待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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教えの時間。地獄の特訓、そのいち

 

 

 

 

 

 午前中は呪眼(のろいまなこ)の作成をしつつ、今夜向かう任務の選定を進めた。それと、おおるまいとが持って来た印刷紙(ぷりんと)を見て、ああでもないこうでもないと特訓内容について相談し合った。

 で、その後。昼食をしっかりと食べて一休みしてから、儂は午後の本鈴が鳴ると同時に、相澤を押し退ける形で黒板の前に立ったわけじゃ。もちろん被身子も一緒じゃ。まぁ被身子は、何処かから持って来た軽便(ぱいぷ)椅子に腰掛けているが。それと何故か、伊達眼鏡を掛けさせられた。何なんじゃもぅ。

 

 ……それはそれとして。この教室に来るのも随分と久し振りな気がするの。何で教卓の前に踏み台が設置されてるのかは分からぬが、丁度良いからその上に立って教卓に手を付く。教員でもしている気分じゃ。存外この場に立つのも悪くない気がする。くらすめぇと達の顔が良く見えるからかもしれん。何故か舎弟と緑谷以外の全員が身構えているんじゃけども。

 

「昨晩言った通りじゃ。今日から儂が貴様等を鍛える。詳しい事は、ぷりんと……に?」

 

 む? 無いの。さっきまで被身子が持ってくれていた印刷紙(ぷりんと)の束が見当たらん。何故か一枚しか手元に、……ってあぁ。既に配ってあったのか。いつの間に。これなら直ぐに話を始められそうじゃの。

 

「……ぷりんとに書いてある。貴様等にはここに書いてある事を全てやって貰うからの」

「廻道先生! 質問よろしいでしょうか!?」

「何じゃ飯田」

 

 改めて印刷紙(ぷりんと)に目を通していると、相変わらずの勢いで飯田が挙手した。さっそく質問が有るようじゃ。出鼻を挫かれたような気がするが、取り敢えず聞いてみるとしよう。

 

「このスケジュールは余りに殺人的過ぎるのでは!?」

「うむ、加減は無しじゃからな。乗り越えてくれ、貴様等なら出来る……筈じゃ」

「廻道せんせーっ! 流石にこれは死んじゃうってっ!? もう少し手加減、手加減ぷりーず!!」

「芦戸、加減は無しと言っているじゃろ。なぁに、若い内は何しても死なんから安心しろ」

「お、オイラ達を殺す気かよぉ!?」

「喧しい峰田。これぐらい必要なんじゃ。説明してやるから黙って聞け」

 

 だいたい、泣き言なぞ言ってる暇は何処にも無いんじゃぞ峰田。たった数箇月で全員が生き延びられるよう強くなるには、これしかない。なのに誰一人として納得していないような顔をしているから、ひとつひとつ説明してやるとしよう。まったく、こんな時ぐらい黙って聞き入れて欲しいものじゃ。

 

「この特訓ぷらんじゃけど、見ての通り基礎体力を伸ばすものじゃ。なので当然、走り込みから始める」

 

 まず、朝の四時半に起床。で、五時には長距離を走って貰う。具体的には二十(きろめぇとる)。個人差はあれど、二時間も有れば走り切れる筈じゃ。それが済んだら、次は短距離走じゃ。五十(めぇとる)と百米を、それぞれ数秒の休憩を挟みながら交互に繰り返す。これを一時間じゃ。

 合計三時間走ったら、一度休憩を取る。一限目の授業が始まるまでは休憩じゃ。四十五分程は休めるじゃろう。

 

「平常通り授業に出るのは、集中力を長く保つ為じゃ。授業中に寝ても良いが、成績が落ちても知らんぞ」

「お、起きてられるわけがない……っ!!」

 

 上鳴とか芦戸とか、砂藤とか瀬呂が頭を抱えているのぅ。ひとまずは無視じゃ。勉強は各々頑張ってくれ。最悪、被身子に教えて貰えば何とかなるじゃろ。……多分。

 

「で、午後になったら数組に分かれて順次儂と手合わせじゃ。夕方までひたすらな。その後は一度休憩を取って、夜になったら六人は儂とおおるまいとと一緒に呪霊退治に出て貰う。

