待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「ぬおっ!?」
ながんに指示されるまま路地裏を歩いていると、大して広くもない道を埋め尽くすかのように、氷が走って来た。ので、跳んで避ける。どうやら儂は、既にくらすめぇと達に捕捉されていたようじゃ。思っていたより早かったの。
宙から周囲を見てみれば、少し離れた所に轟がおる。他の連中の姿は見えんが、聞き覚えの有る大きな音が後ろからした。咄嗟に身を捻りつつ、真後ろに赤縛を放つ。寸前で迫っていた蹴りは避けたが、髪に掠った。
「く……っ! これを避けるとは! だが!!」
「甘いわ。たわけ」
今度は風切り音が聞こえたから、背後まで迫っていた飯田を蹴飛ばす形で地面に向かって飛ぶ。着地の寸前、これまた見覚えの影が迫ってくる。だぁくしゃどうじゃな。迫る爪を、上体を倒すことで無理矢理躱す。今度は頬に掠ったわ。伏せるように氷の上に着地し、直ぐに後ろへ跳ぶ。足が地面に付く前に両手を叩き合わせると、真上から飯田が突っ込んで来た。
「レシプロ、バースト!!」
「ぬおっ」
咄嗟に赫鱗躍動を使うと同時、凄まじい速さの蹴りが飛んで来た。寸でのところで首を捻って避けたが、耳を掠めた。昨日も思ったことじゃが、飯田の速さはもはや並ではない。間違いなく、儂では出せぬ速度で駆け回れる。が、まだ避けれぬ程でもない。幾ら速かろうが、見えてしまえば遅いと言えるからの。それよりもじゃ。
「
「おっ」
今度は着地と同時、だぁくしゃどうを纏った常闇が突っ込んで来おった。股を割って頭や体を低くしつつ、同時に圧縮した血液を浮かせ置く。今度は壁を蹴飛ばすような音がしたから、地面を転がって位置を変える。次の瞬間には、蹴りが掠めた。三人の狙いは、速攻じゃろうな。飯田も常闇も、間を空けずに攻め込んで来る。しかも、離れたところから氷が迫ってくる。
……今回の訓練相手は、随分と攻め入ることに偏った面子のようじゃの。息つく暇も無い。儂が体勢を整える前に、さっさと儂を倒してしまおうとでも考えたか? まぁ、狙いは悪くない。悪くない、が。
「爆ぜろっ」
浮かせ置いた血を、四方八方に散らす。が、だぁくしゃどうが身体を膨らませて盾となった。飯田は壁を蹴ることで、周囲を跳び回る。こうも速度を生かした動きを続けられると、狙いを定めるのは面倒じゃ。
「行くぞ、ダークシャドウ―――!!」
「アイヨ! 今日コソ勝ツゼ!!」
「今日こそお縄だ! ヨリミナ!!」
だぁくしゃどうと常闇が、真正面から向かって来る。壁を足蹴に跳ねる飯田も同時じゃ。奥の轟を警戒しつつ、実質三対一で戦うのは少し面倒じゃの。そう思わせるだけの成長を遂げている点は、褒めてやっても良い。
じゃけど、まぁ。手に負えんわけでもないのぅ。
右から振るわれた蹴りを、頭を下げて躱す。真っ直ぐ突っ込んで来た常闇に血を飛ばし、だぁくしゃどうの拳は殴り防ぐ。ちっ、体が浮かされたわ。仕方ないから襟に血を付け、壁に向かって引っ張る。すると、またも飯田の蹴りが迫った。これも寸でのところで避けて、壁を蹴り跳ぶことで一度距離を取る。その時、常闇が真上に跳んだ。だぁくしゃどうの手を掴み、浮いとる。そして、またも地を這う氷が迫った。
「ちっ」
脇差を抜き、切っ先を氷に突き立てる。広がる氷壁に飲み込まれるよりも速く、刃に呪力を流し込む。すると氷が水に変わり、そこらに向かって流れて行く。
「何っ!? 氷が!? どういう事だヨリミナ!!」
「説明はせん」
呪具を使い、氷を水に変えたことで飯田が駆け続けつつも驚いているようじゃが、この呪具について説明してやるつもりはない。そんな狡い真似をする理由が無いからの。いやまぁ、説明しないのも狡ではあるか。仕方ないから、分かり易く見せてやるとしようかの。
脇差を振り上げ、切っ先に空気中の水を一息に集める。呪力を込めれば込める程、頭上に出来つつ有る水球が巨大になっていく。やはりこの呪具はとんでもないのぅ。どこまで術式を鍛えればこうなるのか、まるで見当が付かん。
「呑め」
十二分の水を集めたところで、刃を振り降ろす。すると、巨大な水球が奔流となって路地裏そのものを呑み込んで行く。溺死、はしないじゃろ流石に。多少溺れはするかもしれんが、命には届かん筈じゃ。……そもそも。
