぁ少しぐらいなら、我慢出来なくもないですけどぉ……」

 

 この地下拠点の大部屋(と、呼ぶことにする)の一角に、結構大きな天幕(てんと)が設置された。その脇には、人ひとりが立って入れそうな小さな天幕(てんと)もある。因みに大きな天幕(てんと)は、儂が知ってるそれとは全然形が違う。壁となる布幕には空気が詰められているようで、柔らかな壁って感じじゃ。何でもこれは、空気天幕(えあぁてんと)? とか言うやつらしい。中は結構広くて、なんと二階建て。上の階には脚立で登るみたいじゃ。それと、簡易的な寝具(べっど)が六つも設置されていての。これも空気が入ってるとか何とか。寝心地は良くなさそうじゃけども、それでも横になって寝ることが出来そうじゃ。

 小さな天幕(てんと)の方は、簡易的な潅水浴機(しゃわぁ)じゃった。早速被身子が使ったんじゃが、使い心地はあまり良くないそうでの。顔を輝かせて入って行ったのに、外に出て来た時はそれはもう不満そうにしておった。それでも無いよりは良い……と思いたいの。

 

「……今後どうするかを決めたら、今日はもう休んでおこう。全員出来る限り、体力は温存しておけ」

 

 ひとまず全員で天幕(てんと)の中に入って床や小さな椅子に座ると、ながんが口を開いた。その意見には賛成じゃ。今後どうなるか分からんし、出来る限り体力を温存しておきたい。儂はまぁ、こういう野営のような生活には慣れている。が、他の者は違うからの。特に被身子には好ましくない状況じゃろう。どうにかしてやりたいが、どうにも出来ん。さっさと日本に帰れるようにと祈ることしか、今は出来ん。……何とも歯痒い。

 

「まぁそれもそうなんじゃが、先に良いか?」

 

 ながんの言う通り、今後どうするかを決めることは賛成じゃ。主に日本に帰るまでの立ち振る舞いを、全員で色々話し合って決めておきたいところではある。んじゃけども、一応先にしておきたい事が有ったりする。

 儂が片手を小さく上げて口を開くと、全員が儂を見た。真後ろに座る被身子は、儂の肩に顎を置いて来た。どころか腹に腕を回して来たので、仕方ないから頭を撫でてやる。これで今だけは大人しくなって欲しいが、はて。

 

「……まぁ、その。……常闇も尾白も砂藤も、さっきの戦いでは良くやったの。大した怪我もしとらんし、そこは一応……褒めてやらんでもない」

 

 儂とながんの援護されながらとは言え、この三人は悪党組織(ひゅうまらいず)の拠点のひとつを攻め落とした。最終的にすたぁの力を借りることになってしまったが、儂が遅れて辿り着くまでに軽い怪我程度で爆弾の確保を済ませてたのは事実じゃ。そこは今、褒めてやらんと悪い気がする。これ以上時間が経つと、何と言うか褒め辛くなってしまう気もした。なのでまぁ、一応褒めておいた。一応な。じゃからって、何でもかんでも頼りにしようとは思わんけども。

 

「……いや。せっかくだが廻道、その賛辞は受け取れない。

 俺達は、まだまだ未熟だ。足りない点が多過ぎる」

「だね。嬉しいけど、素直には喜べないかなぁ」

「俺なんか一番受け取れねー。新必殺技、実戦でも使えるようにもっと煮詰めねぇと」

 

 ……ほう。三人共、思ったより謙虚じゃの。確かに至らぬ点は有ったかもしれん。儂やながんの援護無しでは、爆弾の確保が出来たかすら分からんところじゃしの。褒められたことを手放しに喜ばず、改善点が有ったと反省する姿勢は悪くない。駄目とは言わん。そうやって貪欲に高みを目指そうとする姿は、儂としても好ましいところではある。ただ、それはそれとして気になる点がふたつ有る。

 

「……新必殺技?」

「あ、あぁ。シュガードープ・リダクションって言うんだけどよ。普段よりもずっと、パワーを上げれるんだ」

「ほぅ?」

 

 なるほど。普段よりもずっと力を出せる必殺技、か。砂藤の個性は、緑谷程に強力なものではない。いや、あの個性は常軌を逸しているから比べても仕方ないんじゃけども。……まぁ、とにかくじゃ。更なる必殺技を編み出したこと自体は、良いことじゃ。これも内容によっては褒めてやらんでもない。今度、こやつと手合わせでもしてみようか? 思えば最近、くらすめぇと達の成長を直に見てない気がする。日本に戻ったら春までに鍛えてやるつもりじゃし、その際にお披露目してもらうとしようかのぅ。

