待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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米国逃避行。円花の負荷

 

 

 

 

 

「あ、おかえりみんな。……どうだった?」

「何にも聞こえなかったけど、ひょっとして呪霊が居なかった……とか?」

「いや、有象無象が如き数だった。幾ばくかは祓えたが、あの様子では全てを祓除したとは言い難い」

 

 中途半端にしか開かん扉を潜って地下室に戻ると、まず儂等を出迎えたのは尾白と砂藤じゃった。そんな二人に常闇が早速結果を報告している。付け足すことは、特に無いかのぅ。

 

 それはそれとして。

 

 何でお主等まで少し汚れているんじゃ。特に砂藤は、頬に殴られた跡が有る。尾白も、よく見れば肘を擦りむいとるようじゃ。もしや待っている間に、喧嘩でもしたか? まったく、いったい何をしとったんじゃこの二人は。

 

「あ、これはイーサンさんや筒美さんと個性無しの組手をしててよ……。ただ待ってるだけなのも勿体無い気がして、色々教えて貰ってた」

 

 ……。……まぁ、そういう事なら良しとしてやるか。ただ儂等の帰りを待つだけではなく、待っている間に少しでも鍛錬をしていたことは評価してやらんでもない。とは言え、もう少し綺麗な身なりで鍛錬を終えて欲しかったところじゃ。まだまだ未熟者じゃなぁ。

 

「あんまり怪我したら駄目ですよぉ。円花ちゃんに余計な心配をさせちゃ駄目なのです!」

「め、面目ないです。もう少しやれると思ったんですけど……ね」

 

 うぅむ。今日は言いたいことを全て被身子に言われている気がする。それを駄目とは言わんが、喋る機会を損ねているのは確かじゃ。別に言わずとも通じるならそれで良いんじゃが、ちゃんと自分の口で話せと母に言われおるからの。……そうじゃなぁ。取り敢えずひとつ、やっておくべき事が有る。

 

「尾白、砂藤。お主等、脇差を扱えるか?」

「脇差? いや、俺は全然」

「……多分、少しぐらいなら?」

「ついでじゃ。後で少し教えてやる」

 

 常闇みたいな剣劇(ちゃんばら)をされては敵わん。基礎的な部分は少しでも教えておいた方が良いじゃろう。いずれではあるが、くらすめぇと達全員が呪霊の前に立つ日がやってくる。その時、呪具が扱えなくて返り討ちに遭った……なんて事態は避けねばならんからな。無駄死なぞ論外じゃ、論外。そんな光景は見たくない。

 じゃから。脇差、つまりは刀の扱いぐらいは教えておいてやらねば。個々人に合った呪具を量産してやれれば良いんじゃが、それには長い時間が必要になってしまうからの。

 

「ええっと……」

「……それはありがてぇ、けど……」

 

 ん……? 何じゃ貴様等。まるで、鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような顔をして。何でこれでもかと目を丸くして、言葉を言い淀んでるんじゃ。儂が何かを教えようとすることが、そんなに珍しいか? じゃとしても、失敬な奴等め。そこは素直に喜ばんか、たわけ。

 

「まぁまぁ。こんな円花ちゃんは珍しいですけど、だからって驚いてちゃ駄目なのです。勿体無いですよぉ」

「……そ、そうですよね……! ええっと、よろしく廻道さん」

「ぉ、おお。そうだな、よろしく廻道。色々教えてくれると助かる……!」

 

 ……。……ちっ。何じゃもぅ。せっかく儂が教えてやろうとしたのに、気後れなぞしおって。許さん、もう良い。何も教えてやらん。貴様等なぞ、常闇みたいな剣劇(ちゃんばら)で呪霊を祓えば良いんじゃ。ふんっ。

 

「あーあ。みんながそんなだから、すっかり拗ねちゃったのです。勝手に何とかしてくださいねぇ」

「は? 拗ねとらんが??」

 

 おい、被身子。誰が拗ねてる、じゃって? 儂は拗ねとらんぞ。ただ常闇達が儂の提案に気後れしとるから、盛大に呆れただけじゃ。それを拗ねたなどと……。

 って、こら。頬を摘むんじゃない、引っ張るんじゃない。手のひらで挟むなっ。何で嬉しそうにしとるんじゃ貴様は。人の顔を好き勝手に弄くり回して、微笑むんじゃない……!