解き放った水が、全て凍った。轟が居る以上、そうなって当然じゃ。凍らずとも、水蒸気に変わっていたじゃろう。この呪具が有ったとしても、あやつとは正面戦闘において相性が悪い。赤血操術も呪具も、難なく対応出来てしまうからのぅ。と、なると。
「―――試すか」
氷の向こう側に居るであろう三人をどう制圧するか。赤血操術も呪具も、轟が居るだけで有効には程遠い。こうなると儂に残る手はひとつになる訳じゃが、生憎と加減し切れぬ。しかも、轟には防がれるじゃろう。前に防がれた事が有るからの。ただ力を振り回すだけでは、徒労に終わるじゃろうが……。
まぁ、物は試しじゃな。
術式を中断し、個性そのものに反転術式を流し込む。
過去、個性順転は轟には通用しなかった。竜巻は氷山で防がれてしまったからの。ならば、その逆はどうじゃろうか? 収束する回転ではなく、発散する回転ならば、また違った結果に……なるかのぅ。何と言うか、駄目な気がする。まっこと、轟の奴とは相性が悪い。
「個性反転」
有りったけ、回す。と、同時に後ろへ跳んでおく。儂まで巻き込まれることは、前回試した時に分かっとるからの。
で、じゃ。暴風に流されつつも距離を取って見てみれば。
「お、おぉ……?」
人など容易に吹き飛ばせる猛烈な旋風が、個性順転のように竜巻となっている。だけではない。目の前の氷壁や周囲の建物が、音を立てて砕け始めた。竜巻の勢いは増すばかりで、その巨大さは刻一刻と成長している。おいおい、これは―――。
「おえぇえ……っ!!」
視界が回る。ぐるぐると、高速で。こ、これはいかん……! 個性反転は、順転よりも反動が強い。分かっていたつもりじゃったが、それでも耐えられん程の目眩がする……っ!
うえっ。おぇええ……っ!! げふっ、ごふっ。は、吐き気がいつもの比じゃない。反動が来たと思った瞬間には、猛烈に吐いてしまった。平衡感覚も消え失せて、前のめりに転んでしまった。盛大に鼻を打ったし、鼻血も出た。ひとまず
「げほっ。ぁあ゛っ、まったく……!!」
少しぐらいは目眩や吐き気に慣れて来たと思ったんじゃが、まだ駄目みたいじゃ。鼻血を拭いつつ体を起こすと、……うむ。目の前が大惨事じゃ。儂が起こした竜巻が、未だ猛烈に渦巻いている。周囲に有った筈の建物が無い。よく見てみれば、軒並み吹き飛んでいるようじゃ。思い返してみれば、吐いている時に高速で飛んで行ったような……。
……あぁ、うむ……。後ろを見ると、殆どの建物に瓦礫が突き刺さっておるの。ながんは無事か……? いやそれよりも、竜巻の向こう側に居る三人は? まさか吹き飛ばされてたり、瓦礫にぶつかったりはしとらんじゃろうな??
それから。
「これ、いつ消えるんじゃ……?」
儂の前方。数十
うむ。個性反転を使うのは、やはり止しておこう。少なくとも街中では絶対に使えんし、そもそも順転にしたって街中では使えぬ。どちらも建物を吹き飛ばしてしまうからの。
「で、ながん。轟達は無事じゃと思うか……?」
一応、無線で聞いてみる。が、音がしないの。電池切れ、……は無いじゃろう。しかし何も聞こえんし、儂の声が届いているように思えない。さては壊れたか? あぁいや、耳から外れておるの。いつ外れたかは、さっぱり分からん。周りを見渡しても見当たらん。こうなっては仕方ない。どうにか竜巻を迂回して、轟達が無事かどうか確認しに行くとしよう。
……ちゃんと逃げとる……よな? 全員無事じゃよな……? い、いかん。心配で堪らんぞこれは……!!
◆
結論から言えば、大惨事じゃ。儂が起こした竜巻は、周囲の建物全てを吹き飛ばしてしまっての。訓練場の一部は瓦礫の山と化してしまった。最低でも順転の二倍は凄まじかったんじゃが、どういう理屈なのか竜巻自体が移動を始めることはなかった。とは言え、竜巻は竜巻。まさか天まで届きそうな程に巨大になるとは。そのせいか、天気が崩れた。ただでさえ冬は寒いのに、雨まで降って余計に寒い。
今は白い吐息を吐きながら、足場の悪い瓦礫の中を歩き回っとる。全員が無事かどうか確認しておきたいからの。まさか竜巻に巻き込まれた、なんてことは無い……よな? 大丈夫じゃよな?