 

「でも扱いが、結構難しくってな。どうしても、まだ連携前提で……」

「しばらく頭が働いておらんかったのは、そのせいか?」

「……おぅ。面目ねぇ……」

 

 ……。……まぁ、言いたいことは色々あるが今は良しとしてやろう。結果的に、その新必殺技とやらを使う判断は間違ってなかったんじゃろうし。それから。

 

「……」

「廻道?」

「……いや、別に……」

 

 ……それから。まぁ、何と言うか。これは言わんでおくとしよう。口にしてしまったら、それはもう横柄を通り越して横暴な気がする。じゃから言わんでおく。ただ、……少し。そう、少しだけ。少しだけ不満に思ってしまったので、常闇達を睨んでおく。ちっ、人がせっかく褒めてやったと言うのに……!

 

「んふふ。拗ねちゃってカァイイのです♡」

「ん……っ、こら被身子。人前でそういう事は……!」

「まぁまぁ。今更ですよぉ」

 

 それはそうじゃけど。じゃからって急に耳に接吻(きす)するのは止さぬか。不覚にも背筋が震える。それと、そんな何もかもお見通しみたいな顔をして儂を見詰めるのも止せ。こやつに腹の内を見透かされてしまうのは、まぁ今更なんじゃけども。今更とは言え、こうも分かってるような面をされるのは……それはそれで悔しい気が……。……うぅむ、すっかり良いように扱われてしまっている。これは今度、主導権はどちらが握ってるのか教え込んでやらねば。ふんっ、今に見てろよ。

 

「……話を戻して良いか?」

 

 横目で被身子を睨んでいると、ながんが呆れた。何故か儂を睨んでいる。解せぬ。

 

「はぁい。これからどうするか、ですよね?」

「そうだ。今後の指針は決めた方が良い」

 

 今後の指針、か。確かにそれは決めておくべきじゃ。と、言っても決めれる事はそう多くない気がするのぅ。じゃってほら、この地下から外に出れば英雄(ひいろお)や警察に見付かって騒ぎになってしまう。すたぁ達が儂等を日本に送り届ける手筈が整うまで、黙って地下に潜伏しておく他無い。こんな状況になってしまった以上、米国(あめりか)での英雄(ひいろお)活動は今は無理じゃろうし。下手な事はせず、隠れているのが賢い選択じゃ。

 

 ……ただ。やはり少し、申し訳無い気にもなる。常闇達は悪党組織(ひゅうまらいず)の破壊行為を阻止する為の人員として、米国(あめりか)に派遣された。まぁそれについては儂もそうなんじゃけども、本来学ぶべき事を学べない状況になってしまった。半分は悪党共のせいじゃが、もう半分はこの国のせいじゃ。本来ならば、今回の騒動の後処理について常闇達は学べていた筈じゃ。その機会を失くさせてしまったことが、申し訳無いと思う。この埋め合わせは何か考えておかねば。と言っても、儂がこやつ等に教えてやれる事などそう多くは……。

 

 ……あぁ……、まぁ……無くは無い。

 

 無くは無い、けども。それは気乗りせん。とは言え、いずれ教えて行くことになる。特に常闇に限っては、今後補助監督として頼りにしていくつもりじゃからの。

 

「そうは言っても、今は潜伏を続けるしかないのでは?」

「外に出ても、追われるだけだしね」

「ヒューマライズの件で俺等にやれる事は、もう無い……よな?」

 

 ……うぅむ……。まぁ、確かに悪党組織(ひゅうまらいず)の件ではもう出来る事は無いじゃろう。が、他に無いとは言わん。一応、他にも出来ることが有る。生憎と英雄(ひいろお)活動ではないんじゃけど。一応、学べることが有るには有る。

 

 そう。呪霊退治じゃの。儂の補助監督として、学べることは有る。が、どうにも気乗りしない。この国に追われてる身なのに、わざわざこの国の呪霊を祓ってやる理由は無いように思える。そもそも補助監督の仕事についてあれこれ学ぶことが、英雄(ひいろお)活動の代わりになるとは思えんし。じゃけど近い内に、くらすめぇと達には色々教えねばならん。ほぉくすが渡して来た暗号に書かれていた事が事実なら、もう今の内から準備しておいた方が良い。

