待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「今の内に、どう戦うか決めておこーぜ!」
グラウンドβに出入りする為のゲート前。切島が両拳を叩き合わせながら声を張った。そんな彼を見たAチーム諸君は黙って頷き、各々が思考を巡らせる。
今回の戦闘訓練。爆豪と円花を除いたA組は四つのチームに分かれて行われる。Aチームの面子は切島・緑谷・蛙吹・麗日の四人。この四人で、円花とオールマイトを攻略しなければならない。それが如何に困難なものであるかは、全員理解しているところだ。相手は平和の象徴と、A組最強。一瞬の油断や隙が命取りになることは、重々承知している。
だからこそ。この困難な訓練をクリアする為に今は頭を回す。訓練開始の合図までの短い時間だとしても、作戦は考えなければならない。円花もオールマイトも、無策で相手にするのは不可能な程の戦力を有しているからだ。
「うん。相手は廻道さんに、オールマイト。いっぺんに相手取るには凄く厳しいけど、まったく付け入る隙が無い……って訳でもないよ」
まず声を上げたのは、緑谷だ。ヒーローとしての師がオールマイトであり、呪術師としての師に円花である彼だからこそ思い浮かぶ作戦が有るのだろう。もっとも、A組の中で彼の師がオールマイトであることを知っているのは今この場には居ない爆豪と円花の二人だけなのだが。
そんな彼の言葉に、Aチームは耳を傾ける。緑谷のクラスメートならば誰もが知っている。彼が重度のヒーローオタクであり、まだ候補生であるクラスメート達の情報にすら詳しいことを。
「まず間違いなく、正面戦闘になると思うんだ。オールマイトはもちろん、廻道さんも真正面から襲って来る筈。
二人同時に掛かってくるのか、どちらかが突出してくるかは分からないけど……一人ずつなら何とかなると思う」
「でもデクくん、廻道さんの術式は距離を問わないよね。オールマイトを前に出して、廻道さんは後ろで戦うってことは……」
「……うん。その可能性も拭えない。廻道さんが本気で遠距離戦に徹する場合は、切島くんと麗日さんが鍵だ。切島くんの個性なら、穿血や苅祓も防げると思う。その間に麗日さんがオールマイトを浮かせられれば、皆で廻道さんに攻め込める」
「応っ、任せとけ! 何が飛んできても、俺が盾になってやるからよ!」
緑谷と麗日が主立って作戦を考え、切島が二人に同意するように拳を叩き合わせた。実際、緑谷の立てた作戦は効果的なものである筈だ。オールマイトが前衛をこなし、円花が後衛として援護する。この布陣で来られた場合、切島ならば時間を稼げる。その間に、残る三人がオールマイトを拘束。一人片付けてしまえば、全員で円花に挑むことが出来るだろう。だが。
「ケロ。二人が前衛と後衛に別れてたら、それで良いと思うわ。でも、二人揃って前衛って形で攻め込んで来たらどうするの?」
蛙吹が小さく手を挙げて、考えられる別のパターンとそれに対する疑問を口にする。
もしも円花とオールマイトが、二人で同時に殴り込んで来たら。全員が同じ事を想像して、顔を顰めた。何故ならそれが、考え得る限り最悪のパターンだからだ。円花もオールマイトも、その戦力は測り知れない程優れている。
神野以降明らかに衰え、もはや無敵とは言えなくなったとは言え、オールマイトはオールマイト。以前程動けなかったとしても、平和の象徴としてこの国のヒーローの頂点に長い間立っていた男。彼を甘く見るなんてことは出来ない。
