待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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教えの時間。緑谷と稽古、そのいち

 

 

 

 

「う、うわっ!? ちょっ、そんな急に……っ!!」

 

 ひとまず。今日は許して貰えたので、緑谷に稽古を付けることにした。外に出て、少し呪術科の寮から離れたところで両手を叩き合わせて狙いを定める。すると、緑谷は直ぐに個性を使って儂の周りを跳び始めた。木の幹を蹴ったり、黒鞭を使って上下左右に高速で跳び続けている。何をそんなに慌ててるんじゃ、たわけ。稽古をする為に外に出たんじゃから、こうなる可能性も考えておけ。呪詛師は待ってはくれないんじゃぞ。急に襲ってくることじゃって有る。

 

 じゃから、加減無しで穿血を放つ。

 

「っあ゛っ゛!?」

 

 おっ。辛うじて身を捩り、貫かれることだけは回避しおったわ。不意に放たれた穿血を、脇腹を掠る程度で済ませたのは褒めてやらんでもない。が、動きを鈍らせたのは駄目じゃな。

 直ぐに腕を振り、穿血の軌道を変える。狙いは胴体じゃ。血の軌道が変わると同時、緑谷は左手で黒鞭を伸ばしつつ、右手の指を弾いた。結果、体の位置は変わり儂の血は弾き出された空気にぶつかって弾けたの。更に、黒鞭が儂に迫る。から、首を傾けて避けておいた。

 

「スっ、マーーッシュ!!」

 

 直ぐに飛び蹴りが飛んで来た。どうやら儂に当てる為に黒鞭を放ったのではなく、儂の後ろにある木を掴む為に黒鞭を放っていたようじゃ。それを引き寄せて、加速しつつ突っ込んで来た。受けてやるつもりはないから、身を低くして跳び蹴りを避ける。すると、鈍い音が後ろから聞こえた。振り返ると、そこにはもう緑谷の姿は無い。ふむ、中々に速い。中々な。まだ目で追えん程ではないが、いずれはもっと速くなるんじゃろう。

 真上を見上げれば、儂を跳び越す姿が見えた。着地を狙って血を放つが、空気弾で撃ち落とされたわ。

 

「エア、フォースッ!」

 

 その場で蹴りを放ちおった。から、真上に跳んで突風を避ける。すると、四条の黒鞭が飛んで来たから、全て苅祓で斬り落とす。そのまま着地しようとすると、もう緑谷が儂に迫っていた。大振りの蹴りが下から来たから、それを利用してもう一度跳ぶ。……おぉ、思ったより高く跳ぶ羽目になったの。やはり随分と個性を引き出せるようになっとるようじゃ。とは言え、個性だけでは意味が無い。

 

「おい、呪力を使え。これは呪力操作を良くする為の訓練じゃぞ」

「分かっ、た!」

 

 緑谷が呪力を纏った。儂も呪力を纏うが、同時に緑谷が儂を追うように跳びおった。動きが一段と速くなっておる。さっきよりも速く、今度は拳が迫る。打撃の軌道はしっかりと見えているが、受けるには不利な状況じゃ。血を使い無理矢理右に避けると、髪を掠った。って、おっ?

 

「ご、めんっ!!」

「ぬおっ」

 

 髪を掴まれ、ぶん投げられる。手を離される前に髪を斬り落としたものの、勢いが付いてしまったのは変わらない。受け身取って跳ね起きつつ、まだ宙に居る緑谷に向かって血を飛ばす。投げられそうになった仕返しに苅祓や赤縛を波状に幾つも放つと、蹴りやら空気弾で迎え撃たれた。が。

 

「ぐぎ……っ!」

 

 苅祓の一つが足を斬った。赤縛が腕と胴体を縛り上げた。再び両手を叩き合わせると、溢れ出る呪力が赤縛を千切った。が、少し遅いな。呪力量はともかくとして、放出も精度も悪い。

 

「デラウェア・スマッシュ、エアフォース!!」

 

 穿血を放った瞬間。呪力を纏った空気弾が五つ放たれた。それは纏まって穿血にぶつかり、爆ぜる。呪力と空気が炸裂した結果、穿血の先端が弾け飛んだ。結果、穿血の到達が僅かに遅れた。寸でのところで緑谷は黒鞭を使い、半ば無理矢理な形で右に飛ぶ。

 ……ふむ。ある程度、宙を好き勝手に動けるようになっとるの。舎弟程に自由自在ではないが、それに近いように思える。元々舎弟のように空を跳んでいたわけじゃが、増々似てきたような気がする。後は、穿血を完璧に躱せれば文句無しじゃが……まだ高望みか。とは言え、少し期待しとる部分も有る。と言うのも、昨日の訓練で緑谷は儂の想定より速く跳んで来た。何せ左腕を蹴り折ったぐらいじゃ。

 あれだけの速度を出せると言うのなら悪くない。むしろ良い。もう一度同じように跳んで欲しいぐらいじゃが、まだあれだけの速度を出そうとしとらん。何か下準備が要るのか、或いは梅雨に加勢する為に許容量以上の力を無理に引き出したのか。どちらにしても、あれだけの速度が出せるならさっさと出せ。

