待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「……と言うわけで。しばらく儂は、くらすめぇと達を鍛えねばならん」
ひとまず。被身子にはこれからの事を話しておいた。数箇月先に起こる事、それを乗り越える為に今から必要な事。今から始めなければならない事もじゃ。
色々と一通り説明すると、被身子は黙って頷いてくれた。もっとも、その後で「私の相手を忘れないでくださいね」と笑顔で釘を刺されたが。もはや糠に釘、暖簾に腕押しじゃけどな。くらすめぇと達を鍛える為に多くの時間を取る予定じゃが、それはそれとして被身子との時間を疎かにするつもりは無い。
現に今、
「それと、私も手伝うのです。円花ちゃんだけだと、滅茶苦茶しそうですし」
「お主には言われたくないのぅ」
誰が滅茶苦茶するじゃって? それを言ったら、被身子じゃって大概じゃ。いつもいつも好き勝手して、儂を振り回しとるくせに。それを駄目とも嫌とは今更言わんが、滅茶苦茶しとる自覚は持って欲しいのぅ。まっこと、我慢の出来ない我儘な奴め。何でこんな風に育ってしまったんじゃか。
って、おい。儂の手を揉むな。足の間に膝を差し込むんじゃない。そのまま足を絡めるのも止せ。そう言うのはまだ早いんじゃが? まだ話は終わってないんじゃが??
「ゴールは何処ですか? どこまで鍛えたら合格とか、鍛える為の方法とか。そういうのは、最初に決めておいた方が良いと思いますけど」
「そうじゃなぁ……」
何処が鍛錬の終着点、……か。方針を決める前に、少し振り返っても良いな。くらすめぇと達全員の実力を分かっとるつもりじゃから。特に常闇の実力は、この身に刻まれていると言って良いじゃろう。あやつはそれだけの成長を儂に見せ付けた。
次に、尾白と砂藤。この二人は、
単純な腕っ節で言えば、やはり轟と舎弟、そして緑谷の三人が優れておる。
で。単に強いと言う意味では、八百万が思い浮かんで来る。やはりあやつの個性は、狡じゃと思う。もっと武器術を磨き、必要な道具や装備なんかも創り上げていけば、くらすめぇと達の中でも上澄みの強さを得られる筈じゃ。なにせ、八百万の個性は構築術式みたいなものなんじゃから。……いや、この時代では大して強くない……のか? 儂は強いと思うんじゃがなぁ。
あぁ、そうじゃそうじゃ。飯田なんかも悪くない。凄まじく速く、あっちこっちを駆けれるんじゃ。そう考えると、くらすめぇと達の中ではもっとも生存に近いのかも。生存に近いと言えば、切島もそうじゃな。あやつの硬さも凄まじいと言って良い。まぁ儂が砕くつもりで殴れば、砕くことは出来るんじゃけども。
青山は、個性の成長が目覚ましい筈。何せ穿血の真似事を光線でして来たぐらいじゃ。上鳴は、瀬呂は、障子は―――。
麗日に梅雨、耳郎に芦戸は―――。
「……はぁ……」
あれこれ思い返すことが、段々と面倒になって来たの。子供達の為に必要なこととは言え、各々の成長度合いを記憶を頼りに再確認していくのは手間じゃ。これ、緑谷に
……とは言え。あれやこれやと思い出したことで、くらすめぇと達をどう鍛えるか。どのように成長して欲しいのか。それがひとつふたつと、思い浮かんだ。
まず、基礎体力。戦い続けられる程の、逃げ続けることが出来るだけの体力を付けて貰う。生き残る為に、体力は幾ら有っても良い。むしろ直ぐに疲れてしまうようでは話にならんからの。つまり、鍛え方としては……。んんむ……。ほら、あれじゃ。
あぁ、儂とひたすら手合わせするのも良いのぅ。
次に、経験。対呪霊もそうじゃけど、対呪詛師の経験も積んで貰う。前者は幾らでも居るが、後者はそうそう居ない。じゃから、まぁ。そこは儂が何とかするしかないの。この上なく気が乗らんが、仕方ない事では有る。
被身子を見ると、儂が口を開くのを待っているようじゃ。さっきの仕返しに、頬に手を添えたり小指で顎のあたりを擽ってみたりする。そしたら嬉しそうに笑って、儂の手のひらに頬ずりし始めた。……甘えん坊め。良い、許す。
