待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
まずは被身子を甘やかそう。そう思って二人で二階に上がろうと思ったんじゃけども、儂はまず被身子に
その後、すたぁの部下が用意していた服を着た。今回は柄の無い黒い
「えへへぇ、円花ちゃんっ」
「……甘えたがりめ。良い、許す」
二人で寝転んでいると被身子が擦り寄って来たので、胸に頭を抱いてみる。まだ少し髪が湿っていて、匂いが普段とは違う。さっき
「……はぁ……。やっと少し、一息吐けるのです」
「すまん。色々と大変で」
「まったくですよぉ。これじゃ幾つ身体が有っても、疲れちゃう」
「……すまん」
こればっかりは、謝ることしか出来ん。せめて少しでも癒せればと、何度も何度も髪を撫でる。そしたら背中に手を回されて、しがみ付かれた。被身子はゆっくりと息を吸い込んで―――。
「んふふ……♡」
と、儂の腕の中で喜んだ。いや、悦んだ……か? 別にどっちでも良いんじゃけども、調子に乗って体を求めるのは止めて欲しい。直ぐ側に常闇達やながんが居るんじゃから、そう言うのは無しじゃ。流石に分かっているとは思うが、儂を辱めることに余念が無いのが被身子じゃからなぁ……。現に今も、
なんて言い聞かせたところで、素直に従ってくれれば儂は苦労してないんじゃけども。
まっこと、欲に忠実な奴なんじゃから。良いけど。人間誰しも、欲には抗えんと言うし。
「むー……」
あ、いかん。撫でる手を止めてしまっていた。被身子が不満そうじゃから、もう一度頭を撫で回してやる。そしたら嬉しそうにして、今度は額を胸に擦り付けて来た。昔っから甘えん坊なんじゃから。そういう所も、かぁいいものじゃけどな。お陰で、ついつい甘やかし過ぎてしまう。
「……すまん。このままじゃと、でぇとも出来そうにない」
「またアメリカに来れば良いのです。いつか連れてってください!」
「……はねむぅんは、あめりかか?」
「えー? それは応相談ですよぉ。どうせなら世界一周旅行とかしちゃいます?」
「それはまた、大きく出たの……」
世界一周旅行て。出来るか出来ないかで言えば、出来るじゃろう。使わん金が貯まっていく一方じゃから、何処かで派手に散財してしまっても良いような気がする。総監部からやたらと支払われる給金は、どう考えても儂一人では使い切れん。と言うか、被身子と二人でも使い切れるかも怪しい。雄英を卒業したら、何処かに豪邸でも建てるか? いや、家なんて被身子と二人で暮らせる程度の広さが有れば良いんじゃから、豪邸なんぞ所有しても仕方ないか。やはりそう考えると、使い所としては結婚式とか
どうにも、昔から金に興味が持てないんじゃよなぁ。生きて行く上で必要なのは分かるけども、具体的にどの程度必要なのかは分かっとらんし。……何が有っても良いように、取り敢えず稼ぐだけ稼いでおくのも悪くないかもしれん。備えあれば憂いなし、じゃ。
「でも円花ちゃんの好みを考えるなら、日本の温泉巡りも良いなぁって」
「うむ、それは悪くないが……」
悪くないと言うか、結構好ましい。有りじゃそれは。日本中の温泉を堪能出来るなら、是非してみたい。でもそれだけ新婚旅行を終わらせるのは何か違う気がする。じゃって、ほら。
「温泉巡りは、儂が楽しいだけじゃろ?」
「私も温泉大好きですよ? 円花ちゃんが大好きだから、大好きになりました!」
「揃えたがりめ。仕方ないのぅお主は」
「えへへぇ」
まぁ、日本中の温泉巡りも案の一つとして覚えておこう。もういっそ、世界の温泉巡りとかでも良いかもしれんな。それはそれで楽しいじゃろう。問題はどれだけの時間を費やせば良いのか分からんことと、その時間を捻出する暇が有るとは思えんことじゃ。呪術師は万年人手不足じゃからの。今後日本に呪術師が増えてくれれば、もう少し儂も楽が出来ると思うんじゃが。総監部が体制を整え切るまでは、忙しいんじゃろうなぁ……。被身子との生活に影響が出なければ良いんじゃけども。
「……んぅ……」
未来を少し考えていると、何と言うかその。まぁほら、……な? 有るじゃろ、何か急に気分が変わると言うか、そういう気分になってしまうことが。
「んふふ。どうしました?」
「いや、まぁ……。ほら、……分かるじゃろ?」
「分かりますけど、分からないのです♡」
「……とぼけおって。まったく……」
悪どい笑みを浮かべておる。また悪知恵を働かせているようにしか見えん。主導権を握られる前に、動いてしまおう。肘をついて、少し上体を起こす。儂の動きに合わせて被身子が仰向けになったから、頬に手を添えてみる。じっと目を見詰めてみると、首に腕を回された。ので、ゆっくりと距離を縮めてみる。
