待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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教えの時間。飛来する矢、そのに

 

 

 

 

 

 

 緑谷と切島がオールマイト相手に奮戦している頃。蛙吹は負傷した麗日を運び、路地裏にある裏口から雑居ビルの中に身を潜めていた。その目的は、応急処置の為だ。円花が行った狙撃により、既に麗日が負傷してしまっている。それも傷が深い。この状態では、下手に動けば内臓に(やじり)が突き刺さってしまうだろう。そうなってしまっては、もはや訓練どころではない。今からでも訓練を中断し、リカバリーガールの下へ運んだ方が良い。訓練で大怪我を負って動けなくなってしまったら、それこそ元も子もないからだ。

 なのに、未だ訓練終了の合図は出ていない。麗日が命に関わりかねない傷を負ってしまったにも関わらず、だ。

 その事から、蛙吹はひとつだけ思い浮かんだ。そして直ぐに周囲を見渡し、部屋の四隅に分かり易く設置されているカメラを見つめ始める。やがて彼女は、カメラが動いていない事実に気付いた。

 

(……こちらの状況が、みんなには伝わってない……? 確かにそれなら、訓練は中止されないわね。そうなると……この状況は円花ちゃんの指示……?)

 

 通常、訓練に参加する生徒が深手を負ってしまえばその時点で訓練は中止される。しかし今、麗日が腹部を射られても訓練が終了しない。訓練官(円花)がこの訓練で何を意図しているのかを蛙吹は考えつつ、周囲に目を配らせる。すると、デスクの上に救急箱が置いてあることに気付く。そして直ぐ、この訓練はかなり特殊なものであると結論付ける。

 

「……大丈夫よウラビティ。傷は深いけど、多分内臓は傷付いてない。今から処置するわ。

 ……痛むと思うけど、我慢して」

「っ、……っっ!」

 

 伸ばした舌で救急箱を巻き取り、蛙吹は直ぐに手当てを始める。麗日に気遣いつつ、手際良く医療道具を使っていく様は正に手慣れていると言って良い。

 

「下手に血管が傷付くと大変だから、刺さった矢は固定するわ。これが済んだら、私は二人の加勢に行くからウラビティはここで―――」

「っ、でも……フロッピー」

「もう動いちゃ駄目よ。これ以上怪我が酷くなったらもっと苦しいもの。

 ……悔しいのも続けたいのも分かるけど、こんな怪我をしちゃったウラビティが悪いのよ」

「……ぅ、ん……。ごめん……」

「良いのよ。後は任せて」

 

 手際良く応急手当を終わらせて、蛙吹は静かに立ち上がる。まだ訓練が続くのであれば、ここにいつまでも隠れているわけにはいかない。自分が動かなければ、外でオールマイトと戦っているお友達二人がどうなるかも分からないからだ。腹に矢が刺さる程の重傷程度では中止されない。その事実かは、今回の訓練強度が普段よりも高いことが窺える。

 

 蛙吹は、一度息を入れて動き始めた。手負いの麗日を一人にしておくのは心配だったが、このまま隠れていても状況は好転しない。むしろ悪化していく。それが分かっているからこそ、彼女は動く。

 どうすればこの状況を逆転出来るのか、その為には何をする必要があるか。そして、円花の意図が何なのか。

 

 幾つもの可能性を模索しながら、雑居ビルを後にする。独り外に出た蛙吹は、この訓練を終わらせる為に動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、オールマイト相手に奮戦している緑谷と切島を蛙吹は助けに行かなかった。二人は既に追い詰められているが、まだ路地裏から叩き出されるような状況には陥っていない。二人と合流してどうにか姿を隠す方法を模索してみたが、あのオールマイトの前では逃げることなど出来やしない。再び彼の前に姿を現すのは得策ではないと蛙吹は考え、次に思い浮かんだ案を実行した。

 

 そう。円花の確保である。今、蛙吹はフリーな状況だ。オールマイトに姿を知覚されていない。何処かで狙撃に徹している円花にも、姿を見られてはいないだろう。何より路地裏に居る以上は、狙撃される心配が無い。故に蛙吹は、保護色を駆使しながら壁を這う。