そして、円花。これまで何度も何度も、その高い実力をA組に示し続けて来た。何処で何が起きたとしても、彼女はA組の前で困難を打ち破り続けた。その実力は誰が疑うまでもなくA組最強であり、その信頼が揺らぐことは無い。しかも今回の訓練、彼女は本気になると言っていた。オールマイト相手にそうであるように、円花にだって油断や隙は見せられない。
それ故に。二人が同時に襲い掛かって来たパターンが最も最悪だ。どちらか片方だけでも手に余る難敵なのに、それをいっぺんに相手取るとなると有効な作戦を直ぐに立てるのは難しいだろう。
「……その場合は、ええっと。僕と切島くんで前に出て二人の注意を引くのはどうかな? その間に麗日さんが、どちらかに触れられれば……って思う。
それで梅雨ちゃんは状況を見て全体をサポートしてくれれば。その、一人だけ負担が大きくなっちゃうかもなんだけど」
「ケロケロ。そのくらいは大丈夫よ緑谷ちゃん。でもその場合、二人がどれだけ耐えれるかが肝ね。直ぐに両方やられちゃったら、私とお茶子ちゃんだけになっちゃうもの」
「そうならねーように、根性出すぜ梅雨ちゃん。麗日、頼むぜ!」
「うん。廻道さんもオールマイトも、何とか浮かしてみせる。勝とうね、みんなで!」
ひとまず。即席では有るものの、作戦が固まって来た。それぞれがどう動くかを頭に叩き込み、もう間もなく始まるであろう訓練に身構える。と、同時。ブザー音が鳴り響き、ゲートが開く。
合図が鳴り響いた直後。切島と緑谷を先頭に、四人はグランドβに足を踏み入れた。
「レッドライオットは前、フロッピーは後ろ。僕とウラビティで、周囲に警戒して進もう。赤血操術による狙撃……も無いとは言えないから、出来る限り見晴らしの良い所は避けないと」
「急に狙撃なんてされたら、元も子もねーよな。んじゃあ、そっちの裏道から行こうぜ」
「うん。空から探すのは、今は止めとくね」
「狭いとこ、特に曲がり角は注意して。身動きが取り辛いから」
眼前に広がるオフィス街の大通りから、四人は直ぐに身を退けた。起こり得るかもしれない狙撃を警戒したのは、この四人では長距離攻撃に対して打てる手が少ないからだろう。中距離までなら反撃も出来るが、遠距離となると逃げるか隠れる以外に打てる手が無い。故に全員一丸となって、ビルとビルの間に張り巡らされた裏道に姿を隠す。曲がり角や、特に細道となる個所は注意を払いながら進んで行く。
日が差さず薄暗い裏道に、今のところ脅威は無いようだ。グランドβは広い。そんな直ぐに接敵する可能性は低いが、それでも四人は警戒を怠らない。相手はあのオールマイトに、廻道円花。次の瞬間には、何をしてくるか分からない相手のだから。
「こんな狭いところで戦闘になったら、良くないわね」
「……うん。その時は、直ぐに大通りに出る? 狙撃さえなければそっちの方が良いよね」
「だな。もし襲われちまったら、俺が防ぐぜ」
「正面から襲ってくるとは限らないけど、その時はよろしく。廻道さんの姿が見えたら狙撃は無いから、直ぐに大通りに出よう」
「ケロ。オールマイトだけ出て来たら、ここで何とかしましょう。何も出て来なければ、それに越したことは無いのだけれど」
これから起こり得る事を幾つか想定しつつ、作戦を立てながらAチームは前へ前へと進んで行く。何処に
蛙吹は壁に貼り付く形で進み、麗日はいつでも自らを浮かせられるように胸の前に両手を置いた。その時。
壁から腕が生え、切島の頭を掴んだ。その腕は、四人にとって確かに見覚えがあるもの。コスチュームに包まれたそれは。
「HAHAHA! 狙撃を恐れて隠れんぼか!? だが残念だったな!
