待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
八百万・上鳴・青山は、それぞれが槍・鎖分銅・小刀の呪具を選んだ。八百万は棒術が得意じゃからとのことで、上鳴は何か思い浮かんだ事が有って鎖分銅を選んどった。で、青山については古びた呪具の中で最も輝いていたなんて理由で小刀じゃ。砂藤は儂の脇差じゃ。全員が呪具を選んだところで、軽く扱い方を教えてやった。武器の扱いに慣れた八百万と、脇差の振り方を教えた砂藤に関しては何も教えなかったが、上鳴と青山には軽くな。軽く。しっかりと教えようとすると時間が掛かってしまうし、明日の事を考えると任務を長引かせるのは得策ではないからの。ついでに、それぞれが選んだ呪具で試し斬りしておいた。特にそこらを彷徨いてた蠅頭を問題無く祓えたので、さっさと呪具退治を始めるとしよう。
……別に、さっさと済ませて被身子と触れ合いたいとかそういう意図は無い。無いからな??
おほん。ともかく、呪具の扱い方を教えてやったわけじゃ。それが済んでから、儂等は全員で駐車場から墓場へと向かった。門は閉じられていた上に鍵が掛かっていたので、跨いで通るしかなかった。
それがついさっきの話じゃ。で、現在。
「夜中のお墓って、やっぱ雰囲気ねぇ……?」
「く、くくく空気が冷たいっ……!?」
「いや、言うなってそういうの。肝試しじゃないんだから」
「大切な任務ですのよ。しっかりしてください」
上鳴と青山が勝手に震え上がって、砂藤と八百万が盛大に呆れた。何と言うか、まるで緊張感が無い。変に硬くなられるよりは良いんじゃけど、下手に怯えられても困る。ただの墓地じゃぞ? 何処に怖がる要素が有るんじゃ、まったく。もしや幽霊とか妖怪とか、そう言うのを信じとるのか? だとしたら残念じゃったな。その手の類のものは、全部呪霊や呪術って現実じゃ。非術師は、昔から目に見えぬものに過剰に怯えるよなぁ。まぁ呪術師とて、得体の知れないものは避けておきたいが。
「どぅどぅ。これから相手にするのは呪霊なんですから、お化けとか幽霊とは違いますよぉ。このくらいだったら、呪具でさくっと祓えますので」
「ま、マジか……。マジか……っ?」
「案外、幽霊や妖怪が信じられて来たのは呪霊が居たから……ってことなのかもしれませんわ。渡我先輩、非術師でも何かの拍子に呪霊を感知してしまうってことは……」
「ありますねぇ。だからこそ、お化けとか神様は信じられてるんですよ。基本的に、非術師に呪霊は見えませんから」
「つまりよ、幽霊やお化けってのは……実は呪霊だったってことでさ。そう考えたら、怖くねーかも」
「マジかぁ……。それはそれで、夢がね〜〜……」
……はぁ……。くだらん話で盛り上がるな。とまでは言わんが、もう少し集中して欲しいものじゃ。上鳴や青山が喧しいものじゃから、どうにも場の空気が軽い。気が抜けるというか、何と言うか。……っと。
「ほれ、集中しろ貴様等。出て来たぞ」
何度か両手を軽く叩き合わせつつ、一声掛けておく。墓場に入って数分も経っていないが、お出ましじゃ。そこら中にある墓石の陰から、蠅頭共が出て来おった。ついでに、靄が集まって人のような形になっていくの。遠目から見たら、死に装束を着た女やら男に見えなくもない。見たところ、雑魚にしか見えん。が、数だけは多いんじゃよな。一人で祓い尽くそうと思ったら面倒じゃけども、今回は五人で祓うからの。そこまで時間は掛からん筈……じゃ。多分な。
「ゆ、ゆゆ……幽霊……!?」
「ではなく、呪霊じゃな」
「えっ、あの……靄みたいなやつも……!?」
「呪霊ですねぇ。蠅頭よりは強いかもですけど、四級に届くかどうかって感じなのです」
「大したことはない。が、気を付けて挑めよ。手に負えんと思ったら儂に向かって走れ。
ほれ、各自祓って来い」
「……はいっ。行って参ります!」
「おぅ!」
指示を出すと、真っ先に動いたのは八百万と砂藤じゃ。それぞれ左右に分かれて、蠅頭やら靄呪霊やらに向かって駆けて行く。直ぐに消失反応が出たから、二人は順当に祓えとるようじゃの。蠅頭程度の雑魚呪霊相手に苦戦する理由は無いじゃろう。儂相手にある程度立ち回れる時点で、戦闘慣れしとると言えるんじゃから。
で。上鳴や青山はと言うと。
「げっ、外れたっ!?」
「わ、わーーっ!?」