「んっ」
「んん……♡」
長くもなく、短くもなく。そんな
あぁ……、うむ……。好きじゃなぁ。こうして被身子と密着しながら、被身子と唇を求め合うのは。音が鳴らないようにだけ気を付けながら、もう一度。二度、三度。もう少し、あと一回。いや、二回か三回。と、そんな風に頭の片隅で考えて居ると。
「ん、んん゛っ!」
盛大な咳払いが下から聞こえた。っと、いかんいかん。危うく盛り上がってしまうところじゃった。流石にこんな場所で、これ以上求め合うのは駄目じゃ。被身子は少し不満そうじゃけども、流石に我慢してくれないと困る。じゃから一応、釘を刺しておこうかのぅ。
「……続きは、日本に帰ってからじゃな」
そう耳打ちすると。
「はぁい。帰ったら、たぁくさん滅茶苦茶にしてあげますね……♡」
とんでもない返答が囁かれた。へんたい、あほう。被身子のえっち。
◆
さて、被身子を甘やかした。……し、甘やかされもした。ひと休みもした。一時間か二時間か、或いは三時間……? 程度は休んだと思う。地下じゃし、時計が無いから今が何時なのかも分からん。空腹じゃから、とっくに昼は過ぎてるとは思うんじゃけど。取り敢えず用意されていた水でも飲んで、空腹を紛らわそう。被身子の手料理が食べたいが、こんな場所では調理も何も無いからのぅ。仕方ない状況とは言え、気が滅入りそうじゃ。かつては食事なんぞ、腹が満たせれば何でも良かったんじゃけどなぁ。その辺に毒茸でも生えとらんか? そしたらこの空腹を多少は誤魔化せるんじゃが……。
なんて思いつつ、被身子に抱き付かれたまま
「ようブラッディ、それと穴蔵チームのみんな! 食料配給の時間だ!」
……すたぁ、じゃった。やけに大きな鞄を持っておる上に、何処ぞの筋肉阿呆を思い出させるような勢いじゃ。あやつを師と呼ぶだけはあるの。そんなところは真似せんで良いと思うが、まぁ良いか。そんな事より、食料を持って来てくれたのは助かる。ちょうど腹が空いているし、早速腹を満たすとしよう。味については、期待しないでおくとする。どうせ被身子の手料理には敵わんのじゃから。
「助かる。この子、空腹だと露骨に不機嫌なんだ」
「……えぇ。廻道は、かなり食い意地が張ってるので」
「そこはお子様なのです。すっごく」
「HAHAHA! まだまだお子様だな!」
「は?」
おい、ながん。常闇。それに被身子まで。誰が腹を空かすと不機嫌になるじゃって? 別に空腹ぐらい我慢出来るんじゃが?? それと食い意地なぞ張っとらんが???
まったく! 好き放題言いおって。だいたい、腹が減ったら誰でも不機嫌になるものじゃろうが。そこに子供も大人も関係無いんじゃ。
「ついでに話も聞いてくれ。ちょっとブラッディに相談したくってね」
……相談? 儂に? まぁ、一応は聞いてやるとするか。
「ご飯が先です! トガもみんなも、お腹が空いてるので!」
「じゃ、食いながら聞いてくれ。それと一つ言っておくんだが」
「何じゃ? 早くしろ」
「これな、そんなに美味くない。悪いが我慢してくれ」
……それを今言うか。まぁ、口にする前に知れただけ良しとしてやろう。何も知らずに食べた飯が不味かったら、それはそれで不快極まりないからの。すたぁが持つ鞄はながんが受け取ったので、儂は周囲を見て座れそうな場所を探す。壁一面の画面の前に段差が有るから、そこに被身子と二人で腰掛けるとするか。よっこいせ、……と。
「渡我」
「はぁい。ありがとうございます」
「ツクヨミ。中の二人の分も持って行ってくれ」
「痛み入ります。では、そのように」
段差に腰掛けると、直ぐながんが食料を配り始めた。常闇に尾白や砂藤の分も手渡して、
……ところで。何じゃこれ? 被身子に手渡されたのは、二つの小包みじゃ。表面には何やら英語が書いてあるが、読めん。これのどこが食料、……ってあぁ。しっかり梱包されてるだけか。何で食べ物を厳重に包んでるんじゃ? 分からぬ。
「あー……、これ……。うぅん……、まぁ仕方ないんですけどぉ……」
包みを開いた被身子が顔を顰めた。しっかりと梱包されていたのは、さらに小さな小包みが幾つかと紙の板。……紙製のお盆か、これ? 形や他の包みの数から察するに、品数は多そうじゃの。それぞれの量は少なそうじゃが、まぁ腹いっぱい食わせろなんて贅沢は言わん。取り敢えず空腹を抑えらればそれで良しとする。
「それじゃ、食べながら聞いてくれ。ブラッディ、ジュリョクは訓練で獲得出来るものか?