 

「んふふ、拗ねてる姿もカァイイ♡」

「じゃから、拗ねとらんて」

 

 まったく。いつもいつも好き勝手言いおって……! 何じゃってお主はいつもこう、いつもいつもっ。そうやって楽しそうに嬉しそうに笑っていれば、何でも儂が許してくれると思うなよ!? 被身子の阿呆、たわけっ。今日と言う今日は、儂を良いように扱うことは出来んと分からせ―――、んん……っ。こ、こら……! 急に唇を奪うなっ。抱き着くなとは言わんが、何処に触れてるんじゃ! へんたいっ、えっち!

 

「……ダークシャドウ、……終焉(ラグナロク)『胎』」

「アイヨォ! 仕方ネェナ円花ハヨォ!」

 

 げっ。おいこら。何で今、儂と被身子をだぁくしゃどうで覆い隠したんじゃ常闇っ。こんな暗闇の中で、被身子と二人きりにするんじゃないっ。

 

「此処には座敷牢が無い故、これで代用する。……廻道、愛欲に溺れるなとは言わんが公序良俗だけは守ってくれ」

「い、今のは被身子のせいじゃろっ!?」

 

 何で儂が叱られねばならんのじゃっ。どうせ叱るなら、被身子を叱るべきじゃろうがっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったく、酷い目に遭った。何故被身子と二人で、巨大化しただぁくしゃどうに囲まれて暗闇で過ごさねばならんかったのか。被身子はちっとも反省しとらんし、何なら暗闇に乗じてせくはら三昧する始末。首筋を甘噛みされた時は、事を始めるつもりなんじゃないかと大いに焦った。結局、甘噛み程度で済んだんじゃけどな。いっそ、がぶりと噛み付いてくれても良かっ―――。いや、良くない。そこまでされたら、もう色々と歯止めが利かなくなるからの。ここ最近は、首に噛み付かれるとすっかりその気になってしまって……。……ごほんっ。うおっほん。

 

 とにかくじゃ。小一時間は暗闇で過ごすことになってしまったが、今は無事に(……?)外じゃ。もう一度潅水浴(しゃわぁ)で体を綺麗にして、用意されていた襯衣(しゃつ)を着て、天幕(てんと)の二階に戻った。被身子があんまりに好き勝手しておったから、今はその罰として膝を差し出させた。膝枕じゃ膝枕。足が痺れるまで儂は起きんからな、まったく! 少しは反省しろっ。何が「それじゃご褒美なのです♡」じゃ!

 

「……それで? あんたの目から見て、この下水道の呪霊はどうだったんだ?」

 

 一階で折り畳み椅子に腰掛けているながんが、珈琲(こぉひぃ)を啜りながらそんな事を聞いてきた。上から常闇達の姿は見えんが、儂等の下に居るんじゃろうな。今日はもう休んで、明日に備えることになったからの。床や椅子に座ってるなり、寝具(べっど)に寝そべってるなりしとる筈じゃ。

 

「……常闇や、すたぁから聞いとらんのか?」

「聞いたさ。けど補助監督として、呪術師の見解も聞いておきたい」

「そうじゃなぁ……。……とにかく数が多い。百や二百どころではなさそうじゃ」

 

 蜥蜴呪霊の数は、数えるのも馬鹿らしいぐらいのものじゃった。あれだけの数を全て祓うとなると、流石に骨が折れる。不自由無く米国(あめりか)に滞在出来るのなら祓い尽くして見せるが、今の状況では全てを祓うことは叶わんじゃろう。立派なのは数だけじゃから、常闇達に呪霊退治の経験を積ませるには丁度良い……とは思う。万が一を考えると、やはり気乗りはしない。子供が呪いに向き合う姿を見るのは、気が気じゃない。少し前までの儂なら、今の目論見は論外そのものじゃからな。

 

 ……何なら今じゃって、こうして改めて考えると論外じゃと思う。万が一が起きてからでは遅いんじゃ。しかし。

 

