待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
三日ぶりにすたぁが姿を現し、儂等はこの地下室を去ることになった。日本に帰る為の準備が整ったようじゃの。この辺りの事は任せっぱなしなので詳しいことは分からんが、確かなのはその前に下水道の呪霊を今度こそ祓うということ。すたぁに迅速に頼まれたが、まぁ問題は……無いとは言えんか。
此度の呪霊退治に、不安点が無いとは言えんからの。この場で対呪霊の経験を持つのは儂だけじゃ。一応呪具も有るし、それは今現在は砂藤に持たせておる。蜥蜴呪霊の本体以外の相手は、少しは出来るじゃろう。被身子は呪術師の素養を得ているが、呪術師ではない。いざとなったら自衛ぐらいは出来るじゃろうけど、じゃからって放っておくことは出来ん。例え儂の過去を追体験していようと、呪霊と呪い合わせるわけにはいかない。そもそも論外じゃ。儂の主義に反する。
じゃから、まぁ。今回、被身子や常闇達に任せるのは周囲の警戒や調査、そして自衛ぐらいのものじゃ。蜥蜴呪霊が出て来たら、根こそぎ儂が祓う。子供達や、……ながんもすたぁも儂の後ろで見てるだけで良い。下手に前に出て来られると、邪魔にしかならんからの。後方支援に徹すると言うのなら好きにすれば良いが、どうせ役には立たんじゃろう。全員、儂の後ろで大人しくしてくれれば万々歳じゃ。
……ふぅ……。どうにも、息苦しいな。別に、常闇達の実力を信用してないわけじゃない。ある程度の自衛は出来るじゃろうし、
心配し過ぎても仕方ないし、呪霊退治なんぞを不安がるのは更に仕方ない。そう思いつつも、ついつい気にしてしまう。分かっとるつもりなんじゃが、どうにもな。
「……サクッと見つけて、サクッと祓っちゃいましょう。円花ちゃんなら、大丈夫ですよぉ」
隣を歩く被身子が、いつものように抱き付いて来た。しっかりと体重を預けてくるものじゃから、少しふらつく羽目になった。抱き締め返してやりたいところじゃが、今はそうも言ってられん。周囲を気にしつつ、先へ先へと歩を進めるしかない。後で儂の方から抱き締めてやるとしよう。まぁそれはそれで大変かもしれんけど。
「俺達のことは、気にしなくて良い。自分の身は自分で守れる。……信じてくれ」
……んんむ、常闇よ。それは儂には少し、と言うか大分難しい。言い返してやろうかと思ったが、会話をしとる場合でも無い。何故なら、通路の先に蜥蜴呪霊の尾が見えたからじゃ。たった今、十数めぇとる先の曲がり角に進んで行ったがの。このまま追い掛ければ、蜥蜴呪霊の本体と遭遇出来るかもしれん。念の為、いつでも穿血を放てるように準備しておく……か? いや、儂の呪力を感じられて逃げられる方が厄介じゃ。蜥蜴呪霊の親玉と出会うまでは、なるべく気配を消しておいた方が良いじゃろう。多分。
と、なると。
「……」
後ろを振り返りつつ、唇に指を当てといた。言葉は発してないが、まぁ伝わるじゃろ。伝われ。念じた甲斐有ってか、常闇達は全員頷いて口を固く結んだ。いや、そこまで緊張感を持たなくても良いんじゃけどな。たかが雑魚呪霊相手に、必要以上に身構える必要は無い。
尚、被身子の口は儂の手で塞いでおく。静かにしとれよお主。と、目で語ると手のひらを吸われた。まったく、仕方のない。
さて。一応警戒しつつ、曲がり角の手前まで歩く。それから気配を探ってみるが、死角に気配は無いの。彌虚葛籠でも使って索敵するか? いや、結界の形を捻じ曲げるような器用さは儂には無い。気を付けつつ、身を出すしかないか。相も変わらず抱き付いてる被身子の腕から逃れると、何やら少しばかり不満そうじゃ。仕方ないから背伸びして頭を撫でておくとする。
……その後で。曲がり角の向こうに身を晒す。が、蜥蜴呪霊の姿は無い。不意打ちのひとつぐらいは有るかと思ったが、そうでもないようじゃ。念の為に周囲をよく見渡して、何も無いことを確認する。いつでも術式を扱うつもりで、被身子や常闇達に手招きしておく。ながんは真後ろを、すたぁは周辺を警戒しているようじゃ。まぁ何も居ないんじゃけどな。無駄な苦労じゃから放って置く。
常闇達も引き続き周囲を警戒しとるけども、やはり無意味じゃろう。この場で気を抜いてるのは被身子ぐらいのものじゃ。今はそれで正解じゃから褒めてやりたいが、儂の過去を追体験した成果と考えると申し訳なくて褒め難い。
