待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「やっぱり、呪具作成を出来るのが円花ちゃんだけなのが問題なのです」
昼飯を食べてる最中に、どうしようもない事を被身子が口走った。確かに一理有るが、こればっかりは仕方ないことじゃとも思う。おおるまいとにしろ、緑谷にしろ、呪具を作れるだけの呪力を持っていない。長い時間を掛ければ作れるんじゃろうけども、それなら儂が作った方が遥かに早いからの。発目が作り上げた
つまり。呪具作成については、儂がやるしかないんじゃ。
「それは仕方ないじゃろ。他の誰に作れるんじゃ」
「まぁそうなんですけどぉ。でも呪具作成って、どうしても時間が掛かりますよね。そこを減らせたら、もう少し余裕が出来るじゃないですか」
「……そうじゃけど」
確かに呪具作成の時間を短縮出来れば、もう少し時間が取れる。その時間を休憩に使っても良いし、儂自身の訓練に使っても良い。くらすめぇと達の訓練の為に色々と考えるのも良いの。まぁ要するに、すべき事がひとつ減るだけでも大きく変わる。じゃからって、直ぐに儂程の呪力量を持った呪術師が見付かる訳じゃないんじゃけど。総監部も呪術師の素養がある者を探しては居るが、そちらについては難航しとるようじゃの。他の呪術師が姿を見せるのは、いつになることやら。
「う〜〜ん。呪術師、……の素養が有る人を見付けられたら良いんですけど。それだけでも大分変わりますよね?」
「素養有る奴が見付かったとして、直ぐに呪術師になれる訳でもないじゃろ。無いものを強請っても仕方ない」
「それもそうですけどぉ……」
んんむ。そんな心配した顔をして欲しいわけじゃない。とは言え、今が忙しいのは事実じゃ。やるべき事は多く、真っ当な呪術師は儂しかおらん。儂ばかりに負担が掛かるのは、仕方ないと言えば仕方ない。まぁ現状、体調面に問題は無い。既に若干の欲求不満は有るが、そちらについては週末に纏めて解消する予定じゃから良しとする。
とは言え。やはり人手不足は問題じゃな。実のところ解決策が全く無い……訳でもない。儂が個人的に、拒否してるだけじゃ。こうして被身子を心配させてしまっても、そこは譲れん。
「あ、そうだ。トガが円花ちゃんの代わりに呪具を作るのはどうです?」
「……。お主の呪力量では時間が掛かるじゃろ。却下じゃ却下」
良い事を思い付いた。みたいな顔で提案しないで欲しいの。そもそも、被身子の呪力量はそう多くはない筈じゃ。元々は非術師だったんじゃし。儂に呪われる以前に呪霊が見えていなかったんじゃから、非術師程度の呪力しか持っとらん。それでも二度は重傷を治せるんじゃから、呪力効率か
……じゃとしても、被身子の呪力量で呪具を作るとなると儂より遥かに時間が掛かる。それでは間に合わん。
「じゃあ、円花ちゃんに変身したらどうです?」
「……。……んんむ……」
儂が話すまいと避けていたことを、あっさり喋られてしまった。
確かに、儂に変身すれば呪力量の問題は無くなるじゃろう。個性で儂に変身しとる間は、儂の呪力を半分得るんじゃから。呪具作成の際、それだけの呪力量が有れば直ぐに呪具を作れるとは思う。儂自身、呪力が半分になっても訓練に支障はないからの。
