待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
やはり湯船は良いものじゃ。体はもちろん、心も温まる。疲労回復や眠気覚まし、健康の為にも持って来いじゃ。まぁ儂の場合、半々ぐらいで眠くなるんじゃけどな。被身子と求め合った後で、身を清め布団に潜れば直ぐに寝てしまう。そんな習慣が出来てしまっている。そもそも被身子は、儂を寝かし付けるのが異様に上手いんじゃ。
……それはともかく。湯船を堪能した後、儂はまたも葉隠に案内される形で、寮の
広々とした
「おぉ、廻道。やっと来たか」
「遅いぞ廻道くん! 全員集合させといて、一時間も待たせるとはっ!」
「あぁ、すまんすまん。ついゆっくりし過ぎてしまったの」
……さて。騒がしくなる前に用件を伝えなければ。
「すまんな、皆の衆。すっかり待たせた。こうして集まって貰ったのは、どうしても伝えねばならん事が有ってのぅ」
やはり今でも気は進まん。が、一切合切を伏しておくことは出来ん。いずれ全員の耳に入ることじゃろうし、その時になってから慌てて準備されても間に合わんじゃろう。今から始めたって、間に合うとは思えんぐらいなんじゃから。
それでも、今この場で言わなければな。
「こんな時間に、どしたの廻道?」
「どうしても伝えたい事って、何かしら?」
「まぁ、これから言う。悪いが、耳を傾けてくれると助かるの」
芦戸と梅雨が首を傾げておる。他のくらすめぇと達も同様じゃ。ひとまず両手を何度か軽く叩き合わせて、更に注目させておく。ついでに、全員に近寄る。立ち位置は、……ながんの隣で良いか。真ん中に近いしの。
……話す前に、一息。更にもう一度だけ、全員の顔を見ておく。やはり全員、元気そうじゃ。何というか、……少し安心した。
「先に言っとくが、他言無用じゃ。
……公安から情報が回って来ての。恐らく五月頃に、ゔぃらん連合が動く。異能解放軍とか言うのを配下に従えたらしくての。
相手は十万以上。ひいろお側は少しでも人手が欲しいから、お主等候補生にも頼るつもりじゃ」
「
「十万って、オイオイ!? ヤベーじゃんそれ、勘弁してくれよぉ……!?」
「廻道さん。その情報は、確かなのでしょうか? 事実としたら、余程大きな戦いになりますわね……」
まぁ、そういう反応をするじゃろうな。まだ静かにしていて欲しいんじゃが、ざわめくのは仕方ない。峰田なんかは頭を抱えて叫んでおるしの。驚いている者は多い。が、まだ真剣に耳を傾けている者も居る。疑念を抱く者も居る。信じられない気持ちは分かるが、恐らく事実じゃ。あの翼男が間違った情報を掴まされた、なんてことは多分無い。掴み所のない奴じゃが、仕事が速く、それでいて正確なのは知っとるからの。
「……残念ながら、この子が言ったことは正しい。確かな筋からの情報だ。信用して良い」
少なからず動揺が広がっている中、ながんが軽く挙手して口を挟む。相澤やおおるまいとには、既にながんが伝えておいたんじゃろう。教師達は動じとらん。もう一度、軽く両手を叩き合わせて注目を促す。直ぐに全員、口を閉じてもう一度儂を見た。
「残念ながら、これはお主等にとっても無関係な話ではない。必ず全員巻き込まれるじゃろう。……じゃから」
じゃから、まぁ。やはり不愉快で、気が進まん話では有るんじゃけども。
「……五月迄に、全員儂が鍛え上げる。明日から始めるから、今夜は血反吐を吐く覚悟をしておけ。手加減しないからの」
「えっ、廻道が!?」
「ま、マジで……?」
「応っ、よろしくな廻道!」
んんむ。何故そこで、大半の連中が青ざめるのか。解せぬ。真っ先に賛同したのは切島ぐらいのものじゃ。被身子は苦笑いしとるし。おおるまいとなんて、分かり易く冷や汗を流しておるわ。まだ話を受け止めきれていない奴も、ちらほらと居るように見える。が、今晩で気持ちを固めてもらうしかないの。