「……基礎体力を伸ばす。経験も積ませる。今からどれだけ積み上げられるかは知らんが、やらん訳にもいかん」
「はぁい。個性は伸ばさなくて良いんですか?」
「それについては必要無いじゃろ。伸び代が無いとは言わんが、応用よりも基礎を固めてやりたいからの」
実際のところ、個性伸ばしを儂から急かす必要は無い。儂に言われずともやってる事じゃろうし、何より各々が自らの限界点を知っとるからじゃ。伸び難い限界を伸ばすよりも、今以上に土台をしっかりさせたい。基礎が伸びれば、勝手に限界点も伸びて行くじゃろうし。
「じゃあ基礎体力、細かく言えば身体作りですかねぇ。みんな成長期ですから、やればやるだけ伸びると思います」
「……ん。そんな感じじゃな」
「円花ちゃんも鍛えるんですか?」
「儂自身も課題が残っとる。個性とか、個性とか個性じゃな……」
「術式に頼りがちですもんね。ヒーロー免許取得の為にも、いっぱいぐるぐるしちゃうのです」
まぁ、うむ。これも被身子の言う通りじゃの。儂は術式の弱点対策として『回転』を使いこなせるようになりたい。特に一つ目の奴は、儂独りで相手にするしかないからのぅ。隆之が遺した呪具も有るんじゃけど、そちらひとつに頼り切るのは弱点対策とは言えん。そもそも、炎をどうにか出来るだけでは轟には敵わんからな。いや別に、今やっても勝つのは儂じゃけども。負けてやるつもりなぞ、今も昔も毛程も無いんじゃ。
とにかくじゃ。儂は儂で個性を伸ばしたい。この点に限って言えば、儂は緑谷よりも遅れているじゃろう。じゃって、ろくに使って来なかったんじゃもん。実戦で使った回数は、そう多くない。むしろ少ない。それに。
「どうにも解釈が広げられん。ぐるぐる回すだけの個性じゃぞ?」
ほら、こんな風に。被身子の帯、その端を回すことで引っこ抜いて見せる。で、丸まった帯は部屋の隅に投げておく。
「んふふ、えっち。……まぁ実際、シンプル過ぎて解釈を広げるってなると微妙ですよねぇ」
誰がえっちじゃ。実演してみせただけじゃろうが。直ぐそこにちょうど良く帯が有ったから、個性を使ってみただけじゃ。だいたい、どうせ後で帯は緩めることになるんじゃから良いじゃろ別に。って、こら。仕返しなのは分かるが、儂の帯まで緩めるんじゃない。簡単に抜き取って、放り投げるな。被身子のえっち。
「災害時なんかは発電に役立ちそうですけどね。ほら、燃料無しで発電機を回せるので」
「……戦闘時は?」
「んん……。ほら、今みたいに服を回して取り上げるとか?」
「悪党を裸にして何が楽しいんじゃ……」
「円花ちゃんが裸になるのは楽しいんですけどねぇ。あ、もちろんトガと二人っきりの時だけですけど」
「被身子のえっち」
脱がしながら言うんじゃない。何を勝手に覆い被さっとるんじゃ。胸に手を重ねるんじゃない。もう少し後にせんか、たわけ。ここで始めてしまったら、何も考えられなくなってしまうじゃろっ。
「あ、そうそう。手のひらで触れたものを回すって条件、変更できそうじゃないですか?」
「は? いや、呪術じゃあるまいし」
「空気に触れて回転させることで目の前に竜巻を起こせるなら、空気に触れて遠くに竜巻を起こせたり……するかも?」
……んんむ。空気に触れて遠くに竜巻を……? いや、儂の個性は手のひらで触れたものを回すだけじゃ。竜巻を起こす時も、単に目の前の空気をぐるぐる回してるだけで。条件が手のひらで触れることな以上、遠くの空気を回すことは出来んじゃろ。
「いやほら、空気って基本的には何処にでも充満してますし」
「……?? いやいや、何が言いたいんじゃ貴様」
「ええっと……。要するに、空間を対象指定出来ません?」
「は?」
空間を、対象指定……じゃと? いや、流石にそんな真似は出来んじゃろ。確かに個性は何でも有りじゃけど、じゃからって空間にまで作用するとは思え―――。
―――、なくも、ない……?