 麗日にたったの一射で深手を負わせたことから、円花は狙撃すら相当な手練れと蛙吹は判断。オールマイトを相手取る二人が射抜かれてしまったら、それこそなし崩しに全滅してしまうだろう。最悪の結果を避けるためには、やはり円花を何とかするしかない。蛙吹はそう考えて、緑谷と切島が持ち堪えてくれる前提で動く。

 生憎と円花がどの位置から狙撃しているのかは分からないが、何となくの予想は出来る。あまり時間は掛けられないと気が急くが、それでも冷静さは手放さない。

 

 訓練が始まって、十五分程が経過している。オールマイトと接敵したのは、十分以上も前のこと。かの英雄相手に既に十分も戦っている緑谷と切島には、いつ限界が来てもおかしくないだろう。耳に届く戦闘音は激しくなるばかりで、僅かでも静まることは無い。

 出来る限り迅速に進み、出来る限り隠密に徹する。そうして動くこと、十分程。ようやく蛙吹は、一際高いビルの屋上で弓を構える円花を目視した。

 

(まずは、弓を奪って狙撃を止めさせるわ。でないと、そのうち緑谷ちゃんや切島ちゃんが射られちゃうものね)

 

 ビルの壁に貼り付き、静かに早く屋上を目指す。やがて蛙吹は屋上付近に辿り着くが、一度動きを止めてしまった。と言うより、止めざるを得なかった。このまま直ぐに円花の前に姿を見せれば、まず間違いなく即座に迎撃されてしまう。それでは仲間を信じてここまでやって来た意味が無い。

 円花への奇襲を成功させる為に、今は息を潜める。蛙吹はそう判断し、隙を窺う。そして。

 

「……はぁ……。儂を差し置いて好き勝手にしおって。まったく、あの筋肉阿呆は……!」

 

 円花の一人声が耳に届く。彼女が何処に立っているのか、直ぐに蛙吹は気付き身構える。息を入れて、屋上の縁に指を掛け、腕力と脚力を組み合わせて跳ぶ。弓を構えて遠くを見ている円花に狙いを定め、舌を伸ばした。が。

 弓に向かう舌先は、半歩にも満たない動きで容易く躱された。どころか、既に引かれた矢の先が蛙吹に向いている。まだ着地出来ていない彼女は、伸ばした舌を引っ込めず円花の向こう側にある柵に巻き付けた。

 

 矢は既に放たれた。風切り音が鳴る。飛来する一矢を、蛙吹は目で捉えることが出来ない。円花が放つ矢は、それ程までに速い。

 

 それでも蛙吹は無理矢理身を捩り、舌を引き寄せることで僅かでも身体の位置を変えようと足掻く。次の瞬間、彼女の左脇腹を矢が抉った。

 

「うっ、ぐ……っ!」

 

 身体に走る鋭い衝撃とその痛みに姿勢を崩し、蛙吹は倒れた。続くであろう第二射を躱そうと直ぐに転がる。そして。

 

「っあ゛!?」

 

 何とか起き上がろうとしたところで、右腕を射られてしまった。矢は肉に突さり、鏃が貫通した。よく見てみれば、鏃はゴム製だ。立ち上がろうとしたところに矢を放たれてしまっては、どうしようもない。切島ならば矢に射抜かれずに済んだだろう。緑谷ならば、あの超パワーを駆使して無傷で躱すことが出来たかもしれない。そう考えると、蛙吹が円花をどうにかしようとした事自体が間違いだったのだろう。結果として、切島と役割を交代するべきだった。

 

 地に這い蹲るしかない蛙吹を見て、円花は構えていた弓を下ろした。まるで痛みに耐えるかのような顔をして、固く口を閉ざしている。誰の目から見ても、明らかに歯を食い縛っていた。

 

「っ、容赦無いのね……。何だか今の円花ちゃんは、円花ちゃんらしくないわ」

「……」

 

 負傷した脇腹や腕の痛みで動きは鈍いものの、それでも何とか蛙吹は立ち上がっていく。そんな彼女を見る円花の眼は酷く冷ややかで、痛々しくすらある。下ろした弓はそのままに、後ろ腰の矢筒からゆっくりと矢を引き抜く。

 再び矢を番えるより早く、蛙吹は舌を伸ばす。狙いは矢を持つ右手。だが鋭く伸び進む舌先は、寸でのところで弓に叩き落された。不意打ちは失敗に終わる。が、仕掛けた蛙吹はそれすら織り込み済みだ。痛みに顔を顰めながらも、彼女は全力で跳ぶ。その勢いのままに、円花の胸を両足で蹴り飛ばそうとして―――。