―――それから。
「……強くなる為に、それは望むところ。だが廻道、大丈夫なのか?」
「常闇、儂よりも自分の身の心配をしろ。生半可な鍛え方はせん。
……あぁそれと舎弟。話が有るから来い。ついでに緑谷もじゃ」
それから。舎弟には話が有る。爆豪夫人との約束もあるしの。いい加減、放って置くことは出来ん。黙って話を聞いてた被身子が既にとんでもない顔をしてて肝が冷えるが、これも何とかするかないのぅ……。ぅ、うぅむ……。
と、とにかくじゃ。伝えたい事は伝えた。細かいところや詳しいところは、後で被身子やながんに協力して貰おう。ついでに相澤やおおるまいとにも、手伝って貰う。儂一人でくらすめぇと達全員を見てやる気では居るが、やはり手が足りん場面は出てくるじゃろうからな。場合によっては働いて貰うとしよう。ひとまず今は、そのつもりで良い……筈じゃ。
「ほれ、来い緑谷。舎弟もじゃ」
まずはこの二人と、少し話をしよう。今から既に話が拗れそうな予感がするが、これも仕方ない。どうにもこの二人は、一筋縄では済まないからの。期末試験の時の事を思い出すと、今でも頭が痛くなるぐらいじゃからな。
「うん、分かった。……かっちゃん、行こう」
「ああ゛っ!? 命令してんじゃねぇぞ!!」
「し、してないよ。でも廻道さんに呼ばれてるわけだし……」
「……チッ。さっさと済ませろやクソチビ!!」
……また頭が痛くなりそうじゃ。まったく、そんなじゃから被身子に恨まれたままなんじゃぞ貴様。
◆
「んで? 外に連れ出して何の用だてめぇ……! いつまで歩くんじゃ!!」
……はぁ……。まったく、何でこうなんじゃこやつは。誰に対しても態度が悪いのはもう良しとしてやらんでもないが、もう少しこう大人しく振る舞って欲しいのぅ。何でいつもいつも、爆発しそうな素振りを見せるんじゃ。えんでゔぁに鍛えられていた時は、もう少し大人し……くはなかったか。何かと轟や緑谷に噛み付いていたの、うむ。負けず嫌いなのは構わんが、それが悪い方向にも働いているような気がしてくる。
まぁ、とにかく。儂は緑谷と舎弟を外に連れ出した。人前じゃし難い話じゃから、出来る限り寮から離れようと思っての。もう十五分くらいは歩いたか? 少し離れたところに被身子が居るんじゃけども、今は気にしないでおくとしよう。
「……さっき話した通り、儂はくらすめぇと達全員を鍛え上げる。次の戦場で、誰一人死んで欲しくないからじゃ」
「うん、頑張るよ廻道さん。せめて、廻道さんを安心させられるぐらいに……!」
「チッ。いつまで俺等を守ろうとしてんだ。過保護にも程があんだろてめぇ」
「主義じゃからな。そこは曲げられん。
それより舎弟。貴様、緑谷に謝ったか?」
「……あ゛?」
相変わらず、こやつは謝っとらんようじゃの。さっさと頭を下げれば直ぐに済むと言うのに。そもそも、中学時代に緑谷を苛めていたのはこやつじゃ。あれは中学時代のくらすめぇと達も悪かったが、その中でも舎弟はもっと悪い。主犯じゃしな。同級生にあれこれと聞いたわ。最終的に儂の前で緑谷に手を上げることは無くなったが、それで許されるって話でもないからの。
まぁ、こんな話をするのは今更じゃ。ただ、約束は約束じゃ。そこは守らねばならん。雄英に入ってからそれどころじゃない日々が続いていたが、それは言い訳じゃな。不徳じゃ、不徳。
「緑谷に謝れば鍛えてやる。そう約束したじゃろ? 約束を果たさぬなら、儂は貴様だけは鍛えんぞ」
「えっ。そ……そんな約束してたの……?」
「……ならほっとけやっ。てめぇに鍛えられんでも、勝手に強くなるわ! そもそも約束してねぇ!!」
