待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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更新日が昨日であったことをすっかり忘れてました。世界献血デーだったそうですね。血みどろイチャイチャでも書けば良かったかなぁ。来年まで続いてれば書きます。


米国逃避行。地下の呪霊

 

 

 

 

 

 地下室は居心地が良い場所とは言えんが、野宿よりはずっと良い。天幕(てんと)の中でやる事が無いままにのんびり過ごすのは、存外悪くない。被身子の寝顔を独占出来たしの。その代償として足が痺れたが、それは良しとする。まったく、仕方のない許嫁なんじゃから。許す。もっと好きなだけ甘えたら良いんじゃ。

 

 なんて、仕方ない事を思って居たりすると。儂はながんに呼ばれた。まだ寝起きで少し寝惚けてる被身子を放って置きたいとは思わなかったが、呼ばれてしまったからには応じるとする。被身子の額に接吻(きす)をしてから、天幕(てんと)の外へ。寝惚けた声で「いってらっしゃい」と言われると、不思議と気分が良い。足が痺れているから、立ち上がるのも歩くのも少し大変じゃけども。まぁ術式で血流を操作すれば直ぐに治せるんじゃけどな。それはそれとして、後で被身子には足が痺れるまで膝枕して貰うとしよう。儂の膝を堪能したんじゃから、儂にもお主の膝を堪能させろ。

 

「何じゃ? ……どうした?」

 

 ながんに呼ばれたから天幕(てんと)の外に出ると、そこには英雄装束(こすちゅうむ)姿の常闇が居た。呪眼(のろいまなこ)を掛けているところや、軽く柔軟体操をしてるすたぁの姿を見るに用件はひとつじゃろう。やる気満々なのは良いことじゃけども、そんなに気を張る必要は無いんじゃけどな。地下に居るのは、儂の見立ててでは雑魚呪霊でしかない。数だけは大したものじゃけど。

 

「頼皆。これから祓除に向かわせて欲しい」

「それは構わんが、お主はどうやって呪霊を祓うつもりじゃ?」

「……」

「おい」

 

 おい、黙るな。まさかやる気満々なだけで、呪霊を祓うのには呪力が要ることを失念してたわけじゃあるまいな? そこまで間抜けた考えをしとるなら、些か拍子抜けじゃぞ鳥頭。さてはぽんこつか? ぽんこつしたのか? 普段から儂をぽんこつ扱いするから、そういう目に遭うんじゃぞ。まったく、仕方の無い奴め!

 

「いや、……良ければ呪具を貸し出して欲しい」

「そのつもりじゃ、たわけ。……失くすなよ」

「痛み入る」

 

 仕方ないから、呪具をひとつ貸し出してやるとする。隆之が遺した脇差じゃ。まぁどの道、貸してやるつもりではあった。今は天幕(てんと)の二階に置いてあるから、取りに……行くのは儂にしとくか。幾ら常闇でも、被身子の寝顔を見られるのは何か嫌じゃ。我ながら、ちっぽけな独占欲じゃとは思う。

 念の為に紛失しないように釘を刺してから、来た道を戻る。天幕(てんと)に戻ると、被身子が不満そうに呻いていた。まだ寝惚けているのか、単に起きたくないのか。脚立に登って、二階の奥にある脇差に血を飛ばして引き寄せる。そしたら儂の血の匂いを嗅ぎ取ったのか、被身子が上体を起こした。まだ半分閉じている目が、直ぐに儂を捉える。

 

「ふわ、ぁ……。んん……、よく寝ました……。何処か行くんですかぁ……?」

「呪霊退治じゃ」

「……私も行きます」

「まだ寝てても良いんじゃぞ?」

「そうしたいですけどぉ、此処で待ってるのも寂しいので……。くあ……っ、ぁ……」

 

 二度も欠伸をしつつ、被身子はのろのろと体を動かし始めた。目尻を手のひらで擦る姿は、何か何処かで見覚えが有るような気がする。何じゃったっけ? 何処で見たんじゃっけ……?

