待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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教えの時間。お説教

 

 

 

 

 

 

 戦闘訓練、初日。くらすめぇと達全員と手合わせしたことで、分かった事が幾つか有る。

 まず、皆の成長度合いじゃ。これを知れたのは大きい。儂やおおるまいと相手に、全員がそれなりの活躍をしてみせた。中には直ぐに役立たずになってしまう者も居たが、そこは儂が容赦無く狙撃したが故じゃ。そういう奴等は、また後日見てやるとしよう。

 

 ……それで、じゃ。手合わせした感じ、儂が思っていたよりも成長していたの。狙撃への対処はまだしも、儂との正面戦闘では幾分かは粘れるようになっておる。

 

 例えば、蛙吹。儂に好き勝手はさせまいと単身で儂を狙ったのは、そう悪くない判断じゃった。その後の近接戦闘は良くなかったが、それでも粘った方じゃ。出来る限りの事をして、皆の助力(さぽぉと)に回っていたように思える。

 例えば、緑谷。流石に驚かされたの。まさか儂の腕を弓ごと砕くとは。骨を蹴り折られるとは思わなかった。個性制御の方は、順調に進歩しとるようじゃ。

 例えば、八百万。儂が狙撃に徹していると気付いた時点で、狙撃銃を創っての。まさか狙撃合戦になるとは思わなかったが、そこは儂の勝ちじゃ。とは言え口田と協力して、狙撃合戦で儂の気を引いてる間に飯田と尾白、そして耳郎を儂に接近させるとはな。儂が自らを真っ先に潰しに来ると考え、その上で作戦を立てるとはのぅ。そういうところは、頼りになりそうな奴じゃと思った。

 

 例えば轟は。例えば上鳴は、例えば芦戸は。例えば、例えば例えば―――。

 

 ……思い返してみれば、各々が儂に勝とうと最善を尽くしていた。結果はどうあれ、精一杯やっていたんじゃ。まだまだ勝ちを譲ってやるつもりはないが、日々進歩してるのは褒めてやっても良い。まぁ今は、甘やかしてやるような真似はせんが。儂と少し戦えたからって、それで満足して貰っては困る。もっともっと、それこそ儂を夢中にさせるぐらい強くなって貰わなければ。

 

「……はぁ……」

 

 訓練が始まってからというもの、溜め息ばかり吐いてしまう。もう何度目かも分からん。くらすめぇと達に死んで欲しくないから、傷付いて欲しくないから儂はあやつ等を鍛えようと思った。じゃけどそれが、どうにも堪える。じゃって、子供に戦わせるような真似はしたくないんじゃもん。万が一が起きてしまったらと想像すると、肝が冷える。

 以前の儂ならば、何が何でも独りでどうにかしようと動いてたんじゃろうな。今じゃってそうしたいぐらいじゃけども、生き方を変えようと決めたのも儂じゃ。少しだけ、ほんの少しだけでも……信じたい。信じてやりたい。ともすれば儂よりも頑固な連中を、僅かでも頼ると決めたんじゃから。

 

 じゃから。じゃから、その為には……。

 

「あのね廻道少女、ちゃんと聞いてる? お説教の最中に、余所見は良くないんじゃないかなぁ。ちゃんと反省してくれないと、次はもう付き合えないよ」

 

 ……。……実は、訓練が終わった直後から、儂はおおるまいとに叱られていたりする。何せ、くらすめぇと達全員に大怪我を負わせて、保健室送りにしたんじゃから。この筋肉阿呆は、それを見逃すよう輩ではない。少々叱り慣れとらん様子じゃけども、英雄(ひいろお)としても教師として儂を叱り飛ばしたいんじゃろう。実際、やり過ぎたように思える。普段の儂ならば、全員に傷を負わせるようなやり方は取らない。なのに今回、誰彼構わず大怪我を負わせたのは……それが必要じゃと思ったからじゃ。

 

「……悪いとは思っとる。ただ悪党が何処までやって来るのか、あやつ等は知らんじゃろ」

 

 明確な殺意、害意、敵意。それによって起こされてしまう傷や、被害。今日までそれなりの経験をして来たじゃろうが、それでも全員が死地に立って来たわけじゃない。自らを狙いとした明確な殺意がどのようなものであるのか、知らん奴の方が多いじゃろう。じゃからまずは、それを教えてやらねばならん。知っている者にも、今一度思い出して貰わねば。

 夢を追い求めるのは結構。じゃが相応に、現実も見て貰わねば困る。

 

「……君の意図は分かるよ。確かに君からしたら、A組のみんなはまだまだ物足りないのかもしれない。だけど全員、君を目指してやって来たんだ。いずれ君に並び立つ為に、追い付き追い越す為に」

「じゃとしても、儂に追い付くことは無いのぅ。どう足掻いても無理じゃ」

 

 くらすめぇと達と儂の間には、どうしても埋められない差が有る。溝が有ると言っても良い。常闇は良くやっているが、それでもこちら側に来ることは無いじゃろう。来て欲しいとも思わん。いつかあやつの実力は儂に届き得るかもしれんし、常闇以外じゃっていずれは。ただそれは、今では無い。

 

「……私もね。かつては独りでやって来たさ。だけど協力者も理解者も居なかった訳じゃない。まぁ気不味くなっちゃった人も、居るんだけど」

「じゃから?」

「君って、本当に人を頼らない。その事情を、そろそろ教えてくれたりしないかな」

「別に、人に頼らんわけじゃない。私生活じゃ被身子や常闇に頼りっぱなしじゃし」

 

 被身子にも常闇にも、世話になりっぱなしじゃからの。他の連中で言えば、両親もそうじゃ。この時代を生きる上で、どれだけ世話になって来たか分からん。

 