「……はぁ……。何でたった一言が言えんかのぅ貴様は……」
まっこと、仕方のない奴め。謝ることを知らんと言うか、謝れん奴と言うか。意地になる場面が違うじゃろ。まぁこやつの場合、放っておいても強くはなる。実際、夏から今日まで経験を積んで来たのは事実じゃ。しかしそれでも、緑谷と比べればまだ足りん。踏んで来た場数にどうしても差が有る。
「この先、貴様は今のままでは足りん。儂ですら足らん程じゃ」
「……は?」
「えっ」
「……事実じゃ。このままじゃと全員死ぬ」
今の実力のままでは、儂とて死ぬじゃろう。悪党だけが相手ならば良いが、
故に、儂も鍛えねばならん。もっともっと個性を鍛え上げて、炎や熱なぞ問題にならん程に強くならなければ。
「で、どうするんじゃ? 儂ですら足らん戦場に、今のまま赴くつもりか?」
ここまで言って、それでも緑谷に謝らないのなら仕方ない。舎弟については、また放って置くことにする。こやつばかりに構ってる暇は何処にも無いんじゃ。……まぁ、緑谷じゃって悪いところはあるんじゃろうけどな。それでも、手を出したのは舎弟の方。ならばまず、謝るべきじゃ。緑谷を改善させるのはその後で良い。
……さて。これからどうなることやら。取り敢えず、舎弟がどうするかを黙って見守ってやることにする。話すべきことは話したつもりじゃ。これでも謝罪が出来ない程、馬鹿ではないと思うんじゃが……。
「……」
「……」
「……」
「……ちっ……」
……駄目そうじゃなぁ。緑谷を盛大に睨んだ後、舎弟は背中を向けおった。話は終わっとらんのに、勝手に歩き始める始末。まっこと、仕方ない。これはもう、今はどうこう出来ぬな。まさかここまで馬鹿じゃったか。高く見積もり過ぎてしまったかのぅ。
「てめぇが足りねぇだの死ぬだの、信じられっか。寝言は寝て死ね……!」
「……はぁ……」
駄目、か。まったく、仕方のない。もっともっと、構ってやるべきじゃったかもな。最近は少し大人し……くもなかったが、それでも以前程ではないと思ってたんじゃけどなぁ。
「すまんな緑谷。あれは謝れん馬鹿じゃ。どうしようもない」
「別に、謝って欲しいとかそんな風には思ってないよ。……でも、廻道さん」
「ん?」
「かっちゃんのことも、ちゃんと鍛えてあげて欲しいんだ。廻道さんが鍛えてくれるなら、きっと今より凄くなれる筈だから。
そしたら、廻道さんも安心して戦いに行けると思う」
んんむ。まぁ、それはそうじゃろうけど。しかしなぁ緑谷。お主はそれで良いのか? そこで一歩引くのはどうかと思うぞ? 思うところが有るなら、もっと衝突したら良い。まだ子供なんじゃから、喧嘩なんぞ幾らでもしたら良いんじゃ。
……あぁ、なるほど。もしかするとこう言うところも、舎弟の神経を逆撫でするんじゃろうなぁ。現に今の緑谷の言葉が耳に入った舎弟は足を止めて、今にも大爆発しそうな気配を醸し出しとるし。向こうを向いとるから分からんが、物凄い面をしてそうじゃ。って、あ。
「―――クソデクてめぇ。今、何つった……?」
舎弟が振り返った。案の定、物凄い面をしとったわ。流石の緑谷も引いとるわ。
「な、何って……。かっちゃんだけ除け者に出来る状況じゃないし、だから廻道さんにお願―――」
「てめぇの情けなんざ要らねぇんだわ!! ふざけた真似してんじゃねぇぞクソナード!!」
「っっ、で、でもかっちゃん! 廻道さんですら敵わないかもしれないのに、君だけ今のままで良いわけ無いだろ……!?」
「クソチビに教わらなくても、勝手に強くなるわ!! ナメてんのか!?」
言い争いが始まった。取り敢えず、これ以上の騒ぎにならん内に帳を降ろしておく。でないと次の瞬間には舎弟が個性で大爆発を起こしそうじゃし。流石に直ぐに手が出るなんて真似はしないと思うが、念の為じゃ念の為。教員に駆け付けられて解散、なんて事態は一応避けたい。