 しかしのぅ……。この春に起きるであろう事を考えると、くらすめぇと達には出来る限り色々と教えておきたい。対呪霊の経験は等しく積ませてやりたいし、特に呪詛師相手にどう立ち回るべきかを叩き込んでおきたい。そう考えると、酷く胸が締め付けられる。やはりどうしても、子供達を呪術界から遠ざけたいと思ってしまう。……でも。尻込みしてる場合じゃないことも、分かってるつもりじゃ。

 

「……まぁ、儂が居れば命の危険は無い……程度の相手じゃ。対呪霊の経験を積むには、手頃な雑魚じゃよ」 

「緊急性は無いんだな?」

「無い。……とも言い難いか」

 

 緊急性は無いと、断言することは出来ん。あの蜥蜴呪霊達が地上に出たら、それこそどれだけの人間が被害に遭うか分からん。可能ならば全て祓い尽くしたいが、それが出来ぬなら極力数を減らしたいところじゃ。儂一人が一晩中下水道を動き回れば何とかなるとは思うが、警察やら英雄(ひいろお)に追われてる身ではそうもいかん。この地下室が地上から察知されぬよう、儂等は気を付けねばならんからの。じゃから、まぁ……。

 

「……祓えるだけ祓いたいとは思っとる。明日は尾白か砂藤のどちらかを連れて行くから、そのつもりで居てくれ。それと、儂はもう休む」

「……あぁ、分かった」

 

 ……ふぅ……。何と言うか、どっと疲れてしまった気がする。やはり子供を連れて呪霊退治に行くのは、……恐ろしさの方が勝る。あんな程度の呪霊でも、万が一は起こり得るからの。そう考えると、今回の呪霊退治は……中々に響く。儂一人じゃったら、こんなに疲れることはなかったんじゃろう。じゃけど今回は被身子と常闇が同行し、明日には尾白か砂藤のどちらかが付いてくる。今から既に気が重い。

 

 ……はぁ……。せめて、明日までしっかりと休もう。このまま被身子の膝を独占して寝てしまえば、きっとこの疲れは取れる筈じゃ。いや、膝枕を堪能するのはこのくらいにして……被身子を抱き枕にして眠ろう。そうすれば、この気の重さも少しは晴れるじゃろ。そうでなければ、困る。

 

「ん!」

「わっ。……もぅ、急なんですから」

 

 飛び付くような形で被身子の首に腕を回して、そのまま引き倒す。と言うか、被身子ごと横向きに倒れる。天幕(てんと)が揺れたが、まぁ気にしなくて良いじゃろう。瞼を閉じて、腕の力を少し強める。こうして抱き付いていないと、今宵は眠れそうにない。いや、いつからか被身子が居ないと寝付きが悪くなってるんじゃけども。

 

「……お主も寝とけ。今日はもう、やる事は無いんじゃし」

 

 被身子の頭を胸に抱いて、瞼を閉じておく。こうしていると気が休まる。これなら直ぐにでも寝れそうじゃ。欲を言えば口付けのひとつやふたつぐらいはしたいが、今は我慢しておく。また座敷牢(だぁくしゃどう)に囲まれるような真似は、一応避けておきたいからの。

 

「……むぅ。円花ちゃん」

 

 背中に手が回された。足が足で絡め取られた。いつものように身を委ねて、抱き締め返す。なのに、被身子は少し不満そうな声音をしている。……何でじゃ? やはり、接吻(きす)のひとつやふたつはした方が良かったか……?

 

「そんな風に隠しちゃうのは駄目です。どーしてそこで隠すんですか、馬鹿」

 

 腕の中の被身子が、そう囁いた。

 

 ……隠していたつもりじゃが、すっかり見抜かれている。何じゃか解せぬ気もするが、今更こやつに隠し事は出来ぬか。かと言って、今この場で本心を口にするのは憚られる。完全に二人きりなら、言ってしまっても良いとは思うんじゃけど。じゃってほら、被身子以外に聞こえてしまうかもしれんし。そしたら、また変に遠慮されてしまうじゃろ? これから先の事態を考えたら、常闇達に遠慮されるのは癪じゃ。説得する時間すら惜しいんじゃから。

 

「……日本に帰ったら、言う」

「むぅ、今言ってください。でないと、ここで抱き潰しちゃいますよ?」

 

 はぐらかそうとしたら、とんでもない脅しで返された。流石に人が居る場所で、情事に耽込みたいとは思わん。このまま黙り続けていたら、それはもう大変な事になってしまう。とは言え、何と言うかその。

 

 ……その。言い難いと言うか、何と言うか……。

 

「ん……っ、こら……!」

 

 裾から手を入れるんじゃないっ。背中を指でなぞるな、覆い被さって耳に接吻(きす)をするな……! 直ぐ下に常闇達が居るんじゃぞっ。また座敷牢に放り込まれたいのか貴様ぁ!

