待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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教えの時間。早朝の運動

 

 

 

 

 

「んふふ……♡ 円花ちゃん、円花ちゃん♡」

「ぐえぇっ」

 

 ひとまず今日の予定を全てこなして英雄(ひいろお)科の寮に戻ったのが夜中の一時。入浴を済ませ、軽い夜食を済ませた後で部屋に戻ると被身子に押し倒された。布団が無ければ背中が痛かったかもしれん。流れるような動きで寝間着を乱されとるが、まぁそれは良い。抱き締めるついでに肩や脇腹を撫でられとるのも、良しとする。接吻(きす)も許そう。足の間に膝を差し込んでるのも、首を吸うのも駄目とは言わん。じゃけど、その。したいって気持ちは、重々分かるんじゃけども。儂じゃって、いつもみたいにしたいとは思っては居るんじゃけども。それでも今回ばかりは、今度こそは。……んんむ……。

 

「……す、すまん。今宵は、駄目じゃ」

「えぇーー……っ」

 

 前提として、断りたくないんじゃ。被身子がしたいなら、応えたい。いつも通りに求め合って、朝まで愛し合って過ごしたい。そしたら寝て起きて、任務に行って。そんないつも通りを過ごしたい。いつも通りに流されて、最終的に滅茶苦茶にされたい気持ちは確かに有る。

 じゃけど、その。残念じゃけど、(まこと)に残念なんじゃけど、しばらくはいつも通りには出来ん。まっこと、残念でならないんじゃけど。

 

「その、……訓練があるじゃろ? 朝から全員走るのに、儂が寝てるわけにはいかんし……」

 

 くらすめぇと達を、出来る限り鍛えると決めたんじゃ。その上で、儂自身も鍛えたい。呪具作成のこともあるし、くらすめぇと達に色々と教えねばならんし、任務も有る。被身子との時間は大切で、疎かにしたくない。けれども流石に、いつも通りでは身が持たなくなるかもしれん。じゃからその、時には……我慢せねばならん……と言うか……。

 

「むーー……っ。急にお預けなんて酷いのです! 毎晩してるじゃないですかぁっ」

「そ、そうじゃけど。儂もしたいんじゃけど、でも……」

「セックスレスは夫婦の関係に亀裂が入るのですっ。コミュニケーション不足ですっ!」

「ん、んん……」

 

 こうなるとは、分かっていた。少し考えれば、いや考えずとも分かることじゃけど。被身子はすっかり不満そうにしていて、すっかり怒っている。そんな顔をして欲しいとは思わないんじゃけども、今回ばかりは許して欲しいと言うか、分かって欲しいと言うか。申し訳ない気持ちでいっぱいじゃし、何より被身子には笑って居て欲しくて。じゃからその、つい流されそうになってしまう。やはりいつも通りにして良いのでは? と、頭の片隅で考え始めてしまう。

 

「す、すまん……。その、今は忙しいから。朝までは、流石に……」

「じゃあ、短時間なら良いんですか?」

「……いや、その……」

 

 まぁ、短時間……なら? いや、いやいや。短時間でも良くない。じゃって少しでもしてしまったら、間違いなく朝までしてしまう。いつものように、これでもかと滅茶苦茶にされてしまう。それは良くない。何とかして避けねばならん。

 

「たぁくさん滅茶苦茶にされたいのに、短くて良いんですか?」

「そういう言い方は、狡じゃろ……」

「チウチウされたらその気になっちゃうのに、我慢出来るとは思えないのですっ」

「ぐ、ぐぬぬ……」

 

 それはその通りじゃけども。ちうちうされたら、我慢出来る気がしない。今じゃってあちこち撫でられて、膝先で擦られて、どんどんその気になってる最中じゃ。とは言え、今回ばかりは流石に。こ、今度こそはどうにか、何とか被身子を言い聞かせねば……! ど、どうやって……!?

 

「じゃあ、しばらくはポリネシアンにしましょうか♡」

「な……っ! いや、それは……っ」

 

 い、いかん。それはそれで、まっこといかん。ぽりね……とか言うのは、実は一度した事がある。被身子の興味本位に付き合う形で実践してみたんじゃけども、あれは何と言うか……凄かった。凄かった、と言う感想しか覚えとらんぐらいに、凄まじかった。じゃって、お互いに我慢するのが大変で最終的には物凄い事に……。あ、あれをもう一度やる? まことに??

 

「日曜日に一日中してくれるなら、我慢しますよぉ♡ これなら平日はちゃんと寝れますし、朝に起きれますよねっ!」

「ぐ、ぐぬぬ……。ぐぬぬぬ……っ」

 

 いや、まぁ確かに……? いやしかし、我慢するのは大変なんじゃぞ。お主じゃって、三日ぐらいしたら我慢の限界じゃったくせに。儂も四日目辺りで、翌日が待ち遠しくて仕方なくて。でもあれ以来、二度目はしとらん。じゃってその、儂等には向かないと言うか。出来なくはないが、その後が物凄いと言うか。これからは、あれを毎週やる……? しょ、正気か??

 

「それとも、バレンタイン当日まで我慢出来ます? 出来ないですよね? 円花ちゃんだって、すっごくえっちですから!」

「……えっちなのはお主もじゃろ。へんたい」

「そんな風にしたのは、円花ちゃんですけどねぇ♡」

「……うるさい。阿呆、たわけっ」

 

 誰が凄くえっち、じゃ。儂をそうしたのはお主で、お主は元からえっちじゃろうが。子供の頃から、散々儂を好き勝手にしとるくせに。何年も何年も、夜になったらしとるくせに……! 夜じゃなくとも、したいと思ったらするくせに……っ!