被身子の言葉で、急に思い出した光景が有る。そう、那歩島で悪党共と戦った時じゃ。儂は個性順転で竜巻を起こした。その際、空間そのものが回ったような、ねじ曲がったような気がするんじゃ。と、なると? もしも空間そのものを回せるとなると……??
いや、じゃから。遠隔で物を回して何になるのか。炎とかそう言うのは、遠隔で回せる方がありがたい。いちいち手を焼かれずに済むからの。いちいち火傷を治すために
「それと。もし空間を対象指定出来るなら、吸引的なことも出来るんじゃないですか? ブラックホール! ……的な……? いや、実際にブラックホールを起こしちゃ駄目ですよ?」
「起こさん起こさん。そもそも起きんじゃろ、それ」
「円花ちゃんならやりかねないなぁって。まぁ実際、回転だけじゃ起きないんですけどね。と言うかむしろ、ブラックホールを妨げるのが回転なので」
「なら、ぶらっくほぉる対策にはなるかのぅ……」
いや、そんなものの対策をしても仕方ないと思うが。何処で使うんじゃ、
「んー、まぁ。空間を回転させて吸引なんてされたら、厄介だと思いません?」
「……まぁ、それもそうじゃな」
確かに。それが出来たら武器のひとつになりそうじゃ。空間を回して吸引なんて芸当が出来るなら、それに太刀打ちするのは難しいじゃろう。少なくとも、赤血操術程度では無理じゃの。穿血や苅祓、赤縛もただ吸い込まれてしまうだけじゃろうから。それは多分、炎とか他の個性じゃって同じじゃ。
まぁ、実際に対象指定に空間を選べるかは分からん。個性順転ならば何かしらの縛りを用いれば、或いは可能……か? 試して見なければ分からんが、試すだけの価値は有りそうじゃの。問題は。
……これさえどうにか出来ればなぁ。個性を使うと、どうにも目が回るんじゃよな。今じゃって少し、緩やかに視界が回っとる。取り敢えず
なんて、考えていると。
「んぅ……」
「んふふ……♡」
まだ話を終えたつもりは無いのに、首を噛まれた。話すことはまだ有るんじゃけど、もう良いか。まったく、我慢が出来ない奴め!