 

「……私にぐらい、ちゃんと言葉にしてくれなきゃヤです。だんまり決め込むなら、ほんとに抱きますよ?」

「わ、分かった、分かったから。耳元で囁くのは……!」

「えー? それは円花ちゃん次第ですけど」

 

 っ、っっ。じゃから、至近距離で囁くんじゃない。然りげ無く耳に手を添えるな。指で擽ろうとするなっ。いつもいつもそうやって、儂にせくはらしおって……! 儂までその気になったらどうするつもりじゃ、たわけ。

 

「……ぐ、ぐぬぬ……っ。き、貴様ぁ……っ!」

 

 このまま弄ばれては堪らんので、せめて被身子が好き勝手出来ないように下から思いっ切り抱き寄せておく。せめてもの仕返しに背中に爪を立てると、耳の裏を指で撫でられた。不覚にも喉が震えて、手の力が抜ける。い、いかん。このままでは、(まこと)に抱かれてしまう。そうなったらもう大惨事じゃ。まっこと言葉にし難いが、せめて被身子だけは本心を伝えなければ。

 

 ぐぬぬぬ。被身子めぇ……! 隠し事のひとつやふたつぐらい、させてくれたって良いじゃろうが。まったく……!

 

「ちゃんと話すから、……もう止さぬか。へんたい」

「最初から素直に言っちゃえば良いのです。円花ちゃんの分からず屋」

「んぐぃ……」

 

 仕方なく観念すると、今度は頬を抓られた。別に痛くはない。ただ、被身子が不満そうに頬を膨らませている。そんな顔も好ましいが、今はそういう場面でもない。

 

 んん……。どうにも、言葉に詰まる。まさか腹の内を、殆ど脅されて吐く羽目になるとはのぅ。何でこんな風になってしまったんじゃか。もうすっかり、この身も心も被身子には逆らえなくて。それが嫌とは言えんのは、やはり惚れた弱みじゃなぁ……。

 

「んぅ……」

 

 何じゃか気恥ずかしいような気がして、被身子の肩に額を押し当てる。被身子は、一応は待ってくれている。あまり待たせることは出来そうにないが、少しぐらいは……時間が欲しい。

 静かに浅く息を吸って、一度止める。なるべく、出来る限り声は小さくしたい。他の誰かに聞かれたくないんじゃ。

 

「……、……その……な」

「……はい」

「……心苦しくて、堪らん。呪力も無い子供達に、呪霊退治を教えるのが」

「……はい」

「じゃけど、色々教えてやらねばならん。そうしないと、次の戦いで……誰か死ぬ」

 

 先の事はまだ分からん。儂は母のように、未来が視えるわけじゃない。そもそも、悪党連合の連中が予定通りに動くとは限らん。存外、何も起きなかった……なんて事も……。

 

 ……いや。そんな筈は無い。異能解放軍とか言うのを配下にして、連合の連中は勢力を増した。四箇月後には決起すると、向こうは決めている。春を越えれば、悪党共が大きな争いを起こす。そうしたら、英雄(ひいろお)候補生まで巻き込まれる。儂だけなら良い。儂だけが巻き込まれるのなら、それで構わん。何らいつもと変わらないんじゃから。

 

 じゃけど、きっと。きっと、そうはならない。この話は儂にとって、最悪な方に向かって行くんじゃろう。

 

「……少しでも頼ると、決めたのは儂。それは分かっとる。そうして行くつもりじゃ。じゃけど……っ」

 

 じゃけど。この先に起こり得る事を考えたら、身が竦む。胸が締め付けられる。つまり儂は、……儂は。

 

 

