待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
『3……2……1……! TIME UP!
早速上位4チーム、見てみよか!!』
うむ、よし。何とか終わったのぅ。頭の鉢巻を獲られぬようにするのは、中々に大変じゃった。どいつもこいつも血眼になって追い掛け回してくるし、特に冷や汗をかかされたのは飯田の高速移動じゃ。れしぷろばあすと……とか言っておったな。舎弟は懲りずに突撃してくるし、緑谷なんかも諦めずに果敢に突っ込んできおった。個性を使われた時は、流石に本気で防御しようと思ったぞ。
お陰で、いつの間にか首に巻いていた鉢巻が奪われるなんてことが頻発した。十三分間狙われ続けてたからの。馬役の三人の動きが鈍り始めた後半は大変じゃった。まぁ、鉢巻には血を付けておいたから奪い返す事は容易じゃったけどな。
それでも最終的に首の鉢巻は殆ど獲られてしまったが、頭の鉢巻を守り通したからの。よって、響き渡る喧しい声を聞かなくとも分かる。儂等は一位じゃ。過程に文句は有るけれど、結果として勝てたならそれで良し。終わり良ければ何とやら、じゃ。
「だはーーっ、疲れたっ! みんなして狙ってくるんだもんな……っ」
「後半から厳しかったわね。円花ちゃんの個性が無ければ危うい場面が沢山あったわ……」
「そうだな。操血の万能さに助けられた……」
「アイツ酷イ、怖イ」
「いや、お主達が頑張ったからこその結果じゃぞ? だあくしゃどうにも梅雨の舌にも、大いに助けられた」
だあくしゃどうの背中は何度足場にしたか分からんし、梅雨の舌に助けられる場面は多かった。ひっきりなしに舎弟が突撃してくるものじゃから、だあくしゃどうが何度も涙目になっておったわ。今も儂が撫で回して、ご機嫌取ってる状況じゃし。
やはり、上鳴と組めて良かったのぅ。こやつが敵に居たら、もっと大変じゃったろうに。
「……俺は? 個性使ってないけど……」
「お主は居るだけで良かったんじゃよ。相手にしたくなかったからな」
「そ、そう!?」
「うむ、お主が味方で良かった。助かったぞ上鳴」
上鳴が個性を使わないでくれた事も、勝因のひとつじゃ。使えば何とかなる場面は何度が有ったが、放電なんてされたら全員巻き込まれる羽目になっていたしの。それだけならまだしも、だあくしゃどうが消えてしまうかもしれなかった。そしたら流石に負けていたかもしれん。
うむ、よく個性を使わないで我慢出来たな上鳴。どれ、少し頭を撫でてやるか。
「円花ちゃん、あんまり男子を撫でちゃ駄目よ。被身子ちゃんが凄いことになるから」
「……い、いや、そんな筈は……」
何を言っとるんじゃ梅雨。共に戦った奴を労うぐらいで、被身子が嫉妬するわけないじゃろ? ほれ見てみい、北側の観客席で冷ややかな笑みを浮かべ、て……。常闇や上鳴を睨ん、で……。
……。…………。これはいかん。いかんぞ。
どう、しようか。どうすれば良いと思う? これ、素直に謝っても許されないんじゃないか?
思い返してみれば、騎馬戦が始まる前に儂は常闇に抱き付いたの。障害物競走の前に舎弟の頭を撫で回した記憶もある。
……。これは、今晩は覚悟しておいた方が良いかも知れぬな。まず間違いなく、大変な事になる。儂は、滅茶苦茶にされるじゃろう。
……。……まぁ、良い……か? いや、良くない。少しも良くない。どうにかして機嫌を取らねば。
「梅雨よ。どうしたら許して貰えると思う?」
「ごめんなさい。私に聞かないで」
「なぁ、常闇」
「聞くな。俺を巻き込まないでくれ」
……! 何じゃ薄情な奴等じゃなっ! 儂が困ってるんじゃからそこは友として助けんか貴様等! 少し被身子に言い訳してくれるだけで良いんじゃってっ。なっ、なっ!?
