待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
大して美味くもない食事を済ませた後。儂はすたぁと、被身子や常闇達から離れた。被身子が随分不満そうな顔をしていたから、後でまた甘やかしてやらねば。また心配させてしまうことが、申し訳無い。心配させたくないんじゃけども、どうにも上手くいかんなぁ……。
なんて考えながら。あぐぱぁと話した場所に、すたぁと来た。地下室の隅にある扉の向こう側じゃ。前の時と同じように、儂は扉に寄り掛かる。すたぁは、階段を数段上がったところで振り返ったわ。何やら真剣な顔をしているが、まぁ良い。こやつとはしては、叶うことなら呪力を得たいんじゃろう。そんな気がする。その望みが叶うとは言えんけどな。
「で? お主の個性は?」
とにかく、さっさと話を済ませてしまおう。個性から呪力を得る方法について話すのは構わん。話したところで実現出来るとは思えんしの。緑谷の個性については伏せねばならんが、何とか上手いこと誤魔化したい。まったく、何じゃってこんな事になってしまうんじゃか。
……それで? すたぁの個性は、いったい何なんじゃ?
「私の個性は、対象に触れてその名を呼ぶことで新たなルールを与える」
「は?」
対象に触れて、名を呼ぶことで
いやまぁ、対象に触れて呼ぶのが個性の発動条件なのは知っていた。一度手合わせした時に、大気がどうのこうの言っていたからの。他にも何度か、儂の前で空気をどうこうしてたりもした。空気を操る個性かと思ってたんじゃが、厳密にはそうではないようじゃ。と言うか、触れた物に新たな
「……この姿も、個性によるものさ。
「は??」
萎んだわ。急にすたぁの姿が萎んだ。まるで何処ぞの筋肉阿呆みたいな感じじゃ。あやつは反転術式を得る前は力めば膨らみ、得た後は脱力によって萎む滅茶苦茶な体をしとる。つまり、すたぁは個性で萎んだのか? いや、個性を使ったようには見えんから個性を使うのを止めたのか。さっきまでの姿は、個性に因るものか。
……ちっ。個性を解いても、鍛え抜かれた体をしておる。背丈も変わっとらん。常識的に筋肉質な体付きをしておるの。萎んでいたとしても、儂からすれば羨ましいぐらいの肉体じゃ。せめてそのぐらいの体付きになれれば、儂も苦労しないんじゃけどなぁ。くそっ。
「これより『
お、おぉ……。今度は萎む前と同じ姿になったの。つまり個性による肉体強化を常に行っているのがこやつか。それと、こやつの本名はきゃすりぃん……? とか言うのか。まぁそっちはどうでも良いが。わざわざ本名を呼んだってことは、
こうして個性の力を実演されると、ひとつ気になるの。
とは言え。それをやれとは言えんな。やるのはこやつの勝手じゃが、上手く行くとは限らん。仮にこの個性で呪力を得たとして、それが原因でどんな副作用が起きるかも分からん。下手をすれば死ぬかもな。何せ非術師が呪力を得るには、脳無のように脳みそを弄くり回さねばならん。脳無にされた人間が元に戻ったなんて話も聞いとらんし、もしかすると脳の変化は不可逆的なものかもしれん。呪力を得る上で脳を変化させるのは、個性と言えど危険じゃろう。幾ら個性が何でも有りじゃからって、無闇矢鱈に脳に個性を作用させるのは止しておくべきじゃ。