 まぁ、良いか。付いて来ると言うのなら、好きにさせてやろう。寝起きに連れ回すのが少し申し訳無い。被身子がしっかり起きるまで待った方が良いかの。なに、呪霊退治如きに時間を気にする必要は……無いことも無いか。今回の場合は。

 

「直ぐ動けるか?」

「着替えるのでちょっと待ってください。円花ちゃんも、そんな格好で外に出るのは駄目ですよぉ。せめてコスチュームに着替えてください」

「……そうじゃな。相分かった」

 

 まぁ別に、格好なんてどうでも良いんじゃけども。とは言え、寝間着に等しい姿で下水道を歩き回るのは、それはそれで何か違う気もする。もう一度英雄装束(こすちゅうむ)に着替えるのは面倒じゃけども、ここは大人しく被身子の言う通りにしておくかの。でないと、後でどんな目に遭うかも分からんし。

 

 ええっと。それで、脱いでから何処にやったっけの? 確か潅水浴(しゃわぁ)の前にそこらに脱ぎ捨てて、……あったあった。いつの間にか綺麗に畳まれて、隅の方に追いやられておる。さっさと着て、呪霊を祓いに行くとしよう。もっとも、今回の場合は儂は後ろで眺めてるだけじゃけどな。危なくなったら守ってやるが、基本的には見とるだけじゃ。それはそれで落ち着かんところが有るが、今回は常闇じゃからの。少しだけ様子を見てやるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲートは、音を立てない!」

 

 お、おう。便利じゃの。わざわざすたぁが個性を使う必要は、……無いとは言えんか。この大きな扉は開閉する際に、かなり喧しい音を立てるからの。地上から察知されない為にも、すたぁが個性を使うのは必須か。

 

「うえっ、やっぱり酷い臭いなのです……!」

「気持ちは分かるが、我慢してくれよ。そっちにまで手を回せないんだ」

 

 扉が静かに開くと、直ぐに鼻が曲がりそうになった。被身子が文句を言うのも仕方ない。下水道じゃからの、こればっかりはどうしようもないじゃろう。呪霊を祓うと言っても許された時間は十五分だけじゃし、長く下水道の中を動き回るわけではない。

 ……それから。未だ儂等を捜し回っているらしい地上の警察やら英雄(ひいろお)に、察知されないよう気を付けねばならん。出来ることなら、日本に帰るその時までは地下室に隠れていたいからの。あっちこっちに逃げ回るのは、もういい加減面倒じゃ。いざとなったら動くしかないが、出来れば帰国日まで察知されないままで居たいところじゃの。

 

「ツクヨミ、ヨリミナ。渡我先輩。……気を付けて」

「何か有ったら、直ぐに駆け付けるからよ。まぁ、大丈夫だとは思うけど」

「一応気を付けな。特に渡我、頼皆から離れるなよ」

 

 呪霊退治に行く儂等が開きかけの扉を跨いで下水道に出ると、尾白や砂藤、それとながんがそれぞれ声を掛けてきた。儂が居る以上は心配なぞ必要無いんじゃが、まぁ受け取っておく。呪霊退治は、英雄(ひいろお)活動とは勝手が違うものじゃからの。特に常闇なんかは、今日が初めての呪霊退治じゃ。くらすめぇととして友人として、……同志として気になってしまうのは仕方ないか。

 

 ……どうせ尾白も砂藤も後で体験するんじゃから、人の心配よりも自分の心配をした方が良い気がするんじゃけどなぁ。

 

「閉めるぜスター。後は手筈通りに」

「あぁ、よろしく頼むぜお兄ちゃん達。直ぐ戻る」

 

 すたぁ達が何か話しとるが、そちらはどうでも良い。こやつ等はこやつ等で何か色々と考えが有るんじゃろう。地下室に残る子供達や、ついでにながんを守ってくれるなら何でも良い。まぁそんな必要が有るのかどうか、少し疑わしいところじゃけども。

 

 ……さて。扉が静かに閉じた。ので、常闇に脇差を手渡しておく。

 

「ほれ、常闇」

「すまない。使わせて貰う」

「常闇くん。それを失くしたり壊したりしたら、絶許なのです。円花ちゃんの、とーーっても大事なものなので!