「円花ちゃん」
「っっ!?」
驚いた。声が出ない程に驚いた。じゃって真後ろから被身子の冷ややかな声が聞こえてきたんじゃもん。恐る恐る振り返ってみると……残念ながら被身子がおる。冷ややかな笑みじゃ。呪霊の笑みとて、ここまで冷たくはないじゃろう。
前にも一度、こんな事が有った気がするの。確か……体力測定の後じゃったか。
待て。じゃあつまり、この後の展開は……っ!
「す、少し待たんか被身子。そういうのはじゃな? 二人きりの時に……っ!」
「ヤです。円花ちゃん、ちょっと男子と仲良くし過ぎなのです。私が居るのに、何でそんな簡単にスキンシップしちゃうの?」
「い、いや。じゃって友達じゃし……、頑張って貰ったから褒美ぐらい……」
待ってくれ被身子。何で儂の顔を両手で挟むんじゃ。少し上を向かせるんじゃっ。じわじわと迫ってくるんじゃっ!
「……はぁ。ちょっとこっち来てください。これはもう、お仕置きです」
「い、いや待て、待つんじゃ被身子っ。落ち着け、なっ?」
「私は、落ち着いてるのです。円花ちゃんこそ落ち着いたらどうですか?」
睨まれた。思いっきり睨まれた。冷ややかな笑みは、もう無い。代わりに被身子が浮かべた表情は、呆れと怒りじゃ。
「し、しかしじゃな、被身子……」
「しかしも何も無いのです。ちょっと来てください。私いま、とーーっても怒ってるので。もう、限界なので」
……。これは、素直に従うしかない気がするの。何をどう言っても駄目な気がしてならん。頼む被身子、せめて少しだけでも……勘弁してくれんかのぅ……?
◆
すっかり怒ってしまった被身子に引っ張られて、儂は控え室に連れ込まれた。こやつ、しっかり鍵をかけおった。誰も立ち入らないようにしたと言うことは、このあと儂に何をするのか容易に想像出来る。
確かに、今回も儂が悪かった。男子に触れると、被身子は直ぐに嫉妬する。それを分かっていながら、不用意にくらすめえとに触れた儂が悪い。言い訳が出来る立場に無い。じゃから、これから行われることは素直に受け入れるしかないじゃろう。体育祭の最中じゃけれど、被身子を怒らせてしまったのは儂じゃからの……。
気を付け、なければなぁ……。男子に触れるのは止めておこう。褒めるにしたって口だけにしなければ。そのくらいは、許してくれるよな? いや、それも駄目かもしれんが……。
「そこ、座ってください」
「……う、うむ……」
本気で怒っている、の。これはいかん。もう素直に従うしかない。何を言われるかは分からんが、悪いのは儂じゃ。
ひとまず、指示された通り椅子に腰掛けよう。お説教は、その後じゃろうな。
儂が椅子に腰掛けると、被身子は儂の前に椅子を持ってきて腰掛ける。怒った顔はそのままじゃ。次の瞬間には何をしてくるか分からん。何をしてきても、おかしくはない。
「……円花ちゃんを、縛り付けるつもりはないんです」
「……」
「だって円花ちゃんは、私を自由にさせてくれてます。私のやりたい事をやらせてくれて、見守ってくれて。受け止めてくれて。自分が嫌な事だとしても、私の為に我慢してくれて……。
だから私も、そうしたいんです」
「……う、む」
知っておるよ。被身子がそう思ってるのは、知っておる。だってこやつは、儂とお揃いにしたがる。着る服は、儂に合わせて着物を着ることが多い。使う物だって、大体一緒じゃ。儂が知っている事を知りたがる時だってある。
「でも、どうしても嫉妬しちゃうの。どうしても、不安になっちゃうの。それを、分かってますか?」
「……」
「何で、愛してるって言ってくれないんですか? 好きって言ってくれないの? 私、許嫁ですよね?」
「……許嫁じゃよ。被身子は、儂の」
「だったら何で、言ってくれないんですか? 円花ちゃんが恥ずかしがりなのは知ってますけど、それでも言って欲しいのです」