「怖くて、堪らないんじゃ……っ」

 

 

 また、誰かが死んでしまったら。儂から離れた場所で、或いは儂の目の前で。あんな光景は、二度と見たくない。もう二度と、失いたくない。じゃから鍛えたい。でもきっと、今からでは間に合わん。たったの四箇月じゃ、万全の準備は出来そうにない。

 

「……怖いのは、痛い程分かるのです。だってトガは、ヨリくんの全部を見たから。もう分からない事なんて、無いつもりです」

 

 ……あぁ……。本心を言うべきでは、無かったかも知れん。情けないことに、被身子の背を掴む手が震える。恐怖を口にしてしまったから、余計に心が締め付けられる。どうにかしそうじゃ。昔の儂ならば、何が何でも独りになろうとしていたんじゃろう。子供達を遠ざけて、悪党の前に立った筈じゃ。今回もそうしてしまえば良い。そうすれば、何も怖くなんてない。

 

 ……結局。儂は、誰も頼れないのかもしれない。これからは少しでも頼ろうと決めたのに、また独りになろうとしている。過去を振り払いたいと思っているのに、振り払えない。どうしても、いつかの儂が足を引っ張って……どうしようもない。

 

「……また独りになったら、怒るか……?」

「……」

「……すまん、忘れてくれ。もう寝よう」

 

 何を言ってるんじゃろうな、儂は。明らかに言葉を間違えた。これではまた、被身子を怖がらせてしまう。心配を掛けてしまう。それは望んでいない。

 

「……円花ちゃん」

 

 あ、いかん。これは、いかん。今のは儂が悪いんじゃけども、被身子が盛大に怒ってしまった。じゃって、いつもより遥かに声が低い。そこまで低い声が出せたのかこやつ、と思わず目を丸くしてしまうぐらいには。

 

「わ、悪かった。すまん、冗談じゃ……!」

「今のは冗談じゃ済まされないんですけど」

「す、すまん……」

「……まぁ、そう言っちゃうのも仕方ないのかなって思わなくもないです。一筋縄じゃ行かないのも、分かってますけど。

 でも。独りは駄目ですから。そこはトガも連れて行ってくれないと!」

「ぐぇえ……っ」

 

 し、締まる。そんな全身全霊で抱き締められたら、流石に息が出来ん。怒らせてしまったのは儂じゃけども、じゃならってわざわざ呪力を纏うのはどうかと思うんじゃが……!? こ、こら被身子っ!

 

「だいたい、円花ちゃんは独りで背負い過ぎなのです。それじゃ何の為に、私が補助監督になったのか分からなくなっちゃう」

「ん、んぐぅ……」

「私は反転術式をアウトプット出来ますし、一応……オールマイトだって居ます。頼り難いけど、緑谷くんだって。非術師ですけど、火伊那ちゃんやホークスも居ます。

 ……だから。もっと、もっと頼って。他の誰かに頼れなくっても、せめて私には。そもそも! もうトガから離れられないくせにっ!」

「ぬ、ぬぐぐぐぐ……!」

 

 それは、それは……そうなんじゃけども。今更被身子から離れるのは、もう無理じゃ。気が付けば、そういう風になってしまった。色々とこう、分からせられてしまったと言うか……何と言うか。いや別に、儂だけがそうと言うわけでも無いんじゃけどな? 被身子じゃって、今更儂無しでは生きて行けないんじゃし。離れられないのは、お互い様じゃ。

 

「それから! そんなに怖いなら、何の心配もしなくて良いぐらいにみんなを鍛えちゃえば良いのです。今度こそ誰も死なないように、円花ちゃんがみんなを鍛えちゃえば良いんですよぉ。

 そしたら、ほら。少しは……大丈夫だって思えそうじゃないですか」

「ん、んん……。いやでも、しかしなぁ……」

 

 確かに、そう言う手も有る。儂が本気で、子供達を鍛え上げる。そうすれば少しぐらいは、もしかしたら大丈夫なのかもしれん。でも、そもそもそう言う事をするのが嫌なんじゃ。儂が鍛え上げたって、死ぬ時は死ぬ。どれだけ厳しくしたって、死んでしまった。殺されてしまった。それを分かっとるくせに、見て来たくせに。なのになんで、また同じ事をしろと言うんじゃ。どうせ、どうせ……同じ事の繰り返しになるだけなのに……っ。

 

「……もう一度、やってみましょう? 私も手伝いますから。それでも駄目そうなら、その時は……トガだけ連れて行ってください。ね?」

「……何が、ね? ……じゃ。たわけ。被身子の阿呆。いい加減な事ばかり言いおってっ」

「そりゃあ、自分でもいい加減だなーと思いますけど。でもほら、プルスウルトラって……多分そう言うものじゃないですか?