じゃけど。それでも却下じゃ。じゃって、被身子は被身子で忙しい。補助監督として働きつつ、学校からの課題はしっかりとこなさねばならん。特待生で居続けるのは大変なんじゃから。なのにその上、呪具作成までしたらもう大変じゃ。休む暇も無くなってしまうじゃろうし、過労で倒れる……なんてことになったら嫌じゃ。
「……駄目じゃ。お主じゃって、忙しいんじゃから」
「確かに忙しいですけどぉ。でも、円花ちゃんの方がもっと忙しいじゃないですか」
「課題はどうするんじゃ課題は。山程有るんじゃろ?」
「そこはほら、合間合間にバーッとやっちゃえば良いのです! ねっ?」
「ねっ? ではない」
まったく。何を言っとるんじゃ、たわけ。大きな紙袋いっぱい分の課題を、隙間時間程度でやり遂げられるとは思えん。儂なら無理じゃ。勉強は学生の本分なんじゃから、疎かにしてはならん。……いやまぁ、儂はもう長いこと座学はしとらんけど。でも儂は呪術科で、任務は授業扱いじゃしの。一応、授業自体は出席しとることになっとる。
と、とにかく。そういう理由で儂は反対じゃ。課題を全部終わらせた後ならば、たまには手伝ってくれても構わん。たまにはな。
「お主は課題が優先じゃ。特待生剥奪とか、留年とか、駄目じゃからな?」
「むーー……。じゃあ、課題が終わったら手伝っても良いんですよね?」
「……まぁ、……少しなら……」
「じゃあ三月、……じゃなくて二月の半ばまでに終わらせます! そしたら円花ちゃんに変身して、お手伝いしても良いですよねっ?」
ん、んんむ。圧が凄い。机に身を乗り出して、迫らないでくれ。何が何でも手伝うつもりのようじゃけど、やはり儂は乗り気では無い。どちらかと言えば反対なんじゃけど、この様子では何を言っても押し切られる予感しかしないのぅ。
「べ、別に急がなくても良いんじゃぞ……?」
「円花ちゃんばっかり忙しいのは、ヤです。円花ちゃんがちゃんと休める労働環境をトガは要求します!」
「その為にお主が忙しくなるのは、それはそれで嫌なんじゃがなぁ……」
被身子がすっかりその気になってしまった。こうなってしまっては、儂では止められん。元はと言えば、またも心配させてしまった儂が悪いんじゃけども。んんむ、中々上手く行かないものじゃ。儂独りでやれば良い、なんて考えはもう持てそうにないのぅ。
「……お主の課題が終わったら、交代で呪具を作ろう。それで良いな?」
「はぁい。課題は直ぐに終わらせるのですっ!」
いや、そんなに息巻かなくとも良いんじゃが。そんなに気張っていては、いずれ疲れてしまうじゃろ。せめてもの礼に、後でたっぷりと甘やかしてやらねば。もっと何か、儂の方から被身子に何かせねばの。でないと、何が許嫁じゃ。何が婚約者じゃ。
「んふふ。そんな情熱的に見たって、愛しか出て来ませんよぉ♡」
「……うるさい。被身子の阿呆、たわけ」
気恥ずかしくなって、つい被身子の足をつま先で小突いた。そしたら、悪どい笑みを浮かべて小突き返して来おった。なんじゃか負けた気分じゃ。まったく、後で覚えてろよ貴様ぁ……!