……すっかりやり過ぎてしまった自覚がある。後で教師共から、色々と言われるじゃろうなぁ。しでかしたのは儂じゃから、頭を下げる他無い。
とにかく。瓦礫の山を散策中じゃ。当然じゃけども、足場が悪くて歩き難い。右を見ても左を見ても、前を見ても後ろも見ても瓦礫だらけじゃ。個性反転は、とても街中では使えそうに無いのぅ。もちろん個性順転も使えぬ。この惨状を見ていると、街中で竜巻を起こすのはいかんと改めて思う。
で、じゃ。困ったことに、皆の姿が見当たらん。瓦礫に埋もれてるなんてことは無いと思いたいが、雨が降る前に何度も瓦礫が降って来たからのぅ。儂自身、危うく押し潰されるところじゃったわ。瓦礫の雨が落ち着いたのは、竜巻が消えてから数分程経ってからじゃし。
んんむ。全員無事じゃとは思いたい。無事なら無事で訓練は続行したいところじゃが、こうも酷い景色を見ると流石に心配が勝る。死んで欲しくないから鍛えているが、じゃからって訓練で死んで欲しいとまでは思っとらん。もう少しばかり、手加減を心掛けるべきか……?
なんて考えていると。ふと、視線を感じた。
息を殺してる奴が直ぐ側に居るようじゃ。雨音が少し変わったのは気の所為ではない。耳を澄ませてみると、……うむ。
「葉隠か」
「うぎゃっ!?」
振り返らぬまま背後に拳を振るえば、頬を打った感触が手の甲に返って来た。その直後、瓦礫の上を何かが転がるような音も聞こえた。間違いなく葉隠じゃの。周囲に血を撒いて確認したいところじゃけども、生憎の大雨じゃ。術式による血液の体外操作はろくに機能せんから、体内だけに留めておかねば。
赫鱗躍動を使い、呪力強化も重ねる。その時。
「失敗、しっぱーーいっ!!」
わざとらしく声を上げ、音を立てながら葉隠が何処かに遁走した。うぅむ、音は聞こえるが何処をどう走ってるかまでは見えん。何となく想像は出来そうなものじゃが、見えぬ奴を追い掛けるのは得策ではない。それがあやつ等の狙いかも知れぬしな。
しかしまぁ、面倒な事じゃ。今回の訓練相手には、轟に飯田に常闇、そして葉隠まで居るのか。あの三人を纏めて相手しつつ、透明人間による不意打ちに対処するのは面倒じゃ。……と言うかじゃな。
「狙いも気配も隠れとらんぞ。たわけ共」
分かり易い視線を飛ばしおって。奇襲がしたいなら、もう少し気配を隠せ。直ぐそこに隠れとるやつに言っとるんじゃぞ、たわけ。
「く……っ。インビジブルガールに気が付くとは……! 先に言っておくが、全員無事だ!!」
「何よりじゃ。ほれ、さっさと掛かってこい」
「言われなくとも!!」
少し離れた場所にある、積み上がった瓦礫の山。その裏から飯田の声が響き、続いて喧しい音が鳴り響く。強く地面を蹴った音も確かに聞こえる。次の瞬間、瓦礫が礫となって飛んで来た。
「どっ、こいせぇ!」
から、大きな物は拳で殴り砕く。瓦礫の向こう側に飯田の姿は無い。が、駆ける音が迫っている。礫に紛れて突っ込んで来おって。少々鬱陶しいのぅ。
「お縄だヨリミナ!!」
「ちっ」
右から飛んで来た飛び蹴りを、咄嗟に交差した腕で受ける。が、衝撃が凄まじい。速度が乗った飯田を、この身体で受け止めるのは少々無茶じゃ。足場が良ければ何とでも出来たとは思うが、生憎と足場が悪い。結果、受けてしまえば儂の身体は宙に浮く。どころか、飛ばされてしまった。しかも、それだけではない。
「赫灼熱拳―――!!」
吹き飛ばされた方角には、轟が身構えている。雨が蒸発しているのは気のせいではない。またも飯田が駆ける音が聞こえ、それと同時に―――。
「噴流熾炎!!」
未だ宙に居る儂に向かって、炎が放たれた。えんでゔぁ程、洗練されている熱線とは言えぬ。じゃが、儂が前に見た時よりは確実に高められている。これを呪具で受けるには、間に合わん。かと言って呪力や赤血操術では、間違いなく焼かれるじゃろう。で、あれば。
「回れっ」
右手を突き出し、炎そのものを回す! 少しばかり手のひらが焼かれるが、この際仕方ない。何もせずに焼かれてやるつもりは無いからのぅ! 問題は、回り回って球体となるこの炎をどうするかなんじゃが……。……よし、ふと思い浮かんだから試してみるか。
炎を回しつつ、何とか瓦礫の上に着地する。すっかり出来上がった炎の球を、両手で挟み込む。出来るかどうかは知らん。最悪儂の手が吹き飛ぶかもしれんが、その時はその時じゃっ。
「まさか……!」
炎そのものに百斂を行い、圧縮していく。手のひらが盛大に焼けるが、直ぐに治せるから問題は無い。血液と勝手は違うが、まぁ何とかなりそうじゃな。がははは!