「……はぁ……。もぅ、どうするんですかこれ。爆豪くんなんて、ほっといたら良いのです」
ぬお。ぬるりと隣に立つな被身子。いつの間にここまで側に寄って来てたんじゃ貴様。ぐえっ、首に抱き付くんじゃない。
「だいたい、いつになったら円花ちゃんに謝るんですかあの人」
「……一応、儂には謝っとるぞ。緑谷にはこの様じゃが」
「あれを謝ったとは言わないのです。やっぱり刺して良いですよね? 刺せますよ私」
「刺すな刺すな。儂は許してるんじゃから」
「私が許してないんですぅ。だいたい、接触禁止と絶対服従はどうしたんですかっ」
「いやそれは、有って無いようなものじゃから……」
そもそも。あの時のことは、喧嘩両成敗って形で決着しとる。そもそも儂は気にしとらんし、もう済んだ話じゃ。なのに被身子は、今でも気にしている。相変わらず舎弟を目の敵にして、何なら物騒なことまで口走るぐらいじゃ。そろそろ水に流して欲しいところなんじゃけども、……これはこれで仕方ないのかもしれん。何せほら、被身子は儂が好き過ぎてどうにかしとるしな。まぁ儂も、被身子が好き過ぎてどうにかしとるんじゃろうけども。
「つーかよぉ! 俺を気にしてる場合じゃねぇだろ!! そんな暇が有んなら個性制御をどうにかしろや!!」
「や、やってるよ。かっちゃんこそ、点と圧縮は出来てるの?」
「半分野郎よりは出来とるわ!! 今ここで見せたろか!?」
……さてはて、どうしたものやら。直ぐに手を出していない辺り、まだ自制心が働いとるようじゃ。こんな奴じゃけども、少しは成長している……のか? しかしこのままじゃと、舎弟が緑谷に手を出すのも時間の問題と言える。帳は降ろしてあるから、直ぐに教員が駆け付けて来ることは無い。
ただ、それはそれとして……じゃ。
「そろそろ止さぬか、たわけ」
「でっ!?」
態度の悪さが目に余るので、舎弟の頭に向かって血を飛ばしておいた。直撃したとて、拳骨程度の威力しかない。直接拳骨しに行こうにも、今は被身子に抱き付かれとるままじゃからの。儂は一歩も動けん。じゃからこそ、血を飛ばすしかなかった。隣の被身子が物凄く不満そうにしていることに、目を逸らしつつ……じゃけども。
「むぅーー……」
んんむ、やはり肝が冷える。こうも不機嫌になられてしまったら、どうやって機嫌を取ったら良いのか分からん。
「謝れぬのなら、何も教えん。と言うか、舎弟だけ留守番になりそうじゃのぅ」
この際、形だけでも謝罪して欲しいんじゃけどな。ついでに少しは態度も改めて欲しいところじゃが、それは高望みかもしれん。謝る機会を逃して謝り辛い気持ちは分かるが、後回しにするのはそれはそれで良くないと思うんじゃけどなぁ。さっさと謝ってしまえば、それで済む話じゃろ。緑谷が赦さない、なんてことも無いじゃろうし。
抱き付く力が強くなって来たので、少しでも落ち着けば良いと被身子の頭を撫でてみる。そしたら不満そうに、首に顔を埋められた。これはこれで、どうしたものか。
「最後じゃぞ、勝己。ここで緑谷に謝っておけ。貴様がして来たことは、人として駄目な事じゃ。ろくな謝罪のひとつも出来ん奴が、人を救けるひいろおに成れると思うか?」
駄目元で、最後の忠告をしておく。昔から何かとしでかしてる奴じゃけども、そろそろ自分の尻は自分で持って欲しい。何より、もったいないんじゃ。素質だけなら、才能だけなら、くらすめぇと達の中で最も優れていると言って良い。正しく育てば、立派な
「……チッ。んなことは、分かってんだよ」