◆
さて。昼食を済ませたから、くらすめぇと達と訓練場に来た。これから、昨日と同じように実戦想定の訓練を行う。が、今回は少しばかり訓練強度を下げる。儂としては手厳しくしたいところなんじゃけども、教師や保険医が煩くてのぅ。仕方ないから、大怪我をさせるのは半数以下にしておくか。
と、決めたところで。今回、儂の相方はながんが務めることになった。前回の復習も兼ねて、ながんには狙撃に徹して貰うとしよう。そうなると、儂の役割は前衛じゃな。昨日のおおるまいとのように前に出て、場を荒らすだけ荒らす。何なら儂独り全員倒してしまっても良いかもしれんな。
……まぁ、問題が有るとすれば。
「何処から来るか分からん、って事か……」
今回も街を模した訓練場を使うことになったんじゃけども、如何せん広過ぎる。ながんは狙撃位置に向かって行ったから、今は儂一人でその辺を歩いている。ついさっき別れたばかりじゃから、ながんが狙撃位置に着くのはもう少し時間が掛かるじゃろう。訓練開始までには狙撃出来るようになっとる筈じゃ。多分な。
で。儂はと言うと、くらすめぇと達が通りそうな場所に向かわねばならん。索敵とかそういう類いは、生憎と不得手じゃ。そこらを適当に歩くだけでは、下手すると出会うことすら出来んかもしれん。はてさて、いったいどうしたものやら。
『頼皆。私が誘導してやるから、取り敢えず東に真っ直ぐ向かえ』
「……相分かった」
取り敢えず、無線から聞こえて来た指示に従うとするか。東は、……右じゃな。では右に真っ直ぐ向かうとしよう。右を向いて目に入ったのは、何処に通じてるのかも分からん路地裏じゃ。今回の訓練は前回のおさらいも兼ねているから、くらすめぇと達は大通りを避けて動く筈。そう考えると、路地裏を突き進んだ方が良い……か?
『違うそっちじゃない。もう一度右を向いてくれ』
「は? 東は右じゃろ」
『今あんたが向いてるのは北だ。もう一度右を向きな』
は? いや、じゃから東は右で北は正面じゃろ。仮に儂が方向音痴じゃったとして、方角が分からん程のたわけでは無い。さては、ながんこそが方向音痴なのでは? ……いや、流石に違うか。普段から車を運転しとるんじゃし、道に迷ってる姿を見たことはない。何じゃか解せぬ気もするが、取り敢えずもう一度右に向く。すると目に入るのは、さっき見た路地裏とはまた違う路地裏じゃの。
……取り敢えず。ながんの案内に従いつつ、路地裏を突き進んでみるとしよう。途中で誰かに出会えばそれで良し。出会わなかったら面倒じゃけども、何とかして見付け出せば良いだけの話じゃ。
そう言えば。最初は誰が相手じゃったっけ?まぁ誰が出てこようと、基本的には構わん。轟だけは面倒じゃと思うが、今の儂は炎も氷も何とか出来るじゃろう。昨日の訓練では散々狙撃を防がれてしまったが、今日は別じゃ。狙撃はながんに任せて、儂は筋肉阿呆のように遊撃するんじゃからな。
『今回のヒーローチームは、轟が居る。どうする?』
「出たとこ勝負で良いと思うが。今更新たな対策を立てるのも面倒じゃ」
ふむ……。轟が居るのか。あやつの個性は儂の術式では相性が悪い。かと言って呪力だけでやろうにも、氷結や炎が面倒じゃ。術式や呪力だけならば、じゃけどな。ここに呪具や個性を加えると、もう少し対抗出来るじゃろう。そう思える理由の半分は呪具の力じゃけども、今の儂ならば個性だけでも対抗出来る筈。少なくとも、身を守ることは容易の筈じゃ。勝ちに行くとなると、個性の扱いに不安が残るが。
やはり、左右で違う力……それもどちらも相性が悪いとなると一筋縄ではいかん。回転だけでは不十分、呪具だけでも不十分。両方を上手く扱って、やっとどうにか出来る。
まぁ、昨日何とか出来たんじゃから今日も何とか出来るじゃろう。がははは!
「お主こそ、轟が居たら面倒じゃろ? 対策は?」
『やりようは有る』
「なら良い。で、次はどっちに行けば良いんじゃ?」
路地裏を歩いていると、分かれ道が出て来た。東に進めと言われていたんじゃから、右……か? いや、真っ直ぐとか言っとった。であれば、いっそ真上に跳んで建物の天井をじゃな。って。
「……始まったか」
『始まったな。左に行け、誘導する』
遠くから機械音が聞こえた。開始の合図じゃな。取り敢えず、まずは左に進むとするか。会敵するまでの道案内は、ながんに任せておくとしよう。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