待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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米国逃避行。蜥蜴の呪霊・準備

 

 

 

 

 

 世界を変えるとか、そういう話は一度置いておく。そんな事を考えるのは、暇を持て余した時ぐらいで良いじゃろ。そんな事よりも先に、儂にはやる事が有る。

 

 そう。呪霊退治じゃ。

 

 潜伏している身とは言え、やはり下水道に蔓延る呪霊は気になってしまう。英雄呪霊(らいあぁまいと)をどうこうすることは出来んかったが、せめて目に付いた呪霊ぐらいは祓い尽くしておきたい。米国(あめりか)に居られる時間は、そんなに長くはない。一週間もしない内に日本に帰るんじゃから、その前にこの下水道の呪霊退治は済ませておきたいのぅ。

 

 そんな訳で。今回は尾白を連れて、すたぁや被身子と共に再び下水道に足を踏み入れた。与えられた時間は十五分。何処にどう繋がってるか分からない下水道を探索するのは骨が折れるし、そもそも時間が足りん。が、潜伏は続けなければならんのじゃ。まっこと、面倒極まりない。

 

 幸い。呪霊探しに手間取らんことが救いでは有る。じゃって、地下室の扉の向う側に蜥蜴呪霊が待ち構えてるんじゃもん。相も変わらず結構な数が、扉の周辺で待ち構えていた。なので。

 

「よし、尾白。大きな奴だけ祓って来い」

「えっ!? りょ、了解……!」

 

 呪具を握らせた尾白だけを、呪霊に突撃させておく。もちろん、何が起きても良いように細心の注意は払っとるがな。何なら儂も一緒になって突撃したいところじゃが、そこは我慢しておく。儂が出張ってしまっては、尾白が経験を積めんからじゃ。これはこれで、心苦しいけれども。

 なので。前回常闇を連れて行った時のように、小さい奴は儂が片っ端から祓っていく。それにしても数が多いままじゃの。この時代はやたらと呪霊の数が多いものなんじゃが、どうにもその理由が分からん。仮に人類が呪力から脱却したのなら、呪霊なぞ産まれなくなる筈じゃ。現に情報だけ残して、呪術師は消えておる。まぁその情報については、あの背広男にほぼ盗まれたんじゃけど。今は五条家が遺してた文献を、総監部が総出で読み解いてる……筈じゃ。

 

 あ、そう言えば。宿儺の文献だけは儂が持ち帰ったんじゃった。日本に帰ったら読んでおくとしよう。

 

 しかし、どうにも解せぬな。改めて考えてみても、やはり納得が出来ん。何故こうも、呪霊の数が多いのか。呪霊発生の理屈から考えてみれば、非術師による負の感情が溜まり続ければ……あり得なくもない……のか? いやいや、それにしたって限度が有るじゃろ。そもそも一度呪力から脱却しとるなら、呪霊が産まれるだけの呪力が非術師から漏洩することは無い筈じゃ。だいたい、(まこと)に呪力からの脱却を果たしたのか?

 

 んんむ。これについては、やはり総監部からの連絡待ちになりそうじゃ。儂が持つ知識では、幾ら考えても答えは出なさそうじゃの。

 

 

 ……それにしても。蜥蜴呪霊の数が減らん。着実に数を減らしている筈なんじゃが、下水道の奥から次から次へと溢れ出てくる。特に小さな奴の数が尋常じゃない。一体一体は雑魚中の雑魚で、儂の血が少し掛かるだけ祓われるような脆弱さじゃ。手応えが無くてどうにもつまらん。これも気になるところなんじゃが、どうしてこの時代の呪霊はこんなにも弱いんじゃ。平安時代はもっとこう、蠅頭ですら根性が有った気さえする。多分。

 

「ふっ!」

 

 お。しっかりと脇差が振れとるようじゃの。常闇と比べたら形になっておる。感心感心。大きい奴だけを順当に祓い続けておるし、時折ある呪霊からの反撃に物怖じしとらん。祓っても祓っても奥から出て来るんじゃけども、今のところは大丈夫そうじゃの。じゃからって、目を離すような真似はしないんじゃけど。

 

 ……っと。正面からだけではなく、上やすぐ真横の下水の中からも出て来おったな。そちらについては直ぐに祓う。隣りに居る被身子や、一歩後ろで見てるすたぁに近付かれては困る。

 

「……数が多いのです。こう、一気にバーっと祓えたりしないんですか?」

「儂もそうしたいところじゃ」

「親玉的なのが居たりするんですかねぇ……。何処かに紛れてるとか?」

「纏めて薙ぎ払うのも、それはそれで手間じゃな」

 

 被身子の言うように、纏めて祓えればそれが手っ取り早い。それに、親玉が何処かに居るのは間違いないじゃろう。そう考えた方が気が楽じゃ。もしかするとこの蜥蜴呪霊、何か術式によってこれだけの数を揃えているのかもしれん。真っ先に思い浮かぶのは術式じゃが、消失反応のそれが呪霊のものじゃ。式神の類が消える時とは違う。……筈。