なら、さっさと謝るべきじゃろうが。明日からお互い忙しくなるんじゃから、いつまでも時間を掛けている場合じゃない。それに、被身子が口を出す前に事を済ませたいところじゃ。これ以上は良くない気がしてならん。まっこと、良くない。
「ただ謝って、それで済む話ならとっくにそうしとるわ。んな段階は、とうに過ぎてんだクソが」
「……あ?」
……ちっ。面倒くさい奴め。儂が言えることではないが、こやつはこやつで言葉が足らん。さっさと謝って態度を改めれば良かった話じゃと言うのに、下手に自尊心を拗らせおって。要するに、今更言葉なぞでは足らんから謝れんと言いたいわけじゃ、この小僧は。そう思うならさっさと行動で示せ、と思わんでもない。まっこと、面倒くさい奴じゃな。
まぁ、思い返してみれば。こやつは言葉よりも、行動で示す類いの人間じゃよなぁ。まったく、仕方のない上に面倒くさい。なんて、儂が言うことでもないか。儂も儂で、言葉足らずな部分は……無いとは言えんの。舎弟と同じなのは癪じゃから、今後は少しでも改めるようかのぅ……。
「……その、廻道さん。僕は気にしてないし、分かってるつもりだから。ほら、かっちゃんとは幼なじみだからさ」
「だぁからてめぇにフォローされたかねえんだわ! 図に乗んなクソナード!!」
「んん……。いやでも、かっちゃん……!」
「だいたいてめぇは! んで昔っから、俺の周りをチョロチョロしとんじゃ!!」
「そ、そこはもう腐れ縁って言うか……」
「死ね!! 近寄んなカス!!」
「じゃから暴言を吐くな、たわけ」
「でっ!? てめぇも血ぃ飛ばしてんじゃねぇええっ!!」
いや、飛ばすじゃろ。そもそも暴言を吐く度に拳骨するって話なんじゃし。お主なぁ、そういうところを直さねばいかんぞ。そういうところが良くないんじゃ。もう少し言葉を選べ、まったく。
「―――爆豪くん」
あ、いかん。とうとう被身子が口を出した。背筋が凍る。儂に抱き付いたまま、殺気とも言える威圧感を出すんじゃない。もはや恐ろし過ぎて、顔も見れんぐらいじゃ。くわばらくわばら。
「そろそろ、いい加減にしてくれませんか?」
「……」
舎弟が黙った。今の被身子を見た緑谷なんて、顔を青くして固まっておる。うむ、分かるぞ緑谷。肝が冷えるよなぁ。被身子が本気で怒ると、恐ろしいものなぁ……。こうなった原因は、そこの馬鹿と儂に有るんじゃけども。何と言うか……巻き込んでしまってすまん。
「良いですか? 爆豪くんが此処に居れるのは、円花ちゃんのお父さんの温情あっての事なのです。それと、円花ちゃんが優しいから見逃されてるだけです。
でもそんな態度を続けるなら、いい加減被害届けを出したって良いんですよ? おじさんに連絡しましょうか??」
「いや、じゃから被身、むぐ……」
手で口を塞がれた。黙ってろと言いたいんじゃろう。いやしかし、でもでもじゃって。儂からすれば済んだ事なんじゃって。確かに舎弟の謝り方は良くなかったかもしれんが、儂の前では比較的大人しくしてる……筈じゃし。ただ緑谷の事となると、こやつはどうにも頭に血が昇ってしまうだけで。
「……被害、……届け……?」
あ。そう言えば、緑谷は知らなかったか? 確かにあの件は話しとらんな。人に言い触らす事でもないし、基本的には儂等の胸の内にしまってある事じゃ。もう儂は気にしとらんけど、被身子は未だに気にしてるからのぅ。
「っぷは。き、気にするな緑谷。もう済ん、んぐ……っ」
「全然、済んで、ないのです……!」
せめて緑谷には知られまいと被身子の手から逃れてみたが、また口を塞がれてしまった。いかん、これはいかん。このままでは、被身子が何をしでかすか分かったものじゃない……! お、おい舎弟。今直ぐ謝れ。被身子に謝れ。そしたらほら、話がややこしくならなくて済むじゃろ? お主としても、これ以上の面倒は避けたいじゃろ??