 

「っ、ぁあ゛っ!」

 

 今度は距離を詰めて来た。跳ぶ瞬間に空気が爆ぜた。さっきよりも動きが速い。個性と呪力を合わせた結果、まるで空気を足場にして跳んでるかのようじゃ。振り被った拳が見える。が、狙いは分かり易い。身に纏う呪力を見れば、何をしたいのかよく分かる。まずはこの辺りの改善からじゃな。

 

「スマーッシュ!!」

 

 殴ると見せ掛けた、回し蹴り。それを身を屈めて避けると、人など吹き飛ばせそうな突風が吹き荒れた。が、そもそも儂は突風の影響を受ける位置に居ない。

 

「呪力が、雑じゃっ!」

「んぎっ!?」

 

 蹴りを外し隙を晒した緑谷に、拳を叩き込む。動きそのものは悪くない。良くなっとると言って良い。じゃけど、呪力の流れが見え過ぎるのは問題じゃ。鳩尾を殴り抜くと、そのまま二転三転と転がる。それでも直ぐに立ち上がろうとして、途中でよろめいた。体勢を立て直そうとしたものの、膝を付いてしまったの。

 

「うっ、おえ……っ!」

「……はぁ……。軟弱者め……」

 

 鳩尾を殴られたから何じゃ。そんな程度で吐くな。急所を貫かれた程度で動けなくなってしまうのは、如何なものか。まぁ痛みへの耐性は人それぞれじゃけども、呪術師としても活動するつもりなら痛みに怯まないようになれ。まったく、情けない。もう少し続けたいところじゃが、無茶をさせては午後の訓練や夜の任務に影響が出てしまう。まだ数分程度しか手合わせしとらんが、今日はこれで勘弁してやろう。

 

「被身子。すまんが……」

「はぁい。早かったですねぇ」

「見ての通り、まだ軟弱じゃからな」

 

 少し離れたところで木の根元に座っていた被身子に声を掛けると、膝上の印刷紙(ぷりんと)束や手に持っていた(ぺん)を横にどけて立ち上がった。小走りで緑谷に近寄って、直ぐに反転術式を施し始める。……せっかくじゃから、少し観察してみるとしよう。見取り稽古ってやつじゃ。僅かでも反転術式(はんてん)を人に施す方法を知れればと思ってのことなんじゃが、……ううむ……。

 

「円花ちゃんに本気で鳩尾を叩かれたら、大抵の人は緑谷くんみたいになるのです。呪力、思いっきり込めてたじゃないですか」

「……まぁ、本気じゃったけども」

 

 んんむ。やはり分からん。儂の目には、反転術式が被身子の身体を流れているようにしか見えん。何でそれで、他者に反転術式を施せるのか。被身子が出来るんじゃから、儂にじゃって出来ても良いじゃろうが。解せぬ。

 

「あ、ありがとうございます。反転術式、やっぱり凄い……。これは、早く使えるようにならないと……!」

「そうですよぉ、早く使えるようになってください。まぁでも、緑谷くんの場合は呪力操作の向上からなのです。トガにも見え見えって、結構駄目駄目だと思うので」

「うっ、は……はい。まずは呪力操作を丁寧に。ひとつひとつ、やって行きます……っ!」

「当面の目標は、呪力の流れを見せないことじゃ。それが出来れば、動きを読まれることはない」

 

 現状。緑谷は呪術師としては三流も良いとこじゃ。呪力の流れが見え見えである以上、次の動きが分かり易いからの。まぁこれについては、仕方ない部分も有る。わん・ふぉお・おおるの歴代継承者達から呪力を使うなと警告されて、一時期は呪力を使わないで居たからの。その間は個性操作に注力してたからこそ、空気弾や黒鞭を扱えるようになった。うっかり許容量を越えた力を出してしまう、なんてことも無くなっとる筈じゃ。誤って自分の手足を壊す、なんて事態はそうそう起きんと思いたい。

 

「と、言うわけで。今日の稽古はお終いにしましょうっ。呪力操作の鍛錬は、独りでやるかオールマイトとやってください!」

「いや、勝手に……。まぁ、良いか……」

 

 緑谷ばかりに時間を使う訳にもいかんから、今日はここまでにするしかない。明日、どこかで時間が空いたらまた稽古を付けてやるとしよう。ついでに、おおるまいとの奴に稽古を付けろと言っておくか。呪力操作を向上させるだけならば、何も儂が付きっきりで見てやる必要も無いし。

 

 それにしても。やはり体重が軽いのをどうにか出来ぬものか。空中では身体の一部でも掴まれてしまうと、簡単に投げられてしまう。地面に立ってたって、力尽くで来られると分が悪い。緑谷のように筋肉を鍛えるべきなんじゃろうけども、この体は筋肉も付き難いんじゃよな。柔らかさについては文句無しなんじゃけどなぁ。

 