 残った他の者は夜まで個性伸ばしをして、夜九時には就寝じゃな。夜更かししても構わんが、翌日どうなっても知らんぞ」

「し、死ぬ……。これ、死ぬよ……」

「ヤバい、ヤバい……。廻道に殺される……!」

「実戦で死なん為の訓練じゃ。乗り越えろ」

 

 実際、多少無茶が有るのは分かってる。今話した内容に加えて、実地研修(いんたぁん)にも行って貰うからの。それにこの特訓内容は、おおるまいとが提示して来た内容と比べると大分手厳しい。それでも今のくらすめぇと達ならば乗り越えられると踏んだから、無理でも無茶でも押し通した。筋肉阿呆は冷や汗をかいて居たが。何とも解せぬ。

 

「あぁそれと舎弟。貴様は走り込みと個性伸ばしだけじゃからな。儂との手合わせには参加させん」

「円花ちゃん、それって爆豪ちゃんは免除ってことかしら?」

「いや、単なる仲間外れじゃな。態度を改めるまでは参加させんし、それは前々から言ってある。

 ……それから」

 

 それから。もう一つだけ、言っておく事が有る。我ながら甘い判断じゃとは思うが、一応ひとつだけ逃げ道を用意しておく。公安側に文句を言われるのは承知で決めたし、駄目と言われれば無理矢理にでも押し通す。何ならその方が楽なぐらいじゃからな。今からでもそうしてしまいたい気持ちも有る。

 

「それから。この訓練に参加しない者、付いて来れなかった者は此度の作戦に参加させん。例外なく雄英に待機じゃな。

 と言う訳で、これから訓練場で儂と手合わせじゃ。質問は随時受け付けるが、取り敢えず全員こすちゅうむに着替えて移動しておけ」

 

 儂も巫女装束(こすちゅうむ)に着替えるとしよう。伝えることは伝えたし、さっさと訓練を始めなければ。時間は有限、のんびりしている暇は何処にも無い。

 

「ほら、さっさと動け。儂等には時間が無いと、今から自覚しろ」

 

 両手を叩いて催促しつつ、儂は被身子を連れて教室を出た。さっそく更衣室に向かって、準備を整えなければの。

 

 それで、被身子。何じゃその顔は。何で悪どい笑みを浮かべとるんじゃお主は。

 

 ……は? 教師やってる円花ちゃんも良いかも、……じゃと? まったく、訳の分からんことを口走るな。お主そういうところじゃぞ? そういうところなんじゃからな??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の戦闘訓練は、訓練場(ぐらうんど)べぇた……で行うことになった。期末試験の時に、おおるまいとと戦った訓練場じゃの。この場所を選定したのは教師陣にながんを加えた大人組じゃの。いずれ来る悪党(ゔぃらん)連合との戦争の為に、様々な状況と条件でくらすめぇと達は儂と戦うことになる。尚、舎弟は別の訓練場で独りで個性伸ばしか基礎体力向上に勤しむ予定じゃ。さっき集合した時、既に居なかったからの。ついでに相澤の姿も見えなかったが、それはまぁ良い。大人が何処で何をしてるかなぞ、儂が気にする必要は無いんじゃ。

 

 で、現在。儂は先に位置取りをする為に、訓練場の中を歩いておる。今回の戦闘訓練の主題(てぇま)は『狙撃の恐ろしさ』とのことでの。ながんに指示された位置に、筋肉阿呆の案内で向っている。案内役は被身子が良かったんじゃけど、被身子には救護班としての役割が有るからの。渋々諦める羽目になってしまった。何故被身子を救護班に任命したのかと教師陣に聞かれた時は、それなりに面倒じゃったけども。

 あぁそれと。くらすめぇと達は主題(てぇま)を知らん。先に知っていたら、対策出来てしまうからの。それではこの訓練の意味が無い。

 

「さぁ廻道少女、君は此処だ。まず私が遊撃に出るから、君は状況に応じてバシュッと狙撃をね?」

「相分かった。容赦無く撃ち抜いてやるとしよう」

「……大怪我させないようにね?」

「一人ぐらいは良いじゃろ。りかばりぃがぁるが居るんじゃし」

 