……じゃって。気持ちを口にするのは気恥ずかしい。分かっておるよ、言うべきじゃって。恥ずかしがってないで、ちゃんと言葉にして言うべきだって。でも、じゃって。どうしても、口に出すのが難しいんじゃ。
じゃから、せめて。態度で示そうとは思っておるんじゃけど……。それだけじゃ、足りない……か。
「……その、な」
「はい」
「じゃから、その……」
「はい」
「……」
言えん。言い出せん。顔も見れん。やはり、気恥ずかしい。じゃって、お主が好きなんじゃ。いつの間にか好きになってた。そう思ってしまうと、どうしても言葉にならない。言いたいけど、言ってはならん気もしている。
良いのじゃろうか。これを、言ってしまって。伝えてしまって。言ってしまったら後はもう、どこかに落ちてしまうような気さえしている。
「……」
「……」
「……」
「……」
待たれて、いる。儂の言葉を、待ってくれている。たった一言、たったの一言を言えば良いのに。顔は熱いままじゃし、口の中は渇いてくるし、手から変な汗も出てきた。顔を見てられん。今は、被身子の顔が見れん。
「……儂は、お主を……被身子を」
「はい」
「……」
「……」
……言えん。言えんて。無理じゃ。これは儂には出来ん。心を言葉にすることが、どうしても出来ぬ。
「……意気地無し」
……っ。じゃ、じゃって……。出てこんのじゃ。言おうとすると緊張してしまって、どうしても……っ。
「言って、欲しいのに……」
「……っ」
「もう知らない、円花ちゃんなんか。常闇くんとでも付き合えば良いんじゃないですか?」
いや、待て。何でそうなる? 何で今、常闇の名を出したんじゃ。あやつは関係無いじゃろ。おい、被身子ってば。
顔を上げると、被身子は顔を逸らしていた。拗ねている。怒っている。悲しんでもいる。……そんな表情で、そっぽを向いている。
やはり、嫌なものじゃな。こやつが笑っていないのは。
「……あのな、被身子」
「……」
「儂で、良いんじゃよな?」
「今更、何ですか」
「じゃから、儂で良いんじゃよな?」
こんな確認、しなくとも分かってはいるが。それでも今一度、確認しておきたいと思った。じゃって、それが分かれば踏ん切りが付く気がしたんじゃよ。
「……円花ちゃんが、良いです。そんなの、知ってるくせに……」
「知っとる。じゃけど、 もう一度聞いておきたくて」
まぁ、勝手な話だとは思うがの。知っている事をもう一度確認するなんて。でも、聞きたいと思った。どうしても、何度でも。
……あぁ、こういう事か。じゃからこやつは、儂に何度でも言われたがって……。
……、気恥ずかしい。あぁ、気恥ずかしいのぅ。どうしても、言葉に出し辛い。このたった一言が、言い辛い。
「愛してる」
……顔が、熱い。熱い。いや、もう、凄く熱い。やっぱり言いたくない。心臓が落ち着かん。頼むから被身子、今は儂の顔を見ないでくれ。
おい、凄い勢いでこっちを見るな。そんなに凝視するな。次の言葉を待つな。こんな顔で、儂は何を言えば良いんじゃ。
……もう一度、言えば良いのか?
「……愛してるよ。じゃからその、機嫌を直っ!!?」
うぐっ。き、貴様……っ。急に押し倒すなっ。背中が痛いじゃろ、頭も打ったじゃろっ! せめて最後まで言わせんかっ!
「もっと、もっと言ってくださいっ!」
む、ぐ……。まだ言わねば駄目か? 駄目なのか? 何でお主はいつもいつも……。いや、気持ちは分かる、が……。
ああ、もう。分かった。分かったから。もう良い、もう儂の負けで良い。
「愛してる」
これで良いか? それとも、まだ足りんか?
なんかもう50話まで続いてるので、敗北させました。次回から素直円花をお楽しみください。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