 

 ……。……躊躇っている場合ではない、か。

 

 

「……むぅ……」

 

 

 我ながら、随分と女々しくなったと思う。たった一言を、中々口に出せんようになってしまった。少し前までならば、もう常闇達には何もさせないのが儂だったんじゃけどなぁ。

 今ではもう少し、今ならばもう少しぐらい。そう思って、別の考えが頭をよぎる。それが正しい事とは思えん。明らかに間違ってると、かつての儂が叫んでいる。考えひとつを改めきるのに、どれだけ時間が掛かるのやら。

 

「ほら、そこはプルスウルトラですよぉ。ね?」

「……嫌いじゃその言葉。ろくでもない」

 

 何が、ぷるすうるとら(更に向こうへ)じゃ。そんな言葉を伝統のように語るな。あと少し、もう少しって考えが、どれだけ危険なものなのか分かっとらん。欲張れば死ぬんじゃぞ。大人ならまだしも、子供にそんな言葉を実践させるのはどうかと思う。

 

 やはり、どうにも好きになれんな。英雄(ひいろお)の考え方は。

 

 と言うか、被身子。然りげ無く太腿を撫でるな。腹を撫で回すな、耳を唇で食むな。せくはらじゃぞ、せくはら。何でお主はいつもそうなんじゃ、まったく。せめて人前では止さぬか、へんたい。

 

 ふと。常闇達を見る。儂が何か言うのを、待ってるように見えなくもない。こやつ等もこやつ等で、仕方ない奴等じゃよなぁ。儂の苦労など微塵も考えとらんのでは? これでは、また色々と忙しくなりそうじゃ。そもそもあの翼男が暗号なぞ寄越さなければ、こんな事を考えなくても良かったんじゃけど??

 

 ……はぁ……。まぁこれは、いずれは通る道じゃ。今回はどうしても避けられんじゃろう。ならば、もう腹を括って踏み出すしかあるまい。少しでも周りを頼ると決めたのは、他ならぬ儂自身なんじゃから。

 

「……これは貴様等次第じゃが、この地下に居る呪霊を祓っても良い。補助監督として、同行するか?」

「……! 良いのか……っ?」

 

 良くない。まっこと良くない。本来これは、儂一人でやる事じゃ。そこに他の誰かを、まして子供を手伝わせるなど、有ってはならん。やはりどうしても、真っ先にそう思ってしまう。ただ今後、そうも言ってられなくなる。始めるなら、いっその今の内から始めてしまった方が良いじゃろう。じゃから。

 

「……一人ずつ、対呪霊戦を経験させてやる。この地下は、丁度呪霊だらけじゃからの」

 

 この地下で見掛けた呪霊は、結構な数が居る。どれも低級のように見えたから、儂が後ろで援護すれば問題無いじゃろう。怪我を負ったり、下手に呪われたりしないか不安ではあるが……。

 

「んふふ。じゃあ、トガが手伝います! 反転術式が有るので、何か有っても大丈夫ですよぉ」

 

 ……そうじゃったな。被身子が居れば、ある程度は大丈夫じゃろう。どういう訳か、こやつは反転術式を人に施せるからの。その回復効率がどの程度のものなのかは試しとらんけども、まったく使い物にならぬなんて事は無い……筈じゃ。多分。ただ被身子の呪力量はそう多くない筈じゃから、治せても精々一人か二人。怪我や呪いの濃さ次第じゃ、万全まで治せるのは一人が限界かもしれん。まぁ呪力量については、最悪儂に変身してもらえば解決するんじゃけども。

 

 そうじゃなぁ。被身子の反転術式がどの程度のものなのか、ついでに試してみるとするか。場合によっては、もう少し頼りにしても良いかもしれん。もちろん、総監部には内緒じゃけどな。被身子まで呪術師として働かせようとするじゃろうし、そんな真似は絶対にさせん。念の為、常闇達にも口止めはしておくか。既に尾白とか砂藤が目を丸くして、被身子を見詰め始めとるし。人の許嫁をじろじろ見るんじゃない、まったく。

 

「尾白、砂藤。被身子が反転術式を使えることは他言無用で頼む。特に総監部の耳には入れたくないからの」

「それは良いけど。でも、何で渡我先輩が反転術式を? 呪力が無いと使えないんじゃ?」

「あ、理由を聞くのはNGです。そういうもんだと思ってください!」

「ぇ、ええ……?」

「とにかくNGなので! ヨリくん規定に反します!」

 