 ――― 分 か っ て ま す よ ね ?」

「ヒッ! マ、円花ァ……!」

 

 う、うぅむ……。威圧感が半端ではない。もはや殺気に等しい気がする。確かにその脇差は大事にせねばならん物じゃけども、じゃからってそこまで常闇を威圧せんでも良いじゃろ。だぁくしゃどうが、すっかり怯えておる。常闇じゃって冷や汗だらだらじゃ。何なら儂も、少し肝が冷えそうじゃの。

 

「HAHAHA! 中々おっかないフィアンセだな」

「じゃから放っておけん」

「ぞっこん、ってことかい? 大事にしてやんなよ」

「言われるまでもないんじゃが??」

 

 まったく。被身子が威圧なんぞするから、つい惚気る羽目になってしまった。くらすめぇと達はともかくとして、すたぁにまで惚気るのは……何か気恥ずかしい気がしないでもない。気を紛らわそうと視線を逸らせば、被身子と目が合った。それはもう大層嬉しそうにしておる。いかん、今の会話を聞かれたか……? これはこれで後が大変な気がするが、まぁ良い。求められるのは良いことじゃ、うむ。そう思っておくことにする。

 

「ところで、本当に居るのか? 今は見当たらないが……」

 

 ながんから借りた呪眼(のろいまなこ)を掛けたすたぁが、首を振って周囲を見渡している。儂も呪霊を探してみるが、今のところは姿が見えん。気配自体はもうしとるが、姿形は隠しているようじゃの。どうやら様子を窺われているようじゃが、まぁ雑魚呪霊如きにそう警戒する理由も無い。

 

「うーん……。上手いこと隠れてますねぇ。もしかしたら、円花ちゃんを怖がってるのかも?」

「では渡我先輩。この下水道の呪霊には、優れた呪術師を警戒する程度の知能が有る……と?」

「知能と言うよりは、本能かなって。動物が火に寄らないのと一緒なのです」

 

 ……そうじゃな。被身子が言ったことに間違いはない。呪霊とて、本能や知能が有る。前者が強ければ反射で儂から遠ざかり、後者は考えた末に姿を暗ます。もちろん、儂に喧嘩を吹っかけてくる奴も居るけどな。

 ともかく。逃げる奴は逃げるし、隠れる奴は隠れる。挑む奴もたまには居るが、この時代の呪霊はその殆どが儂に近付かん。儂が見付けて一方的に祓うのが常じゃ。つまりこの下水道の呪霊を祓おうと思ったら、こちらから見付けるしか無い。面倒この上ないが、じゃからって放っておく訳にもいかん。時間制限さえなければ、一晩中歩いて回るんじゃけども。

 

 このままじゃと、常闇に大した経験を与えられんかもしれんのぅ。どうやらこの下水道の呪霊共は、儂から逃げ隠れしようと思うだけの知能か本能が有るらしい。尚更放っておけんな。いずれ、高い知能や強い本能を得て地上の人間を呪い始めるかもしれんし。

 

「ふーーん? 隠れてる奴等を炙り出す手段はないのか?」

「んー……。そうですねぇ……。例えば、……円花ちゃんが呪力を練ればビックリして出て来るかも?」

「逃げられる、の間違いでは?」

「逆に襲ってくる可能性もあります。呪霊って、産まれた場所に居座るんですよ。もちろん、例外もありますけど」

 

 ……んんむ。困った。何が困るって、被身子が全部説明してるからじゃ。儂が色々教えるつもりじゃったのに、何故か被身子が常闇やすたぁの質問に答えてしまっている。しかも言っていることに間違いは無い。何なら補足しなくても良いぐらいじゃ。これでは儂が何の為に意を決して、常闇達に呪霊退治を経験させようとしたのか分からなくなる。が、……まぁ。色々説明をしなくても済むのは、助かると言えば助かる。その分、呪霊退治に集中出来るしの。

 もう説明は被身子に任せて、儂は呪霊探しに集中してしまおうか? 残穢でも残ってれば探し易いんじゃけど、生憎と残穢は見当たらん。片っ端から探そうにも、そこらの廃墟と違って下水道は広過ぎる。捜索して回るにも、時間が無さ過ぎる。十五分ではなく三十分、いや一時間は欲しいか……?