「この個性を以て、私や誰かがジュリョクを得れると思うか?」
「……止しておけ。呪術師と非術師の差は、脳の造りの差と聞いたことがある。幾ら滅茶苦茶な個性でも、流石に脳を弄り回すのは無茶じゃろ」
可能性がまったく無い、とは言わん。脳無なんて輩が造られてる以上は、後天的に呪力を得ることは可能じゃ。しかしそれは間違いなく危険を伴うじゃろうし、下手をすればすたぁが脳無みたいになるじゃろ。例え呪力を得れたとしても、あんな風になったら大問題じゃ。
「確かに、個性で脳みそを弄くり回す真似はしたいとは思わないね。幾ら何でも、リスクがデカ過ぎる。
けど、個性でジュリョクを得ることは可能なんだろ? ルール次第で、ワンチャン有るとは思ってる」
「……かもな。とは言え、止しておけ。下手をすれば死ぬ」
……まぁ、大人が自分の体で個性実験をして死んだって儂はどうでも良いが。とは言え、知り合いが自殺したと聞いて良い気分になる訳でもない。ましてこやつは、
「ブラッディ。いや、ヨリミナ。……マスターは、どうやってジュリョクを得た?」
「……あやつの個性がどのようなものか、知っとるか?」
一応、聞いてはおく。あやつの個性について知っているのなら、今更儂が隠す必要は無い。じゃが知らんと言うなら、隠さねばならんからの。
「さぁね。知ってるのは、肉体強化系か、それに準ずるもの。ただし、常軌を逸している。……ってことだな。詳しく詮索する気は無いよ。個性名すらマスターは隠してるんだ、知りたいとは思わない」
「なら話さん。そもそも話す気は無い」
しかしまぁ、よくもあんな筋肉阿呆を師と呼べるな。同じ筋肉阿呆じゃからか? おぉるまいとが優れた
「分かった、すまないね。あれこれと聞いちまった上に押し付けてさ」
「まったくじゃ。面倒この上ない」
「HAHAHA! 詫びと言っちゃなんだが、必ず日本に送り届けるよ。それは約束する」
「そうでないと困る。まぁ、警察もひいろおも儂独りで全員倒せるがの」
「それはジュジュツを使って、か?」
「そうじゃな。一人残らず倒せる」
「……いつか本気で手合わせしたいね」
「望むところじゃ。いつでも来い」
儂とて、すたぁとは本気でやり合いたい。こやつの実力は、もっともっと凄まじいものの筈じゃ。あんな互いに手加減だらけの手合わせでは、儂は満足しとらん。機会が有れば、いやむしろ今この場でも、互いに全力で手合わせしたって良い。
「……今の状況で手合わせなんてしないさ。ほら、話は済んだんだからフィアンセのとこに戻ってやんな。伴侶なんだろ? 安心させてやんなきゃな」
ちっ。挑んで来いと目で語ってやったのに躱されたわ。つまらん。まぁこんな時に手合わせしてる場合ではないのは、分かってるんじゃけども。
これ以上話すことも無いんじゃから、もう戻るとするか。戻ったら、また被身子を甘やかしてやらねばな。さっきも不満そうにしておったし。そもそも、儂一人を話に連れ出すんじゃない。後で儂が大変なんじゃぞ、まったく!