ヴィランとは! 何処から現れるか分からないものさ!!」
高らかな笑い声と共に壁が砕ける。壁の破片やら埃やらを身に纏いながら姿を見せたと同時、オールマイトは切島を掴んだまま跳躍した。衰えている―――にしては、機敏でキレのある動きで壁を蹴り上へ上へと彼は跳ぶ。壁をぶち破るなんて芸当で急襲し、人ひとりを掴んだままに自由に動く様は衰えや弱体化など微塵も感じさせない。
「う、お、おぉっ!?」
「二人で楽しくデートと行こうぜ? ヒーロー!!」
「待てっ!」
「ぬ―――!?」
衰えなど微塵も感じさせないオールマイトに、とっくに臨戦態勢に入っていた緑谷が跳び掛かる。足は既に振り被られており、次の瞬間には切島を救ける為の一撃が放たれるだろう。それだけではない。近くの壁に貼り付いている梅雨は切島の足に向かって舌を伸ばしている。麗日は宙に浮き、既にオールマイトの真上を陣取っている。つまり、これから行われるのは三人同時攻撃。だが。
「Oklahome―――」
それより早く、オールマイトは必殺技のモーションに入っていた。呪力を纏う彼は足場など無しに急速に回転を始める。それは蛙吹の狙いを外させ、緑谷の蹴りすら寸でのところで空振りさせる。そして。
「SMAAAASH!!」
猛烈な勢いをそのまま切島に乗せて、彼を真上にぶん投げた。その先に居るのは、幸か不幸か麗日だ。
「避、けろウラビ―――!?」
「なぁ……っ!?」
既に硬化してしまっている切島が、高速で麗日に向かって飛んでいく。自身の個性も相まって、今の彼はちょっとした人間砲弾と化してしまっている。直撃すれば無事では済まないだろう。けれども麗日は、避けようとはしない。まさか連れ去ろうとした切島を武器として使って来るとは思わなかったが、怯んでは居られない。何よりヒーローとして、ここでチームを見捨てるのは論外でしかない。だからこそ麗日は、一緒に吹き飛ばされるのも承知の上で切島を受け止める。と、同時に彼を浮かす。
それこそが、
「スマーーッシュ!!」
「むおっ!?」
「レッド、ウラビティ!」
緑谷の蹴りがオールマイトを捉えた。蛙吹の舌が、切島の足を掴んだ。……その時。風切り音が聞こえた。麗日は目を見開いて硬直せざるを得なかった。自らの頬を何かが掠めたそれが何であるのか、救けられた切島は理解が遅れた。状況を俯瞰出来た蛙吹だけが、直ぐに気付いた。
麗日の右腹部に深々と突き刺さる、一本の矢に。
「―――っ、ウラビティ!!」
風切り音が連続する。頭上を通り過ぎて行く数々の矢に肝を冷やしながら、蛙吹は空の二人を引き寄せる。オールマイトと会敵して、一分と経っていない。なのに、既に負傷者が出てしまった。不幸中の幸いと言うべきか、続く第二射や三射は切島の背に当たったことでこれ以上の怪我人が出ることは無かった。……が、それでも状況は最悪と言える。オールマイトは緑谷が食い止めてくれて居るが、急襲された上に麗日が狙撃されてしまったことで多少なりとも動揺してしまっている。そんな状態では、どうしても対応が後手に回ってしまう。だが後手に回り続けていれば、いずれは押し切られてしまう可能性が高い。
―――更に、その上。
「げほっ、かは……っ!?」
腹を射られた麗日が動けない。痛みとショックで苦しみ、直ぐには動き出せそうにない。彼女の傷を一目見た蛙吹は、顔を顰めざるを得なかった。麗日の腹部に突き刺さった矢は、貫通はしていない。だが、傷が深いのは確かだ。彼女の苦しみようからして、内臓をやられているのは明白だった。
「動かないでウラビティ。レッド、私は此処から離れて応急手当てを」
「応っ、頼んだ! すまねぇっ! 俺はデクに加勢してくる!!」
「お願い。でも危なくなったら一度退いて、体勢を立て直しましょう」
「応っ!!」
麗日を連れ、蛙吹は一度後退を選ぶ。切島は歯を食い縛って、オールマイトに向かって駆け出した。そして、緑谷は。
「どいてよ、オールマイトっ!!」
「退かせて見せな有精卵!!」
未だ健在としか言いようのないオールマイトに、蹴りを放つ。二度三度、四度五度と回し蹴りを放つ。回る独楽のように向かって行くが、その全ての攻撃が防がれ、躱され、受け流される。真正面からの戦闘では、オールマイトが相手には分が悪い。衰えている筈なのに、もう個性は無い筈なのに、それでも彼は長年の経験から緑谷の攻撃を軽々と対処して見せる。
「コマのようにくるくる回りたいなら、もっと回るかっ!?」
「っ!!」
現・NO.2ヒーローが拳を振り被る。その瞬間、緑谷は後ろ斜め上に跳ぶことで距離を取った。なのに、オールマイトから距離を離すことは叶わない。事は単純明快。一度距離を作ろうとした緑谷に合わせて、オールマイトも同じ方向に跳んだのだ。
「く……っ!?」
「おおっ? やるなヒーロー!!」
咄嗟に黒鞭を壁に向かって放つことで、宙に逃れたヒーローは無理矢理方向転換して見せる。以前のように空中での方向転換が出来なくなってしまったオールマイトは、身体の向きを変えつつも一度は着地するしかなかった。かつてのように、空を自在に跳び回るような真似は今の彼にはもう出来ない。だが、それでも。まだまだひよっ子のヒーロー候補生を追い詰めるには行き過ぎた戦力を有している。
(くそっ。制空権取られた……!! ビルより高くは跳べない。みんなは……!?)