 

 ……それにしても、解せぬな。初めて下水道を歩いた時は、結構な数が目に付いた。なのに今では、気配は有るくせに姿が見えん。姿形を隠蔽する術式でも持っとるのか? いや、それならば残穢ぐらいは残ってる筈じゃ。そもそもあの程度の呪霊が術式を持ってるとは思えん。

 

「フラフラスンナ!」

 

 ぬおっ。だぁくしゃどうに引っ張られた。何じゃお主、さっきからやけに膨れて。……って、あぁそうか。ここは暗いからの。うっすらと照明が灯っているが、いつ消えるか分からん古いものじゃ。ならば、こやつが力を増すのは当然のことか。

 引っ張られるままに振り返ってみると、気が付けば被身子達から少し離れていた。いかんいかん、下手に離れるわけにはいかん。取り敢えず被身子の側に戻っておこう。

 

「もぅ。こんなところで迷子にならないでください。まぁどうしようもないんですけど」

「……迷子の暴君。何故こうも彷徨うのか……」

「あ、そういう縛りなんですよ。ヨリくんは■■■■■縛りなのです」

「……縛り? 確か、呪術師間で行われる誓約と制約……」

「その縛りには、天与呪縛って種類がありまして。産まれながらに、大きな縛りを結んでるんですよねぇ」

「では頼皆が■■■■■のは、その縛り故……と?」

 

 ん、んん……? 二人でひそひそと何を言っとるんじゃ貴様等。儂を迷子扱いしたと思ったら、ところどころ声量を落としおって。何を言ってるのか聞こえん。どうせ儂を迷子扱いしとるんじゃろうけどな。そもそも迷子になんぞなってないんじゃが?? まったく、好き勝手言いおって。と言うか常闇。何を被身子と仲睦まじそうにしとるんじゃ。儂のじゃぞ、儂のっ。儂の被身子なんじゃぞ……!

 

「んふふ……。カァイイ♡」

 

 んぐむ。頬を摘むな。撫で回すな。何で急に、嬉しそうにしとるんじゃ貴様は。

 

「……まぁ取り敢えず。このままじゃ呪霊退治にならないので、試しに呪力で釣ってみません?」

「……。……二人共、儂から離れるなよ」

「はぁい! くっ付いてます!」

 

 ぐぇえ! ……まったく、急に抱き着くんじゃない。お主最近、抱擁(はぐ)する時に勢いを付け過ぎじゃ。もう少し体格差と言うものを考えて欲しいのぅ。儂はどうにも小さいままなんじゃから。

 

 まぁ、ともかくじゃ。このまま呪霊に距離を取られていては、常闇は何の経験も積めないままじゃ。ただ徒に時間を浪費する訳にはいかんし、ここはひとつ……試してみるか。なぁに、危なくなったら儂が全て祓ってしまえば良い。その場合は常闇に呪具を持たせた意味が無くなるが、背に腹は代えられん。命有ってこそじゃからの。

 右隣に立った鳥頭に目配せをして、それから直ぐに呪力を練り上げ身に纏う。もちろん加減無しの、全開じゃ。

 

「―――!! コンクリートは、振動しないっ!!」

 

 すたぁが慌てて壁に個性を使ったが、それは気にしないでおく。何でそんな規則(るぅる)を付与したのかは分からんし、その理由は後で聞けば良いじゃろう。常闇は、……半歩下がりおった。儂から離れるなと言ったのに、何をしとるんじゃこの鳥頭。って、あぁ。仕方ないか。常闇も呪眼(のろいまなこ)を掛けているんじゃ。透鏡(れんず)越しに、儂が纏った呪力が見えて驚いたんじゃろう。