今後の為に、ジュジュツについて聞いておきたい」
……、なるほど。そうじゃないかと思っては居た。どうやら、すたぁは呪力……と言うよりは呪術に関して相談したいらしい。守秘義務が有るから簡単に答えるわけにはいかんのじゃけども、今更黙り込むのも違うな。一応、ながんと被身子に目配せしておく。
「色々、守秘義務が有るのは分かってる。そっちの立場が悪くなることも分かってるつもりだ。それでも、ジュジュツについて知るにはブラッディに聞くしかなくってね」
「……上の連中から、色々聞いとるんじゃろ? じゃったら分かっとるじゃろ」
「確かに色々と聞いてる。が、上の言う事が全て正しいものと鵜呑みにはしない。情報の裏はしっかり取らないとな」
まぁ、その判断は正しいんじゃろう。上の言葉を全て鵜呑みにするような奴が、米国の頂点に登れるとは思えんからな。こやつなりに考えた上で、こうして儂に頼み込んでいるのは分かる。とは言え、守秘義務は守秘義務なんじゃよなぁ。今更守らんでも良いような気もするが、呪術に関する情報は出来る限り伏せなければならん。儂の口から詳しく語ってやることは、やはり出来ん。が、ここまで色々と協力してくれてる奴の頼みを無下にするのは違う。大人なんぞどうでも良いが、ここですたぁ達の協力を失うのは痛手じゃ。皆で無事に帰国する為にも、すたぁとは友好的でなければ。
……ちっ。やはり面倒この上ない。何であれこれと考えて行動せねばならんのか。そもそも呪霊を祓う為にこの国に来たと言うのに、何じゃってこんな目に遭わねばならんのじゃ。解せぬ。
……はぁ……。仕方ない。回りくどい形になるが、教えられる部分は教えてやるとするか。なに、こやつは察するし儂の意図を汲める奴じゃ。それはもう分かっとる。じゃから。
「……ここ最近、日本に出た脳無ってゔぃらんは知っとるか?」
「確か、個性を幾つも与えられた
……その脳無が、何だって?」
ふむ……。脳無を知ってるなら話が早いの。あれが何なのか詳しく話すことは出来ん(儂もそこまで詳しくない)が、あの呪詛師の事で一つだけ言えることが有る。
「儂の管轄じゃ」
これだけ言っておけば、後は勝手に調べるじゃろう。脳無について調べれば、先程の質問の答えには行き着く筈……じゃ。すたぁも、納得したような顔をしとる。取り敢えずは分かってくれたようじゃ。
……ところで。何やら隣から食べ物の匂いがする。
「はい、出来ましたよぉ」
……おっ。被身子が儂の分の食事を用意してくれた。紙の盆の上に乗ってるのは、なんじゃこれ? ぱん? に、何やらはんばぁぐ的なやつも有るの。他にも幾つか有るが、取り敢えず真っ先に気になったのは……ぱん。それと、はんばぁぐ……? じゃの。
「うむ、ありがとう。……いただきます」
取り敢えず、ぱん? の方に口を付けてみる。味は、……なんじゃこれ。ぴざ……か……? んんむ、確かにそこまで美味いものではない。しかもじゃ、かなり口の中が渇く。飲み込み辛いし、水で流し込みたいぐらいじゃ。しばらくこんな物を食べて生活せねばならんと考えると、少し気が滅入るのぅ。これなら毒茸の方が断然美味い。食べる手を止めて被身子を見ると、被身子も顔を顰めていた。やはり美味くないよなぁ、これ。
「……それで、ブラッディ。もう一つ聞かせてくれ」
「何じゃ?」
「個性でジュリョクを得ることは出来るか?」
……。……まぁ、出来ないとは言えん。実際、個性から呪力を得た奴を儂は二人知っている。ただなぁ、あの個性については特別と言うか例外と言うか。詳しく話してやることはやはり出来ん。守秘義務もそうじゃけど、何よりあの個性について話せる事は何も無い。緑谷を守る為じゃ。とは言え、まぁこれも回りくどく答えるとするか。一応、念の為にじゃけど。
「……儂の師は、最近呪術師になったぞ」
あんな筋肉阿呆を師と崇めたくはないが、世間的に儂はあの男の後継者じゃからの。それにどちらかと言えば、あやつが儂の弟子なんじゃけどな。こう、呪術師的に。
「マスターが? ……なるほど。そりゃあ大きな収穫だブラッディ!」
……そうか? まったく何の参考にはならんと思うが。わん・ふぉお・おぉるが特別なだけじゃからな。なのに目の前の
「スター。幾つか確認したいことがある」