◆
結局何時間も身体を重ねて、気が付けば寝てしまっていた。目が覚めると外はすっかり暗くなっていて、堕落しとるなぁと思わんでもない。実際、その通りじゃし。どうにもな、求められたら応えてしまいたくなるんじゃ。決して快楽堕ちしとるとか、そう言うんじゃない。断じて違う。まったく、被身子と来たら。
首を擦りつつ起きてみたが、被身子がおらん。取り敢えず起きて、脱ぎ散らかしてある服やら下着やらを身に纏う。枕元に着替えが置いてあったから、取り敢えず風呂に向かうとしよう。身体に血は……、うむ。付いとらん。少し濡れてるような気がするのは、多分舐め取られたから……じゃろうなぁ。被身子のへんたい、えっち。
「くぁあ……っ」
……うむ。良く寝た。結構長いこと、寝ていた気がするの。すっかり夜じゃし。体を伸ばして、もう一度欠伸。出て来た涙を手の甲で拭って、着替えを脇に抱えて部屋を出る。ええっと、階段は扉に右手を当てて真っ直ぐ……だったような? いや、真っ直ぐ進んでも部屋に戻るだけじゃ。階段は右じゃ右、……って壁じゃな。では左を真っ直ぐか。
左、左っと。っと、誰か来たようじゃの。被身子、……ではないか。足音的に。
「あ、廻道ちゃん。ちゃんと起きてたんだね? 大丈夫? 一人で一階まで行ける??」
「は? 行けるが??」
左を向いて見れば、廊下の奥から儂に向かって歩いて来とるのは葉隠じゃった。相変わらずの透明人間じゃなぁ。何度見ても服が独りでに動いてるようにしか見えん。
それはそれとして。何やら不愉快な物言いをされた気がする。いや、間違いなくされた。おい葉隠。おい。今、何と口走った? 怒らないからもう一度言ってみせんか。
「でも今、扉の前でぐるぐる回ってたじゃん。分かんなくなったのかなー……って」
「分かるが? 道ぐらい、分かるが??」
「あ、お風呂行くんだねっ? お風呂はこっちだよ! 案内したげる!」
「き、貴様ぁ……」
ぐぬぬ。さらっと儂を方向音痴扱いしおって。今更寮の中で迷子になどならん。付いて来いと言わんばかりに儂の前を歩き出しおって。何なんじゃもぅ。
仕方ないから葉隠に連れられる形で、廊下を通り抜け階段を下る。で、一階の踊り場に来て見れば
「おっ、廻道じゃねーか! 大丈夫か? アメリカじゃ色々ヤバかったって聞いたぜ……!?」
「取り敢えず元気そうじゃん。いやぁ、良かった良かった……!」
「……まぁ、見ての通りじゃよ。何の問題も無い」
何じゃもぅ。今度は、切島や上鳴と出会した。もう少し歩けば風呂じゃったのに、間が悪い奴等め。見たところ、風呂上がりのようじゃの。少し離れた所にある男湯の方も騒がしいから、大方男子達で入浴してたんじゃろうな。となると、もしやこの後……続々と出てくるのか? んんむ、いちいち相手にするのは面倒じゃなぁ。先に風呂に入りたいんじゃけども、少しばかり話が長くなりそうじゃの。仕方ない、顔だけ出して声だけ掛けてやるとするか。
仕方ないから、顔を出して一声掛けよう。そう思って男子湯の方に向けて歩き始めると。
「ちょーーっ! 廻道ちゃん、何処行こうとしてるのっ!?」
「ぐえっ。引っ張るな葉隠っ」
襟を掴まれた上に、引っ張られたわ。どうやら男湯に向かうのは駄目らしい。確かにこんな姿を被身子に見られたら、何をされるか分からん。内面は兎も角として、どうも儂の見てくれは美少女……らしいからの。確かに男湯に向かうのは、……良くないか。仕方ない、顔出しするのは後にするとしよう。
「すまんが、風呂が先じゃ。色々説明しなければならんから、後で話そう。全員、……相澤とかも集めといてくれ」
「相澤先生まで? 分かった、声掛けとくぜ!」
いや、そんな拳を固めて合わせんでも良い。何で気合いを入れたんじゃ切島。まったく、お主も相変わらずじゃなぁ。上鳴は首を傾げとるが、説明は後にする。今は風呂が先じゃ。長話は、後で良い。
こうして。儂はもう一度風呂に入った。途中で被身子が突撃して来たりして、少し騒々しくなってしまったけれども。
とにかく。とにかく、じゃ。風呂を済ませた後で、儂は大事な話をくらすめぇと達や教師連中にすることにした。今回ばかりは、早い内に話してしまった方が良いからのぅ。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