 

 ……さて。わざわざ本気で呪力を纏った結果は……。

 

「ん、んん……? 何の音ですかこれ?」

「何って、そりゃあ……」

 

 ざざざざざ。と言えば良いんじゃろうか? とにかくそんな感じの音が、薄暗い真正面から聞こえてくる。ばしゃばしゃと、水が跳ねる音もするの。暗闇に目を凝らせば、何か蠢いていることが分かる。あれは、……うむ。蜥蜴じゃの。蜥蜴の呪霊。大きさは大小様々で、何より……。

 

「おいおい。こりゃあ、大漁じゃないか!」

 

 うむ。とんでもない数じゃ。黒沐死が操る阿久多牟之(ごきぶり)を思い出すぐらいの、蜥蜴呪霊の大群。それが儂等の方に向かって、一斉に駆け付けている。どうやら、儂等を縄張りを踏み荒らす不躾な輩と判断したようじゃ。となると、狙いは当然……。

 

「常闇、大きめの奴は譲ってやる。その呪具なら、ぶった斬るか頭を潰せば祓えるじゃろ。すたぁ、襲われても勝手に生き延びろ。被身子、儂から離れるなよ」

 

 三人に指示を出しつつ、儂は両手を叩き合わせる。百斂を直ぐに済ませ、万が一も無いように本気で穿血を放つ。一直線に進む儂の血は、蜥蜴呪霊の大群に風穴を開けた。大きめの奴には当たらんよう腕を振って穿血の軌道を逸らしつつ、小さい奴を薙ぎ払う。分かっていたことじゃが、次々と消失していくの。まっこと、この時代の呪霊は骨が無い。相手にしてもつまらん。楽しくない。儂を楽しませてくれるのは、やはり特級呪霊しか居ないようじゃ。……ちっ。

 

「―――行くぞ、ダークシャドウ!」

 

 穿血から遥かに遅れて、呪具を握り締めた常闇が大きめの蜥蜴呪霊に向かって駆けて行く。儂からすれば、この下水道に蔓延る呪霊は、雑魚が群れてるだけにしか見えん。が、常闇からすればそうではない。今日が初めての呪霊退治じゃ。多少出遅れた事については、今は目を瞑ってやるとする。今はな。後で説教じゃ、説教。それから、念の為に常闇の羽織りに儂の血を付着させておく。だぁくしゃどうの背中にも付けておいた。いざって時の為じゃ。

 

 って、あ。いかんな。脇差、と言うか刀の使い方を先に教えておくべきじゃったかもしれん。常闇のやつ、武器は使えん筈じゃ。仕方ない、少しばかり教えてやるとするか。

 

「ふっ!」

 

 お。鞘から引き抜いた刃を、振るって見せた。が、これは……。

 

「……んんむ……」

「えぇ……? んん、まぁ……」

 

 儂も被身子も、顔を顰める羽目になった。こればっかりは仕方ないんじゃけども、振り方が滅茶苦茶じゃ。それっぽく握って、その場で思い至ったと言わんばかりに刃を振るう。型も何も有ったものじゃない。手頃な枝を手にした子供が遊びでやる剣劇(ちゃんばら)と大差無いのぅ。理も何も無い、滅茶苦茶な剣筋じゃ。

 

 ……けれども。当たりはしてるから良しとしよう。振り降ろした刃が、大型犬程は有る蜥蜴呪霊の頭を斬った。だぁくしゃどうが、常闇の周囲を殴って小さな蜥蜴呪霊を吹き飛ばす。そっちには再び血を飛ばして、祓っておく。一定以上の大きさを持つ呪霊には、敢えて手を出さん。常闇にくれてやる。どうせ雑魚じゃし。

 