 

「どうします? するなら、我慢してあげても良いんですけど」

「……っ、へんたい。えっち。被身子の阿呆……っ!」

「んふふ。じゃあ……、同意ってことで良いですよね♡」

 

 ……っ。こ、この……! また調子に乗りおって! 良いじゃろう、すれば良いんじゃろすれば! その、ぽりね……何とかとか言うやつをしたら良いんじゃろっ!! どうなっても知らんからな!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何と言うか、とんでもない縛りを結んだような気がする。いや、別に縛りにはしとらんけども。そのお陰……? で、昨夜は珍しく被身子と求め合わないで寝ることが出来た。既に今日の夜が恐ろしいような気がするが、いったん考えないでおこう。これから早朝の走り込みなんじゃから。

 三時間ばかりではあるが睡眠を取った後。儂は着替えやら朝食やら歯磨きやらを済ませて、寮の居間に顔を出した。すると、すっかり準備を終えたくらすめぇと達全員が目に入った。朝にしては騒がしい気もする。まぁ舎弟は居ないんじゃけども、その代わり一人……見知った顔が居るの。

 

「おはよう廻道くん! 君で最後だ! 改めて説明するが、今日からの走り込みに心操くんが参加することになったぞ! 留意してくれたまえ!!」

「……んむ、おはよう。朝からうるさいのぅ、お主は……」

 

 相変わらず喧しい。確かこやつは、おおるまいとと呪霊退治に行ってた筈なんじゃけど。少しばかり寝不足の頭に響く。が、元気なのは良いことじゃ。これから二時間は走るんじゃから、体力が残ってないようでは困る。一応、八百万や上鳴。それから青山と砂藤の様子を見てみるが、……うむ。少し眠たそうにしているが、まぁ大丈夫じゃろ。若い内は何をしても死なんしな。そこは前世で実証済みじゃ。

 

 で。朝から喧しいのは、心操が参加したからか。何故こやつが? と思わんでもないが、考えてみれば相澤の弟子じゃったな。英雄(ひいろお)志望で、来年にはまず間違いなく英雄(ひいろお)科に移籍してくるとか言っておったかの。であれば、今から基礎体力向上を図るのは何ら間違いではない。一応、気に掛けてやるとするか。期末試験では、しっかりしとったしな。見込み有り、ということにしておいてやろう。

 ……それはそれとして。何じゃ心操。儂に向かってくるのは構わんが、あまり近付くと後で被身子が大変じゃぞ。今は食堂で洗い物をしとるから大丈夫じゃとは思うが、見られたらそれはもう大変なんじゃが? って、あぁ。そういう事か。挨拶としてはどうかと思うが、乗ってやるとするか。心操の後ろで、儂の様子を窺ってる奴が何人か居ることじゃし。

 

「……おはよう。相澤先生の指示で、朝の訓練だけ参加することになった。色々教えてくれ」

「うむ、おはよう。まぁ朝の訓練は走るだけじゃけどな」

「……!」

 

 よし。大丈夫じゃの。呪言の対処法と同じじゃ。脳を呪力で守れば防げる。反転術式(はんてん)を回しながら呪力で脳を守るのは少々難しいが、取り敢えず何とかなったようじゃ。

 

「げっ、マジ……!?」

「個性使わなかった、ってわけじゃねーよな……。マジか……」

「上鳴、瀬呂。儂を試したいなら、午後の訓練は手抜き無しにしておこうかのぅ」

「ゲッ!? い、いやごめん廻道……!」

「ほらー、だから言ったじゃん! どーせ効かないって!」

「どうやって防いで……?」

「来ると分かれば対処出来る。それと心操、分かり易いからそこは工夫しておけ。……ふわぁ」

 

 朝からつまらん真似をさせおって。もう少しこう、楽しませて欲しいものじゃ。昨夜の任務はいつも通りの退屈じゃったし、そもそも早速欲求不満なような気が……。いやいや、一晩しないぐらいで何を考えているのやら。すっかり染められてしまっている。別に悪い気はしないが、何と言うかこう……。こう。

 さて。挨拶もそこそこに、走り込むとしよう。時間にすればたったの二時間じゃけど、長時間走るのは久しぶりじゃ。くらすめぇと達はもちろん、儂自身も基礎体力を向上させておきたい。可能なら朝から晩まで手合わせしたいところなんじゃけど、生憎とそうも行かん。

 くらすめぇと達に心操を加えられた形で外に出ると、相変わらず寒かった。動いとる内に暖まるから良いんじゃけど、室外に出たこの瞬間だけはどうにも冷える。

 

「ほれ、各々走れ。個性を使っても良いぞ?」

 

 両手を軽く叩き合わせて、我先にと駆ける。最初の内は軽くな。呪力強化や術式を使っても良いんじゃけど、基礎体力向上の為の走り込みじゃからの。黙々と走った方が良い筈じゃ。くらすめぇと達の中には移動の為に個性を扱えない者も居るから、儂はそっちに合わせるとしよう。まずは一時間、駆け抜けるとするか。

 

「ちょっ、待って廻道さん……! 何処に向かって走るつもり……!?」

 

 何故か緑谷が悲鳴を上げた。何処って、それは特に決めとらんけど。とにかく一時間走るだけなのに、何処に向かうも何も無いとは思うが。

 

 で。この後。くらすめぇと達が儂の後ろを付いてくる形で、まずは何(きろめぇとる)もひたすら走った。後で「何処に向かって走るか分からないから怖かった」だの「二度と先導しないで欲しい」だの言われたのは解せなかったが。何故朝から方向音痴扱いされねばならぬのか。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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