「ほれ、返すぞ!」
「っっ!!」
穿血の要領で、炎を放つ。猛烈な勢いで噴出したそれは、まるで熱線じゃ。一つ目や燃え面が放つそれ程とまでは言わんが、轟の噴流熾炎とやらよりは炎が圧縮されているのは間違い無い。穿血ならぬ穿炎……とでも言うべきか?
まぁ何じゃって良いが、とにかく儂の放った炎は轟に向かって直進していく。が、巨大な氷壁によって阻まれてしまった。あ、いかん。確かこれは……!!
「ぬぉあっ!?」
熱を纏った暴風が吹き荒れた。お陰で、またも身体が吹き飛んだ上に、少し肌が焼けた気さえする。
くそっ、轟めぇ……!
儂が何をしても、容易に対処して見せおって! 氷も炎も狡じゃ狡っ! ゆ、許さん……!!
あの紅白頭をどうするか考えつつ、ひとまず受け身を取っておく。上手く瓦礫の上に着地しつつ、右手は
後腰から脇差を抜くと同時、真正面に飯田が迫る。左から迫る蹴りを、刃で受けた。柄まで伝わる衝撃は凄まじい上に、体勢を崩されてしまった。が。
「ぐ……っ!?」
「貴様は止まるな。たわけ」
飯田は足を斬り裂かれた程度で動きが鈍った。から、脇差から呪力を放出して吹き飛ばす。体勢は悪かったが上手く行ったの。間を詰めて追撃したいところじゃが、深追いは止しておこう。何故なら。
「廻、道―――!!」
炎を纏った轟が、吹き飛ばされた飯田と入れ替わる形で間を詰めて来たからじゃ。動き出しが早いのは悪くない。燃え面程ではないが、移動速度はそれなりじゃ。とは言え間に合っとらん。儂が体勢を崩してる内に来い、たわけ。
突き出された燃え盛る拳を、右拳で弾く。同時に脇差を振り上げたが、寸でのところで避けられた。身体に熱でも籠もったのか、明らかに動きが鈍い。―――いや。
「下がれ! 時間、稼ぐぞ!」
儂の相手をしつつ、飯田を氷で逃がしていた。なるほど、左右同時に使っていたから動きが鈍かったのか。であれば、そこは遠慮なく攻めさせて貰う。
「嘗められ、たものじゃな―――!」
思いっ切り、腹を殴り抜くっ。
「が……っ!?」
二転三転と、轟が転がった。更に殴ってやろうかと思ったが、足が氷で縫い付けられて動けん。呪具で水に変えると、その間に轟が跳び下がった。直ぐに間を詰めようとしたその時、気配がしたから振り返り様に脇差を振り抜く。一応峰打ちにしておいた。何処に当たるか分からんからの。
「痛……っ!?」
姿は見えんが、取り敢えず当たったようじゃ。手応えからして、右斜め前に居るな? 殴り飛ばしてやりたいところじゃが、見えぬ奴に狙いを定めるのは面倒じゃ。なので、雨を一纏めにし周囲を押し流す。効果が有ったのか無かったのかは分からんが、何やら鈍い音がしたから水流に流された葉隠が瓦礫にでもぶつかったんじゃろう。直ぐに動くことは無いと決め付け、再び振り返る。飯田と轟は、もう儂から距離を離していた。呪力で跳ぼうと思った、その時。
「ハートビート、ウォール!!」
「ぬぐ……っ!?」
音の衝撃が右から飛んで来て、動きを止められてしまった。近くにもう一人居るとは思っていたが、生憎と音を防ぐ手段は持っとらん。そうか、儂を先に察知していたのは耳郎が居たからか。何故ここまで伏兵にしておいたのかは知らんが、良いじゃろう。何か狙いが有るなら、受けて立つ……! じゃがそれはそれとして、耳郎は殴るっ。
僅かに痺れた身体で耳郎に向かって跳ぶと同時。遠く離れた位置にある瓦礫が、何故か続々と吹き飛ぶ。その原因が視界の端に映ったことで、突き出した拳を止めるしかなかった。何故なら。何故なら―――!!
「ゥ、ォオオオオッッ!!!」
そこには。これでもかと巨大な姿となった、だぁくしゃどうが見えたからじゃ。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