「私生活はそうだね。私が言いたいのは、戦いの場で……ってことさ。呪術師としても、ヒーローとしてもね」

「……考えを改めてる最中じゃ。今直ぐにどうにか出来るなら、苦労しとらん」

 

 呪術師としても、英雄(ひいろお)候補生としても、これでも少しは変わろうとしてるんじゃ。儂を支えたいと躍起になる被身子を認めてしまった。儂に追い付こうと足掻く子供達に、少しは任せるようになってしまった。何もかも独りでやろうとしてた時とは、そこが違う。何もかもを頼りたいとは思っとらんけど、いずれは……いつかは。なんて、思い始めようとしている。

 この選択が正しいものなのか、間違いであるのか。それは分からん。どうせろくでもない事になると予感しているのも事実で、どうにかなるかもしれないと楽観しようとしているのも事実じゃ。

 

 ……何にせよ。この考えが正しいものかどうかは、まだ分からない。分からないから不安になる。情けない話、怖いとも思っとる。それを誰かに伝えるつもりは毛頭ないがな。これは隠しておく。そうしないと、もう儂は……きっと……。

 

「……意図は分かってあげられても、大怪我を負わせるような訓練には賛同出来ないね。もう少しやり方を考え直そう」

「訓練に怪我は付き物じゃろ。痛みの無い訓練が何の役に立つんじゃ」

「それもそうなんだけどね。でも君の場合、色々と過激過ぎだからね? あれじゃ全員潰れるのがオチさ。訓練強度は徐々に上げて行く形が良いかな、うん……」

 

 それでは、五月までに間に合わんじゃろ。厳しいようじゃが、潰れるならそれで構わん。潰れてしまえば、くらすめぇと達が危険な場に立つことはない。英雄(ひいろお)候補生として再起不能になる可能性も有るが、その時はその時じゃと思う。どんな形であれ、危険から遠ざかるのであれば潰れてしまっても良いんじゃ。

 ……まぁ、そんな淡い期待はどうせ打ち砕かれるんじゃろうけど。とんだ頑固者なんじゃぞ、あやつ等は。儂が叩き潰そうとしたところで、どうせ頑固なままじゃ。そこだけは信頼出来る。そこだけはな。

 

「とにかく! 明日の訓練までに考え直しておくこと!

 訓練内容については、一度は私を通すこと! 良いね!?」

「……うぅむ……。まぁ、……うむ……。一応、了承しておく……」

「じゃあお説教はお終い。今回は君の代わりに相澤くんに怒られてあげるけど、ちゃんと反省するように!」

 

 んんむ……。解せぬなぁ。お主じゃって相当滅茶苦茶してたと思うんじゃが? 切島を全身打撲にしたのは貴様じゃろ。何で儂だけが、こうも叱られねばならんのか。やはり解せぬ。

 ……とは言え。滅茶苦茶をやったのは事実じゃ。訓練強度を徐々に上げていくなんて真似は出来れば避けたい。が、次回もやり過ぎて訓練中止なんて事態になってしまったら、それこそ時間の無駄じゃ。歯痒くとも、ひとつひとつ積み重ねて行くべきなのかもしれん。おおるまいとの言うことは、一理有ると言えば一理有るからの。問題は、時間が無いってことなんじゃけど。

 

「……はぁ……。まったく……」

 

 一人であれこれ考えていると、儂を叱り終えた筋肉阿呆が去って行った。何だか疲れてしまって、ついしゃがみ込んでしまう。いや、しゃがみ込むを通り越して、座り込んでしまった。疲労感が凄まじい。くらすめぇと達に殺意を向けると、心労がな……。体力的にも少しは疲れているが、それよりも心が疲れ切ってしまった気がする。少しこのままゆっくりしてから、寮に戻るとしようかの。おおるまいとが去ってしまったので道案内は居ないが、まぁ何とかなるじゃろ。明日からの戦闘訓練について考えつつ、散歩がてら一人で歩くのも良いかもしれん。

 

 とにかく、今は一人で。……って。あぁ……。

 

 遠くに居る筈の被身子に少し意識を向けると、随分近い距離に居るような気がする。じゃって、被身子の居る方角が真下なんじゃもん。多分、儂が居る建物の一階辺りに居るんじゃろう。訳の分からん縛りのせいで、訳の分からん探知力を手に入れてしまったのぅ。嫌とは言わんけど。いつでも何処でも被身子を感じられるのは、何も悪いことじゃない。……筈じゃ。た、多分。

 

 なんて、思って居たら。

 

 

「円花ちゃんっ!」

「ちょっ、渡我先輩っ! 下手に動くと危ないから……っ!?」

 

 

 それはもう明るく元気で、しかも何やら楽しそうな被身子の声がした。同時に麗日の悲鳴も聞こえたが、そちらは気にしないでおく。どうせ被身子が何かとんでもない事をしたんじゃろ。それで、今度は何を……って。あぁ……。

 

 浮いとるわ。被身子が空に浮いとる。どう考えても麗日の個性じゃなこれは。しかもじゃ、何をどうしたのかは知らんが割りと勢い良く儂に向かって来ておる。次の瞬間にどうなるかなんて、火を見るより明らかじゃなぁ。仕方ないから、座ったまま被身子に一滴だけ血を飛ばしておく。制服に付着したのを確認してから、儂に向かって引き寄せる。そしたら麗日ごと、こっちに飛んで来おったわ。更に勢いが増したのは気のせいではないが、これはもう仕方ない。一応、呪力強化をしてじゃな? それから、ほれ。

 

「おいで」

 

 と、軽く両腕を広げておく。で、次の瞬間。麗日付きの被身子が、儂の胸に激突した。ぐぇええっ。

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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