再び前を向き直すと、緩い曲線的な道の先に再び蜥蜴呪霊の尾が見えた。これ、誘われとるなぁ。このまま親玉の根城まで儂等を連れて行くつもりか? 儂を避けるだけの本能が有るのは分かっとる。罠のひとつやふたつぐらいを仕掛ける知能があっても、まぁおかしくはない。儂には無駄じゃけど。
それで、じゃ。何をしてくるのか分からんとしても、前に進むしかない。さっさと祓って、こんな臭い場所から出たいからのぅ。儂等は今日、日本に帰るんじゃ。そのついでに祓い尽くしてやるから、逃げ回ってないでさっさと出て来い。このまま追いかけっこを続けるのは面倒なんじゃ。と、思っていると。
「待て。……これはおかしい」
すたぁが口を開いた。何じゃ貴様。儂が黙れと合図したのに、早速口を開きおって。足を止めるな足を。出来る限り迅速に済ませろと儂に指示したのは、貴様自身じゃろうに。
「こんな道は地図には無かった筈だ。……どういう事だ?」
「は?」
地図に無い。じゃと? となると、ううむ……。まぁ思い浮かぶことは有る。と言うか一つしか思い浮かばん。
「あー……。それ、円花ちゃんが居なかったら結構ヤバい感じですねぇ。呪術が要因でそうなってるなら、ですけど」
「まぁの。全員、儂から離れたら死ぬぞ」
ただの雑魚呪霊と思っていたが、どうやらあの蜥蜴呪霊はそれなりの格は持っとるようじゃの。地図に無い道が出て来た以上、恐らくはそういう事じゃろう。別に面倒ではないが、こうなってしまうと手間が掛かるのもまた事実。さっさと済ませて日本に帰りたいところなんじゃが、どうやらそう簡単にはいかんようじゃ。
とは言え。手間を前に足踏みしているつもりもないので、地図に無い道に足を踏み入れる。その時。
「お?」
床も壁も天井も、派手に揺れた。地震、では無いのぅ。地図に無い道の奥にある暗がり。そこにある何かが動く度、足元から揺れが来る。暗がりの中で何が動いているのか眺めていると、幾度かの揺れの後でその正体が確認出来た。ふむ、こうして近くで見ると、やはり巨大じゃな? 脳無程は有るのぅ。
しゅるるる。と、息を吐きながら出て来たのは蜥蜴呪霊じゃ。相も変わらず大量の雑魚を引き連れながら、その先頭を歩くのは恐らく蜥蜴呪霊共の親玉。さっさと祓ってそれで終いじゃ。
「下がっとれ。砂藤、儂を無視する奴が居たら何とかしろ。教えた通りに振れば祓える」
「ぉ、おう……!」
両手を叩き合わせる。と、同時に蜥蜴呪霊共が一斉に動き始めたから、苅祓やら赤縛を四方八方に飛ばす。こうも数が多いと、穿血では間に合わんな。手の内で圧縮した血液を、一点に放出するのではなく前面に爆ぜさせる。が。
「ちっ」
それでも尚、蜥蜴呪霊共の行進が続く。儂と被身子を避けるように、蜥蜴呪霊共は常闇達の方へ。今の常闇達がこの程度の雑魚に直ぐ殺されるとは思えんが、長引かせたくないのも事実じゃ。さっさと親玉を祓ってしまおう。
再び両手を叩き合わせると、親玉が真上に跳んだ。直ぐに狙いを定めると、天井に張り付いたまま四足走行を始めた。向かう先は儂より後ろ。狙いが単純過ぎる。つまらん。
「穿血」
向かう先に向かって、血を放って置く。真っ直ぐ進むだけの蜥蜴呪霊は慌てて方向を変えようとしたが、間に合うことは無い。次の瞬間には、穿血で風穴が開いた。……が、貫いたのは胸から首じゃ。どうにか頭だけは死守したようじゃけど、天井から落ちてしまったのは愚行としか言えん。それに儂はまだ、穿血を終えとらん。
腕を振り、血の軌道を変える。狙いは頭。これで終いじゃろう。やはりつまらん。と、思ったその時。
「ギッ、ィイイッッ!?」
落ちながら、吠えながら。蜥蜴呪霊は尾を振ることで、勢いが落ちた穿血を打ち払う。存外足掻くのぅ、こやつ。じゃからって認めてやらんし、見逃してもやらんけどな。雑魚は逝ね。無意味に足掻くな、鬱陶しい。
「くっ、おぉおっ!?」
「数が―――!」
「多勢に無勢……!」
ちっ。少し離れたところで、常闇達が苦戦しとるわ。まったく嘆かわしい。雑魚呪霊の大群如きに気圧されるんじゃない、まったく。仕方ないから、さっさと終わらせて助けてやるとしよう。
「ハッ! ほんとに個性じゃ祓えない、んだな!?」
「そうだ。とは言え吹き飛ばすぐらいは出来る。時間稼ぎなら問題無い」