 ……とにかく。一度寮に戻って、再び呪具作成に取り掛かるとしよう。さっさと試供品を用意して、それが済んだらくらすめぇと達の要望通りに呪眼(のろいまなこ)を作らねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふぅ。呪具作成は疲れるの。今日は朝から走ったし、緑谷に稽古も付けた。体力的にはいつも通りとは言えぬ状況で、神経を使う作業をこなすのは面倒じゃ。とは言え、これは儂にしか出来んことじゃからの。他に問題が有るとすれば、一日に何時間も慎重に呪力を流し込む作業を続ければならんということ。

 実のところ、儂の呪力効率は産まれ直してからの鍛錬で前世よりも遥かに良くなった。自己補完の範疇で、常に反転術式(はんてん)を回してるんじゃから呪力効率が良くなるのは当然じゃ。ついでに反転術式の精度や効果も伸びている筈じゃし、六眼程とまでは言わんがそれなりの効率になっとるじゃろう。せめて両面宿儺程になれていれば良いんじゃけども、どうじゃろうな。比較する相手がおらんから分からん。今度母に見て貰うか……? いや、身重の身にあれこれと頼むのは気が引ける。今は安静にしてて欲しいからの。出産が済んで落ち着いたら、聞いてみるとしよう。

 

 まぁ、要するにじゃ。儂はそれなりに呪力効率が良い筈じゃから、何時間も呪力を流し込んでも問題は無い。反転術式(はんてん)を回し続けている以上、呪力放出までも自己補完の範疇で済ませるのは流石に無理じゃけどな。

 

「んーー……っ! ちょっと一息入れましょう。もう二時間も通してるのです……!」

 

 長椅子(そふぁ)に腰掛けて印刷紙(ぷりんと)束に向き合っていた被身子が、体を伸ばしながらそう言った。もう少し続けたい気もするが、休憩は大事じゃ。息抜きはしっかりしないと、疲れてしまう。午後の事を考えると、休める時には休んでおかねば。

 呪力を流すことを一旦止めて、椅子を回して振り返る。すると。

 

「はいっ。こっち来てください」

 

 両腕を広げながら満面の笑みを浮かべおった。まったく、そんな顔をされた断る理由が無い。椅子から立って長椅子(そふぁ)に近付き、膝を付いて被身子の膝を跨ぐ。真正面に近寄って肩に手を置くと、直ぐに抱き締められた。から、抱き締め返しておく。

 

 うむ。やはり抱擁(はぐ)は良い。被身子と抱き締め合っていると、とても落ち着く。人前でこんな真似をしたら周りが喧しいが、今は二人きりじゃからの。さっきまで緑谷が居たんじゃけども、たまたま寮に戻って来た筋肉阿呆に稽古を頼んでの。今は外で稽古しとるようじゃ。さっきから、何やら鈍い音や緑谷の悲鳴が聞こえて来とるし。でも何処か楽しそうじゃから、しばらくは放っておこうかの。

 

「そう言えば、お主は何をしとるんじゃ?」

「根津校長から出された課題なのです。今は円花ちゃんに集中したいから授業に出れませんって言ったら、じゃあ授業は出なくて良いけど代わりに……って感じで」

「……あぁ、なるほど。……なるほど?」

 

 ……儂に集中したいから、授業に出れない……? 何を言いに行っとるんじゃ、こやつ。何でそんな要望を、根津校長はあっさりと聞き入れたんじゃ。いったい何を考えてるんじゃ、あの鼠は。被身子も被身子で、何を考えてるんじゃっ。

 

「インターン延長をお願いしたんですよぉ。トガは円花ちゃんの補助監督なので!」

「あぁ、そういう……」

 

 な、なんじゃ。そういう事か。そういう事なら良しとしよう。特待生剥奪、なんてことにもならなさそうじゃし。

 

「だから、山程課題をやっつけなきゃいけないのです。ぎゅうぅ〜〜っ!」

「んぐぐぐ……っ」

 

 じゃから、力いっぱい抱き締めるな。息がし辛くなるじゃろ、まったく。何でいつもいつも、抱擁(はぐ)に全身全霊なんじゃ貴様。駄目とは言わんけど、もう少しこう手加減というものをじゃな??

 

「でも、一日中ずっと一緒です! 嬉しいですか? 嬉しいですよねっ」

「……そうじゃけど」

「んふふ。イチャイチャしながら、頑張りましょうねぇ」

「んむ。そうじゃな。……ん」

「んん……。ふふっ、すっかり積極的で嬉しい……♡」

 

 そうなったのは、お主のせいじゃけどな。抱擁(はぐ)とか接吻(きす)とか、今となっては何時しても良いって思えるようになってしまった。何処でも、……は、まだ少し考えものじゃけど。人前じゃと、少し気恥ずかしい。何より、周りが騒ぎ立てるからのぅ。座敷牢に放り込まれるのは避けたい。避けようのない時も有るが、出来れば避けたい。出来れば。出来るとは言っとらんが。

 って、こら。何処に手を入れとるんじゃっ。そういうのは、今週は週末までお互いにお預けじゃろっ! どうして隙あらば儂を辱めようとするんじゃ貴様ぁ……!

 

 

 

 

 

 





三人称による補完は要りますか?

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