蠅頭相手に振り回されとるようじゃ。んんむ、初めてじゃとしても八百万は順当に祓ってるんじゃけどな。砂藤じゃって、少しは脇差を振れている。たまに拳を突き出して蠅頭を無意味に吹き飛ばしとるが、この辺は普段から武器を使ってる者とそうでない者の差じゃな。反射で動くとなると、武器よりも肉体や個性を使ってしまう。この辺りは、直ぐに改善した方が良いな。と、なると……。
「ふぅむ……」
呪具の扱いも訓練に組み込むべき、なんじゃろう。たった数箇月程度で何処まで身に付くかは分からんが、やらない訳にもいかんか。呪力を得た悪党相手ならば呪具は要らんじゃろうが、次の戦いでは呪霊が出て来ないとも限らんからの。やはり、呪具の扱いも学ばせるべきか……。
「んんーー……。これは、しばらく苦労しそうなのです……」
「……じゃな。直ぐに慣れて欲しいものじゃが……」
そう簡単には行かない、じゃろうなぁ。せめて三級程度の呪霊までは楽に祓えるようになって欲しいものじゃが、それは高望みかもしれん。今は目標を蠅頭駆除程度にした方が良さそうじゃ。と、なると。
そこらを漂う靄呪霊は、儂が相手にするか。どれ、ひとまず赤縛で縛って余裕があったら皆に相手を。って、くそ。雑魚め。儂の血が触れた瞬間に消失しおって! これでは生け捕りなぞ不可能じゃ……!
「今日は危なそうなのだけ、ぱぱーっと祓っちゃいましょう。ねっ?」
「……、そうするしかなさそうじゃな……」
仕方ない。生け捕りは諦めて、靄呪霊は儂の方で祓ってしまおう。こんな雑魚じゃったら、赤縛すら必要無いじゃろう。目に付く奴等に、一滴二滴の血を飛ばすだけで十分じゃな。一応、何が有っても良いように穿血の準備はしておくが。ほら、もしかしたら猛者と呼べる呪霊が出て来たりするかも知れん。そう考えたら、準備はしておくべきじゃ。皆の安全の為に、そして儂が楽しむ為になっ!
◆
で。何時間も掛けて、儂等は墓場に居た呪霊を一匹残らず祓ったわけじゃ。恐らく靄呪霊が人的被害を出したんじゃろうけど、儂からすれば何の変哲も無い雑魚じゃった。あまりに弱過ぎて、途中から苛立つくらいには弱かった。術式も持ち合わせていないようじゃったし、何一つ楽しめなかった。猛者が出てくることも無かったしの。お陰で、いつも通りの酷くつまらん退屈な呪霊退治じゃ。
まぁ、儂はともかくとして。
八百万達には、少しは良い経験になった。と、思いたいのぅ。蠅頭を祓うだけでは大した経験にはならんかもしれんが、実際に呪霊に相対し祓う経験にはなった筈じゃ。呪具の扱いに関しても、少しは学べたじゃろう。特に上鳴と青山と砂藤はな。八百万は武器の扱いに慣れているから、おさらい程度にしかならんかったかもしれんが。
……ふむ。そう考えると、呪具の扱い方を教えるに当たって、八百万に手伝って貰うのも悪くないかもしれんな。基本的な武器の扱いを他の連中に伝授して貰うだけでも、儂は助かる。後で相談してみることにしようかの。変に感激されて、変に張り切られるような気がしないでもないが。
「うぇーい。ウェーイ」
「廻道、いつも一人でこれを……? 俺達、何時間ここで……?」
「……墓地に来てから三時間程、ですわ。呪霊とは、こんなにも数が多いものなのですね……」
「流石に、疲れちゃったよね……」
何じゃ。情けない奴等め。この程度で疲れた顔をするな、まったく。初めての経験とは言え、蠅頭相手にこの様子では先が思いやられる。……まぁ、慣れない呪具で三時間も雑魚を祓っていたと考えれば疲れても仕方ないのかもしれんが。見たところ体力は余裕でも、精神的に疲れてしまっているようじゃ。
「円花ちゃんだけなら、もっと早かったですよぉ。早く呪具の扱いや、現場の空気に慣れてください」
「そうじゃな。さっさと慣れろ」
それにしても。今宵の呪霊退治は、被身子が説明してばかりじゃの。そのうえ、忠告までしておる。しかも的外れな事は言っとらんし、補足する必要も無いと来たものじゃ。しばらくは忙しく、何処かしらで楽が出来るならしておきたい気持ちも有るには有るが、……んんむ。
被身子が儂の事を支えようとしてくれるのは、……嬉しい。嬉しいんじゃけども、こやつも色々と忙しい身じゃ。好きにさせてやるつもりじゃけど、頼り切ってしまうのは良くないのぅ。過労で倒れて欲しいとは思わんし、しっかりと息抜きをさせねば。普段から甘やかしている自覚は有るが、もう少しだけ甘やかしても良いかもしれん。
