待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「廻道。少し、良いか?」
「なんじゃ急に。……まぁ構わんが、手短に頼む」
じゃってほら、被身子が警戒心剥き出しじゃし。こやつはどうにも、常闇に対して警戒を解こうとしない。昔っから、儂に話し掛けようとする常闇を睨んで追い払おうとする。今じゃって、儂を抱き締めたまま離そうとしないし。仕方ないから、被身子の前で話してもらおうかの。ここで常闇と二人きりで話そうとすれば、色々大変な事になるじゃろうし。主に儂が。
それはそれとして。
今日は、すたぁがまだ姿を見せない。じゃから暇を持て余してるのが現状じゃ。もう少し常闇達を鍛えてやっても良かったんじゃが、やり過ぎは逆効果と被身子に止められた。まぁ脇差の振り方は教えたし、組手で実力を測ることも出来た。焦って鍛錬をしても仕方ないから、今日はもう鍛錬は無しにしたんじゃ。そうなると他にやる事は何も無いので、儂は地下室の隅で被身子と座敷牢に放り込まれない程度に触れ合ったりしていた。お陰で随分と気が軽くなって、心が重くなくなった。この感謝は、何か後で形にして返したいような気もする。いい加減言葉だけでは足りないような気がしてのぅ。
……ちなみに。暇を持て余してるのは、常闇達も同じじゃ。ながんは
「渡我先輩。隣、良いですか?」
「えー……。ヤです。円花ちゃんはトガとイチャイチャするのに忙しいので、常闇くんはあっち行ってください!」
「それはすみません。けど、こんな時でもなければ……腰を据えて話せないかと思いまして」
「何をですか?」
「……殺人の、是非について。……です。その件について、俺は廻道と話す権利が有るので」
……。まぁ、確かにそうではあるの。常闇は一度、儂に力を示した。ならば当然、約束通り儂と殺人の是非について話す権利が有る。何じゃって今、こんな時に? いやまぁ、今は全員暇じゃからの。やる事は無く、やれる事も少ない。こんな地下室では鍛錬しようにも、大したことは出来ん。せいぜいが軽い組手ぐらいのもので、それ以外となるとながんの教えで知識を深めることぐらいしかないが、いつまでも続けられるものでもない。
暇潰しにするような話でも無いんじゃが、……まぁ良いじゃろう。付き合ってやるとするか。
「……それで? どんな反対意見を口にするつもりじゃ?」
「それは、分からない」
「は?」
何を言っとるんじゃこやつ。殺人の是非について儂と語り合うのであれば、当然何かしらの反対意見を言いに来たんじゃろ? なのに何故「分からない」などと口走るのか。真剣なようで、困ったような面をしおって。何なんじゃこの鳥頭。まったく、仕方のない奴め。
「……何故廻道が、禁忌を是とするのか。
分からないから、まずは聞きたいんだ。反対意見を口にするのは、それからでも良いだろう?」
「……」
……、……んんむ。まぁ、それもそう……ではある。頭ごなしに儂の言うことを否定したって、儂の意思を変えられない事をこやつは知っている。頑固者なのはお互い様じゃけど、儂の強情さは
「単刀直入に聞く。何故、禁忌を犯してまで悪を滅ぼすべきだと考える?」
何故、殺人を悪と分かっていながら悪党を殺すか。……か。それを語るには、随分と長い話になる。前世の記憶について語らねばならんからの。しかし、前世の記憶が有ると言ったところで信じて貰えるとは思えん。こればかりは、幾ら事実じゃったとしても素っ頓狂な話でしかない。
……何より。
ちらりと被身子の顔を見ると、複雑そうな顔をしている。常闇の質問に答えるには、儂の過去を語らねばならん。じゃけど、その場合は儂と被身子だけの秘密を常闇に打ち明けることをなってしまう。二人だけの秘密を、誰かに知られるのが余程嫌なんじゃろうなぁ。まったく、独占欲の強い奴め。そういう所も、今となっては愛しいものじゃけどな。
「……。……まぁ、そうじゃなぁ……」
さてはて。どう説明したものか。前世の出来事を語るのがもっとも手っ取り早いんじゃが、生憎そうはいかん。そうなると、前世の記憶を隠しつつ、どうにかこうにか理由を説明して行くしかない。んんむ、面倒じゃ。まっこと、面倒くさい。が、被身子が拗ねるような真似は避けたい。後で色々大変なんじゃ。
じゃから。ええっと……。
……、……。……あぁ、そうじゃそうじゃ。ちょうど良い例が、最近目の前で起きたのぅ。あの燃え面の失態じゃ。それを例に出して、説明するとするか。
「例えば、じゃ。そう、例えばの話じゃ。
お主がゔぃらんを捕まえたとして、そのゔぃらんがお主に復讐を考えたとするじゃろ? その時、お主以外に危害が加えられたらどうする?」
「……そういう事態を未然に防ぐ為に、殺しておくべき……と?」
「まぁそうじゃな。それにとっ捕まえた程度で、ゔぃらんが真っ当に生き直せると思うか?」
これは儂が呪術科に入る前。確か授業で学んだ話じゃ。いや、
「……確かに、新たな人生を歩めるかどうかは分からない。だが廻道、誰だってやり直す機会は有る筈だ」
「取り返しの付かない過ちも有る。お主に復讐を企てたゔぃらんが、家族や友人を手に掛けたら? 例えば、家族が殺されたらどうする? 親しい友人が殺されたら?