常闇達の更に奥の方では、ながんとすたぁが個性を使って呪霊共を片っ端から吹き飛ばしておるわ。髪の銃弾が何匹もの雑魚を押し飛ばし、すたぁの拳が何匹もの雑魚を殴り飛ばす。あちらは放っておこう。大人を守る趣味は無いし。儂の最優先は、被身子と常闇達の無事じゃからの。
「赤縛」
「ギャッ……!?」
落下した親玉を縛り上げ、ついでに苅祓を幾つか飛ばしておく。雑魚の割りに、少し頑丈じゃなこやつ。動きを封じ、手足を吹き飛ばしたがまだ動く。つまらん程弱いくせに、頭を飛ばさんと死なぬようじゃな。手間ばかり掛けさせおって。段々と面倒に思えてくるのぅ。
「さっさと逝ね。つまらん奴め」
ろくに動けなくなった蜥蜴呪霊の頭に、苅祓ですらない血の刃を立て続けに飛ばす。容赦なく頭を細かく斬ってやると、流石に消失反応が始まった。……はぁ、つまらん。つまらんつまらん。少しぐらい楽しませて欲しいものじゃ。産まれ直してからと言うもの、どうも雑魚ばかりで張り合いがない。こんな程度では到底満足出来ぬ。やはり、相手は一つ目とか
さて。親玉……、であろう蜥蜴呪霊は祓った。周囲の蜥蜴呪霊共は、小さい奴から順に消えて行く。どうやら、周囲の蜥蜴呪霊共は式神か分身か何かじゃったようじゃ。次々と連鎖的に消えておるし。あと、消失反応が幾つも重なって周囲が見え難い。
「……で? 全員無事か?」
「怪我しちゃったなら、私が治しますよぉ」
多量の消失反応が収まった後。一応、常闇達の無事を確認しておく。まぁ怪我をしとるかどうかなんて、見れば直ぐに分かる。三人共、擦り傷ひとつ無い。この程度の呪霊退治は無傷で乗り越えて貰わねば困るし、褒めるような事でもない。……が、まぁ。取り敢えず一安心じゃの。誰も怪我すること無く、下手に呪われるような事態にもならなかったんじゃから。
「いえ、俺達は無事です。思ったより何とかなりましたから」
「ソウダゼ! ドウッテコトネェ!!」
「事前に相手を出来た経験が生きたと思います。初見だったら、ちょっとヤバかったかも……」
「二人に聞いてたけどよ、まさか本当にあんな数が居るとは……」
すっかり気を抜きおって。まぁ、蜥蜴呪霊共は軒並み消え去った。念の為周囲を確認してみるが、気配は感じられぬし生き残りは居なそうじゃ。取り敢えず、これで呪霊退治は終わりじゃな。周囲の景色が歪んでいるのは、本体が祓われたことで生得領域が消え始めているからじゃろう。一応、被身子と一緒に常闇達の側に寄っておくが。
……下水道内部を領域で歪めておきながら、あの程度の雑魚か。まっこと、つまらん。もっと骨のある呪霊と呪い合いたいものじゃ。
って、あ。景色の歪みが無くなった。直ぐ近くにあった筈の曲がった道が、今は真っ直ぐになっておる。もう一度周囲を確認してみるが、……うむ。もう何も無さそうじゃ。
「これで終わりかい? もうちょっと歯応えが有るもんだと思ってたんだけどねぇ……」
拍子抜け。とでも言わんばかりの面で、すたぁも近くに寄って来た。ながんもこちらに向かっとる。二人は、当然の如く無傷じゃの。大人なんじゃからそのくらいはしろ。あんな程度で怪我なぞ論外じゃ、論外。
「……基本的には雑魚ばかりじゃぞ。たまに強い奴も居るが」
「強い奴、ね。例えばライアーマイトは?」
「儂より強い。……今のところな」
あれを祓うとなると、今の儂では命懸けでも足りぬかもしれん。少し考えれば当たり前のことなんじゃが、日本中の悪党が抱く恐れがひとつに集約した結果があれじゃ。強くて当然、寧ろ強くないと困る。あの阿呆と訳の分からん勝負をすることになっているが、……まぁ何とかなるじゃろ。今はあやつが強くとも、いずれ儂の方が強くなる。最後に勝つのは儂じゃ。ふんっ。
「マスターの偽物が、マスターの弟子より強い……ね。そいつは、一大事なんじゃないのか?」
「いずれ祓う。それより、日本に帰してくれ。呪霊退治なら済んだぞ」
「……そうだな。じゃあ、ひとまず全員付いて来な。快適な空の旅をお届けしよう!」
えぇ……? 空て。まさか飛行機、いや戦闘機か……!? どちらにしろ、儂からすれば最悪なんじゃが?? おい、船は用意出来んのか? 今から揺れない船を用意せんか、このたわけっ。満面の笑みを浮かべるんじゃない、この筋肉阿呆!!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