「円花ちゃん円花ちゃん。ダークシャドウって、実は呪霊が見えてたりします?」

「いや。見えとらんじゃろ。もしかしたら、常闇を通して見えてるかもしれんが」

 

 常闇の剣筋はともかくとして。だぁくしゃどうは、意外と呪霊を殴り飛ばしている。見えとらん筈じゃが、振るった拳や爪が呪霊を捉える回数が多い。空振りは少ない。呪力が無い以上は呪霊を祓うことは出来んが、それでも殴り飛ばすことぐらいは出来る。

 

「踏陰ェ! モット見ロ!!」

「分かっている―――! はっ!」

 

 だぁくしゃどうが小さな蜥蜴呪霊を殴り飛ばし、大きな蜥蜴呪霊は常闇が斬り捨てる。存外、動きは悪くない。隙が無いとは言えんが、知能も無い呪霊相手ならば苦戦することは無さそうじゃ。もう少し常闇やだぁくしゃどうに合った呪具さえ有れば、危なっかしくは見えないんじゃろうな。……そう言えば、発目の奴に常闇専用の装備を頼んどいたんじゃった。設計図が完成し次第、儂が呪具を作ってやろう。

 

「……へいブラッディ。ジュレイの姿形ってのは、トカゲが基本なのか?」

「いや。この場の呪霊が蜥蜴ってだけじゃ。もっと変な外見な奴も居れば、人間と変わり無い奴も居たりするのぅ」

 

 例えば、筋肉阿呆の瓜二つの英雄呪霊(らいあぁまいと)。那歩島に居た、かつての赤鬼()。まるで人間そのものな見た目をした呪霊は、少なからず存在するからの。

 

「ジュレイの姿形に、法則性は?」

「んー、無い……ですかねぇ。でも、何に対して負の感情が溜まってるかで多少は姿形に影響が有るかも……です」

「なら、今回の場合はトカゲに対する嫌悪感……ってところか?」

「多分な。ここ数十年で、蜥蜴に対して何か起きたか?」

「……ニューヨーク中の人間をトカゲに変えて使役しようとした(ヴィラン)が居る。ちょうどマスターが日本に帰った後に」

 

 ……えぇ……? まったく、英雄(ひいろお)もそうじゃが悪党(ゔぃらん)も滅茶苦茶じゃの。人間を蜥蜴に変えるって何じゃ。しかもそれを使役とは、まっこと個性は滅茶苦茶な力じゃな。そろそろいい加減にして欲しい。

 しかしまぁ、そんな騒動が起きていたなら蜥蜴に対して負の感情が溜まるか。で、呪霊となったと。そちらに対して負の感情が向け続けられているなら、地上で呪霊が見当たらなかったのも分からなくはない。それにしても、蜥蜴呪霊の数が多いのぅ。常闇達に色々と教えながらとなると、時間が掛かる。日本に帰るまでは何とかしておきたいところじゃが……。

 

「にしても、キリが無いのです」

「……そうじゃな」

 

 小さいのは儂が片っ端から祓っているものの、数が減ってる気がしない。大きめの奴じゃって、常闇が祓った先から次々と出て来る。幾ら呪霊が巣食って居るからって、ここまで数が居るのはどうにも腑に落ちん。

 この状況が続くのは、あまりよろしくない。常闇の体力も儂の呪力も有限じゃ。蜥蜴呪霊が無限に湧き出てくるなら、いずれ手が追い付かなくなる。出来ることなら呪力が減らされぬ内に纏めて一掃したいところではある。が、こうも多く姿を見せてくれるならそれはそれで好都合……と思わなくはない。じゃってほら、常闇の次は尾白や砂藤にも呪霊退治を経験して貰うつもりじゃし。ここで良い具合に数を減らしておけば、案外ちょうど良いのでは?