◆
さて。すたぁとの話は終わった。被身子の下に戻って、甘やかしたり甘やかされたりもした。ながんや常闇達は、
……あやつ、もはや教師にでもなったら良いんじゃないのか? 現場の事は色々知っておるし、子供達に教えられることは山程有るとは思う。存外悪くないような気もするから、今度それとなく言ってみるのも悪くないかもしれん。
それはそれとして。
「……すぅ……すぅ……」
被身子が寝ておる。儂の膝を枕にして、すっかり夢の中じゃ。普段は儂が被身子の膝枕を堪能するんじゃけども、今回は逆じゃ。まぁこれはこれで好ましくもある。何せ儂が被身子の寝顔を眺めることは少ないからのぅ。逆なら多いんじゃけども。じゃから今日は、儂が好きなだけ眺めてやるとする。どんな夢を見てるのかは知らんが、何やら幸せそうじゃ。
……
じゃから。……どうしても、申し訳なく思う。
すっかり寝惚けている被身子の頭を、最大限優しく撫でる。儂に出来る精一杯で、何度も何度でも。
被身子は気にしていないし、何なら喜んでるぐらいじゃけども、儂は気になるし喜べない。こんなにも愛しい人を、儂は呪ってしまった。被身子の前では気にしないように振る舞うつもりじゃけど、今は……寝とるからの。つい考えてしまう。
「……すまん。儂は、……儂は……」
っと、いかん。どうにも泣きそうじゃ。泣いてどうにかなる訳じゃない。泣いたってどうにもならない。だから
「こんなにも、愛しとるのになぁ……」
何で、儂は被身子を呪ってしまったのか。どうして、掛け替えのない最愛の人をこんな目に遭わせてしまったのか。後悔と自責の念が溢れて、どうにかしてしまいそうになる。じゃけど。
……じゃけど。それでも、被身子と生きて居たい。どうしても、その想いは捨てられない。
「まったく……。どうしようもない奴じゃよ」
被身子を呪った儂も、儂に呪われて喜ぶ被身子も。自責しながら、呆れながら、それでも儂は……被身子が欲しくて。今更欲しがっても仕方ないのに。とっくの昔に、こやつは儂に全てを捧げてるのに。なのに、もっともっと……と。そう思ってしまうんじゃよなぁ。
我ながら、愛が行き過ぎてどうにかしとる。でも、それを今更抑えたいとも……思えなくて。
身勝手な自分に呆れながら、けれども今以上に被身子を幸せにしてやりたくて。その為に出来る事を、見付けたくて。
「……愛しとる。じゃから、こんな儂でも……一緒に居てくれ」
とても誰かには聞かせられない傲慢で強欲な本心を吐き出して、被身子の額に……唇を重ねる。こうでもしないと、今直ぐにでもどうにかなりそうじゃったから。弱くなった心が、音を立てて崩れてしまいそうで
髪を撫でて頬を撫でて、また頭を撫でる。被身子は相変わらず幸せそうな寝顔をしていて、少しも起きる気配が無い。そんなこやつを見ていると、儂の胸中は痛みと喜びで満たされていく。
『君は、こちラ側だロう?』
……。……ちっ。何で今、あの馬鹿の言葉を思い出すんじゃ。いや、分かっとる。まだ直ぐそこに、かつての儂が居る。恨めしげな目で、儂を睨んでいる。今の儂がしてしまった事を、かつての儂が許すことは無い。今からでも過去に立ち戻るべきじゃとも、頭の片隅では考えてしまう。何をどうしても、過去は消えない。儂が積み重ねて来たものは、どうしようもなく心身に染み付いておる。
結局、儂は独り―――。
『駄目。そんなこと言ったって、絶対離さないの。私とヨリくんは、ずぅーーっと一緒に居るの』
『……一緒に、居てください。呪ったって呪われたって。今更、独りになんてならないで』
……、……。……で……。
『俺は、もう……! 廻道を独りにはさせない……!!』
も、……無い……。……、か。
どうにも。……どうにも。儂の周りには、儂を放って置かぬ奴が居る。被身子はもちろん、常闇もそうじゃ。他のくらすめぇと達じゃって、儂を放って置かぬ。
あぁ、くそ……。不意に思い出して、嬉しくなってしまった。被身子の言葉が、常闇の言葉が。あの時は素直に受け取れなかったんじゃけども、今になって……こんなにも嬉しく思ってしまう。まっこと、身勝手じゃなぁ。かつては独りが良いと思っていたのに、独りで居たかったのに。今は、……独りが怖い。すっかり変えられてしまったんじゃろうな、儂は。
「……頼って、良いんじゃよな……?」
左手が、震える。いや、右手も。……両肩も。視界が、歪んで来た。被身子が、誰かが気付く前に、どうにかしなければ。くそっ、儂をこんな目に遭わせおって。なのに儂の膝を独占して眠りこける悪女め。
責任取れ、馬鹿共め。
今回更新はここまでです。次回更新時には米国逃避行編を終わらせたいと思ってはいます。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