む? 何やら真顔になっとるながんが、何か聞きたいようじゃ。儂等がすたぁに確認したい事は、……有るな。少なくともひとつ、聞いておかねばならんことが有るの。そちらの確認はしておかねば。今後に関わる。
「何だ? 私に答えられることは、何でも答えるが……」
「まずひとつは、私達でこの地下に居る呪霊退治をしても良いか? この子曰く、結構居るそうで放って置けないみたいだ」
「何もせず隠れてて欲しいってのが、こっちの本音だ。人が踏み入り難い地下とは言え、動き回るのはリスクが有る。
……けど。呪霊退治は私も興味が有る。やるって言うなら、二つ条件を付けさせてもらう」
「内容によるな。場合によっては、このまま大人しく隠れさせて貰う」
ふむ……。確かにそうじゃな。すたぁとの交渉については、もうながんに任せてしまおうかの。細かなやり取りは儂には向かんし。ながんが交渉しとる間に、美味くはない食事をさっさと済ませてしまおう。まぁ、耳を傾けてはおくんじゃけども。
……それにしても。美味くないのぅ、これ。食べれるだけ有り難いんじゃけども、やはり好ましくはない。こんな食事がしばらく続くと考えると、今からでも気が滅入る。
「条件は二つ。ひとつは、限られた時間だけだ。日に一度、地上が騒々しい時に十五分だけ。それが最大限の譲歩だ」
なるほど。これについては納得するしかない。本来、儂等は地下で大人しく隠れていなければならん。下水道とは言え、無闇矢鱈に動いてしまっては地上の警察やら
「もうひとつは、私も同行させること。守秘義務がある以上は難しいと思うが、頼む」
「……いや。それで構わない。だが、呪霊の相手は頼皆と頼皆に同行するヒーロー候補生が行う。あんたは見てるだけにしてくれ。それと、同行した際に見たものも、同行したことも他言無用だ。良いな?」
「あぁ、それで構わない」
んんむ……。すたぁまで同行するのか。それはそれで守秘義務に触れる行為じゃ。その辺りのことはながんも分かっている筈じゃ。それでも良いと判断したのは、この先を見据えてのことじゃろう。何だかんだで、よく気を利かせてくれる。補助監督としては、守秘義務を破るような真似はしない方が良いじゃろうに。何だかんだで甘いんじゃよな、こやつも。
……もしくは。すたぁに恩を売っておこうしとるのかもな。
「それで、他に聞きたいことは?」
「……あんたの個性について教えてくれ。今後匿われる上で、知っておくべきだと判断した」
「残念だが、
まぁ、これについては仕方ないの。国が詳細を隠してる程の個性なんじゃ。どんな力か知られるだけでも、何かしらの危険が生じたりするのかもしれん。何かこう、大きな弱点が有ったりするのかもな。そんな扱い難い個性を持ってるようには見えんけど。仮にもし、こやつが敵に回ったとしても儂が何とかしよう。その気になれば、どうとでも出来る筈じゃ。
一応ながんに目配せをすると、小さく頷かれた。ながんとしても、知れないなら知れないで良いらしいの。他に算段を立ててるようじゃ。
「……だが、ブラッディだけになら話しても良い。個性で呪力を得る方法について、彼女が詳しく教えてくれるならな」
えぇ……? 何でそこで、儂にだけ話そうとするんじゃ。お主の個性については、知れないのなら知れないままで構わんのじゃけど? どいつもこいつも、何で儂とだけ話そうとするんじゃない。確かにお互いあれやこれやと守秘義務が有るし、話し込むなら一対一の方が都合が良いのも分からなくはない。が、余計な秘密事を幾つも抱えたいとは思わないんじゃけど??
「……分かった。頼皆、それで良いな?」
「えぇ……? やじゃあ……」
「頼む」
んんむ……。気持ちは分かるが、あまり面倒事を増やさない欲しいの。確かに儂だけでも
……とは言え、じゃ。
「……はぁ……。……相分かった、後で二人で話そう」
面倒は面倒じゃけども。もしもを考えるなら、すたぁの個性については知っておいた方が良い。一度手合わせした感じ、大分無法な力な気がしてならんからの。国が隠そうとするぐらいなんじゃから、余っ程な個性で有ることは間違いない。
ひとまずじゃ。腹を満たしてから、すたぁの個性について聞くとしよう。腹が減ったままで、あれやこれやと考えたくないしの。それから。
下水道での生活は、やはり難儀なものになりそうじゃのぅ。……はぁ……。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