……えんでゔぁですら、家族が殺されそうになったんじゃぞ」
「……それは……」
まぁ、極端な話では有る。一度捕まった悪党が、殺人を伴う復讐を完遂出来るかは怪しいところじゃ。現にあの糞野郎じゃって、現場に儂等が居たから息子を失わずに済んだ。復讐にも色々と形は有るものじゃし、殺人はその中のひとつでしかない。じゃが、確かに存在している選択肢のひとつじゃ。
悪党を捕まえたとして、その悪党が復讐を企てて再び姿を現す可能性は無いとは言えん。その時、被害を被るのが誰かは分からん。取り返しが付かない被害を受けてしまう可能性じゃって、確かに有るんじゃ。そうならない為にも、殺してしまった方が色々と手っ取り早い。
……あぁ、うむ……。そういう所も、儂はきっと好かんのじゃなぁ。同時に、ふと気になる事が出来た。
「じゃから、儂は殺すべきじゃと思っとる。以上」
我ながら、前世の記憶について伏せつつ、上手く話せたような気がする。これについて反論がしたいなら、すれば良い。それでも、簡単にこの意見を変えるつもりはないがの。
一通り儂の意見を聞いた常闇は、一度俯き瞼を閉じた。そして、ゆっくりと目を開いて……静かに語り始めた。
「……それも、ひとつの真理と言える。悪を捕らえることで、復讐と言う闇が深まっているのかもしれない。だがその闇を払う為に、我等が禁忌を犯してはならない。
もしも我等が殺人を是としてしまえば、それはもう英雄ではなく殺人者だ。
「まぁ、それもそうじゃな」
「俺達はそんな怪物になりたいとは思わない。廻道にも、なって欲しくない。だから俺達は、殺人以外の方法で……
「……例えば?」
「……、……これは絵空事かもしれない。だが、復讐の闇を照らし救いの手を差し伸べることこそが、英雄の行いと言える。もしも全ての英雄が、闇の最奥に手を伸ばせれば……或いは」
……はぁ……。まっこと、分かっとらんのぅ。何が分かってないって、常闇は現実を知らなさ過ぎる。まぁまだまだ子供なんじゃから、仕方ないんじゃけども。
仮に。仮にじゃ。全ての
とは言え。……まぁ、否定はしない。絵空事の綺麗事じゃけども、真剣に常闇が考えた結果じゃ。どう考えても、肯定してやれんけどな。
「殺してしまうのではなく、
「青いのぅ……。何を言っとるのか理解しとるのか?」
「……青くても良い。この理想が幻影だとしても、俺は廻道に禁忌を犯して欲しくない」
「……まぁ、お主の意見は分かった。ひとまず受け取っておく」
やはり、儂にはよく分からん。別に儂は、実際に人殺しをしようとは思っとらん。法が許さんのじゃから、今後も人殺しは避けていくつもりじゃ。殺すしかないような奴を前にした時、それでも殺さずに居られるかは分からんところじゃけどな。
それに。成り行きとは言え、一応は
「儂、この世界が嫌いじゃ。どうにも好きになれん」
「……なら、いっそ世界を変えよう。協力する」
「は?」
は?