 それにぃ。円花ちゃんの伴侶をするなら、いい加減ぐらいがちょうど良いんですよ」

「き、貴様ぁ……」

 

 何で貶した? おい、何で急に貶した?? お主なぁ、そうやっていい加減な事を口走るのはそろそろ止さぬか。お主がそんなじゃから、儂は滅茶苦茶に振り回されて大変なんじゃぞ。いつもいつも、いつまでもいつまでも儂を振り回しおって。そういうところじゃぞ、そういうところが……! ……まぁ、……これも駄目とは言わんけど。……ぐぬぬ。

 

「んふふ。私に振り回されるのが大好きですもんねぇ♡ だからもっといっぱい、振り回してあげますっ♡」

 

 恐ろしい事を口走るな、たわけ。被身子の阿呆、馬鹿。抱擁(はぐ)したら許されると思うなよ。悪どい笑みを浮かべるんじゃない。今度は何をしでかすつもりじゃっ。

 

「……ふんっ。そう言うお主はどうなんじゃ、たわけ」

「円花ちゃんだって、トガを散々振り回してるじゃないですか。えへへ、お揃いですねぇ」

「それはまぁ、そうかもしれんけど。そうじゃなくて、儂が聞きたいのは……ぷるすうるとらの方じゃ」

「もっと愛して欲しいんですか? 良いですよ、まだまだ愛し足りないのでっ!」

「ぐえぇっ。こ、こら被身子……!」

 

 い、いかん。また言葉選びを間違えたような気がする。ただでさえ、これでもかと愛されている自覚が有ると言うのに。なのにまだ、こやつにはこの先が有る……と……? いや、いやいや。流石にそれは、幾ら何でも。これ以上は儂の身が持たん。ただでさえ、受け止めるのに難儀している程なのに。今以上に愛されてしまおうものなら、それはそれでどうにかしてしまう。

 

「んっ、んぅ……っ」

 

 噛まれた。血が出る程ではないが、思いっ切り首を。それだけで、つい喉の奥から変な声が出てしまう。体が熱くなって、思わず被身子にしがみついて。この先を勝手に期待して、流されそうになってしまう。

 

「……んーー、ちゅっ♡ ちぅちぅ……♡」

「ん、んん……っ。こら……っ」

 

 ぞくりと、背中が震える。被身子が思いっ切り、儂の首に吸い付いたからじゃ。これでは跡が出来てしまう。反転術式(はんてん)で直ぐに消せるとは言え、跡を残されるのはどうにも気恥ずかしい。後で誰かに見られる前に、綺麗に消しておかねば。でないとほら、また座敷牢行きかもしれんしな。

 

「ちゅっ。……ふふ、付いちゃいましたね」

「被身子のえっち。阿呆、へんたい。……んっ」

「んんっ♡ 円花ちゃんだってそうですよぉ」

「……」

 

 否定はしない。現に、仕返しのつもりで儂も被身子の首に吸い付いたところじゃし。

 

 ……あぁ、もう。悩むのも、怖がるのも馬鹿らしくなって来た。被身子がこんなじゃから、すっかり気分が変えられてしまった。後ろ向きになるのは、止めじゃ止め。決して自棄(やけ)になったわけじゃない。ただ何と言うか、頼ると決めたのは儂じゃ。じゃから、もう少し。あと一度だけでも、儂を追い掛け続ける阿呆共を信じてみようと思う。その為にあれこれと教えなければならんのは、やはり気が進まんけれども。

 

 ……くそっ。結局、被身子の良いように振り回されてしまっている。それを不快と思うより先に、喜ばしく思ってしまうんじゃから、儂も大概じゃなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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