 

「……赤縛」

「っ!!」

 

 血によって手足を縛り上げられた。思うように動けなくなって、蛙吹の飛び蹴りは失敗に終わる。跳躍した勢いだけが残り、そのまま屋上の床に向かって落ちて行く。円花は、一歩だけ右に動くことで身を躱す。同時に矢を弓に番えて、弦を引き絞った。その時。

 

「マン、チェスターっ!! スマーーッシュ!!!」

 

 円花が矢を放つよりも速く、円花の反応よりも速く。閃光となって飛来した傷だらけの緑谷が、弓そのものを粉々に蹴り砕いた。その衝撃は凄まじく、円花の左腕すらへし折った。

 

「緑谷ちゃん……!?」

「ごめんフロッピー、遅れた……!」

「助かったわ。でも、レッドは」

「きっと大丈夫!!」

 

 何故この場に、緑谷が高速で飛来したのか。事は至極単純。彼は今、個性を幾つも併用することでこの場に駆け付けた。OFAに黒鞭、そして……発勁。まだ円花が知らない力をOFAの内より引き出すことで、疑似的にかつてのオールマイトの跳躍を再現して見せたのだ。

 どうして彼が此処に来たのか。その説明が欲しい蛙吹だったが、それを遮るように緑谷は「きっと大丈夫」と言った。その一言だけで、彼女は直ぐに思考を切り替える。今は事情を説明して貰っている場合じゃない。傷の痛みに構ってる場合でもない。

 

 何故なら今。円花は左腕が使えない。

 

「反転術式は、使わせない……っ!」

 

 黒鞭を器用に駆使することで赤縛を引き千切りつつ、緑谷は円花に向かって突進する。彼女が反転術式を行うより速く畳み掛けて、イニシアチブを取るつもりだった。が。

 

 緑谷が踏み込む頃には、もう円花の左腕は元通りになっていた。

 

 鈍い音が響く。突進した緑谷に向かって繰り出した円花の左拳が、彼の側頭部を捉えたからだ。

 

「な゛……っ!?」

 

 視界が揺れた。突き進んでいた身体が宙に浮かび、屋上の上を転がる。的確なカウンターにより緑谷の脳は確かに揺らされ、それによってもたらされた脳震盪が肉体の自由を鈍らせる。意識が飛ばないように歯を食い縛るものの、受けたダメージは決して軽くない。それでも尚、彼は直ぐにでも立ち上がる。反転術式を使わせないと言う算段は即座に崩れてしまったが、それでも二対一と言う有利は残っているのだから。その有利を、失う訳には行かない。円花と一対一になってしまったら、勝てる見込みが無いと理解しているからこそ、今は無茶を押し通す。そして。

 

 捨て身での戦いは、何も初めてではない。これまで積んで来た経験の中で、捨て身で(ヴィラン)に挑んだことは幾らでも有った。何より、何度も目にして来た。

 

 廻道円花が、捨て身としか思えないような動きで戦っている姿を。

 

「無茶は駄目!」

 

 緑谷の捨て身を咎めつつも、蛙吹もまた円花に向かって跳ぶ。右腕の痛みが増していくばかりだとしても、彼女は動きを止めない。渾身の力を込めて飛び蹴りを放つ。それは円花にとっては躱すことは造作も無い安直な一撃だった。現に円花は迫る飛び蹴りを避けようと左に半歩移動しようとしたのだ。しかしそこに、黒鞭が飛来し身体に巻き付く。一瞬とは言え動きを乱されたところに、飛び蹴りが直撃した。

 黒鞭により縛られたまま、胸を蹴り飛ばされた円花は二転三転と屋上を転がる。彼女が並の悪党だったならば、これで終わっていただろう。緑谷も蛙吹も、勝利を確信出来たのかも。だけど二人は、まだ勝ったとは思っていない。まだこれからなのだと気を引き締め、それぞれ動き出す。蛙吹は低い姿勢で左から、緑谷は黒鞭をそのままに右から。示し合わすこともなく、同時に駆ける。

 

 次の瞬間、円花を縛る黒鞭が呪力によってバラバラに千切れた。彼女は直ぐに立ち上がり、分かり易く両手を叩き合わせた。

 