 

「ん、んん……?」

「どうした?」

「……んー……、いや……。多分気のせいです。あ、でも輪廻ちゃんなら分かるかもです。六眼持ちですし」

「は?」

 

 いったい何を気にしてるんじゃか。何故今、母の名を出すのか。それに、六眼? 六眼で見て欲しいことが出来たのか? じゃとしたら、何か呪術的に気になることが被身子には有るようじゃ。次から次へと湧いてくる蜥蜴呪霊について、何か気になるんじゃろうか? じゃとしても、母に見て貰うことは無理じゃ。此処は米国(あめりか)じゃし、そもそも母を呪霊退治に連れ出すことは出来ん。

 

「まぁ、帰ったら聞いてみます。ヨリくん的にどう思います?」

「何がじゃ?」

「ええっと……。あれですあれ」

「……?」

 

 被身子が指差したのは、今も蜥蜴呪霊を殴り飛ばしているだぁくしゃどうじゃ。何故だぁくしゃどうを指差すんじゃ? 見たところ、未だ元気良く呪霊を殴り飛ばしているようにしか見えぬが。

 

 ……何なんじゃもう。何が気になるんじゃお主は。

 

 っと。増々蜥蜴呪霊が増えとるの。そろそろ血を補充しておきたいから、一度術式を中断して反転術式(はんてん)を回して……と。良し。では再び、小さい蜥蜴呪霊は儂が祓おう。どれ、もう一度穿血でも……。

 

「……そろそろ時間だ。もう切り上げよう、ブラッディ」

「ちっ。おい、常闇!」

「―――あぁ! 承知……!」

 

 もう少し蜥蜴呪霊の数を減らしておこうと思ったが、どうやらもう時間のようじゃ。たった十五分程度の呪霊退治じゃが、まぁ常闇も少しは勝手が分かったじゃろう。だぁくしゃどうの手に掴まって飛び戻った鳥頭は、見たところ無傷じゃ。この程度の雑魚呪霊程度なら、立て続けに祓っても疲れはしないらしい。……いや、少し息が上がっているか。儂を目指して鍛えとったくせに、まだまだ持久力が足りんの。せめて一晩ぐらいは戦い続けられる体力を身に着けて欲しいものじゃ。まったく。

 

「……穿血」

 

 最後に、未だ増えている蜥蜴呪霊の大群に穿血を放つ。何十と貫き、何十と薙ぎ払う。手の内の血を全て放出したところで、常闇が手にしていた脇差を奪い取り、少量の呪力を込めて振り上げる。

 

「一度押し流す。そしたら、地下室に向かって走れ」

「ま、待て頼皆っ。ここでアレをやるのは……!」

「加減するに決まっとるじゃろ。全部祓ったら元も子もない」

 

 何で脇差を振り上げただけで、こうも驚くんじゃ貴様は。たかだか水が出るぐらいで……。いや、思い返して見れば前にこの呪具を常闇の前で振るった時は、それはもう大惨事じゃったの。ならば少しぐらい慌てても、まぁ仕方ないか。

 

 ……刃を振り下ろす。刀身から溢れ出すのは、儂の脛ぐらいまではありそうな高さの小波。それは勢い良く広がりながら突き進んで、蜥蜴呪霊達を呑み込みながら奥へ奥へと流れて行く。ふぅむ、軽くでこれか。この呪具、さては術式効果の調整が難しいな? 手に馴染むくせに、妙に扱い辛いとはの。

 

「んん……ちょっとやり過ぎなのです。全部祓っちゃったんじゃないですか?」

「これでも加減はしたんじゃけどなぁ」

 

 流されて行った蜥蜴呪霊達は、流されてる最中に次々と消失しとるようじゃ。小波の中で大量の消失反応が起こっとる。それでもまだ気配は幾つも感じるから、全てを祓えてはいない……筈じゃ。

 

 ……。……とにかくじゃ。一度、地下室に戻るとしよう。蜥蜴呪霊共を全て祓うのは、また今度じゃ。

 

 

 

 この後。儂等は地下室まで走って戻った。念の為、扉には儂の血を大量に付けておいた。これであの蜥蜴呪霊達は、地下室には近寄らんじゃろ。……多分。

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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