 まぁ、一人とは言わず二人ぐらいは大怪我をさせるつもりじゃ。むしろ全員に大怪我を負わせても良い。そうすることで、儂が如何に本気か伝わるじゃろうしな。誰一人として死んで欲しくないから、欠けて欲しくないから、儂が教えてやれる事は全て叩き込む。

 

 その為に、何をするのか。くらすめぇと達に、何を見せるのか。それはもう、決めてある。腹は括った。後はもう、やってみせるだけじゃ。

 

 儂が知っていて、くらすめぇと達が知らぬ事。それは―――。

 

「それじゃ私は此処で。ちなみに、私が捕縛されたら訓練終了ってことだけは覚えておいてくれるかな? それとこれ、耳に付けといて」

「貴様の援護なぞしたくはないが、……まぁ良い。覚えておく」

 

 通信機を手渡されたので、耳に付けておく。どうも慣れんなこれは。

 ……それにしても、また随分と高い場所に連れて来られたものじゃ。案内されるがままに黙って付いて行った結果、儂が立たされたのは一際背が高い高層建築(びる)の屋上での。確かに此処ならば、訓練場の大部分を目に入れることが出来る。狙撃にはうってつけかも知れんが、くらすめぇと達に察知されやすいような気がするの。まぁ、察知される前に射抜いてしまえば良いだけの話でも有るが。

 

 屋上の低い柵に片足を置いて、何故か用意されていた洋弓を構える。矢を番えることなく弦を引いて、訓練場の出入り口に狙いを定め……弦を放す。……ふむ、これは届くな。矢の数については心配する必要が無い。誰が用意したのかは知らんが、屋上には幾つも矢筒が置いてある。もちろん儂の後腰にも矢筒がひとつ。全ての矢筒に矢が入れてある。矢が途中で切れた、なんて事態は起きないじゃろう。

 一射もせずに弓の感覚を確かめてみたが、悪くないのこれ。和弓とはまた違った使い心地じゃけども、これが初めてと言うわけでもない。米国(あめりか)で経験済みじゃ。このぐらいなら、幾らでも扱えるじゃろう。……ひとまず姿を隠しておくか。狙撃するんじゃから、分かり易く姿を見せておく理由が無い。

 

『あー、廻道少女。聞こえる?』

「……うむ。聞こえるな」

 

 低い柵に寄り掛かる形でしゃがみ込むと、おおるまいとが通信して来た。取り敢えず良く聞こえるから、やり取りに不便は無いじゃろう。

 

『私も位置に付いた。向こうの勝利条件は、狙撃を掻い潜りながら私達を打倒もしくは拘束すること。私達の勝利条件は、ヒーロー側を行動不能にすること』

「相分かった。……簡単そうじゃなぁ」

『いやいや。今のA組は君が知ってる頃よりずっと強くなってるよ。油断しないように!』

「しとらわんわ、たわけ」

 

 今日の訓練はくらすめぇと達の今の実力を測る為でもあるが、じゃからって儂が油断することは無い。何せ、本気でやると決めたんじゃから。子供達相手に本気を出すのは随分と大人げない行為じゃとは思うが、誰一人死なせぬ為じゃ。であれば、やはり手加減してしまっては意味が無い。甘やかすのも無しじゃ。とことんまで鍛え抜いてやるとしよう。

 

 ……そうしなければ、きっと後悔する羽目になるんじゃから。あんな事になるのは、二度と嫌じゃからの。

 

『っと、そろそろ始まるよ。準備は良いかな?』

「うむ。では、始めるとしようかの」

 

 後腰の矢筒から、矢を三本引き抜く。呪力を込めた弓に番え、後は立ち上がって弦を引いて放つだけ。当然、矢には血を付着させておく。本気でやるんじゃからな。呪力も術式も使う。そもそも今回の訓練は、対呪詛師の経験を積ませる為のものじゃし。

 

 さぁ、始めるとしよう。願わくば、直ぐに終わってくれるなよ……!

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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