「……は?」
いや。いやいや。何をさらっと言っとるんじゃ、この鳥頭。世界を変えるなんて真似は、出来ることじゃない。どんなに歪な世界じゃったとしても、人はそこで生きて行くしかないんじゃ。
この超常時代は気に食わん事が多いが、じゃからって世界を変えようなどとは思わん。まったく、滅茶苦茶な事を口走りおって。流石に同意出来んぞそれは。
「禁忌を犯し咎人に堕ちる前に、試行錯誤してみるべきだ。この世界を好いて欲しいとは言わない。ただ……世界を変える事を考えてみても、良いんじゃないか?」
「……馬鹿か貴様。世界なんぞ変わらんものじゃ」
まったく。訳の分からん事を口走りおって。気に食わなかろうが、嫌いじゃろうが、世界は変わらない。じゃから今ある世界の中で、人は懸命に生きて行く。そう言うもんじゃろうが。そんな事まで分からない程に阿呆ではないと思ってたんじゃけどなぁ。どうやらこの鳥頭は、儂が想像出来ん程の馬鹿じゃったのかもしれん。
「……んふふ。その考えはちょっとだけ好きですよ常闇くん。そこだけは認めてあげなくもないのです」
「は??」
黙って居た被身子が、何故か常闇に同意した。お主なぁ、この鳥頭が何を口走っているのか分からん訳でもないじゃろうに。何でこんな発言で、少し常闇を気に入ろうとしとるんじゃ。
「まぁ、土台無理な話ですけどねぇ。誰もが生き易い世の中なんて、夢のまた夢なのです。
だってみんな、世界が変わる事を望んでないでしょう? 私も円花ちゃんも、世界なんてどうせ変わらないと思ってますし」
よ、良かった。被身子がここで世界を変えようなどと口にしなくて。そうなってしまったら、とんでもない事に巻き込まれるところじゃった。危ない危ない。儂はもう勘弁じゃぞ、世界を変える為に動くなぞ。その果てに待ってるのは、何も成し得なかった無力感だけなんじゃから。
「しかし諦めてしまっては、世界はこのままです。誰かが挑んで来たからこそ、世界は形を変え続けて来たのでは?」
「それが出来るのは権力者とか、何か凄い偉人だけですよぉ。まぁ、民衆が世界を作って来たのもまた事実ですけど」
……これは、前言撤回かもなぁ。いかんかもしれん。まっこと、いかん。嫌な予感がして来た。とてつもなく、嫌な予感じゃ。しかもこれは、確実に逃げられん。間違いなく巻き込まれて、振り回される羽目になる……!
「生き易い世の中なんて期待してませんけど、円花ちゃんならもしかしたら……って思わなくもないです。
……世界、変えちゃいます?」
「流石に無理じゃぞ? 無理じゃからな??」
おい、待て。待て被身子。悪どい笑顔をするんじゃない。期待したような目で、儂を見詰めるんじゃないっ。
「……じゃあ私が、生き易い世の中が欲しいです。って言ったら?」
「……ぬ、ぐ……。ぐぬぬ……」
いや、それは。それは狡じゃろ。流石にこればっかりは無理じゃって。世界を変えるような真似は、儂には出来ん。じゃから止さぬか。無理難題をお強請りするんじゃない。儂にじゃって、出来る事と出来ない事が有るんじゃからな!?
「なんて、冗談なのです。やっぱり無理ですもん。今以上に生き易い世の中なんて、手に入ったりしないの」
「…………」
……。……むぅ……。
いや、それはそうじゃが。そうなんじゃけども。でも、じゃからってそこで諦めたような面をされるのは、何か嫌じゃ。自分に言い聞かせるように諦めるなんて、お主らしくもない。欲しいものには、全力で手を伸ばすのが被身子じゃろ。確かにお主が思う生き易い世の中なんて、手に入るようなものじゃない。
でも。……でも。
儂は結局、お主には笑って居て欲しくって。被身子の笑顔の為じゃったら、それこそ何じゃって許すつもりで。
……じゃから、世界を変える……?
いや、いやいやいや。無理じゃそんなの。出来る筈が無い。こればっかりは、無理ったら無理なんじゃ!
……被身子の為に世界を変える、かぁ……。んんむ……。
今回は結構大事なお話だったりします。まぁ、昇華もオリジンもまだまだ遠いですけどね……。
どうにもキリが悪いので今回更新はここまでとなります。次回で米国逃避行編は終わり!(の筈)
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