 いや、何じゃその規定。急に指先でばってんを作ったと思ったら、訳の分からん理由で突っぱねおって。別に、お主が儂の過ちを隠そうとしなくても良いじゃろ。この件については、儂に非が有る。早く何とかしてやりたいが、その方法がどうしても分からん。今現状は、様子を見守るぐらいしか出来ん。それが、心苦しい。

 

「……出来れば聞かないでやってくれ。俺は知ってるが、大丈夫だ」

「ソウダゼ! 秘密ダカンナ!!」

 

 ……おい。何じゃもぅ。常闇まで隠そうとしおって。だぁくしゃどうは儂の膝上に飛び込んで来るし。

 

「……分かった。深くは聞かないでおく。でも、俺達に出来ることが有ったらちゃんと言ってくれよ? 一人で抱え込むのは、良くないからよ」

「うん、そうだね。何が出来るか分からないけど、出来る限り力になるから」

 

 ……はぁ……。英雄(ひいろお)候補生と言うのは、どうしてこうお人好しなのか。どうしようもない連中な気がしてならん。でも、まぁ……。気持ちだけ受け取っておいてやるか。どうせ何を言ったって、目の届くところで何かあれば救けようとするんじゃから。

 

 まぁ、それでじゃ。地下に隠れていなければならんが、じゃからって何も出来ないわけじゃない。地下に巣食う呪霊退治ぐらいは出来る。とは言え、これをやれば多少なりとも警察や英雄(ひいろお)に動きを察知されてしまうかもしれん。その可能性を考えるなら、この天幕(てんと)で大人しく過ごしてる方が良い。

 

 ながんに目を向けると、顰めっ面をしとる。まぁ、そうじゃよな。儂の提案は、受け入れられるものじゃない。

 

「言っておくが、私達は追われる身だ。その気になってるところ悪いが、今の状況で呪霊退治をする余裕は無い。下手に動けば、ここが見付かる可能性がある」

 

 じゃよなぁ。提案したのは儂じゃけども、儂もながんの言葉には頷くしかない。可能なら今の内から始めておきたいが、別にこれは日本に帰ってからでも良い。じゃから、ながんが言ってることは正しい。実際、常闇達も反論せず耳を傾けとるし。被身子じゃって黙っとる。

 

「―――だから。もしやるなら、本当に短い時間だけだ。その時間は、イーサンやスターと相談した上で決める。反対されるようなら、何もしないで此処に隠れ続ける。

 それで良いなら、私は反対しない」

「……良いのか?」

 

 思ったより反応が悪くない。むしろ、ながんはこの話に肯定しているように見える。鋭い目付きで儂等全員を見ているが、否定的では無いのぅ。何と言うか、何だかんだで甘い奴じゃの。意外と子供には優しいと言うか、受け身と言うか。

 

「……ここでやれなくても、日本に帰ったらやるんだろ? 始めるなら早い方が良いのも事実だ。何せあんたには、時間が無い」

「……そうじゃな。まぁそういう訳で、この話はあやつ等次第じゃ。ひと休みしてから、皆で話をしに行こうかの」

「委細承知。そうする他無し」

「……そうだね」

「だな。取り敢えず、今の内にひと休みしよーぜ」

 

 こうして。これからどうするかの話し合いは、結構直ぐに纏まった。呪霊退治が出来るようになるかは分からんが、一応やれる前提で考えておくかの。今日は、と言うか今日も色々有ったから、儂も少し休んでおきたい。それと休みながら、被身子を甘やかしてやらんと。米国(あめりか)に来てからと言うもの、色々な事に巻き込み過ぎてしまった。怖い思いも、危ない目にも遭わせてしまった。その埋め合わせも兼ねて、沢山甘やかしてやらねば。

 

 じゃから。

 

「……上に行かんか? 少し、二人きりになろう」

 

 妙に柔らかな床から立ち上がりつつ、被身子の手を取ってみる。そしたら被身子は直ぐに顔を輝かせて。

 

「はいっ! イチャイチャしましょう!」

 

 と、諸手を上げて飛び跳ねた。そんな姿が可愛らしくて微笑ましくて、思わず気が抜けた。あぁもう、こやつには敵わんなぁ……。

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。