「えっと、かっちゃん。何したんだよ……?」
「……首突っ込んで来んな。前にクソチビとバトっただけだわ」
「バトっ、え……っ!?」
「首突っ込ん来んなって言ってんだクソがっ。……てめぇのそういうとこも気に食わねぇんだわ……!」
「緑谷くん。今は私が爆豪くんと話してるんです。黙ってくれます??」
「ひゅ……っ」
威圧するな威圧するな。すっかり緑谷が青ざめてしまったじゃろ。頼むから少し落ち着いてくれ。お願いじゃから、大人しくしてくれ……! でないと、話が更にややこしくじゃな……!?
「悪いと思ってるなら、さっさと謝ってください。それで二度と円花ちゃんに近付かないでください。そしたら私だって、許してあげなくもないのです。いや、やっぱり許しませんけど。ぜーーったい、許さないですけど……!」
「……意味ねえじゃねえか……」
「は?」
「んぐぐ……っ。じゃ、じゃから儂は気にしとらんから。お主もほら、もう気にするのは―――」
いかん。いかんいかん。まっこと、いかん。このままでは大惨事じゃ。頼む舎弟、形だけでも良いから被身子に謝ってくれ。そしたらほら、後は儂が何とか……。な、何とか……! 何とか、……出来るのか……?
「……、……おいクソチビ」
「う、うむ……。何じゃ?」
「……ッチ。あの件は、悪かったわ」
「気にしとらん。儂が焚き付けた部分も有るからの。が、がははは!」
よ、良し。褒めてやろう。よくぞ、今の被身子の前で謝れたの。しかも前の時よりも、ちゃんと謝れとるぞ。その調子で緑谷にも謝ってくれると、儂は喜ばしい。
……なんて現実逃避をして見ると、被身子の威圧が増々強くなった。な、何でじゃ。前よりは、ちゃんと謝ったじゃろ? そろそろ許してやって良いのでは……? だ、駄目か……??
「やっぱ接触禁止の絶対服従なのです。トガの目が黒い内は、許さないのですっ!」
駄目じゃったわ。もうこうなってしまっては仕方ないので、舎弟と緑谷には目で去れと訴えておく。そしたら流石に儂の意図を汲んだか、二人は踵を返し帳から出て行こうと歩き始める。特に緑谷の動きが固い。まぁ、本気で怒った被身子は威圧感が半端じゃないからのぅ。現役の
「むーー……っ! 円花ちゃんは甘やかし過ぎです! こう言う時は、ちゃんと厳しくしないとっ」
「いやまぁ、そうかも知れんけど……。とは言えこれは、もう済んでる話で……」
「ぷいっ。爆豪くんを庇う円花ちゃんは嫌いです!」
ぬ、ぬぐっ。そう言われると胸が痛む。これはどうにかして機嫌を取らねば。どうすれば良いかまったく分からんが、何とかしなければいかん。
そんなこんなで。取り敢えず今回は、舎弟の奴に謝るつもりがあるのは分かった。言葉ではなく行動で、じゃけどな。謝意が有るだけ、少しは良くなったと思いたい。被身子が盛大に機嫌を損ねてしまったが、それは何とかするしかない。
結局。儂は夜更けまで被身子に謝り続けるしかなかった。我ながら、手間の掛かる小僧と許嫁に目を付けてしまったものじゃ。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