「ウェーイ」
……ところで。すっかり上鳴が阿呆になってしまっているのぅ。群がって来た蠅頭相手に驚いて、大放電をしてしまったからじゃ。相手が人間ならそれで良かったかもしれんが、呪霊じゃからの。眩しくなるだけで牽制程度にしかならんかったし、反射的に個性を使ってしまったという点では青山や砂藤も同じじゃ。八百万だけは、一度も個性を使わずに呪霊退治を乗り切って見せた。墓石を傷付けぬように古びた槍を振り回す姿は、そう悪いものではなかった。少しは褒めてやっても良いかもしれん。
とにかくじゃ。今日の呪霊退治は終わり、これから寮に帰る。阿呆となった上鳴を後部座席に押し込ませて、後は全員で車に乗ってしまえば良い。実際に呪霊退治を経験した八百万達からの質問なんかは、車の中で済ませるとしよう。
そうと決まれば、帳を上げておく。それから車に乗ると、被身子が腕を絡めて来おった。仕方ないから手を繋いで、座席に深く腰掛けておくとしよう。
「で、実際に祓ってみてどうじゃった?」
「……呪術師の数に対して、呪霊の数が多過ぎると思いました。蠅頭を祓うのは容易ですが、今回のような退治を日本各地で行うと考えたら人員不足や退治効率の悪さが目立つかと」
「これじゃ廻道もオールマイトも、授業どころじゃなくなるよなぁって。これ、どうにかなんねーのか?」
「緑谷くんを含めても、たった三人じゃ手が足りないよ!」
ん、んん……? いや、儂は呪霊退治の感想を聞きたかったんじゃけどな。なんで全員、呪術師の人手不足について言及しているのか。何なら全員、お冠のようじゃ。総監部に対して不満を抱いているの。まぁ人手が足らんのは事実じゃけども、こればっかりは直ぐにどうにかすることは出来ん。一応、一部の
結局のところ。人手が増えるまでは儂やおおるまいとで何とかするしかないのぅ。鈍足じゃとしても、呪霊対策を一から築くしかないんじゃ。そうなった原因は、あの背広男が殆どの情報を盗み出したからじゃな。死んだくせにいつまでも迷惑を掛けおって。何なんじゃあやつは。面倒この上ない。
「まー、円花ちゃんばっかりが忙しいのは納得出来ないですよねぇ。トガもそこはどうかと思います」
「……すまん」
「円花ちゃんが謝ることじゃないのです。総監部の動きが遅いのが問題なの」
「……フォローする訳じゃないが、組織を一から立ち上げてるんだ。万全な体制を作るには、どうしても時間は掛かる。何もしてないって訳じゃないだろうから、もうしばらく待ってやりな」
「それ、何年掛かるんです?」
「さぁな。五年か十年か、それ以上か。今直ぐにってのは、無理だろ」
……まぁ、こればっかりは仕方ない事じゃ。儂も今直ぐどうにかなるとは思っとらんしの。体制が整うまでは、呪術師として動ける者が苦労するしかない。昔から呪術師の数はそう多くないものじゃけど、それにしたってこの時代は少な過ぎる。日本全土で百人ぐらいは居ても良いんじゃないかと思うんじゃが、見つからないんじゃよなぁ。
そもそも。前々からずっと思ってる事じゃが、この時代は呪霊の数が多過ぎる。呪術師が居ない故に数が増えて行ったんじゃろうけども、それにしたって多過ぎるのでは? そもそも、儂が産まれ直す以前は呪霊被害やその対策をどうしてたんじゃろうな。この辺りの事は五条家が遺した書物に書いてあったりしないかのぅ。平成からこの時代まで記録を遺し続けてたんじゃから、何かしら書いてあっても良いとは思うんじゃが……。
「せめて蠅頭退治ぐらいは、私達やヒーローでお手伝い出来れば良いのですが……」
「……ひいろおは良いが、お主等は駄目じゃ」
恐ろしい事を言わないで欲しい。今の儂の状況をどうにかしたいと思うのは構わんけども、じゃからって呪霊退治をしようとするのは許さん。今日のように儂が引率するなら許してやらんでもないが、儂の目に入らぬところで呪霊退治は許さん。言語道断じゃ、そんなの。
「んー……。まぁ、蠅頭だけでもみんなが手伝ってくれたら少しは楽になりますけど。でも、円花ちゃん的にはNGですよぉ。私としても反対なのです。これは全員、ちゃんと覚えておいてくださいね」
「……分かり、ました。でも廻道さん、渡我先輩。何故駄目なのか、それを教えてくれませんか?」