「させない!」

 

 だが、蛙吹が即座に舌を伸ばし右腕を巻き取った。

 

 A組なら誰でも知っている。円花が両手を叩き合わせた時、やることは二つに絞られる。穿血か、穿血をフェントとした血液の爆散。距離を保てば穿血が、近付けば炸裂する血液に襲われる。そのどちらもが、不可避と言って良い必殺技だ。故にその対処は、発動前に潰すに限る。今回は、円花の両手を離すことで血液を圧縮させない手法を蛙吹は取った。

 

「スマーーッシュ!!」

 

 間髪入れずに、緑谷が蹴りを放つ。飛び掛かりつつの右回し蹴りだが、それは上体を屈められて避けられた。そして円花が反撃に転ずるよりも早く、蛙吹は円花の身体を真上へと放り投げた。幾ら彼女でも、自由自在に空を飛ぶことは出来ないと知っている。出来たとしても、せいぜいが一度だけの方向転換。血液により自らの身体を引っ張る空中移動を、二度も三度も立て続けに行っているところを見たことが無い。

 宙に投げられた円花を追い掛けるように、緑谷は跳ぶ。今度は足ではなく拳を振り被り、迫る。

 

 緑谷が放った拳を、円花は身を捻ることで呆気なく避けてみせた。すぐさま蛙吹は、円花を屋上に向かって叩き付けようと舌を動かした。その時。

 

「ぎゃっ!」

 

 蛙吹は悲鳴を上げて硬直してしまった。何故ならば、円花が矢筒の影から抜いた脇差で舌を斬られたからだ。幸いにも切断には至っていないが、半分以上は斬られてしまっている。これではもう、動かすどころではない。

 

 そして。未だ空中に居る円花が一度だけ飛んだ。向かう先は、緑谷。既に脇差が振り被られている。彼は咄嗟に足を振り上げ、武器でもあり足を守る防具でもあるアイアンソールを盾として斬撃に備えた。けれども。

 

「っあ゛!?」

 

 アイアンソールごと、両足の裏を深く斬り裂かれた。これにより緑谷は姿勢を崩し、落下。せめてもの反撃として黒鞭を放ったが、円花の手首から放たれる血刃がそれを妨げる。更に。

 

「呑め」

 

 見たこともない光景が、緑谷と蛙吹の目に映った。円花が脇差を振るった瞬間、空に海が出来た。そう錯覚しても仕方ないと思える程の水量をした水が、瞬時に出現したのだ。しかもその水は、明らかに呪力を帯びている。それが猛烈な勢いでビルの屋上に向かって降り注ぎ、その圧力が緑谷と蛙吹を襲う。肉体が軋む程の水圧に晒されて、二人は身動きひとつ取れやしない。

 

 水に圧し潰される。一秒にも満たない程ではあったが、経験したことのない衝撃に晒された緑谷は少なからず水を飲み込んでしまった。蛙吹は何とか耐えれたものの、全身が痺れてしまっていた。

 着地した円花はまず緑谷に向けて歩き、彼の腹を容赦無く踏み潰す。

 

「がは……っ!? げほっ、ごほ……っ!」

 

 緑谷は更なる痛みと衝撃で水を吐き出し、悶える。直ぐに動こうにも、さっきの水圧で身体が痺れて動けない。

 

「……はぁ……。おい、そっちは?」

 

 緑谷を踏み潰したまま、円花は耳に手を当てて喋り始めた。

 

『……レッドライオットは拘束済み。今はウラビティを探してる。廻道少女は?』

「蛙吹と緑谷は終いじゃ。麗日は腹を射ったからの。もう終わりで良いじゃろ」

『あー……、えっと。二人に大怪我負わせてない……よね?』

「今直ぐ死ぬ程ではない」

 

 通信機を使ってオールマイトとやり取りをしつ、脇差を手の内で回しながら今度は蛙吹に向かって歩いていく。そして、まだ動けない彼女の背に腰を降ろし刃で首筋に触れた。

 

「……訓練はこれで終いじゃ。反省会は各々で勝手にやれ。儂から褒めてやる点は無い。以上」

 

 訓練終了を口にし、円花は脇差を鞘に納めて空を見上げた。まだ一度目の訓練が終わっただけなのに、彼女の顔には疲れが滲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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