オールマイトがまだ着地しない内に、緑谷は一瞬だけ状況把握の為に周囲を見た。蛙吹と麗日の姿はもう路地裏には無い。今この場に居るのヒーローは、まだ宙に居る彼自身と地上を駆ける切島のみ。
「安無嶺過武瑠! 烈怒――!!」
「ちいっ!」
「頑斗裂屠!!」
オールマイトが着地するその寸前。猛烈な勢いで間合いを詰めた切島が、全力で拳を放つ。それは確かに
「如何に自分の得意を押し付けるかやっ!!」
まだ体勢が不十分なままのオールマイトに、全身を浴びせるかのような拳を放つ。後先など今は考えない。そんな余裕は無い。既に麗日が射られ、負傷してしまった。切島にとっては、それが何より悔しい。あの時狙われていたのが自分だったなら、飛来する矢にいち早く気付くことが出来たなら。この個性で誰かを守る為に鍛えて来たのに、それが出来なかった。
その悔しさを拳に込めて。力に変えて、前へ前へと踏み込み続ける。
俺を見ろ、俺だけを狙え。
彼の意思が、行動が、心が、身体が、そう叫んで居た。
「う、お、おおっ!!」
必死に、決死に。硬めた拳を放ち続ける。渾身の攻撃だ。並の悪党が相手ならば、太刀打ちすることは出来ないだろう。しかし相手はオールマイトであり、これではまだ足りない。届かない。
「あだっ、あだだだっ!? ほんっ、とに硬くなってるね君!? しっかり鍛え続けて、何よりだよ!!」
「ぐが……っ!?」
ラッシュの隙間を縫う形で放たれた拳が、切島の顔面を確かに捉える。これも並のヒーローや
「か……っ、い、道より
「ぬぅっ!? まったく、君達と来たら……!!?」
感嘆混じりの悪態を吐きつつ、彼は再び切島に向かって拳を振り被った。その時。オールマイトの両腕に黒鞭が巻き付いた。咄嗟に真上を見上げれば、既に足を振り被った緑谷が居る。その隙を、切島は見逃さない。もう一度全力で、全体重を乗せた拳を放つ。
「マンチェスターー!」
「烈怒―――!!」
「スマーーッッシュ!!」
「頑斗裂ッ、屠ォオッッ!!」
真上から、真下から。強烈な打撃が同時に敵を捉えた。拳は深々と腹にめり込み、踵は確かに脳天を打ち抜いた。どんなヒーローでも
「ま、だだぁ!!」
更に、続けてタックルが。黒鞭による拘束が行われる。流石のNo.2ヒーローだとしても、立て続けの攻撃に拘束では旗色が悪いのだろう。オールマイトの身体は押し倒され、黒鞭によって縛り上げられてしまった。
端から見れば、これで終わりと言える状況となった。
「―――HAHAHA! やるなヒーロー、まさかここまでとは思わなかったなぁ!!」
「な……っ!?」
「嘘だろおい……っ!?」
オールマイトを拘束していた黒鞭が、弾け飛んだ。彼の上に居た切島が、容易く押し退けられた。
「第二ラウンドだぜヒーロー共! ここからは、私も全力でやろう!!」
立ち上がり、高らかに笑うオールマイトを前に緑谷は戦慄した。驚愕している切島よりも、目を見開いて硬直するしかなかった。何故ならば、オールマイトが呪力を纏ったからである。
そう。つまり。
ここまでオールマイトは、本気ではなかったのだ。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