「えーっと、呪術師に等級が有るように呪霊や任務にも等級が有るんです。一番下で四級、一番上は特級って感じで。任務毎に割り振られてる等級が、必ずしも正しいとは限らないんですよ」
「……四級の任務に赴いたら、実は二級相当だった。なんてことが起こるんじゃ」
「そうなんですよぉ。蠅頭程度なら呪具だけで簡単に祓えますけど、二級とかになってくるとそうも行かなくって。もしも一級や特級にエンカウントしちゃったら、直ぐにお陀仏です」
そう。任務は必ずしも、等級通りの難易度ではない。時には等級以上の呪霊が出て来て、呪術師が全滅する事態になり得る。蠅頭を祓うだけの任務じゃとしても、いつ何処で等級の高い呪霊が飛び出してくるか分からん。それを知っとるから、くらすめぇと達だけで任務に行かせることは出来ん。大抵の呪霊は儂より弱いから、儂が同行するのであれば任務に出ても良いが……。
「……それって、廻道さんだって危険なんじゃ……!」
「そうですよ? でも円花ちゃんは特級呪術師なので。実は呪術師の中で、一番等級が高いのです!」
「だとしても、心配になるって。何か俺達に出来ることは無いのかって、思っちまう」
……はぁ……。まったく、どいつもこいつも隙あらば儂の心配しおって。そういうところじゃぞ? そういうところがじゃなぁ……。と、文句の一つや二つを口走りたくなる。が、これはもう仕方ないのかもしれん。
「……そんな余裕は貴様等には無いじゃろ。儂の状況を気にするより、自分達の心配をしたらどうじゃ?」
「……そうかもしれない、けど。そうだと思うけど。でも、廻道さんだって呪術師をやりながらヒーローをやってるじゃない」
「儂は呪術師じゃ。ひいろおなぞ、やっとらん」
「でも、ヒーロー科だ。……僕は、君がヒーローだって思ってる。クラスのみんなも、きっとそうだから」
「……んん……」
ん、んんむ……。それは違うんじゃ青山。これについては、すまんとは思っとる。じゃって約束を違えとるのは儂じゃから。
それに、ややこしい事に儂は
……まぁ、これについては後で考えよう。今は置いておく。
「廻道さんは、ヒーローだよ。とっくに凄いヒーローで。だから、……みんな追い掛けてるんだ。
でも、ヒーローだけど友達だから。みんなのお友達だから、心配しちゃうんだ」
「……んんむ……」
いや、まぁ……。うぅむ……。
急に何じゃ、青山。よく分からん奴じゃとは思っていたが、急に様子を変えて語り出すな。何か言いたげな目で語るな。今話している事以外に、何か言おうとしてる事が有るようにも思える。思い返してみれば、儂に追い付くことに精力的なのはこやつじゃったっけ。くらすめぇと達が一目置くぐらいには鍛錬を頑張ってたらしいの。それでも儂には未だ届かんが、個性の伸び具合は中々じゃ。今日の訓練じゃって、こやつの光線は中々に強かったからの。
「廻道が幾ら強くっても、だからって心配しねーってわけじゃねえんだ。……だからほら、手伝えることがあったら何でも言ってくれよ?」
「そうですわ。私達は未熟ですけれど、まだまだですけれど、少しでも廻道さんのお役に立てればと。……そう思いますから」
「……はぁ……。まっこと、仕方のない奴等め……」
この頑固さは、被身子のそれと何ら変わらん。諦めるってことを知らんのか。被身子みたいに押し続ければ、いつか儂が折れると思っとるんじゃなかろうな? 言っておくが、そう簡単には折れてやらんぞ。
ただまぁ、せっかくじゃ。手伝いたいとか、役に立ちたいとか言ったのは貴様等じゃ。ここには砂藤も居ることじゃし、手伝って貰おうかのぅ。一応、被身子の両耳を手で塞いでからじゃな?
「じゃあ、ちょこれぃとの作り方を教えてくれ。被身子にあげたいんじゃ」
「は?」
「へ?」
「はい?」
「じゃから、ばれんたいんに……ちょこをじゃな……?」
おい、何じゃその顔は。何で上鳴以外の全員が、豆鉄砲を喰らったみたいな顔をしとるんじゃ。しかも徐々に呆れ始めおって。何じゃその態度はっ。
貴様等が! 手伝いたいとか、役に立ちたいとか、言ったんじゃろうがっ!?
年内更新は多分12月頭の分で終わりです。ここ直したいなぁって部分が多々あるので、そちらの修正があるかもしれません。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