 ふと思い浮かんだのは、黒沐死じゃ。あやつは一度は確実に祓ったのにも関わらず、再び儂の前に現れた。あの阿久多牟之(あくたむし)、……つまりごきぶりには、祓われても復活出来るような術式か何かが備わっていたんじゃろう。それと同じ理屈ならば、こうも蜥蜴呪霊が数を揃えているのも納得出来る。ただその場合、祓っても祓っても仕方ないってことになる。それはそれで面倒と言うか、このままでは骨折り損じゃ。

 

「へい、ブラッディ。親玉を辿る手段は?」

「無い。少なくとも儂には無理じゃ」

 

 母ならば或いは、と思わんでもないが。生憎と儂に六眼は無い。一応は娘なんじゃから、そこのところだけでも遺伝してくれたりしてくれれば色々と助かったんじゃがなぁ。

 

「うーーん、式神って感じでもないんですよねぇ。消失反応が呪霊のそれですし。となると、案外分身系の術式とか?」

「そうじゃとしたら、面倒じゃの」

「ですねぇ。親玉を見付けないと、いたちごっこなのです」

 

 被身子も似たような結論を出しておる。やはり、親玉となる呪霊が何処かに潜んでいる筈じゃ。分身なんて術式を持って産まれた呪霊なぞ考えたくはないが、今のところはその線が濃厚じゃと思う。

 

「……そう言えば。前に言ってた蜥蜴の(ヴィラン)って分身とかしたりしました?」

 

 ……あぁ。まぁ、その線も有るか。呪霊は人々の恐怖が集まって産まれるものじゃ。であれば、蜥蜴に対して民衆が恐れや恐怖を抱けば蜥蜴の呪霊が産まれて当然。そっちの方から呪霊を探るのも、大いに有りじゃの。流石、儂の被身子じゃの。儂の人生を追体験して来ただけはある。

 

「……市民を蜥蜴に変え、使役しようとしたな。危うくニューヨーク中が、蜥蜴まみれになるところだった。必要なら当時の記録を持ってこようか?」

「いや。そう言う奴が居たってことさえ分かれば良い。……そうなると」

「自然呪霊に近い感じですかねぇ。これ、実は特級案件だったりします?」

「特級にしては雑魚じゃろ。つまらん」

「もぅ、戦闘狂なんですから。そんなだから修羅とか羅刹とか、赤鬼とか言われちゃうのです」

 

 んぐむ。頬を摘むな頬を。呪霊退治の邪魔をするんじゃない。後でたっぷり構ってやるから、今ぐらいは大人しくしててくれ。まったく、仕方のない奴なんじゃから。

 

「っ、ヨリミナ!」

 

 む。被身子を睨んでいると、尾白が叫んだ。だけではない。儂の側まで一足……いや、一尾で跳んで来た。何をそんなに慌ててるんじゃ。って、おぉ? なるほどな。さっきまで蛆のように湧いてた蜥蜴呪霊共が、一斉に奥へ奥へと逃げて行く。何なら少し気色悪い光景な気がしないでもない。追い掛ければ親玉の居場所を特定出来るかもしれん。となると、もう尾白の出番はここまでじゃな。ここからは儂独りで―――。

 

「……そろそろ時間だよ、ブラッディ。今日は戻ろう」

「……ちっ。仕方ないのぅ」

 

 くそ。間が悪い。やはり十五分程度では、呪霊の親玉を祓うのは難しいか。すたぁの言葉なぞ無視して突っ走りたいところじゃけども、潜伏中であることを忘れてはならん。下水道で大暴れして、地上の英雄(ひいろお)やら警察に察知されては面倒この上ないからの。何とも歯痒いが、ここは素直に地下室へと戻るしかない。

 それに。出来れば砂藤にも経験を積ませてやりたいところじゃ。今回は蜥蜴呪霊共が逃げ出してしまったが、また明日にでもなれば姿を見せるじゃろうか? そうでなかったら、……んんむ。砂藤だけ対呪霊を経験出来ん。まぁそうなってしまったら、日本に帰った後で優先的に連れ出してやるしかないか……。

 

「……今日はここまでじゃな。戻るぞ尾白」

「了解。……ありがとう、ヨリミナ」

「礼は要らん。これは褒められる行為ではないからの」

 

 地下室へと戻っている最中で、何故か尾白に礼を言われた。解せぬ。儂は礼を言われるような事は何もしとらん。子供達に呪霊退治を経験させとるのは、成り行きで仕方なく行ってることじゃ。これが正しい行いとは、儂は言えん。むしろ大きく間違ってるとすら思ってる。

 

 ……じゃけども。この先を考えると、子供達に生き残って貰うには対呪霊や対呪詛師の経験を積んで貰うしかない。何も教えず遠ざけて、それでも死なれるなんて事態は、もう二度と起きて欲しくないんじゃ。無論、教えて近付けて死なれるのも勘弁願いたいが。

 

「……はぁ……」

 

 先の事を考えると、やはり気が重い。自分で決めたことでは有るが、じゃからって何も気にしないで居るのは無理じゃ。どうしたって、気になってしまうんじゃから。

 

「戻ったら、今日はもう寝ちゃいましょう。ね?」

「……ん……」

 

 隣を歩く被身子の言葉に、儂は頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 





今回は5話更新です。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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